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3兆円赤字のソフトバンクG、孫会長は決算説明会で何を語った?

 ソフトバンクグループは8日、2023年3月期第1四半期(2022年4月~6月)決算を発表した。同日に開催された説明会には、同社代表取締役会長兼社長執行役員の孫正義氏らが登壇した。

 3兆円超の赤字を計上した今回の決算説明会で、孫氏はいったい何を語ったのか――? 本稿では、その説明会の内容をお届けする。

孫氏

 説明会の冒頭で孫氏がスライドに投影したのは、武田信玄との合戦に大敗した徳川家康の姿を描いたとされる「徳川家康三方ヶ原戦役画像」。その表情から“しかみ像”とも呼ばれる絵は、家康が「自らの情けない姿を覚えておきたい」と反省し、書かせたものであるという。

 孫氏は「私もソフトバンク創業以来、これだけ大きな赤字を四半期で2回連続計上したことを反省し、戒めとして覚えておきたい」と語り、「今日は我々の実態がどういう状況であるかということを赤裸々に語りたい」と続けた。

 また、「私は社会人になってから、一度も上司を持ったことがない」と孫氏。「部下からの報告が悪い内容に関するものだったとして、そこに言い訳を重ねて実態より悪くないように表現することは大変良くない」と付け加え、「実態が悪いことを正直に報告したい」と強調した。

 ソフトバンクグループは今回の決算で、過去最大となる約3.2兆円の赤字を計上。

 孫氏はこの数字を振り返り、「前の四半期で2兆円の赤字を計上していて、合計すると5兆円の赤字。その前の年に5兆円の利益を出していたので、その利益相当分をすべて吐き出したかたち。大きな利益を出したとき、やや有頂天になる自分があったと反省している」とコメントした。

 孫氏は赤字の要因として、「世界的な株安傾向」「急速な円安傾向」の2つを挙げた。

 ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)事業について、四半期は2兆9350億円の赤字を計上。ただし、累計で見ると、同事業はまだ黒字を維持している。

 孫氏は、「上場している投資先でトータル1.7兆円ほど価値が下がった。あとは、未上場の会社についても我々のルールに基づいて評価損をきちんと立てた結果、合計でおよそ3兆円の価値減となった」と振り返った。

 円安の影響としては、国内会社の外貨建ての純負債が、円ベースで増加。結果として、8200億円の為替差損を計上することとなった。

 続いて孫氏は、ソフトバンクグループにおける“最重要指標”として、「NAV(時価純資産)」「LTV(純負債/保有株式)」に言及。

 米ドルベースで見た場合のNAVは3カ月で160億ドル(約2兆円)下落しているが、円ベースで見た場合、為替の影響もあって数字は横ばいになるという。

 孫氏は「円安の結果、会計上では8200億円の為替差損を計上した。ただ、NAVで見ると救われた部分が2.2兆円ある。会計上の利益をより重要視するか、NAVかというのは、いろんなとらえ方があると思う。私はNAVのほうが重要だと思っていて、そういう意味では今回は為替に助けられた」とコメント。

 ただし、直近の状況については、「18.5兆円くらいのNAVが17.5兆円くらいになっている。もう一段良くない状況」とした。

 なお、これまでのNAVの変動に大きく影響を与えた要因として、孫氏は中国のアリババ(Alibaba)の存在を挙げた。同氏は続けて、「アリババが1株300ドルを超えるような時期があったが、今ではだいたい90ドル前後。3分の1程度になったということであり、我々のNAVの変動においてはアリババが一番大きな要因」と語った。

 孫氏は今回の決算で“唯一良かった点”として、LTVの改善についてコメント。「現金を手元に厚く持ち、守りを固めるということを約束通り実行している」とした。

 今後のソフトバンク・ビジョン・ファンドについては、人員削減を含めて運営のコストダウンを図っていく。

 孫氏は「『株式市場が大きく傷んでいる今だからこそ買いどきではないか』という声もあり、私も一部そういう気持ちはある。ただ、冒頭に出した徳川家康のように、大いに反省している。大きなビジョンは変わっていないが、それを一方的に追い求めると全滅の危険があり、全滅だけは絶対に避けなければいけない」とコメントした。

 アーム(Arm)に関しては、「順調に推移している」と孫氏。

 また、説明会の締めくくりとして同氏は、4000億円の自己株式の取得枠の設定を発表した。

質疑応答

――これまでの投資について、具体的な反省点を教えてほしい。

孫氏
 反省すべき点は数え上げればきりがないぐらいあります。

 ソフトバンク・ビジョン・ファンド1のときは、1つの案件で1兆円近いような投資をしたりして、“大振りで三振”みたいなものがたくさんありました。

 特に、私の思い入れによって大振りして失敗した案件が多かったので、それを反省して、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2では、「より組織的になって細切れに確実なヒットを出したい」ということを考えて組織を固めました。

 で、実際に利益を出したこともあり、やや有頂天になっていた部分もあります。たくさん打席に立ってたくさん振りまくった結果、大きな評価損を今回出してしまったということです。

 もちろん、「市場の環境が悪かった」とか、「戦争やコロナがあったから」といったことは言い訳の材料としては使えるかもしれません。ただ、我々がもう少し投資先を厳選して、ちゃんとした投資を行っていれば、これほどの痛手は負わなかったかなと感じています。

 また、市場全体として、ユニコーンのバリエーションの単価が高くなりすぎていたのが2021年だったのではないかと思います。

 やっぱり投資は、高いものを買うと下がる確率が高まりますから。今となって振り返ってみれば、自分たちのなかで、評価に対してバブルのような状態があったのではないかと反省しているところです。

 これはすべて、私の指揮官としての責任だと思っています。先ほど「組織的になった」と言いましたが、その組織全体を指揮したのは私です。すべての案件に対して、私が投資委員会の中心的な立場で意思決定に参加していますから、私が反省すべき点であり、ほかの誰の責任でもないと考えています。

――ソフトバンク・ビジョン・ファンドの運営コスト削減について、現状はどう考えているのか。

孫氏
 投資の金額が大幅に減っているわけですから、投資をする“ハンティング部隊”についても、ハンティングのための財源が絞られるということです。

 そうすると、ハンターたちが多すぎるということになりますし、バックヤードを担う人も多すぎるということになる。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの人員を大幅に減らしてコストダウンしなければいけません。

 また、創業以来で最大の赤字がこの6カ月間続いているわけですから、ソフトバンク・ビジョン・ファンド以外にも、全社的にあらゆるコストダウンを図らないといけないとは思っています。

 (コストダウンの)具体的な規模については言及しません。

 ソフトバンクKK(ソフトバンク株式会社)のように、独立して上場しているグループ会社については、彼らのほうで判断すべきことです。ただ、投資を中心としたソフトバンクグループのほうは、大幅なコストダウンをする必要があると思っています。

――あらためて、今後の経営に対する意欲のほどを聞きたい。

孫氏
 今回の責任は感じています。ですが、経営に対する意欲はますます高まっています。

 もちろん、病気にかかったとか意欲が減ってしまったということであれば、多くの人に迷惑をかけるわけにはいかないので、そのときになれば潔く引退したいと思っています。

 でも今は、たとえ「迷惑だ」と言われてもやる気いっぱいで、志も一切変わっていません。