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SoftBank World 2023、孫 正義氏は基調講演で「AIは10年で人類の英知の10倍に」と語る
2023年10月6日 19:24
ソフトバンクとSB C&Sは、法人向けイベント「SoftBank World 2023」を10月3日~6日に開催した。
4日の基調講演では、ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫 正義氏が登壇し、基調講演を行った。
金魚にABCはわからない
講演の最初のスライドは、金魚とそれが見つめる「ABCの文字」。「公の場では久しぶり(に姿を見せた)」と挨拶した孫氏は、「ちょっとだけおもしろい話をします。個人的な思い込みもありますが、それなりのメッセージを発信する」とコメント。
孫氏は、この“金魚のスライド”を見ながら「金魚が金魚鉢に入っている。この金魚にABCという単語を覚えさせようとしているが、金魚は理解できるだろうか?」とし、今日の講演の一番重要なメッセージとした。
この金魚のスライドの真意は、講演の最後に明らかになる。
「AGI」
話は、「知能の強さ」に移る。
知能の強さは、ニューロン(頭脳才能)と教育学習で決まるという孫氏は、このニューロンがAIにおけるハードウェア、教育学習はソフトウェアになると指摘。この2つが重要で、AIにおける強さは、チップの強さとAIトレーニングで決まるとした。
そして、会場に「AGI」という言葉を知っているか? と疑問を投げた。会場には、数百人の聴講者がいたが、そのなかで知っている人間はごく数人。この状況に孫氏は「やばい」と漏らしながら、AGIが遠くない未来に社会で幅を利かせるものになると訴えた。
「AGI」は「Artificial General Intelligence」の略で、人間ができるあらゆる知的作業を理解し実行できるもの。AIでは特定分野の作業をすでに請け負えるようになっているが、これがあらゆる分野で人間よりも優れた対応ができるようになったものがAGIだという。
孫氏は、これについて「人類の英知の総和の10倍」とし、「人類よりも優れた回答を出す」と断言。この10倍に到達するまでの時間について、多くの専門家が出せないとしているなか孫氏は「10年以内に達成する」と考えを示した。
「10年以内」という数字に孫氏は「私の勝手な思い込み」と言葉を付け加えながらも、この「10年以内」が、最初の金魚のスライドに並んで今日の重要なページとした。このAGIによって、社会のあらゆるものに対して根底から考え直すようになるほど画期的に社会のあり方や人間関係も変わることになるとコメントした。
生成AIを使わないのは、電気や自動車を使わないのと同じ
続いて、近年急速に普及している言語AI「GPT」について、再び聴講者に「GPT-4」を毎日使っている人は? と問いかけた。先ほどよりも人数が多かったようだがそれでも挙げていない聴講者の方が多い現状に孫氏は「電気や自動車を否定するようなもの。タダで使えるものなのに、手を付けていない。何回も新聞やテレビ雑誌にも出ているのに、それを活用していないのか」とコメント。
電気や自動車が普及していない国や地域において、その国のGDPは世界でどれだけ遅れてしまっているのかを考えてほしいとし、人類の英知のなかでも最先端の技術を無料で利用できるのに手を付けていないとし「そんな人生観で良いのか?」と指摘した。
孫氏自身は「毎日のように使っている」とし、検索のように使うのではなく「GPTと意見交換をし議論するのに使っている」とし、時にはGPTにキャラクターを色づけし、GPT同士で議論させることもあるという。
GPTでの議論は「ガンガン進んでいく」とし、「役員とディベート(議論)するよりも……少なくとも安く使える」とトーンを落として指摘する場面も見られた。
GPTについては、「医学試験や法学試験にも合格するようになり、物理や化学、数学に歴史などあらゆるものを知っている。医師免許と弁護士資格を持っていて数学や物理も大学でトップレベルだと自信を持っていえる人はほとんどいないと思う。英語やフランス語、ロシア語、日本語で答えることもできる」と指摘。
先述のAGIが10年以内に人類の英知の総和の10倍になるという孫氏の主張を裏付けるものであることを示唆した。
世界に取り残される日本社会
孫氏は、「今まで人類は、この地球上に住んでいるあらゆる動物の中で知恵の頂点だった」とふまえたうえで、先述のAGIは人類の10倍の知能をもつとされることから、人類の1/10のニューロン数といわれている猿と人類ほどの差が、人類対AGIの差になると指摘。
また、AIは進化を続けており、GPTに関して近日中に画像を使ったサービスが展開されることを孫氏は示す。たとえば、自転車のサドルを調整するためにどうすればいいか? という質問と自転車の画像をGPTに投げると、画像を解析し、その自転車の調整法を出力する。
孫氏は「人類は自分の頭をプログラミングしているわけではなく、さまざまな体験で自動的に学習している。コンピューターもどんどん勝手に賢くなってきている」と説明。
ソフトバンクがYahoo!JAPANを立ち上げた当初のことを孫氏は「日本の大企業の偉い社長さんたちや知識人の方から相当馬鹿にされた、めちゃめちゃに批判された」と振り返りながら、世界の大企業と呼ばれている位置をインターネット企業が占めている現状を危惧しているとした。そのうえで、AGIで自動車の自動運転が進めばほぼ事故が起きなくなり、物流やカスタマーサービス、医療など多くの産業が最適化されるとし、インターネットの登場に嫌悪感を示した当時の日本社会と、生成AIが登場した現在の日本社会と同じ道筋を辿るのではないかとの思いを示す。
ある調査によると、米国企業の51%は事業活動でなんらかのAIを使っているが、日本企業ではわずか7%の数字だという。孫氏は、「これは問題」と語気を強め、「インターネットがやってきたときに『あんなもの』と非難した結果、日本のGDPは失われた」と展開した。
「AIの規制は必要」と孫氏
AIの活用を促す孫氏は一方で、「AIの規制は必要」と指摘。
たとえば、自動車は便利で高速で移動できる一方、危険なものであり、事故が起これば人が亡くなってしまうこともある。だから、スピード制限や飲酒運転の禁止、信号による交通制御など「危険だから規制がある」と説明。
AIにおいても、特にAGIはパワフルで見方によれば核爆弾よりも危険であると主張。そのうえで、それを“使わない”のではなく“規制する”べきであると孫氏は語りかける。
一方で、日本企業では、業務でAI活用を禁止する企業も一部であることに言及し「禁止にするとは甚だ問題」と持論を展開した。
ソフトバンクグループでも「ソフトバンクを世界で最もAIを活用するグループにしたい」とし、積極的なAI活用を社員にも推奨しているという。その一例として、社内で生成AIの活用事例を発表するコンテストを開催しており、関連の特許出願が1万件を超えていると紹介。なお、「発明に凝っている」という孫氏自身も900件程度すでに出願しているとしている。
最初の金魚のスライド
話は、最初の「金魚のスライド」に戻る。
孫氏は「AGIが10年以内に実現するという思い込みと金魚のスライドが、今日重要な2ページと申し上げた。10年以内にAGIが実現したとき、次の10年後はどうなるのか? 次の10年には、その10倍ではなく1万倍くらいになる(と考えている)」と説明。
この1万倍の差について孫氏は「人間対猿ではなくて、人間が金魚になる。金魚のニューロンは人間の1万分の1」としたうえで「AIの知能はハードウェアとソフトウェア(で決まる)。ハードウェア=チップでありニューロンであり、このニューロンに1万倍の差があるとABCを教えたくても無理」と、AIの活用有無など議論にならない世界が20年以内にやってくると持論を展開した。
これらをふまえて孫氏は、「日本よ目覚めよ、なんで禁止するんだ? 何で使っていないんだ? このままじゃ金魚になるぞ!」と、聴講者に語りかけた。
アームCEOとの対談
講演の後半には、アーム(Arm)CEOのレネ・ハース(Rene Haas)氏がオンラインで登場。
ハース氏は、AIはデータセンターでの学習だけでなく、自動車の自動運転などさまざまな場所で活用されており、それらがアームのプロセッサーで動いていると説明。
一方、AIが持続可能なソリューションとするためには「省電力技術が最も重要」と指摘する。現状でも世界の電気の3%はクラウドで使われているが、今後それがどんどん増えてくるとし、アームにはそのノウハウがあるとアピールした。
ハース氏は、AGIが会社でどのような役割を果たすかについて「資料作成や資料分析は自動化されていき、生産性が高まる。情報の保護ということが今後ますます重要になってくる」とコメント。一方、既存の従業員については「AGIの時代が来ても、さまざまな仕事がある。コンピューターだけで解決できないことや、新たな仕事が創出される」とした。
また、AGIの登場で「医療の領域で非常に大きなインパクトがある」と指摘。
病院での血圧測定から一般的な質問、ダイエットの話などはAGIを通じてしくみが作れると説明。また、よりパーソナライズされて個人に落とし込んだもので活躍できるとし、人類の生活に大きな恩恵を与えられるとした。
ハース氏は続けて「自分自身も子供を病院に連れて行くが、診察の仕方など、全く昔と変わっていない。AGIがそこに関われば、大きな変化をもたらすだろう」とし、AGIの到来は、人類から仕事を奪うものではなく、新しいイノベーションの創出や生活を豊かにするものであると説明した。