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「ソフトバンク」の2023年3月期1Q決算は増収減益、宮川氏「通信料値下げの影響はピークを越えた」

 ソフトバンクは、2023年3月期第1四半期決算を発表した。売上高は前年同期比+0.4%の1兆3619億9900万円、営業利益は同-12.7%の2471億1100万円となった。

 セグメント別では、売り上げはヤフーとLINEで前年同期比+5%、流通で+8%、法人で+3%と増収した一方で、コンシューマーは-4%となった。営業利益は、ヤフー・LINEで-3%、法人は-5%、コンシューマーは-16%となった。

 コンシューマー事業の減収減益については「通信料の値下げ」や「物価上昇」、「売り上げの減少」などが影響しているとした。

 今期の進捗率をみると、全社合計で25%、セグメント別ではヤフー・LINE事業などは14%にとどまっているものの、宮川氏は経営目標の進捗については「順調」とコメントした。

コンシューマー事業、加入者は増えているが減収

 コンシューマー事業について、前年同期比4%の減収と16%の減益となった。

 宮川氏は、減収減益について「同じ言葉で申し訳ない」としながら「営業利益は通信料の値下げの影響で大変厳しい」とコメント。

 一方で、加入者数は「実は順調」(宮川氏)で、3ブランド(ソフトバンク、ワイモバイル、LINEMO)合計で前年同期比+7%となった。

 「想定よりも少し順調」となった契約者数に対し減収となった背景について宮川氏は「値下げの影響が最も多く出る年」と分析。具体的には「今期の値下げの影響として見込んでいる900億円のうち、1Qでは約250億円の影響がありました。実は通信料値下げの影響はピークを迎えてきたと思っております」とコメント。後半にかけてこの影響は徐々に減っていく見込みが示された。

コンシューマー事業

法人事業

 法人事業の売上高は前年同期比3%増、営業利益は5%減となった。

 法人事業では、ソリューションが好調としており、特にクラウドやセキュリティなどが含まれた継続収入は12%増加しており、クラウドの成長が著しいと宮川氏は分析する。

 クラウドやセキュリティなどは、一度導入があると継続性が高く「強い基盤となる」(宮川氏)とし、今後も継続的な売り上げを見込んでいるとしている。

法人事業

ヤフー・LINE事業

 ヤフー・LINE事業の売上高は前年同期比5%増、営業利益は3%減となった。

ヤフー・LINE事業

PayPay事業について

 PayPay事業について、宮川氏は「ソフトバンクやヤフーPayTMやソフトバンクグループが協力してPayPayを成長させてきた」とし、登録ユーザー数は1Q末で4865万人となったという。

 宮川氏が最も重要だと考えている決済回数は、前年同期比+42%となる11.1億回(四半期)、決済取扱高も+38%の1.7兆円を記録しており、マーケットシェアの2/3を超えて「圧倒的な国内ナンバーワン」とアピール。事業成長期から本格的なマネタイズ期となったとし、顧客基盤やサービスをより深く連携させるべく、ソフトバンクとZホールディングス(ZHD)で中間会社を設立し、共同経営することとなったという。

 これにより10月から連結子会社となり、これを連結するタイミングで再測定し評価益が計上される見込みとしている。

PayPay事業

 宮川氏は、「3年9カ月の間先行投資を続けてきており、1300億円ほどいままで損失を計上してきた。非常に好調で当初の価値よりも少し評価が上がっているのではないかと期待している」旨をコメントした。

 また、PayPay連結後に、金融事業を新しいセグメントとして位置づけることを発表した。今後、情報開示の充実に努めていきたいとしている。

 今後は、グループ会社の事業ともシナジーが生まれそれぞれの成長にもつながっていくことを期待し、新設する金融事業を本業に加え「Beyond Carrier」をさらに加速させていくとした。

主な質疑

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

 説明会での主な質疑をご紹介する。回答者は、ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏。

――KDDIの通信障害についてその受け止めを。また、ローミングに関する議論について、宮川氏の考えを聞きたい。

宮川氏

 正直、私どもとしては「対岸の火事」ではないと思っています。自分事だと思って、本気でいろいろなことを考えました。今回の障害について、KDDIの髙橋社長は立派に質疑に答えられていたと思い、安心感があったとおもっております。

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

宮川氏
 ネットワークの障害だけで言うと、今回たまたま私どもとしては発生しないものだという風には思いましたが、人的ミスから発生した大きな障害と言うことで、私どもでも発生することは十分考えられると思いましたので、何をどうしたらいいのか今社内で対策チームを設けて我々も1から見直す検討をしております。

 ローミングについてですが、当時(2019年の決算会見にて)は、(ソフトバンクが)大きな障害を起こした時期にローミングの話をしたので、少し話が進まなかったのかなと言うことで反省しております。ただ、継続して話し続けるべきだったのかなと思います。ヨーロッパでローミングができて、日本でやらないのかという話をして、こういう障害が起こったときに、事業者同士で支えきれるなら支えたがいいんじゃないかという提案でした。今総務省さんが中心になってこのローミングについて今議論が始まったところです。

宮川氏
 ローミングについて、私どもが障害を起こした当時よりさらに社会インフラという重要度が増していると肌で感じるんです。ATMが使えなかったり、配達の連絡が取れなかったり、アメダスが使えなかったりと、いろいろなことが言われましたが、一番重要だと思っているのは、認証と決済についてです。

 当時とはもう全く違った環境になってるんじゃないかと思います。特に認証は、オンライン通販などでもSMSで本人確認し決済できる仕組みになっているなど、本人確認が非常に重要度も増してきていると。私どももPayPay含めて決済というのがスマホでできるような環境にしており、スマホが結局あたりまえになっちゃったと思います。

 当たり前が当たり前じゃない環境で、こういう障害が起こったと思ってまして、緊急呼(110番や119番などへの発信)の議論がされておりますが、こういう障害時に緊急呼を使う方法として、ヨーロッパみたいにSIMなしの緊急通報をという提案があったり、やはりローミングが必要であるという意見があったりします。

 ただ、その当たり前の環境じゃなくなったときに、果たして本当に110番や119番の通話の確保だけで世の中のパニックが収まるのかというと、ちょっと残念ながらあまり機能しないと正直思っています。

 また、緊急呼で何もかも受けていると、受け側の負担というものも大きくなると思いますし、ローミングなど何かしらの機能を本気で考える時期に来たのではと個人的に思っています。

 ほかのキャリアさんに相談しているわけではないですが、個人的には、たとえばソフトバンクですと、ドコモさんやKDDIさんのMVNOのような構造を受けておいて、緊急呼では切り替え可能になるようなeSIMを用意しておけばいいのではないかと。そうしないと、トラフィックが受けキャリア側に集まってしまって、それの制御のために、このような方法がいいんじゃないかなと思ったりしています。

 通信速度にこだわる必要はないと思ってますから。たとえば、300Kbpsくらいあると、電話やメール、Webで何が起こっているか、LINEが使えたり最低限の通信の確保のため、検討していきたいなと思っております。

――KDDIの障害に対する補償についての受け止めは?

宮川氏
 お詫びとしての200円という金額について、多いか少ないかという件について、コメントは控えたい。KDDIさんの約款以上のものという風におうかがいしていますので、KDDIさんの誠意であると受け止めています。

――約款の見直しなどは考えているのか?

宮川氏
 今のところ考えていない。今後、変えた方がいいという判断をすれば、変えていきますし、補償額についてはそのときの状況によって検討していきたいと思っています。

――楽天モバイルの0円廃止についての影響はあったか?

宮川氏
 一時的かもしれないが、正直、楽天さんの0円廃止発表後は、私どもとしては順調にお客さんが増えてると思います。KDDIさんの障害時も、一時期ではありましたが(契約者数が順調で)これもあり1Qの契約者数は好調になりました。

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

 楽天さんからの転入が増え、転出も半分減ったということでしたが、こんな簡単にずっと1年間暮らせると思っておりませんがこのような形で影響しました。

――楽天モバイルが0円を廃止にするとなんとなく思ってた?

宮川氏
 全然思ってませんでした。

――契約者増の具体的な内訳は?

宮川氏
 増加している中心は、相変わらずワイモバイルですが、楽天さんの0円廃止に関してはLINEMOもかなり貢献しております。今までのLINEMOの純増よりも角度高く増え始めています。

――総務省で「販売代理店へのインセンティブ見直し」に関する議論があったが、ソフトバンクとして対応するのか?

宮川氏
 代理店については、現在厳しい時期にお互いなっているので、いろいろな議論をしなくちゃいけない時期だと思っています。ただ、お客様にとってよくない契約をすることがないように、お客様第一主義でよく議論していきたいと思います。

 インセンティブ制度については、早急に変えないといけないとは思っておらず、今後の議論の中で変える必要があれば変えていきます。

――金融事業について、今後の見通しは?

宮川氏
 今はPayPayが代表格でありますが、ソフトバンクペイメントサービスやカード、証券、銀行もあります。今のところPayPayの事業計画は開示していませんが、かなりアグレッシブな計画をしておりますので、今後もどんどん広がっていくだろうと考えており、期待値は非常に高いです。

 今後は、全社の1/3ぐらいになってほしいという希望があります。日にちは申し上げませんが、僕が社長でいる間に達成してもらいたいなと思っています。

――PayPayの上場話はなくなった?

宮川氏
 現時点では決まっていません。

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

宮川氏
 同業他社を見ていると、今の環境で出るのはあまりよろしくないという風に思っています。できれば、黒字化したタイミングで上場していきたいアドバイスしているのも事実です。

 一方で、共同経営する中間持ち株会社の設立を発表しましたが、仮に上場しても経営には携わって行きたいなと思っておりますので、「上場の話はなくなった」というわけではなく、チャンスがあればできるだけ早いタイミングで実現していきたいと考えております。

――エネルギー価格が上昇しているが、経営に影響はないか? また、原発再稼働についての受け止めは?

宮川氏
 私どもは、電気通信事業者ですから、電気を消費しながら商売をやっておりますので、電気代のことについては多少は影響がある会社です。ただ、今のところエネルギー価格の高騰について、急激に経営状況が悪化するということはありません。これが、年間5円10円など上がり続けることは想定していないので、今の増加程度であれば経営計画に大きな影響はないと思います。

 原発の再稼働について、会社としては原発に反対の方向でアナウンスしており、グループ会社で太陽光発電の会社を作ってがんばってきたつもりです。一方で、それでまかないきれないということは、肌感でも感じております。安全運転を大前提として再稼働もやむを得ないのではないかと感じております。

 もっと安全かつコストも安い発電方法があれば、我が社としても積極的にその発電に参加して参りたいと考えております。静観しながら、チャンスがあれば積極的に乗り込んでいく姿勢でおります。