【MWC Barcelona 2024】

ソフトバンクらが「AI-RANアライアンス」を設立、3つのコンセプトとは

 ソフトバンクは、MWC Barcelona 2024に合わせ、Arm、NVIDIA、AWSなどの企業と「AI-RANアライアンス」を設立することを発表した。

 この団体は、仮想化したRAN(無線アクセスネットワーク)上でAIを活用するための研究やアイディア出しを行うことを目的としている。MWC会場では、Armブースの一部でAI-RANのコンセプトを紹介していた。

MWCに合わせて発足したAI-RAN Alliance

 AI-RANは、そのコンセプトが大きく3つに分かれる。1つが「AI for RAN」で、これは無線機そのものの処理にAIを活用するというもの。画像処理における超解像のようなイメージで、チャネル推定をAIが行ったり、ドップラー効果による周波数の移動を推定したりといった処理を、AIにゆだねる。

 従来は方程式を作り込む形で対応していたが、都市部などの複雑な場所では限界もあったという。

AIを、無線の高度化に利用するのがAI for RAN。信号が飛び交い、地形も複雑な都市部では、その効果を発揮しやすい。実際に、スループットが約30%向上する効果があったという

 シミュレーター上でテストをした結果、従来方式と比べて約30%程度、スループットを向上させることができたという。日本では、混雑した場所の“パケ詰まり”が話題になっているが、こうした問題を解決する一手になりそうな技術だ。

 時間や場所に応じて最適なネットワークスライスをアプリごとに適用するためにも利用できる。

 2つ目が「AI and RAN」で、仮想化したサーバーの空いたリソースを使い、別の処理を行うというもの。創薬や流体シミュレーションといった負荷の高い作業を、通信の処理が減る夜間などに行うことを想定。時差がある国をまたがって連携ができれば、1日中、こうした処理をかけることも可能になる。

 3つ目が「AI on RAN」で、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)を、集約化した無線機を使って処理するというのも。低遅延を求められるようなアプリを動作させることを想定している。

RANの処理に使わない時間帯などに、そのリソースを別のAIに活用するコンセプトをAI and RANと名づけている
vRAN上で、MECに近い処理を行うのが、AI on RAN。写真は、カメラ映像の処理をネットワーク側で行っているデモになる

 MWC会場では、ソフトバンクの先端技術研究所所長の湧川隆次氏が、AI-RANアライアンス設立の狙いを語った。その主な一問一答は次のとおり。

――AI-RANアライアンスが発表になりましたが、まずは感想を教えてください。

湧川氏
 AI-RANのコンセプトは、我々ソフトバンクとしてずっと考えていました。今回はアライアンスですが、テレコムのマーケットでAIをどうやって使うかというのを、きっちり議論する場所が必要だと思っています。

 AIは始まったばかりなので、研究開発や技術開発が本当に必要です。それをソフトバンク1社でやるのではなく、テレコムの業界を巻き込んでいきたい。

 ファウンディングメンバーとして、最初の11社がありますが、基本的に技術を作る。作って実装して実行するところまで持っていければいいなと思っています。

――そうそうたるメンバーがそろっています。

湧川氏
 奇しくも、今回のMWCではAIがお祭り状態になっていると思うので、AIに取り組むことに関しては違和感がないかなと。

 ただし、そのAIで何をやるのというところを、ベンダー、オペレーターがいろいろと考えている中で、みんなでやっていくことに価値を見出してもらっています。

――オペレーター的な立場はソフトバンクと……。

湧川氏
 T-Mobileですね。

――ほかに増やしていくお考えはありますか。

湧川氏
 基本的にAI-RANアライアンスはオープンで、メンバーシップもオープンにしていきます。設立を含めて時間が足りなかったので、メンバーシップをオープンにできなかったのですが、今後はいろいろなメンバーに入っていただき、活動を広げていくということは計画しています。

ソフトバンクの湧川氏

――Open RANに組み込んでいけるという理解でよろしいでしょうか。

湧川氏
 そうですね。O-RAN Allianceは基本的な仕様を作っていくところだと思っています。AI-RANは、AIを軸にした技術を作っていく。

 そこで標準化が必要であればO-RAN Allianceに持っていきますし、違う標準化団体でやることもあります。O-RAN Allianceとどうやっていくのか、というのは今調整をしています。

――メンバーにエリクソンやノキアといったベンダーもいます。既存のベンダーにとってもやりやすいのでしょうか。

湧川氏
 そうですね。AI-RANは、RANの性能を上げていくところで、彼らのメイン領域でもあります。コンペティターも含めているが、どうやってテレコムの業界で問題を定義し、ソリューションを作って展開していくかをまずやりましょうというところはできていると思います。

――国内企業がまだ少ない印象です。

湧川氏
 今回はファウンディングメンバーで、メンバーシップをまだオープンにしていません。ある意味、このアライアンスをドライブしていくためのガイドラインを作るメンバーを選びました。

 ここから、メンバーシップをオープンにしますので、そこでどういった企業が入ってくるのかを待つことになります。

――楽天シンフォニーがOpenAIの技術を使うという発表がありました。こことも絡めていけるのでしょうか。

湧川氏
 メンバーシップはフリーなので、ぜひ入っていただければと思っています。LLM(大規模言語モデル)的なものだけでなく、画像処理やディープラーニングなど、いろいろなところで使っていきます。

 3つのユースケースを発信していますが、いろいろなところで、既存のアクティビティとも連携していけるようになると思っています。

――ソフトバンクがこういった技術を将来販売していくということになるのでしょうか。

湧川氏
 今回はこういった活動をしていくので、将来的にそうなる可能性もありますし、そうではなく、各ベンダーさんから出てくれれば、我々はそれを使えばいい。オペレーターは運用事業者なのでベンダーとは役割が違うと思っています。

 我々のミッションは、ネットワークを高度化して、皆さんに一番のネットワークを提供することです。そこは、一番いいものを採用していくことになると考えています。

――これで儲けるというより、自社のネットワークをよくしていきたいというところに重きを置いているということでしょうか。

湧川氏
 そうですね。事業者としては儲けないといけないですが、ソフトバンクは通信会社なので、何のために技術を入れているかというと、やはりネットワークの高度化です。(ネットワークを)倒さないことや、最適化。ここをやっていくのと、もう1つ、ネットワークを生かすAIを作っていくということもあります。

 AI on RANと言っているところですが、いろいろなことができるようになるので、そういうところには興味を持っています。

――先端技術研究所は、Massive MIMOのように、すぐにサービスインできるような技術を研究していることが多いとうかがいました。これも近い将来の商用化を目指しているのでしょうか。

湧川氏
 近いというのがどれぐらいかにもよりますが、ソフトバンクの研究所は、どちらかと言うと、技術を作るだけでなく、使うところが出口になっています。今の取り組みは、将来的に我々のインフラを強くするところまで持っていきたいと思っています。