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ソフトバンク、AI-RANの統合ソリューション「AITRAS」を発表――NVIDIAの基盤を活用、他キャリアへの展開も
2024年11月13日 11:30
ソフトバンクは13日、AIと無線アクセスシステム(RAN、Radio Access Network)を同一のプラットフォーム上で動作できる統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」の開発を本格的に開始した。ソフトバンクの商用ネットワークへ導入するほか、2026年以降に国内外の通信事業者への展開と拡大を目指す。
NVIDIA AI アクセラレーテッドコンピューティングプラットフォームの特徴を活かし、AIとRANの高性能化と効率化を目指したアーキテクチャー「AI-RAN」を製品化する。
具体的には、NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipプラットフォーム上に、AIとRANそれぞれのアプリケーションが動く仕組み。信号の並列処理やタスク起動タイミングの最適化により、高い安定性かつ高性能に機能するキャリアグレードのRANを提供。RAN容量の最大化や消費電力の削減が期待できる。
加えて、AIとRANでコンピューティングリソースを動的に配分する「オーケストレーター」も開発。仮想化基盤と連携し、運用の効率性や低消費電力性を高め経済性の向上も図られる。
通信事業者は、これにより従来のRANインフラの投資をしながら、AIインフラ構築も同時に進められ、AIを活用したネットワークの効率化などを進められる。通信事業者向けにはリファレンスキットが2025年以降に提供され、キットを自社のラボに導入することで、NVIDIA AI コンピューティングインフラ上に実装されたAI-RANの機能や性能、経済性の実証を自社のみで実施できる。新たなAIアプリケーションを開発し、キット上で展開、動作させられ、新たなユースケース創出に向け検証できる。
大容量を目指すソフトバンク
ソフトバンク執行役員 先端技術研究所 所長の湧川隆次氏は、同社の通信について、大容量化を目指した技術導入を進めてきたと説明。上り下りの通信に柔軟性を持たせたTD-LTEや複数の基地局を連携させ干渉を低減させるC-RAN、多くのアンテナを使ってスポット的にエリアをカバーするMassive MIMOなどこれまでも大容量化への具体的な取り組みを進めてきており、技術標準化にも貢献しているほか、大容量を売りにした料金施策を生み出してきた。
そして、今回の「AITRAS」は、AI-RANコンセプトに基づいた同社オリジナルのプロダクトとして開発される。湧川氏は「プロダクトを作る時代」とし、同社独自のソフト開発だけでなく、AI分野を中心にパートナー企業の技術も活用する。
先述のC-RANによる基地局の協調制御においては、GPUを使った調整を行う。11月時点では、4.8GHz~4.9GHz帯(TDD)、最大100MHz幅のRANシステムだが、今後幅広い周波数に対応していく。
実際にAITRAS環境を構築している慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスでは、20セルの基地局を構内に設置し、スマートフォン100台の同時接続など大容量通信が求められる都市部に似た環境を整備。狭いエリアに集中してアンテナを配置しているが、AITRASで協調制御できることを検証している。加えて、AIリソースの実用性も確認すべく、AIロボットや自動運転などMEC(Multi-access Edge Computing)サーバーに近いAIシステムを構築している。
湧川氏によると、1つのハードウェアで20以上のセルを協調制御することができる一方、そのハードウェアが故障してしまうと、載せていた分のセルがまとまって障害になってしまう。経済性と運用性のバランスをとりながらも、並列処理できるスケールメリットも追求していきたいとした。
AITRASは今後、プライベート5Gなど小規模局での商用化をまずは進め、ソフトバンクの商用ネットワークやほかのキャリアへの展開を目指す。
宮川社長も期待、通信への投資に経済性をプラス
記者向けの説明会には、代表取締役社長の宮川潤一氏も駆けつけた。宮川氏は、活用事例の1つとして「交通」への活用に言及。
夜間や霧など視界が悪くなっていたり、路面が凍結していたり交通事故が多くなる環境で、急ブレーキを踏んだなどの情報を周囲の自動車と共有し、生成AIを活用することで、自動車だけでなく歩行者や自転車などを含めて活かすことで交通事故を減らせるとコメント。これらを進めるためには、ネットワークの近くに高性能のAIサーバーを配置することが重要で、「MEC部分に高性能GPUが入ったらどんな世の中が作れるのか、チャレンジしているのが今回の取り組み」(宮川氏)とアピールする。
今後、このAITRASを20万近くの同社基地局に「全部」もしくは「クラウドRAN側のユニットが入る場所に置く」など、遅延時間などを考慮に入れながら検討していくとする一方、宮川氏は「ソフトバンクは『AI-RAN』でネットワークを作り直す。まずはその第一歩目」と、AITRASの意義を語った。
今回、AIとRANが同一ハードウェア上に同居するかたちのシステムとなっている。宮川氏は「GPUはものすごく高い。高価なハードウェアを全国くまなく置いていこうとすると、それなりの収益がないと我々もやりきれない」と指摘。通信のさらなる大容量化を図るべく、高価なハードウェアによるRAN機能強化だけでなく、余ったリソースを成長分野のAIに振り収益を生むことで、通信事業者としての責務を果たしながら収益化を図る狙いだ。
AITRASのデモ
AITRASを使ったデモとして、RAN機能とAIロボット、自動運転システムが実施された。
AIロボット
想定しているユースケースとして、MEC部分にAIサーバーを配置し、機械学習もしながらAIサービスを提供するものが紹介された。RAN機能を稼働しながらも計算リソースに余裕があればAIにも活用する。AIの中でも、低遅延が求められるAIサービスとそれ以外のものなど、サービス内容によっても細かくGPUのリソース配分を振り分けられる。
デモでは、人物を追いかける4足歩行ロボットが披露された。途中で故意に高遅延環境を構築すると、人の動きに追いつきづらく見失ってしまうことが多くなり、低遅延性の重要度を示した。
自動運転システム
自動運転システムでは、AIによる機械学習から、周囲の環境に応じて運転手に生成AIによるアラートを送るデモが披露された。
日本の法律では、横断歩道では渡ろうとした人がいないことが明らかな場合、一時停止は不要だが、路上駐車などで周囲の状況が見えづらい場合は、一時停止して安全を確認しなければならない。日本の法規とともに、人間の運転環境を機械学習させることで、実際の運転環境と日本の法規に照らし合わせた自動運転ができるようになる。
デモでは、安全のため反対車線にはみ出すシーン(駐車車両をよける)では人間の手で操作しているが、一時停止する動きはAIにより自動で運転している。