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モバイル通信網を高度化する「AI-RAN」とは、ソフトバンクの株主総会

 ソフトバンクは20日、第37回定時株主総会を開催した。出席株主数は会場で388人、オンラインで360人の合計748人だった。

ネットワークとAIを融合

 ソフトバンクでは、AIの活用を積極的に進める方針を説明。ソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は現在、東京と大阪に集中しているデータセンターを「分散型AIデータセンター」として地方へも広げる考えを示す。

 「地方のほうがグリーンエネルギーの開発も進んでいる」として、安定的な電力を確保、環境への配慮と同時にデータ処理・電力消費の分散など、現在のインフラ構造が抱える課題を解決に導く狙い。ユーザーに近い「MEC」(Mobile Edge Computing)のほか、そのうえの「Regional Brain」と中枢を担う「Core Brain」といった構成が紹介された。

 ソフトバンクでは、NVIDIAとArmとともにデータセンターに次世代のプラットフォームを導入することを決定しており、AIとモバイルネットワークを組み合わせた「AI-RAN」でこれまで以上に快適な通信環境の実現を目指す。

 現在のモバイルネットワークは、基地局を中心として通信できるエリアが作られるが、それぞれの基地局が収容できるトラフィックごとに応じた調整が困難という課題がある。1カ所にユーザーが集中すると音声通話やデータ通信がつながりづらくなったり、利用できなくなったりするのはこうした特性によるもの。

 一方、ソフトバンクが推進するAI-RANでは、基地局同士が強調しエリア全体を最適化するという。走行中の自動車をビームフォーミングで追跡することも可能になるとしたほか、上空を飛行するドローンについても最適化できるようになるという。

 過去の情報やリアルタイムな情報などからエリアの混雑具合を推定し、複数の基地局を連携させて快適な通信環境をつくるという構想が紹介された。

AIを重要視、自社開発も加速へ

 OpenAIの「ChatGPT」などに代表される、生成AIへの取り組みについては「まずは日本で一番、生成AIを上手に使う会社を目指す」と語る。すでにコールセンター業務にAIを導入していることを明かし、自社で生成AIの開発を進めていることも語った。

ソフトバンク 宮川氏

 その進捗については「ChatGPTで言えば3.0くらい」の能力という宮川氏。コストなどの関連からOpenAIなど海外勢に遅れかけているとしつつも今後、開発をさらに加速していく方針を示した。7月には大規模な学習を開始するという。

PayPayは期待以上の成長に、ZHDは「成長のパートナー」

 株主から、PayPayが他社カードでの取引停止することでの利益改善を見込めるかと問われた宮川氏は「PayPayから延期も含めて検討に入ったと聞いている」と発言。今後、PayPay側からなんらかの発表があるとみられる。

 「PayPayは期待以上に成長している」とも語り、その好調ぶりをアピール。上場時期については目指していることは事実としながらも「現時点では何も決まっていない。上場は当社グループでのPayPayの価値を顕在化させるための有力な選択肢」としたうえで「これ以上はお話できない環境にあるということでご理解ください」と述べるにとどめた。

 あわせて、今秋にも再編を予定しているZホールディングスについては「今後の当社の成長になくてはならないパートナー。ID連携や重複事業の整理が進む。親会社として全面的に改革を支援する」とコメントした。

リアル店舗は重要な接点、5Gは4G同水準の人口カバー率目指す

 また、長期利用ユーザーへの優遇策の可能性について「長くお使いいただくことも大変重要。長期継続特典に加えて当社ユーザー限定の『スーパーPayPayクーポン』や『ヤフープレミアム』無料などを提供している」と回答。「今後も『ソフトバンクのユーザーでよかった』と言っていただけるサービスを積極的に提供していきたい」と考えを述べた。

 あわせて、代表取締役副社長執行役員兼COO コンシューマ事業統括の榛葉淳氏からは、店舗についてオンライン化が進むなかでも、ユーザーとの重要な接点と位置づけてリアル店舗に向きあう考えが示された。

 2023年4月時点で、6万5000局の5G基地局の整備を完了したソフトバンク。現時点での人口カバー率は92%超という。今後は4Gと同水準となる99.8%を目指す。

孫氏、投資の芽が「ようやく開花しそう」

 「孫さんからひとことお願いしたい」と名指しされた孫正義氏。グループの投資事業について「ソフトバンクGにとってのソフトバンク、ソフトバンクにとってのソフトバンクG。ポジティブな相乗効果を関係をもてるかが一番のカギ」と語る。

ソフトバンク 創業者/取締役 孫正義氏

 「いよいよ最近、Armを中核にAI企業群が相乗効果を生むフェイズに来た。ソフトバンクは、ソフトバンクGが保有する資産のおよそ15%。残り85%は米国中心のAI企業など」と説明。そのうえで多くの場合、ソフトバンクGがその筆頭株主となっており、お金だけではなく、技術革新を起こすための投資であると他社との違いをアピールする。

 ChatGPTにより「AI革命が現実的なものとして多くの人の手に触れるようになった」と語る孫氏。同氏自ら「毎日なんども、ChatGPTと会話をしながらブレストしているヘビーユーザー。(ChatGPTは)すごいです」とコメント。「ものすごい革命が起きる」としつつ「残念ながらテクノロジーの分野で日本がリードしているということはない。世界中では開発されたものを日本で持ち込む際に最大のパートナーになるのは、多くのユーザーを持つソフトバンクやZホールディングス」とコメント。お互いにWin-Winな関係を築き、ポジティブな株主価値を創出できるとビジョンを示した。

 AI関連では「いくつもいくつも失敗した。思い出すと恥ずかしい投資もした」と過去を振り返りながらも「おびただしい失敗のなかから、素晴らしい芽が今いくつも発見されていて、もうじき開花しそう」と期待感を示し「非常に忙しく、エキサイティングな日々を過ごしている」と語った。