石野純也の「スマホとお金」

「メルカリモバイル」は高い? それとも節約できる? 知っておきたい料金体系とその特徴

 フリマアプリ最大手のメルカリが、MVNOとして通信事業に新規参入を果たしました。それが、「メルカリモバイル」です。大手MVNOがキャリアに買収されるなどして淘汰が進む中、久々の“大型新人”として注目を集めるメルカリモバイルですが、そのサービス内容にもメルカリならではの特徴を組み込んできました。

3月4日にMVNO事業を開始したメルカリ。久々の大型新人として話題を集めている

 それが、フリマアプリの仕組みを使った「ギガの売買」です。一方で、通常の料金に関しては、MVNOの中で見ると比較的割高のようにも思えます。もちろん、借りた設備に対してサービスをいくらに設定するかは自由なため、悪いというわけではありませんが、競争力がどこまであるのか未知数な部分も。そのサービスの中身やおトクに使う手を考えていきます。

めちゃくちゃシンプルな料金体系、ただし価格はやや高めか

 まず、メルカリモバイルの料金体系ですが、データ容量別に多数の選択肢を設けている一般的なMVNOとは異なり、非常にシンプル。ahamoやLINEMOのような、大手キャリアのオンライン専用プランと同等か、それ以上に選択肢がありません。当初は物理SIMも発行せず、eSIMオンリーでサービスを提供する割り切ったサービス設計になっています。現時点でユーザーが選択できるのは、2GBプランと20GBプランの2択です。

 前者の料金は990円、後者は2390円になります。20GBプランは、料金水準的にahamoやUQ mobileの「コミコミプラン」、LINEMOの「LINEMOベストプランV」といった“30GBプラン”よりやや安めの設定。ただし、これらのオンライン専用プランが30GBなのに対し、メルカリモバイルのそれはデータ容量が20GBで、かつ音声通話定額も含まれていません。

料金プランはたったの2つ。2GBか20GBから選べばいいだけで、シンプルすぎるほどシンプルだ

 メルカリは今後、音声通話定額を提供予定としていますが、オプションとして追加料金がかかると見て間違いないでしょう。この場合、5分定額が仮に500円程度だったとすると、これを契約するだけで大手キャリアと大きな差がなくなってしまいます。これは2GBプランについても同様です。例えばLINEMOは「LINEMOベストプラン」を3GB、990円で提供しており、 同額でメルカリモバイルより1GB多い データ通信を利用できます。

 MVNOと比べても、同様です。例えば、最大手のIIJが展開する IIJmioは「ギガプラン」の2GBを850円 で提供しており、メルカリモバイルより140円安く設定されています。25GBは2000円で、価格が390円安いだけでなく、データ容量も5GB少ないといった差があります。

 オプテージのmineoは、「マイピタ」の1GBコースが1298円でメルカリモバイルより割高かつデータ容量も少なくなっていますが、20GBコースは2178円で提供されており、同容量をやや安い金額で提供しています。さらに、老舗MVNOの日本通信は1GBの「シンプル290プラン」が290円。データ容量を1GB足し、メルカリモバイルと容量をそろえても510円で利用できます。20GBの「合理的みんなのプラン」に至っては、1390円で5分かけ放題もしくは月70分の無料通話を選択可能。1000円も安い上に、通話まで無料になります。

メルカリモバイルの20GBプランに近い料金プランとの比較。データ容量の差を考えると、MVNOはもちろん、大手キャリアとの差も小さくなる
2GBプランは、大手キャリアのサブブランドの割引適用前価格より安い一方で、オンライン専用プランやMVNOと比べると少々割高感がある

インパクトは楽天・LINE級、特徴は「ギガの売買」

 ここまでの比較から分かるように、メルカリモバイルは一般的なMVNOよりやや割高な料金水準で提供されています。「格安スマホ」や「格安SIM」の別名で呼ばれることもあるMVNOですが、メルカリモバイルに関しては、料金プランを見る限り、「格安」とまでは言えないような印象を受けました。

 ただ、MVNOだからと言って、必ずしも格安で提供しなければいけないわけではありません。MVNOは大手キャリアからネットワークの原価に適正な利潤を乗せた金額で回線を借りて提供するため、その上に乗ってくるコストを抑えれば安く提供できるというだけのことで、最終的にいくらに設定するかは、サービス内容次第。単純な価格競争ではなく、付加価値を乗せて提供するMVNOという点では、評価できる部分もあります。

 メルカリモバイルが有利なのは、メルカリの巨大なユーザーベースを生かせるところ。2月に発表した第2四半期決算では、月間アクティブユーザーが2279万となっており、その宣伝効果や送客効果は絶大。決済サービスのメルペイを通じて培ってきた経済圏を生かしやすいのも、メルカリモバイルの強みと言えそうです。

フリマアプリだけで、月間アクティブユーザー数は2000万を超える。ここからモバイルに送客できるため、競合と比べると有利な立場に立っていると言えそうだ

 その意味で、メルカリモバイルは楽天がMVNOの楽天モバイルを始めたときや、LINEがLINEモバイルを始めたときのようなインパクトがあります。2社とも現在は自社で設備を持つMNOになってしまっているので、それだけで成否を占うことはできませんが……。ただ、少なくとも注目度の高さという点では、他のMVNOを凌駕していると言っていいでしょう。

 もう1つの特徴は、フリマアプリであるメルカリの特徴を生かした「ギガの売買」です。メルカリモバイルでは、余ったデータ容量を商品として出品することが可能。最低1GB、200円~500円の範囲で販売することができ、購入したユーザーはデータ容量の足しにできます。この仕組みをうまく活用すれば、料金を抑えることが可能。これまでも、データ容量のやり取りができるMVNOはありましたが、ユーザー同士が売買できるのは初と言っていい取り組みです。

余ったデータ容量を売買できるのが、メルカリらしい特徴だ

データ容量はいくらで売れる? うまく機能すればおトクに使える

 1GB単位で200円からという設定ですが、この最低価格は何GB出品しても変わりません。極端な話、20GBを丸ごと200円で出品することも可能です。売買成立時には、通常のメルカリの取引と同じ10%の手数料が課金されます。最大価格はデータ容量に応じて上がっていき、20GBの出品に対しては、1万円をつけることが可能。仮にこの金額で売れれば、20GBプランに対して支払う金額以上になり“利益”が出ることになります。

1回の取引の最低容量は1GBからで、最低金額は200円。何GB出品しても、この下限は変わらない。逆に最大価格は500円×容量になる

 料金がマイナスというのは前代未聞ですが(笑)、マーケットプレイスでの価格は通常、需要と供給で決まってくるため、20GBを1万円で出品できても、それが売れることはないでしょう。一方で、1GBを200円で販売すればいいかというと、必ずしもそうでもありません。2GBなり、3GBなりをまとめて200円に近い金額で販売するユーザーが増えてくる可能性があり、そうなれば、200円の1GBは見向きもされなくなるからです。

データ容量の取引画面。あくまでサンプルだが、2GBが220円というような価格で出品されており、実際に市場原理が働くと、この程度の価格に落ち着きそうなことを示唆している

 また、購入したデータ容量も繰り越しはできず、売れなければ意味がないため、 月末に近づくと、よりデータ容量の価格が下がっていく傾向 は出てくるでしょう。データ容量不足を補うために購入するユーザーが多くなると想定されるため、ある程度小分けにしつつ、価格を抑え、かつ時期も 月末に近い方が購入される機会は増えそう です。需要と供給に加えて、賞味期限的な価値を変動させる要素も入ってくるというわけです。

データ容量売買に関する概要。出品も含めてデータ容量の繰り越しはできないため、月末に近づくほど、販売したいユーザーが値下げをしてくる可能性もありそうだ

 データ容量を売りまくって一攫千金は狙えそうにありませんが、それでも、例えば5GBを余らせそうなユーザーが500円で出品して、2GBのユーザーがそれを購入し、1カ月で7GB使うといったことは考えられそうです。この場合、20GBプランのユーザーは15GB使えて実質1890円とメルカリへの手数料50円、2GBプランのユーザーは7GB使えて1490円になり、双方とも、それなりにおトクに使えることになります。

発表会のプレゼン資料にあった一例。仮に5GBを500円程度で出品して売買が成立すると、売り手、買い手ともにお得感が出てくる。こうした均衡が成立するかどうかが、同社のサービスの評価を左右しそうだ

 逆に、20GBプランのユーザーが10GB程度余っても、それが200円でしか売れないと、節約効果は低くなります。これを購入できた2GBプランのユーザーは1190円で12GB使えてラッキーになりますが、WINWINな関係ではなく、20GBプランのユーザーに不満が溜まりそうです。こうした点を踏まえると、ギガの売買相場がいかに安定してくるかが、サービスの評価を分けることになるかもしれません。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya