石野純也の「スマホとお金」

KDDIとソフトバンクによるデュアルSIM活用の「副回線サービス」を解説、povoやMVNOとも比べてみた

 22年7月に発生したKDDIの大規模通信障害以降、たびたび話題になっていた回線の冗長化。KDDIとソフトバンクがお互いに回線を提供し合う方向で協議をしていることも、たびたび報じられてきました。そんな“回線の冗長化”を個人レベルで簡単に導入できるサービスが、ついに登場します。新サービスの名称は、「副回線サービス」。まずKDDIが3月29日に申し込みを開始しました。ソフトバンクは4月12日にサービスを開始します。

3月29日に、KDDIの副回線サービスが始まった。ソフトバンクは、4月12日に提供を開始(写真はイメージ)

 端末のデュアルSIM機能を活用し、普段契約しているキャリアとは別のキャリアのSIMカードやeSIMプロファイルを入れておくことで、いざというときに備えられるというのが、このサービスの趣旨。別会社の回線を使うため、通信障害が起きたときはもちろん、災害や電波状況が悪い場所でも一時的に活用することはできそうです。ここでは、その中身と、料金面の特徴をチェックしていきましょう。

いざというときに備える保険のようなサービス、個人向けの料金は429円

 事前の情報では両社の社長から「保険のようなサービス」と評されていた副回線サービスですが、実際の保険と同様、毎月の料金は発生します。無料ではないことを疑問視する声もありますが、SIMカードやeSIMプロファイルを発行するためのコストや、相手側のキャリアに回線を卸してもらうためのコストはかかるため、一定の料金が発生するのは避けられないと思います。

KDDIの髙橋誠社長と、ソフトバンクの宮川潤一社長は、決算説明会などで同サービスの導入を予告していた

 KDDIの通信障害が発生したときの“詫び返金”を振り返ってみればわかるように、約款で返金があるケースは非常に限定的で、かつ少額。通信の不通で損害を受けても、基本的には補償もありません。副回線サービスは、こうしたときでも継続して通信を使うための手段。イメージとしては品質保証が通常よりも手厚くなるようなもので、ここに料金がかかるのは自然とも言えます。

KDDIが22年7月の通信障害を受けて行った返金の概要。約款で返金対象になるケースは意外と少ない。そもそも、できなかった通信は取り戻しようがない。このようなときに備えて契約しておくのが、副回線サービスだ

 これで暴利をむさぼっていたらその姿勢には疑問符がつきますが、2社とも、「これで通信料収入を一気に上げていこう!」と考えているわけではなく、相手側から回線を調達するコストに対し、必要最小限の料金を設定しているようです。KDDIとソフトバンクの料金は完全に同じで、個人向けの場合は月額429円です。ここには、500MBのデータ容量も含まれています。

 また、発行されるSIMカードなりeSIMプロファイルなりは、音声通話に対応しています。ただし、メインの回線で音声通話定額に入っていても、通話料は従量でかかります。料金は30秒22円で、一般的な従量の通話料と同じです。同様に、SMSも利用でき、1通ごとに3.3円の通信料が発生します。通話やSMSに関しては、通常のサービスと同様、着信・受信は無料です。

個人向けサービスの料金は、月額429円。データ通信量は500MBだ

 ただし、通信速度に関しては、お互いの設備への負荷に鑑み、速度はかなり抑えられています。KDDI、ソフトバンクとも、個人向けの副回線サービスは4Gで300Kbpsが上限。300Kbpsあれば、解像度をかなり落とした動画は視聴できます。ニュースサイトやSNSなども表示はできます。ただし、画像が多いとかなり時間がかかることも予想されます。アプリのダウンロードも、サイズが大きいものは厳しいでしょう。こうした速度制限のため、使いどころは限られてきます。

非常時以外にも活用は可能、副回線の電話番号は事前連絡を

 一方で、副回線サービスは通信障害や災害時だけ有効になるわけではなく、あくまで、もう1回線、追加で契約したのと扱いは同じです。通信速度は限定されていますが、メインで使っている回線がどうしても通信できないような場所にいるときに、副回線側を有効にするといった使い方は考えられます。毎月料金がかかる以上、積極的に活用しない手はありません。特に、山間部や過疎地域など、エリアに差がある場所に出かける際には役立つ可能性があります。

 他社回線をもう1回線発行する形のため、当然ながら、電話番号ももう1つ追加されます。通話料はかかってしまいますが、普段の電話番号を知られたくない相手に電話するような場合にも、副回線サービスは活用できます。かつてNTTドコモがiモードケータイ向けに提供していた「2in1サービス」のような使い方もできるというわけです。SNSや決済サービスなどで二段階認証を求められたときに、副回線の番号を使うのも手です。

副回線サービスは、端末が採用したeSIMやデュアルSIMの機能を活用するもの。回線は有効化されているため、通常時も利用は可能だ(画像はイメージ)

 裏を返せば、電話をしたい相手が副回線を電話帳に登録していないと、着信時に名前が表示されません。また、そもそもとしてその番号を知らなければ、非常時に回線が使えても、相手が電話をかけることも不可能になります。そのため、副回線サービスを契約した場合、連絡を密に取り合いたい相手にはその電話番号を事前に知らせておくといいでしょう。こうしたユーザー側の備えも必要になってきます。

もう1つの電話番号が割り当てられるため、それを事前に伝えておく必要がある

 ちなみに、KDDIはソフトバンクのSIMカードとeSIMプロファイルを提供しますが、ソフトバンクはKDDIのeSIMプロファイルのみな点にも注意が必要です。KDDI方式の場合、SIMカードを発行しておけば、その差し替えで利用できるため、厳密に言えばデュアルSIM端末は必要ありません。SIMロックがかかっておらず、ソフトバンクの周波数に対応していれば、シングルSIM端末でも利用はできます。

 これに対し、ソフトバンクはeSIMプロファイルのみの提供になるため、eSIM対応端末を持っていることはマスト。iPhoneで言えば、iPhone XS以降のモデルです。Androidの場合、22年から対応端末は増えていますが、バリエーションは限定されます。Pixelのように、比較的早い時期からeSIMに対応していた端末以外のAndroidを使用している場合には、注意が必要です。

ソフトバンクはeSIMのみになるため、対応端末はKDDIよりも限定される

常用にはやや厳しい仕様か、オンライン専用プランやMVNOも検討

 先ほど通信障害や災害時以外にも利用できるとは言いましたが、積極的に使うには、仕様的に、やや厳しい側面もあります。1つがデータ容量。300Kbpsなのは500MBまでで、これを超過すると速度は128Kbpsに制限されてしまいます。通信障害時や災害時は、通信できるだけマシとは言えそうですが、ここまで速度が落ちると、使い勝手には難が出ます。データ容量をチャージするような仕組みもないため、あくまで一時的な利用にとどめておくのが賢明です。先に述べたように音声通話定額もないため、電話のしすぎも禁物です。

 もしもの時に備えつつも、より積極的に副回線を活用したい場合には、別のサービスを検討してもいいでしょう。代表的なのは、本コーナーでたびたび取り上げているpovo2.0。KDDI回線のため、主回線がauやUQ mobileだと冗長化にはなりませんが、ドコモやソフトバンク、楽天モバイルのユーザーが利用するにはいいサービスと言えるでしょう。トッピングで必要なときだけ、データ容量を追加できるからです。

povo2.0は基本料が0円。緊急時のみトッピングをつけ、利用できる

 MVNOの中にも、副回線サービスのように使える料金プランを提供している会社があります。代表的なのは、mineo(オプテージ)の「マイそく スーパーライト」。同プランは月額料金が250円で、KDDIやソフトバンクの副回線サービスより安価に維持できます。ただし、速度は32Kbpsに制限されているため、そのままではほぼ使い物になりません。利用時には、24時間だけ速度制限が解除される1回198円の「24時間データ使い放題」を申し込むといいでしょう。

mineoのマイそくスーパーライトも、副回線サービスにコンセプトは近い。24時間速度制限が解除されるオプションは、1回198円と安価だ

 また、日本通信は290円で1GB利用できる「合理的シンプル290プラン」を用意しています。こちらは、ドコモ回線限定ですが、KDDIやソフトバンクのユーザーは、副回線サービスよりも維持費が安くなります。1GBを超えるとデータ通信ができなくなってしまいますが、以降も1GBごとに220円追加で支払うだけでOK。もしものときに備えつつ、毎月何回か使うには、うってつけのサービスです。

日本通信の合理的シンプル290は、その名のとおり月額290円。データ容量も1GBあり、速度制限は特にかかっていない

 ただし、povo2.0にしても、MVNOにしても、新規契約が必要になるため、オプションとして申し込める副回線サービスより、ひと手間多くなります。また、iPhoneでMVNOの回線を使おうとすると、APN設定のために「APN構成プロファイル」のインストールが必要になります。このAPN構成プロファイルは1つしかインストールできないため、MVNO同士を組み合わせることができません。

 主回線がドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの場合はいいのですが、インストール時に対象となる回線のデータ通信を有効にしている必要があるなど、設定方法にクセがあるのも事実です。ざっくり言えば、KDDIやソフトバンクの提供する副回線サービスより、初期設定のハードルはやや高めです。本稿をここまで読み込んだ読者にとっては無用な心配というのが、大きな矛盾ではありますが(笑)、副回線サービスの登場を機に、MVNO各社のサービスを初めて契約しようとしている人は注意が必要と言えるでしょう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya