石野純也の「スマホとお金」
NUROモバイルの新料金プラン「NEOプランW」、"40GB/月3980円”が絶妙な理由をさぐる
2023年3月23日 00:00
ソニーネットワークコミュニケーションズの運営するMVNOのNUROモバイルは、3月8日に「NEOプランW」の提供を開始しました。
料金は3980円で、データ容量は40GB。MVNOの料金プランとしては、かなりの大容量です。3980円という価格も、MVNOとしては“強気”に見えます。
一方で、競合となる大手キャリアのサブブランドやオンライン専用ブランドの料金プランを見渡してみると、 40GBプランは空白地帯 になっていたことも分かります。40GBは、大手キャリア並みの通信品質を志向してきたNEOプランならではの容量設定と言えるでしょう。ここでは、その狙いを他社比較から読み解いていきます。
大きく3つのプランを展開するNUROモバイル、NEOプランは品質勝負
NUROモバイルの料金プランは、大きく3つに分かれています。
1つがいわゆる“格安スマホ”に分類できる、低容量プランの「バリュープラス」です。バリュープラス内には3GB、5GB、10GBの3プランがあり、料金は音声通話つきでそれぞれ792円、990円、1485円です。5GBが990円に抑えられていることからも分かるように、MVNOの中でも料金は割安です。
もう1つの料金プランが、音声通話に特化した「かけ放題プラン」です。こちらは、その名のとおり、時間制限のない音声通話定額が売りで、データ通信は1GBまでしかできません。料金は1870円。大手キャリアの完全通話定額がオプションだけで1870円することを踏まえると、データ通信ができるぶんだけお得と言えます。こちらは、3G停波で契約を変更するユーザーの受け皿になりそうな料金プランです。
バリュープラスとかけ放題プランは、いずれもMVNOの定番的な料金プランですが、それらとは 方向性が真逆 になるのが、冒頭で挙げたNEOプランです。NEOプランも、バリュープラスと同様、その下に3つの料金プランがあります。1つ目が、標準となる「NEOプラン」。2つ目が、NEOプランからデータフリーなどのサービスを省いた「NEOプランLite」。そして、3つ目が3月8日に導入されたNEOプランWです。
NEOプランとNEOプランLiteは、いずれもデータ容量が20GB。NEOプランWは、その倍ということでデータ容量は40GBになります。 特徴的なのは、NEOプランだけのために専用帯域を用意していること 。バリュープラスなど、他の料金プランとは帯域を分けているというわけです。
MVNOは、大手キャリア(MNO)との接続点の帯域がボトルネックになりがちですが、20GBプランや40GBプランを契約するヘビーユーザーにとって、これは致命傷になりかねません。そのため、NUROモバイルはNEOプランのみ、帯域を分けることで通信品質を確保しています。
実際、MVNOの通信が混雑しがちなお昼休みや夕方にも、十分な速度が出ているといいます。専用帯域を確保しているぶん、価格は割高になっていますが、バリュープラスなどより、大手キャリアから移ってくるユーザーの割合は高いそうです。大手キャリアのサブブランドやオンライン専用ブランドが展開する中容量プランに、真っ向から勝負を挑んだのがNEOプランと言えるでしょう。
料金ではなく通信サービスでの差別化を図ったNEOプラン
実際、NEOプランの料金は2699円で、大手キャリアのオンライン専用プランとほぼ横並びです。
NTTドコモの「ahamo」は、20GB、2970円で5分間の音声通話定額つき。ソフトバンクの「LINEMO」も「スマホプラン」が20GB、2728円です。KDDIの「povo2.0」はの30日/20GBのトッピングが2700円。
こうした料金プランと対等に戦うためには、通信品質の確保が不可欠だったというわけです。
一方で、単に横並びではなく、NEOプランならではの差別化ポイントも用意されています。SNSのデータ容量をカウントしない、「NEOデータフリー」はその1つです。同様の技術はLINEMOにもありますが、こちらは対象がLINEのみ。これに対し、 NEOデータフリーはLINEに加え、TwitterやInstagram、TikTokが含まれ ており、よりデータ容量を節約することができます。こうしたSNSを使うユーザーであれば、NEOプランの方が通信できる総量が多くなると言えるでしょう。
また、「povo2.0」は、3月20日から4月20日の1カ月限定で、「SNSデータ使い放題(7日間)」というトッピングを提供します。こちらも、NEOデータフリーと同様、TwitterやInstagram、TikTokが含まれています。Facebookも対象になっているのは、povo2.0の優位点と言える一方で、LINEは含まれていません。こちらの料金は990円。SNSの種類に違いはあるものの、このデータフリーがデフォルトで入っているNEOプランのお得さが際立つ印象があります。
これらの加えて、アップロードの通信は「あげ放題」として完全に定額になります。モバイル通信は上下の非対称性が大きく、MVNOが下りの通信を基準に帯域を借りると上りはスカスカになってしまいがちです。法人事業に強いMVNOは、この上りの空き帯域を監視カメラなどの需要で埋め、採算性を向上させていますが、「あげ放題」もこうした帯域を有効活用する手段の一環と言えそうです。ユーザー視点では、動画配信などを手がける人にうれしい料金プランと言えるでしょう。
付け加えておくとすると、NUROモバイルの料金プランには「Gigaプラス」という特典があり、3カ月に1回、データ容量が追加されます。GigaプラスはNEOプラン、NEOプランWが15GB。1カ月に換算すると、そのデータ容量は5GBになります。あくまで契約から3カ月経過後にはなりますが、実質的には20GBプランではなく、25GBプランに相当するというわけです。このように、 NEOプランは通信料金そのものではなく、そこに付帯するサービスで差別化を図っています 。
40GBという設定が絶妙なNEOプランW、大手キャリアにはない料金設定が肝か
では、3月8日に導入されたNEOプランWはどうでしょうか。
単純に3980円という金額だけを見ると、ahamoやpovo2.0、LINEMOよりも割高に思えてきます。これまで“格安”を売りにしてきたMVNOに、この料金を払うのは躊躇してしまう向きもあるでしょう。ただ、40GBというデータ容量の設定は、なかなか絶妙です。 競合に、近いデータ容量の料金プランがない からです。
例えばahamoの場合、20GBを超えてしまったときの選択肢になるが、80GBが追加される「大盛りオプション」になります。20GBの次が100GBで、一気に容量が上がってしまいます。データ容量だけならいいのですが、金額も2970円から4950円の大盛りに。中盛りぐらいの選択肢がほしいユーザーがいても、不思議ではありません。
povo2.0の場合、トッピングを工夫すれば20GB以上を利用することは可能ですが、20GBの上は90日間有効な60GBで、料金は1回6490円。1カ月で使い切るには、少々高めの設定で、このトッピングはどちらかと言えば、1カ月20GBずつ使い、料金を抑えるためのものです。20GBトッピングを2回購入すると、料金も2倍の5400円になってしまうため、やはりNEOプランWと比べると少々割高感があります。
また、LINEMOには、そもそも20GB以上の選択肢がありません。20GBでは微妙に足りないというときには、1GBずつデータ容量を追加していく必要がありますが、この場合の料金は1GBあたり550円。5GB追加しただけで、2750円が追加でかかってしまう計算です。各社とも、中容量プランを20GBで設定していますが、その上は100GBなり使い放題になってしまい、間がないと言えるでしょう。
「NEOプランW」は、こうした すき間にピッタリはまる料金プラン と言えます。ユーザーが利用するデータ容量は、年々増えているため、20年に設定された20GBでは足りなくなってしまうユーザーも徐々に出てきます。
絶対数はまだまだ少ないのかもしれませんが、 20GBでは足りない、でも使い放題は価格が高すぎる というユーザーの受け皿になりうる料金プランと評価することができそうです。