石野純也の「スマホとお金」

いざというときに役立つかも、MVNOの格安eSIMサービスを比較する

 7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、目下、総務省では事業者間ローミングの検討会が進行しています。その中でアイデアのひとつとしてキャリア側から提案されているのが、eSIMやデュアルSIMの活用です。

 もともとはソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏が決算説明会で語っていた仕組みですが、いざという時に備え、別のキャリアのeSIMを端末に入れておくというもの。ローミングより手っ取り早い解決策で、かつ緊急通報に限らず利用できる可能性もあるため、注目を集めています。

 ただし、まだ議論は始まったばかり。12月に方向性は示されるものの、サービスに落とし込むまでには、それなりに時間がかかりそうです。

 一方、eSIMによるサービスはすでに提供されており、格安な料金を売りにするMVNOも、2022年から音声通話サービスも含めたeSIMの提供を徐々に始めています。ユーザー側の自衛策として、こうしたサービスを今のうちに契約しておいてもいいでしょう。そんな視点で、MVNOのeSIMサービスをまとめてみました。

MVNOにもeSIMが徐々に広がり始めている

ライトMVNOのeSIMサービスが続々と登場し、選択肢が広がる

 MVNOのeSIMサービスと言えば、IIJmioの専売特許のような側面がありましたが、2021年から2022年にかけ、そのほかのMVNOもeSIMによるサービスの提供を開始しています。

 2021年10月にeSIMの提供を開始したのが、ゲームコンテンツのゼロレーティングサービス(カウントフリー)を売りにしたMVNOのLinksMateです。2022年4月には、日本通信がサービスを開始。同社がMVNEとしてネットワークの提供を行っているHISモバイルも、8月にeSIMのサービス提供を始めました。

日本通信は、4月にeSIMのサービスを開始。同社の回線は290円で維持できるため、バックアップ回線にもしやすい

  ここまで挙げた3社は、いずれもドコモ回線を活用したMVNOですが、au回線のeSIMサービスもすでにスタートしています

 1社目として名乗りを上げたのが、オプテージの運営するmineo。8月に、au回線を使うAプランで、eSIMのサービスを開始しました。

 また、フルMVNOとしてデータ通信のみのeSIMサービスを展開していたIIJmioも、10月からau回線を使ったタイプAで、音声通話を含めたeSIMを提供する予定です。

mineoも、8月からeSIMのサービスを開始した

 IIJmioがデータ通信でeSIMのサービスを開始したのは2019年7月のこと。当初は、β版という位置づけでしたが、2020年3月には「データプラン ゼロ」の提供を開始し、正式なサービスに昇格しました。

 また、2021年4月には現行の料金プランの「ギガプラン」を導入していますが、ここにもeSIMが組み込まれています。IIJmioがいち早く提供を開始できたのは、フルMVNOと呼ばれる仕組みのため。加入者管理機能(HSS/HLR)を自前で持ち、借り物ではないSIMカードをIIJが発行できるようになったからです。

MVNOとしてeSIMのサービスをいち早く開始したのが、IIJmioだ。フルMVNOとして、自前のSIMカードを発行できる強みを生かした。写真は発表時のもの

 一方で、ここ1年でサービスの提供が始まっているMVNOは、フルMVNOではなく、加入者管理機能ごと、大手キャリアから借りています。

 こうしたMVNOを、フルMVNOと対比する形でライトMVNOと呼ぶことがあります。自前のSIMカードを発行できないライトMVNOがeSIMのサービスを続々と開始している背景には、設備の卸提供があります。

 大手キャリアがeSIMの発行や書き込みを行う機能をMVNOに貸し出し始めたことを契機にしているため、 各社のサービスインのタイミングが近くなっている というわけです。

 一例として、ドコモがMVNO向けに公開している資料にも、SIMカードの貸与とは別に、eSIMの付与に関する記載が追加されています。ここからも、SIMカードの貸与に代わり、eSIMを書き込むための設備を丸ごとMVNOに貸し出していることが分かります。

 総務省は、2020年に「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表しましたが、ここでもeSIMの促進がうたわれていました。MVNOでのeSIMサービスは、こうした制度の後押しもあって始まったものです。

SIMカードの貸与と並んで、eSIMを利用するための記載が加わっている

日本通信やHISモバイルなら、音声通話対応でも維持費は290円

 eSIMと言っても、物理的なSIMカードから電子的なプロファイルに変わっただけで、基本的には料金プランが変わったわけではありません。

 一方で、1台の端末に1枚ないしは2枚程度までしか入れられなかったSIMカードに対し、eSIMのプロファイルは 端末に内蔵されたICカードの容量ぶんだけ入れることが可能 。そのため、複数回線のプロファイルを書き込んでおき、利用するときだけ有効化するといった使い方がしやすくなります。

 複数枚のSIMカードを管理し、持ち運ぶ手間が軽減されるのがeSIMのメリットと言えるでしょう。

複数のeSIMプロファイルを端末内に入れておき、自由に切り替えられる。物理SIMより管理がしやすく、端末とセットで常時持ち運べるのはメリットだ

 そのため、冒頭で述べたようなバックアップ用の回線として、端末内にストックしておきやすくなります。一方で、使わない回線に料金を払うのには、何となく抵抗がある人も多いはず。維持費はある程度抑えつつ、いざというときにだけ有効にできるプランは、ある程度限られてきます。

 本連載でたびたび取り上げているpovo2.0は、 毎月の基本料金が0円のため、バックアップ用にしやすい回線のひとつ です。

 とは言え、povo2.0はKDDIが運営するオンライン専用ブランド。auやUQ mobileの回線が何らかの事情で使えなくなった際には、povo2.0も役に立たなくなってしまう可能性はあります。

 メインの回線がKDDIの場合、ドコモ回線やソフトバンク回線を使うMVNOからeSIMを選ぶことになります。 ドコモ回線の場合、維持費が安いのは日本通信SIMとHISモバイル です。

 日本通信SIMは、「合理的シンプル290」をeSIMでも提供しています。合理的シンプル290は、その名のとおり、月額290円の料金プラン。データ容量は1GBで、音声通話にも対応しています。 データ使用量が1GBを超えた場合、1GBあたり220円で容量を追加 することも可能です。

 これに対し、HISモバイルは「自由自在290プラン」を月額290円で提供しています。こちらもeSIMに対応。料金は日本通信SIMと同じ月額290円ですが、データ使用量が100MB未満のときに限定されます。

合理的シンプル290は、1GBで290円。音声通話に対応しており、通話料も30秒11円と大手キャリアより安価だ
HISモバイルの自由自在290プランも、月額290円。ただし、こちらは日本通信の合理的シンプル290と異なり、データ使用量が100MB未満の月に限る

  100MB以上になると、1GBまで550円 の料金がかかります。金額は日本通信SIMと同じですが、データ容量などの条件が少々異なる点には注意しましょう。スマホを使っていると、100MBはすぐに超えてしまうため、緊急時以外でアクティブにしていないときの“維持費”と考えておけばよさそうです。

 いずれにせよ、290円であれば大手キャリアのオプションサービス並みの金額。もしものときの備えとして契約しておくには、悪くない選択肢と言えそうです。

MVNOのau回線もeSIMに対応、データ通信のみなら維持費はさらに安価に

 mineoも、AプランがeSIMに対応しています。povo2.0と同じau回線で、バックアップ用としてはもろに競合していますが、3月にスタートした「マイそく」は、こうした用途にも使いやすそうです。

 マイそくは、データ容量別ではなく、通信速度別に金額が変わる料金プランのこと。 1.5Mbpsで990円のスタンダードに加え、300Kbpsで660円のライトや3Mbpsで2200円のプレミアム が用意されています。バックアップとして使いやすいのは、料金がもっとも安いライトでしょう。

mineoの現行プランだと、マイそくのライトが最安。通信速度は300Kbpsに制限されるが、660円で使い放題になる

 通信速度は最大で300Kbpsに制限されますが、データ容量の残りを気にする必要がないのはメリット。緊急時に好きなだけ通信ができるだけでなく、日ごろから、他社回線の電波が弱いときなどにも切り替えて使うことができます。

 ただし、マイそくは、 正午から13時までの1時間、通信速度が32Kbpsに制限 されます。32Kbpsだと、Webサイトの閲覧ですら厳しいかもしれません。テキストのみのメールやメッセンジャーは利用できそうですが、この時間帯にできることは限られてしまいます。

 mineoと同様、au回線でのeSIMを開始するIIJmioですが、こちらはギガプランが対象。最安の料金は2GBで850円かかるため、バックアップ向きとは言いづらい面があります(それでも大手キャリアと比べると十分安いのですが……)。

 IIJmioの場合、音声通話は割り切って諦め、データ通信専用のeSIMを使うといいでしょう。こちらの場合、 ギガプランでの料金は2GBで440円 です。同じドコモ回線を使うタイプDは、データ通信のみの料金が740円に設定されているため、フルMVNO回線が割安なことが分かります。

IIJmioでデータ通信のみの料金を選ぶなら、eSIMがお得。ギガプランで料金は2GB、440円と、タイプDより安い

 データ通信専用でよければ、IIJmioにはよりバックアップに適したプランも用意されています。同社がeSIMの本サービスを開始したときに導入した、データプラン ゼロがそれです。このプランは、2021年4月にギガプランを開始して以降も残されており、現時点でも新規契約は可能。 月額料金はわずか165円 です。ただし、 データ容量は0GB 。追加データ容量を購入しなければ、データ通信はできません。

ギガプラン導入後も、データプラン ゼロは継続している。こちらは維持費が165円。バックアップ回線に最適だ

  料金は最初の1GBが330円。以降は1GBごとに495円 がかかります。音声通話には対応していないため、緊急通報などはできませんが、データ通信が可能なだけでも、やれることはあります。LINEなどのメッセンジャーアプリを使えば、普段連絡している相手とコミュニケーションは取れますし、電話番号が必要な場合も、050番号が付与されるIP電話を活用できます。

 緊急通報には非対応ですが、緊急時に連絡を取りたいときの回線として、維持しておきやすい料金プランと言えるでしょう。

 また、LinksMateも、IIJmioのデータプラン ゼロと同額の165円から、サービスを提供しています。こちらは、データ通信専用で100MBの場合。データプラン ゼロとは異なり、この金額でも少しだけデータ通信を利用できます。 100MBで88円、1GBで550円と細かくデータ容量を追加できる ため、緊急時に利用しやすいのも特徴です。

データ通信のみなら、LinksMateの100MBプランも165円と安い。同社はMVNOとしていち早くeSIMに対応した

 現時点では、ソフトバンク回線を使ったMVNOのeSIMサービスは存在しませんが、mineoは提供時期を未定としつつも、対応の意向は示しています。

 現時点ではまだまだ選べるMVNOは限定的ではありますが、格安な料金プランはMVNOの魅力。1000円未満で契約できる料金プランも多いため、 転ばぬ先の杖として1回線用意しておくことをおすすめ します。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya