ケータイ用語の基礎知識

第857回:ネットワークスライシングとは

ネットワークを仮想化、分割する技術

 「ネットワークスライシング」とは、ネットワークを仮想的にスライス、つまり分割する技術のことです。

 多くの人が活用するようになったモバイル通信ネットワークでは、さまざまな要望が寄せられたり、新たな用途が考えられていたりします。

 2020年ごろに商用化される見込みの「5G」(第5世代の携帯電話向け通信規格)においては、4Gよりも高速大容量で通信できます。これにより、大規模なスポーツ大会の試合を、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用して観戦するといった使い方が想定されています。

 はたまた自動車分野では、自動運転の開発が進められており、現在のLTEでは遅延が大きく、もっと遅延を抑えるニーズが高まっています。IoT分野では、何百万、何億というデバイスから情報を同時に収集することが現実になると見られています。

 そこで5G世代の技術として、ネットワークスライシングと呼ばれる技術が注目されるようになりました。

 ネットワークスライシングでは、携帯電話会社の通信ネットワークを仮想的に分割します。帯域中のある部分は高速大容量に適した形で用い、別の部分は高信頼・低遅延に向いた形にします。そしてさらに別の仮想ネットワークを数多くの端末が繋がってデータを送受信できるようにします。

モバイル回線の多様な使い方を提供

 LTEにしても、無線LANにしても、たとえば人がする通話、スマートフォンでの通信、あるいはテザリング、ドローンの操縦など、全て同じネットワーク上で収容する運用でした。これまでのネットワーク技術の方向は、ひとつのネットワークに、同じ基準で、全てのサービスを含む形になっていたのです。

 しかし、使い道によって、利用する通信帯域などに違いが出てきます。スマートフォンで高精細な映像を見る場合は大容量で高速な通信が適しています。しかし、ドローンを操縦するといった用途ではリモートでの操縦にさほどの大きな通信帯域は必要ではありません。ただ、ドローンに備えたカメラの映像をリアルタイムで観るには、高速大容量の通信が必要になります。

 モバイル通信の活用が進む中、全てのデバイスや用途に、同じようにネットワークを提供するのは、限られた電波資源の下では難しい面があります。特に5Gでは、さまざまな分野への応用が期待されています。

 そこで開発されたのが、このネットワークスライシング」です。ネットワークスライシングでは、その用途に応じて、データを送る単位を変えます。たとえば、低遅延が望まれる用途では、一度に送るデータのサイズを極力小さくします。これによってデータの送信開始時から完了までの時間は短くなり、結果として機械にデータが届くまでの遅延は少なくなります。もし、何か通信中に問題があってデータを再送しなければならないようなときのラグも最低限で済むでしょう。

 逆に一度に送るデータの帯域を大きく取れば、その分だけ大容量のデータ伝送ができることになります。

 刻々と変わるそれぞれのサービスの要求に応じて、帯域の分配を人の手でコントロールするのは難しく、当然ながら自動化されることになります。また遅延を抑えたとしても、まったくゼロにはできません。5Gでは、ネットワークスライシングだけではなく、エッジコンピューティングと呼ばれる仕組みも注目されています。端末の近くにサーバーを分散配置するというものです。たとえば基地局などに、用途ごとのサーバーが設置されるかもしれません。ネットワークスライシングやエッジコンピューティングなど、新しい考え方の仕組みを取り入れることで、5Gでは、数多くのニーズを満たし、これまでにないサービスが実現することになりそうです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)