ケータイ用語の基礎知識
第823回:エッジコンピューティング とは
2017年9月19日 13:26
どこか遠くではなく、ユーザーのそばに
「エッジコンピューティング」とは、「端末の近くにサーバーを分散配置する」というネットワークコンピューティングの技法のひとつです。「端末」、つまりスマートフォンなどにネットワーク的に近い場所へ、サーバーと呼ばれるコンピュータを配置するのです。
現在は、ネットを介してさまざまなサービスを実行する「クラウドコンピューティング」がよく使われています。「クラウド(cloud)」とは英語で“雲”のことです。ユーザーから離れた場所にあるコンピューターで処理をすることから、その形態を雲にたとえています。たとえば、クラウドを使った例として、SiriやGoogleアシスタントといった、スマートフォンのエージェント機能が挙げられます。これらのサービスでは、ユーザーの発した命令をクラウド上のサーバーに送ると、クラウドで回答を用意しています。
クラウドコンピューティングーの長所としては、スマートフォンのようなパワーの少ないコンピューターでも、外部のコンピューターの力を借りて人工知能のような複雑な処理を実現できることです。
一方、短所としては、命令の実行や、質問の回答までに時間がかかることがあります。端末からクラウド上のサーバーまでの間の通信経路があるため、データをやり取りするのに時間が必要となるわけです。
クラウドコンピューティングでは、命令や質問、その回答が、さまざまな経路を通ります。スマートフォンから基地局、交換局、携帯電話事業者のコアネットワークから、インターネットに繋がり、そこからもインターネット内の接続ポイントを経由します。もしサーバーが外国にあれば、そこから海外のネットワーク接続ポイント、海外事業者のネットワーク、そしてクラウドサーバーを経由し、計算結果が返ってくるのです。ケースにもよりますが、クラウドコンピューティングでは、何か端末でアクションを起こしてからその結果を得るまでに、数百ミリ秒、多い場合は数秒が必要な場合さえあります。
しかし複雑な処理が必要なサービスであっても、そうした遅延が許されないケースもありえます。そこで、考え出されたのが「エッジコンピューティング」です。エッジコンピューティングでは、クラウドよりもっと、端末に近い場所でサーバーなどのコンピューターを置き、処理を行います。
スマートフォンとエッジコンピューティング
スマートフォンの場合、クラウドコンピューティングでは、たとえば先に挙げたように、エージェントが人工知能などの処理を行うときなどに、携帯電話網の先にあるインターネット網を経由してクラウドサーバーを利用しています。
これがエッジコンピューティングになると、携帯電話事業者のコアネットワーク内にサーバーを設置するといったことが考えられます。経路的にもはるかに近いですから、遅延を少なくできると期待されています。
また、エッジコンピューティングのメリットは他にもあります。それは、混雑しているトラフィックの解消です。現在のクラウドコンピューティングは、世界各所にあるサーバーを利用しています。たとえば、東京でスマートフォンからクラウドサービスを使ったとき、一度、米国西海岸にあるサーバーへアクセスする、といったことはザラにあります。太平洋を越える処理を、東京都内にあるサーバーで実行できれば、その先の基幹ネットワークやインターネットのトラフィックにかかるコストを削減できるだろうという目論見もあるわけです。
エッジコンピューティングの応用用途
エッジコンピューティングの適用先としては、たとえば、いわゆるコネクティッドカー、つまり自動車向けのサービスが考えられています。自動車が必要とする情報には、瞬時の判断が求められるシビアな状況が存在します。たとえば自動車が走っている目前で交通事故などが起きている場合、緊急停止や回避の判断は、一瞬の遅れも許されません。そこで、エッジコンピューティングによって、超低遅延で状況判断と停止・回避といった行動を起こすわけです。
エッジコンピューティングは、少なくとも携帯電話に関してはまだ実用化前の段階です。しかし、2020年代に実用化される5Gネットワークでは、それを支える重要な技術の一つになると考えられており、検討・開発などが進んでいます。