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スタンドアローンが提供する「新たな価値」、KDDIが5G SAの法人向けサービスを開始
2022年2月21日 17:00
KDDIは、法人向けに5G SAの商用提供を開始した。ABEMAにおいて本日2月21日19時から配信の番組「ABEMAMIX」の一部でSAを用いた中継が実施される。
5G SA(スタンドアローン)は現在、一般向けのスマートフォンなどで用いられる5G NSA(ノンスタンドアローン)と異なり、5G向けの機器のみでネットワークが構成される。
コアネットワークに4G向け設備を使うことで早期の展開が可能ながら、5Gの高速大容量通信などの特長を活かしきれないNSAに比べて、SAではすべてが専用機器となることからスライシングネットワークなど5Gのメリットを十分に活用できる。
AbemaTV内で中継に利用
本日21日の提供開始に合わせて、ABEMAにおいてヒップホップを題材した番組「ABEMAMIX」内で5G SAを活用した生中継が実施される。
KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長の野口一宙氏は、KDDIがこれまでさまざまな映像技術の開発を行ってきたことを紹介。その上で、映像業界が中継を行う際に抱える課題として、専用機器搭載車・回線、その回線を束ねて配信する専用機器、多数のスタッフの手配などがあると説明。
現在では、誰もが気軽にスマートフォンなどを介して動画をアップロード・配信できる時代にはなっているものの、ある程度の品質が求められる放送においては難しい部分があると野口氏。
一方、5G SAを活用した中継であれば、こうした課題の解決につなげられるという。SAの特長でもあるスライシングを用いることで、安定的な映像中継を実現。中継用にネットワークを分割し、ほかのトラフィックの影響を排除することで、安定した中継が可能になるという。加えて視聴するユーザーとしても、コンテンツがより豊富になるといったメリットが享受できるとした。
ABEMAとの取り組みでは、東京都渋谷区に位置するスタジオ「UDAGAWA BASE」をエリア化した。使用される端末は「Xperia 1 III」をベースとした試作機という。
そのほかのエリア展開については、既存の基地局のソフトウェア・アップデートで対応し、順次広げていく考えが示された。今後、ABEMAで本格的な導入をするかについては検証しながら検討していくという。
野口氏は、これまで大掛かりだった中継をスマートフォンなどでより簡易にしたり、複数のカメラの映像をクラウド上から切り替えたりといった高度化やライブ配信に最適化されたネットワークで全国にリアルタイム配信できるようになるのではないかと将来的な展望を示した。
今回はメディア関連の取り組みだが、自動運転などモビリティ分野や遠隔診療といった医療分野などさまざまな分野でのニーズでの需要が考えられる。
スライシングが5Gの意義
KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長の渡里雅史氏は、「5Gコアネットワークは完全に仮想化されたソフトウェアで実現。これにより、柔軟かつ高度な通信サービスの提供ができる」と説明する。
渡里氏は、ネットワークスライシングを5G SA最大の特長として、KDDIとしてSA開始当初からの導入にこだわっていたと語る。ネットワークスライシングは、ネットワークを仮想的に分割し、実質的に複数の独立したネットワークとして利用できるもの。これにより、各ユーザーの要求に合わせて最適なネットワークの提供が可能となる。
「E2Eオーケストレーター」と呼ばれる機能が各ドメインに存在する「コントローラー」と連携し、ネットワークの生成や管理を行っているという。ネットワークは常時監視されており、リソースの消費状況に応じて自動対処される。今回の仕組みでは、端末までの通信でスライシングが適用されているという。
スライスの数は仕様上「かなりの数」が作れるとされつつも、詳細は戦略的な部分に関連するため非開示とされた。今後、多数の企業が利用することが見込まれるが、安定性も意識しつつ、相互に干渉しないネットワーク完成に向けて現状での課題を解決すべく開発しているという。
サービス提供の形態としては、ユーザー企業個別にどのようなかたちが良いかを協議することになるというが、今後はそうしたものの中で共通性のあるものをサービスメニューとして提供していきたいとされた。
この際、重要となる無線通信の品質の担保のため、KDDIでは端末の通信状況を把握、適切な通信リソースを割り当てる「RANインテリジェントコントローラー」(RIC)を開発。同社はO-RANアライアンスにおいて開発WGの議長も務める。今回の実装には標準ではきれいされない領域も盛り込んだとして、スライシングの技術を牽引しているとアピール。
提供者側と利用者の間で交わされる、そのサービスの品質の保証「SLA」に至るまではもう少し時間がかかるとしつつも、今後もスライシングの技術開発に取り組みDXを支援すると渡里氏。このほかにも、富士通やサムスン電子などと共同で世界初の商用ネットワークで利用可能なO-RAN準拠の仮想5G SA基地局などにも取り組んでいる。
24年度中にスライシング本格展開
従来、1つのネットワークをユーザーに対して均等に提供するのが一般的だった。渡里氏は今後、ネットワークスライシングをさらに発展させていくことで、サービスごとに最適なネットワークを提供するかたちに変貌していくだろうと推測を述べる。
さらに「SAを提供する真の目的はネットワークスライシング。今後もこの機能をさらに進化させてさまざまな産業でのDXを加速させていきたい」とも語った。
その実現のためには、SLAに準拠したスライシングの性能の提供・維持、安全性・可用性の確保、スライシングされたネットワーク間の相互不干渉の確立といった3つのポイントでの開発を進めていく必要があるとした。
「5G SA」、個人向けは今夏以降
5G SAは2022年度中にも本格展開されていくほか、2024年度中にはネットワークスライシングの本格展開が見込まれている。
ただし、今回の発表では、端末は先述した通り「Xperia 1 III」ベースの試作機であり、エリアもABEMAのスタジオのみ。法人が利用する料金やサービス内容についても、今回はABEMA向けに最適化されたもので、今後事例が増えて共通する要素があればメニュー化するというかたち。
一見すると、「端末」「エリア」「サービス内容」いずれも正式なサービスと呼ぶにはややおぼつかなく、実証実験とあまり変化がないように見えるが、大きなポイントとして、O-RAN準拠の5G SA商用サービスであること、そして商用サービスとすることで、さまざまな企業からの要望を受け付けられることになった、という体制の変化が挙げられる。
発表会では、2022年夏以降、個人ユーザー向けにも5G SAの提供を予定していることが明らかにされた。端末などサービスの詳細はあらためて発表されるという。