石川温の「スマホ業界 Watch」

「米ファンドがJTOWER買収」、携帯基地局のインフラシェアを支える資産と経済安全保障上の懸念は

 JTOWERが、2024年8月14日、米・デジタルブリッジによる公開買付けに賛同すると発表した。JTOWERはインフラシェアリングを行う会社だ。

 5Gを本格的に展開するには、いままで以上に基地局を密に打ってく必要がある。しかし、各キャリアにとってみれば、設備投資費用がかさむ基地局はできるだけ効率よく建設していきたいというのが本音だ。そこで、地方などのルーラルエリアにおいては、他社と基地局用の土地や設備を共有することで、効率化を図るというのがインフラシェアリングだ。

 地方だけでなく、地下や商業施設など、複数のキャリアが別々に工事をして基地局の場所を確保するのが難しいところにおいてもインフラシェアリングによって、必要な場所を複数の会社で共有するというやり方が行われる。

 JTOWERには、社長の田中敦史氏の資産管理会社やNTTならびにNTTドコモ、KDDIなどが出資しているが、今回、1株3600円でTOB(株式公開買い付け)され、東証グロース市場から上場廃止となる予定だ。

 JTOWERのサイトによると、自社で建設する鉄塔のほか、NTT西日本やNTT東日本、NTTドコモが保有する通信鉄塔を譲り受ける契約をしたことで、合計7700基のタワーを所有していると記載している。

 実際、NTTドコモとJTOWERは2022年3月にドコモが保有する通信鉄塔、最大6002基をJTOWERへ最大1062億円で譲渡する基本契約を締結。さらに2023年9月には追加で最大1552基を最大170億円で譲渡する契約を結んでいる。

 NTT西日本はNTTドコモよりも先に2021年7月に71基の基地局をJTOWERに売却すると発表。NTT東日本も2022年3月に136基の鉄塔をJTOWERに売却すると発表している。

 つまり、JTOWERが所有する鉄塔、7700基のほとんどはNTTドコモ、NTT西日本、NTT東日本から購入したものであることがわかる。

 ここで懸念すべきは、そもそもNTTグループ3社が保有してきた鉄塔が、JTOWERを経由して、そっくりそのまま外資の手に渡るというのは、経済安全保障上、問題ないのかという点だ。

 昨今、NTT法の改正によって「国民の特別な資産である重要なインフラが外資に渡る可能性が出てくるのはいかがなものか」として、外資規制への議論が高まっている。

 NTTが保有する管路や電柱、とう道、局舎などは「国民負担で成り立った25兆円の特別な資産」であり、外資規制の必要があるのではないか、という指摘だ。

 NTT法においては主に光ケーブルを敷設する上で必要な設備、局舎などが議論の俎上に上がっている。

 今回、外資の手に渡ることになる「鉄塔」、さらに鉄塔が建っている土地が「国民の特別な資産」なのかは議論の余地がありそうだ。

 たとえば、地方などでは、鉄塔が建っているのはNTTの土地や局舎の上だったりするわけで、「NTTの土地の上空が外資に抑えられた」という考え方もできなくはない。

 今回、JTOWERに対して公開買い付けを行うデジタルブリッジはアメリカを拠点にする会社のようだが、「デジタルインフラ投資会社」ということで、ひょっとして、お隣の国が「日本の鉄塔を欲しい」と言ってくれば、サクッと高値で売り渡すなんてことも考えられる。鉄塔の所有権がさらに別の会社、国に移ってしまえば、鉄塔を好き勝手に利用できるわけで、それこそ結構な国際問題になりかねない。

 NTTドコモは井伊基之社長時代に「もはやネットワーク品質の競争は終わった」として、インフラシェアリングに走り、資金の確保を優先した。今回、JTOWERが外資の手に渡ることになって、本当にあのときの判断は正しかったのか検証すべきかも知れない。

 そもそも、NTTグループ各社はJTOWERが外資に買収されるなんてことはみじんも想定していなかったのか。

 ちなみに総務省・ユニバーサルサービスWGによる、令和6年7月30日の論点整理では「NTT法が定める電柱・管路・とう道だけでなく、局舎及び土地も国民負担でNTTが取得した資産である以上、NTTの経営判断だけで勝手に第三者に譲渡することは許されるべきではない」という指摘が出ている。

 NTTグループの利益確保のために、鉄塔や土地などの資産が外資の手に渡ることは許されるべきことなのか。

 総務省はしっかりと見解を述べるべきではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。