インタビュー
携帯電話向けインフラシェアリングのJTOWER 田中社長に訊く~大手キャリアの設備投資動向、そしてTOBの背景とは
2025年1月31日 00:00
携帯電話の通信品質を決定づけているのは、基地局を中心としたネットワークに他ならない。基地局設置のためにどこに鉄塔を建てるか。電波が浸透しにくい建物内をどうやってサービスエリア化するか。各キャリアのエンジニア陣は、ネットワーク品質向上のために日々、知恵を絞っている。
だが近年は、これらのネットワークインフラをキャリアが単独で整備するのではなく、シェアリング(共有)する動きが広がってきた。JTOWERは、日本におけるインフラシェアリングのパイオニア企業だ。2022年3月には、NTTドコモが保有する大型鉄塔6002基を譲り受けると発表。関係者を驚かせた。
ただ、気になるニュースもある。2024年8月、インフラ投資を行う米国企業・デジタルブリッジ(DigitalBridge)社による株式公開買付(TOB)に賛同。この手続きは成立し、2025年1月7日にJTOWERの株式は上場廃止となった。
この株式非公開化は、資金調達が目的というが、具体的にどういう意味があるのか。JTOWER 代表取締役社長の田中敦史氏に話を伺った。聞き手はケータイ Watch編集長の関口聖。ITライターの法林岳之氏も同席した。
13年で環境一変、大型施設では屋内インフラシェアリングが当たり前に
――前回、JTOWERを取材したのは2023年3月の記者発表会でした。それから約2年が経過しましたが、ビジネスの現況を教えて頂けますか。
田中氏
弊社はこのほど株式を非公開化しましたが、その直前となる期についてまでは決算の数字を公開しています。建物屋内の通信インフラをシェアリングする事業について、弊社では「IBS」(In-Building-Solution)」と呼んでいますが、2024年9月30日時点で、導入済み物件数が600を超えました。その多くは大手キャリアにご利用いただいています。
13年前、弊社が設立した時点では、インフラシェアリングが国内ではまだ一般的ではありませんでした。ただ、今はもう大規模な物件(延床面積で2万平方メートル、3万平方メートルを超える物件)は、むしろシェアリングでやることがスタンダードになってきています。
また最近は、屋内で単にスマホが通信できればいいという話ではなく、(店頭でのQRコード提示など)決済にスマホを使うようになってきています。地下でもどこでも通信できなければならず、そういった意味でもIBSは引き続き順調に件数も伸ばしています。TOB発表後も、各携帯事業者様にも変わらずご利用いただいています。
一方、屋外の基地局用鉄塔などをシェアリングする「タワー」事業は、提供するインフラのほとんどがNTTドコモから取得した物件をベースにしています。これらは2年ほど時間をかけて、ずっとマイグレーション、移行を進めてきました。鉄塔1本1本、元々の土地のオーナーとNTTドコモとの間で結ばれていた契約を、全部JTOWERとのものに切り替えないといけないんです。全体で7000本、いや7200本ぐらいという規模で、ようやく取得分の9割から9割5分ぐらいまでのところまできました。
このタワー事業のサービスをご利用頂いているのは、ほとんどNTTドコモだけでしたが、それが少しずつ、他事業者の利用が始まってきています。
――具体的にはどの事業者になりますか?
田中氏
キャリアの具体名を出すには先方の了解を得ないといけませんので……。でも複数のキャリアにはご利用頂いています。あと非キャリアの企業から要望を頂き、利用を開始しているところも一部あります。
――それはMVNOだったり、ローカル5G関連の事業者ですか?
田中氏
開示しているお客様でいいますと、気象情報サービスの企業ですね。メトロウェザーというベンチャー企業にご利用頂いています。
――我々が日々取材する中では、JTOWERというと、通信関連事業者というより、不動産事業者に近いようなイメージをもっているんですが、それについてはどう思われますか。
田中氏
確かに不動産業に近い要素はあるかも知れませんが……そうですね、ここでインフラシェアリング事業についてもう少し説明させてください。
弊社のシェアリング事業はいくつかレベルに分かれていまして、その一つが「サイトシェアリング」です。単純に鉄塔の場所を貸し出すというようなイメージで、これは結構、不動産に近い形になります。
対して「アンテナシェアリング」は、鉄塔に敷設したアンテナ単位でのシェアリングになります。アンテナを設置しているのはJTOWERで、ここに各キャリアが用意した設備を繋げてご利用いただきます。
この他に「中継機シェアリング」「無線機シェアリング」もありまして、アンテナに限らず、装置も含めてシェアリングしていただけます。こうして比較していただくと、不動産業のような要素もあれば、ある種の通信事業者のような、それぞれの要素を併せ持っていることがお分かりいただけると思います。
なぜキャリアがインフラ投資を抑えた?~競争軸は通話品質“以外”へ
――ここ2、3年ほど、NTTドコモの通信品質に対して厳しい声が出ています。JTOWERとしても関係する部分はあるんでしょうか。
田中氏
弊社の領域ですと、通信品質の面では屋外の要素が大きいかもしれません。(昨今指摘されている)品質の議論は、都市部特有のものが多い。ちょっとトラフィックが高くて、かつ日本だと色々なところで再開発が進められていて、新しいビルができると電波の入り方が変わったりします。これについてはキャリアの方で、常にチューニングしなければなりません。
その上で屋内での対策ですが、まず全館でしっかり対策をしないと、どうしても、電波が届きにくい場所が発生してしまいます。キャリアとしてそもそも屋内対策をするかどうか。そこが分かれ目です。
振り返ってみますと、ここ数年、キャリア各社とも設備投資をかなり抑制していました。それこそ料金の値下げ、ahamoやpovoの登場なども出てきました。結果として、5~6年前だったら間違いなく屋内対策していたような物件でも、対策が見送られるケースはあったんです。となると、繋がらないエリアがどうしても出てきてしまう。ただ、今はまた、トラフィックや品質に対する投資は再び戻りつつある印象です。
もう一つ、屋内対策が復活する理由として、トラフィックの吸収という側面もありますね。屋内対策をしないと、外の電波で屋内分の通信もカバーしなければなりません。しかし、屋内のトラフィックを対策で吸収できれば、外の電波の余裕ができます。
――その論点に立つと、インフラ投資が抑制されていた期間は、JTOWERの収益にも大きな影響がありそうです。それとも逆にビジネスチャンスが拡大する時期でしたか?
田中氏
設備投資の抑制は、やはりマイナスの影響がありました。ただ、キャリアにとってのシェアリングとは、コスト削減ソリューションの1つです。弊社には「(好影響・悪影響の)両方あった」と言えます。
――東京、大阪などの大都市圏では、新しくビルや商業施設ができたという話が連日のようにあります。そうした状況は、JTOWERのIBS事業のプラスになっていますか?
田中氏
そうですね、その環境ではあったと思います。
ただ、各キャリアの競争領域が、インフラ以外の部分になってきている印象で、いわゆる“経済圏”が主軸になってきています。EC、金融などの競争に注力されていますので、屋外でも屋内でも通信品質がしっかり担保できるのであれば、そのためのインフラはもうシェアリングしても大丈夫だよね、というスタンスに変わってきている。ここが従来との大きな差ではないかと思います。
――「インフラで競争する時代じゃない」という話は、NTTドコモの井伊基之前社長が語っていました。ただし、前田社長になって厳しい指摘に応えて通信品質の改善に取り組んでいます。一方で、先に話があったように経済圏競争への注力もあります。品質維持には興味が薄れているのか、それとも手間暇かけて品質を上げていきたいのか。田中さんはどう分析されますか?
田中氏
今は本当に純粋に品質を上げないと、トラフィックの増加に耐えられないと思います。加えて、SNSでさまざまな情報が飛び交う時代ですし、Opensignalのようなグローバル評価もはじまってきています。ネットワーク品質に対する投資は、しっかりとチェックされるようになってきていると思います。
携帯電話インフラの設備投資規模は桁違い
――携帯電話インフラに対する考えが少しずつ変わっていく中で、JTOWERの事業が注目されていったわけですが、そんな中、米デジタルブリッジ社による買収(TOB)が2024年8月に発表されました。ここまでのインタビューの中でも、事業の成長性に手応えを感じていることは伝わってきましたが、逆に課題もあったということでしょうか?
田中氏
課題は、今後の資金調達でした。携帯業界は事業規模が大きく、どのキャリアも何兆円、それこそ10兆円近い会社ばかりです。年間の設備投資は、少なくなったといえ、それでも3000億~4000億円というレベルで、比較すれば弊社の事業はまだ小さいです。
IBS事業はスタートからもう十数年が経過して、600件というレベルになってきましたが、既設のビルはまだまだ多い。
また、鉄塔の本数は我々単体で7000本くらいになりましたが、大型の鉄塔は日本国内に8万本はあります。
こうした状況の中、事業を拡大しようとなると、数十~数百億ではなく、数千億~1兆円を超える設備投資が必要になってきます。そうなったときに、株式上場を維持したままではなく、非公開化して、この分野に長けたところと組んで事業拡大を目指すことにしました。
(買収元の)デジタルブリッジは、インフラシェアリングの分野でもう20数年の経験があって、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、南米などでビジネスを展開しています。資金も潤沢です。そうした企業と組む方が、会社の成長に繋がっていくだろうというのが非公開化の背景です。
――JTOWERは2012年に設立され、事業を拡大されてきました。2019年には株式を上場し、そこでも資金調達に関する大きな決断をされたわけです。それがまた今回のような非公開化に至った点については、どうお考えですか。
田中氏
これは株式市場の話になってしまうんでが、5年前の上場でも資金調達は大きな目標でした。そして上場してからの数年間は、どちらかと言えば利益面よりも売上の成長の方を、基幹投資家、個人投資家どちらも期待していたと思います。
ただ最近は(市況の変化などをうけて)、成長だけではなくて利益も求められるようになってきています。とはいえJTOWERはまだ成長ステージの企業だと考えています。
私としてはまだまだ投資したい。ですが上場していると、どうしても株主から収益アップを求められます。
そして市場のコンセンサスとミートしないと、今度は株価が低迷してしまう。株価が低迷すると資金調達がしにくくなる。今の株式市場環境はそういう環境です。(理想とする)市場環境にいつかは戻るかもしれませんが、もしかしたらなかなか戻らないかもしれない。それでも我々に資金需要は常にあるので、非公開化するのかいいだろう、という判断です。携帯電話市場だけでなく、金融市場も日々変わっていきます。それに合わせて会社も動いていかなければ。
――携帯電話市場の変化だけが要因ではない、ということですね。
田中氏
他に金利などの影響もあります。我々日本でオペレーションしていて、資金も借り入れています。アメリカ、ヨーロッパは利下げ傾向の一方、日本は利上げ傾向なので、こうした点も株価の重しになります。それらを総合的に考えて、今回の非公開化に繋がりました。
法林氏
思えば、かつて携帯電話会社と言えば、例えば鉄道会社とか自動車メーカーとか、色々な企業が出資されていましたよね。KDDIが代表的です。イー・アクセスも確かそうだったかな?
つまり、日本国内の大手企業、たとえばトヨタやJRがJTOWERにお金を出すという方向性は、なかった感じですか?
田中氏
今回の買収スキームはMBO(経営陣による自社買収)ではなくて、外部の複数社から紳士的なご提案を頂いたんですね。そして上場会社である以上、そこはきちんと取締役会で議論して、さらには社外取締役で構成する特別委員会を設置し、そこがさまざまなアセスメント(評価)することになります。
私自身は特別利害関係者なので、その委員会での意思決定には関われない立場なんです。委員会は複数の提案の中で、どの提案がいいのか、それとも上場を維持した方がいいのか、全部を検討して最終的にデジタルブリッジによるTOBが望ましいと結論を出したかたちです。
法林氏
デジタルブリッジの取り組みはユニークでいい提案だと思いますが、じゃあ日本の企業がなぜそこにお金を出さなかったかというのが、個人的には若干疑問が残りました。それと鉄塔についてなんですが、実際の建設を主導するのはゼネコンのような企業か、それともJTOWER内のチームなのか、分担はどんな感じなのでしょう?
田中氏
両方ですね。JTOWER社内には鉄塔を作ってきたエンジニアも、保守の人間もいます。しかし実際の施行となると、地盤調査など色々あるので、協力会社へお願いする体制を敷いています。
法林氏
もしかすると、そうした工事の領域でも、デジタルブリッジのアセットを活かせますか?
田中氏
あり得ますが、正直まだTOBから間もないので、そこまで対話ができていない感じですね。
海外と日本、インフラシェアリング事情はどう違う?
――インフラシェアリングは海外ではもう当たり前という話でしたが、メリット・デメリットにはどんなものが挙げられるでしょうか。
田中氏
国によっても状況が違いますが、米国の場合、ここ20年来の携帯電話市場の発展とともに、シェアリングが同時に進んできました。日本では逆に、シェアリングはほとんど行われず、各キャリアが独自にネットワークを構築していきました。歴史的背景の違いは、とても重要なポイントです。
日本における屋内対策は各キャリアによる独自整備が先行して、JTOWERが参入したのはその後でした。ただ、各社バラバラで整備してきた設備が古くなってきていて、今まさに更新・更改時期を迎えているんです。
これまではキャリアが自分たちでやっていました。それが今、シェアリングでやってくれ、ということになってきている。キャリア独自で敷設してきた設備を巻き取ってシェアリングに置き換えようというタイミングがきています。
恐らく、屋外の鉄塔でも同じようなことが起きるとみています。各キャリアとも鉄塔を数十年前に建てていて、それらが老朽化してくる。となると建て直すか、塗装するとか、コストをかけなければなりません。
そして何より、各キャリアが同じような場所に鉄塔を建ててきたので、3本並んで建っていたりします。それらを統廃合すれば、地代も3分の1になりますし、運用保守もキャリア別にバラバラでやらずに一回で済みます。そういう合理化が、進んでいくのではないでしょうか。特に地方となると、人口減で保守の人員も少なくなりつつあります。
――インフラシェアリングが今後進んでいくとして、その過渡期には、JTOWERの鉄塔とキャリアの鉄塔が近くに立地した場合のエリア調整であったり、建設済みの鉄塔を中長期的にどう品質維持していくのかなど、課題は多いと思います。それらの解決を、JTOWER側が主導していくことになるのでしょうか?
田中氏
我々にとってキャリアはお客様ですので、基本的にはキャリアの意向に沿う形で色々と提案していくことになります。まず、キャリアと長期に渡って契約していく中で、IBS事業であれタワー事業であれ、JTOWER側が一方的に何か条件を変えられるという契約にはなっていませんし、するつもりもありません。お客様としてのキャリアあってのビジネスですし、キャリアがメリットを感じていただけるような条件でなければそもそも使ってもらえませんので、それで問題がないと考えています。
そして新設備ですが、我々も常に新しい技術には取り組んでいます。すでにそうしてきましたし、特にIBS事業は、JTOWERが設置する設備に各キャリアがネットワーク接続をしますので、開発前の仕様策定の段階から各キャリアにチェックしてもらって、もし足りないものがあれば、追加で開発しまます。そこから最終的に各社のラボで、IoT試験といいますか、いわゆる品質の試験を行って、合格を取れてから初めて量産します。これをいままでもやってきましたし、変わらず続けていきます。
――これから来るであろう5G-Advancedなどの新しい技術についても、その方針は変わらない?
田中氏
はい、そうですね。JTOWER設立当初はシェアリングが一般的ではなかったので、そもそも各キャリアが試験もしてくれなかったんです。そこを我々が自分たちで考えて、自分たちで仕様を作って、作った装置の試験をお願いしていました。
それが十数年と積み重なる中で、今ではもう「(試験をしたいから)勝手に作らないでくれ」と言われるまでになってきました。キャリアに確認してもらった上で、開発をかけるようにしています。
――JTOWERは自前で設備を開発しているわけですが、そこはエリクソンやノキアの製品を買ってくればいい、という話ではない?
田中氏
まず、我々が使っている装置って、そもそもエリクソンやノキアの商品ラインアップにはない製品なんです。むしろJTOWERが作った装置を、キャリアが持っているエリクソンやノキアの製品と繋ぐ感覚です。
――デジタルブリッジによるTOB後も、そうした体制に変化はありませんか?
田中氏
変化はないですね。
TOBには外為法上の承認が必要
――ではデジタルブリッジ傘下に入って、変わったことはあるでしょうか? 資金的な裏付けをもとに事業をスケールアップできるというシンプルな話なのか、それとも技術ノウハウが得られた、ですとか。
田中氏
どちらかというと後者ですね。アメリカやヨーロッパで取り入れているものを日本にも適用できるのであれば、それはもちろんやっていきます。
加えて、市場の長期的な展望などについても、両社の共通点は多かったです。日本におけるインフラシェアリングの難しさをしっかり理解してくれましたし、その上で国内主要キャリアにサービスを提供できていることを評価してくれました。
――デジタルブリッジとの相性はよかったと。ただ、同社は米国系企業ですが、もし同じようなビジョンをもつ他国企業、言ってしまえば中国系企業のTOBであっても、成立はしてしまったのだろうかと考えてしまいます。
田中氏
そこは、受け入れてないですね。今回、TOBの話をデジタルブリッジを含む複数社から頂きましたが、会社(間の相性)だけでなく、そして経済安保問題上も大丈夫かどうか、一番しっかり考えました。
というのも、最終的には外為法の観点から、当局の承認が必要な案件だからです。承認を得られないであろうパートナーのために(事務手続きなどの)労力は費やせません。技術、資金、安全保障、これらを総合的に考えて、一番望ましいのがデジタルブリッジでした。
――外為法で十分、安全保障上のブレーキになるということですか。本当に機能するのか、若干の不安もありますが。
田中氏
そこは機能させなければダメだ、と思いますね。個人的な意見にはなりますが。
投資会社でありながら、オペレーションでも実績あるデジタルブリッジへの信頼
――通信業界を巡る今後の動向としては、NTN(非地上系ネットワーク)などに期待が集まっています。スターリンクのように衛星をバックボーンとする技術は現にありますし、衛星とスマホの直接通信、HAPS(成層圏通信プラットフォーム)などの話題も出ています。インフラシェアリングの視点では、鉄塔以外にこうした衛星なども、シェアリングの対象にしていくのでしょうか。
田中氏
そうですね……今すぐその領域に行くかというと(現実的ではない)。もちろん、将来的な可能性は否定はしませんが、まず我々はベンチャーで、まだまだ大型鉄塔8万本のうち、10%にも満たないシェアです。IBS事業こそ600件を超えましたが、日本には何万というビル群がありますし、やはりそちらの件数をしっかり増やして、質の高いサービスをキャリアに提供することに当面注力したいと思います。
新しい周波数もどんどん追加されてきますし、6G、その前に5Gのミリ波がくるかもしれません。リプレイス(設備更新)の話は増えていますし、なによりキャリアから依頼されて仕事になるケースも増えてきています。
あと日本は地震も多いですし、災害が起きたときの体制もしっかり整備しないといけません。
――鉄塔の運用を全国で展開するとなると、各地の通建会社(通信建築会社)との協力体制も重要になってきそうです。
田中氏
IBS事業については、北は北海道から南は沖縄まですでに施設を広く展開してますし、鉄塔も地方を中心に増やしています。そんな関係で、通建会社との関係性はもう、ある程度構築できています。
――災害復旧にあたっては、そうした通建会社の存在は重要ですね。ちなみに能登半島の地震に際しては、JTOWERにも影響はあったんですか?
田中氏
数本ですが、影響はありました。結果的に被害はほとんど出ませんでしたが、2024年1月の地震直後には緊急対策本部を立ち上げました。我々の設備の被害がどうと言うより、通信をしっかり確立することが重要でした。
――これまたデジタルブリッジの話に繋がりますが、米国系企業だと、日本の災害の多さといった点を本当に理解してくれるのか、そうした不安はありませんでしたか。
田中氏
いえ、そこは全然理解あります。リサーチを長年やってきていますし、日本のキャリアの考え方もわかってくれています。なんだったらデジタルブリッジは、キャリアとも直接対話もしていますしね。
――なるほど。デジタルブリッジはファンドと言いながら……
田中氏
オペレーティング会社に近いかも知れません。そういう意味で、かなり変わった会社だと思います。これを20年以上やっている会社は世界的にも珍しいはずです。それていで投資領域は鉄塔以外にも広く、データセンターの世界では大手に入るくらいの規模ですしね。
国内で約8万本と言われる大型鉄塔、その3割がシェアリングされる世界を目指す
――将来的に、JTOWERとしてはどれくらいの事業規模を目指していきますか?
田中氏
国内に大型の鉄塔が約8万本あると説明しましたが、そのうちの約3割をシェアリングで供することを目標にしていきます。ちなみに海外全体では、鉄塔の約7割がシェアリング事業者が、残り3割をキャリアが持つという構造になっています。それくらいの数は、追い求めていきたいですね。またテナンシーレシオ(1物件あたりの参画テナント数の平均)は米国やヨーロッパの大手でも1.5~2程度なので、中長期的にはこの値をベンチマークにしていきたい。
あとは屋内でも屋外でも、フットプリントを大きくしていき、キャリアの役に立てる領域を広げていきたいです。そしてシェアリングによって、設備投資費もOPEX(事業運営費)も下げていく。いろいろなものがコストアップしている時代ですからね。こうした取り組みは、ひいては一般の利用者のメリットにもなると思います。
また社内には研究開発部門がありますから、キャリアと協調して新しいものをしっかり作っていこうと思います。O-RANのような技術も出始めていますし、各キャリアで重複する設備をどうするかも含め、シェアリングをどんどん推し進めていきます。また、もしかすると、いわゆるエッジデータセンターのニーズが高まったとき、JTOWERのアセットベースが活きてくるかも知れません。
――本日はありがとうございました。