石川温の「スマホ業界 Watch」

9月10日にアップル発表会開催、どのような視点で見るか?

 アップルは8月27日、9月9日(現地時間)にアメリカ・サンフランシスコ州クパチーノにある本社内のスティーブ・ジョブズシアターでスペシャルイベントを開催すると発表した。

 筆者も現地で取材をしてくる予定だ。

 9月開催ということで例年通りのイベントであり、間違いなくiPhoneの新製品が発表されることだろう。日本時間の10日午前2時にスペシャルイベントが始まり、翌週金曜日に新しいiPhoneがアップルストアや各キャリアから発売されるのはもはや「既定路線」となっている。

 今回の招待状には「時が満ちる。」というキャッチコピーが記載されているが、ここから何かを推測するのは野暮というものだ。同じく描かれているイラストといい、新製品のコンセプトを予言しているようで、まったく見当違いということがこれまで多々あった。

 iPad関連のスペシャルイベントであれば、いかにも「ペンで描きました」というアップルマークになっているのでわかりやすいが、iPhone発表時は、後から振り返ってみても「イラストは何も暗示していなかった」ということが本当に多い。

 昨年発表されたiPhone 15シリーズは、Lightning端子からUSB-Cに切り替わるという歴史的な瞬間だったため、かなり盛り上がり、注目を浴びたように思う。

 しかし、今年、発表される可能性が高い新製品は、どこまで盛り上がるか、正直、ちょっと不安だったりする。

 もちろん「Apple Intelligence」というアップルが開発したAIプラットフォームが存在し、これによりこれまでのiPhoneの操作体系が一変すると期待されている。

 しかし、Apple Intelligenceは当面は英語のみの対応であり、提供開始も「年内」という言い方に留まっている。日本のメディアやユーザーからすれば「で、日本語はいつ使えるの?」というのが気になるポイントであり、そのあたりを明言してくれないことには新製品に興味が出にくいことだろう。

 そんななか、スマホ業界に新たな変化をもたらしてくれるのではないかと期待しているのが、この秋、正式リリースされるiOS 18だ。

 このバージョンアップでiMessageがRCSに対応。AndroidとiPhone間で画像や映像のやりとりが標準のメッセージアプリでできるようになる。

 これまで日本市場ではLINEが圧倒的に普及し、AndroidやiPhoneなどプラットフォームを関係なく、画像や映像、スタンプなどのやりとりができていた。

 一方、そんな状況に打破しようとNTTドコモやKDDI、ソフトバンクが「プラスメッセージ」というAndroidとiPhoneの両方で使えるメッセージサービスを開始したが、お世辞にもスマホユーザーにアクティブに使われているという状況までには至らなかった。

 やはり、LINEに加えて、もうひとつ、メッセージアプリをインストールするという必然性を感じるユーザーが多くはなかったのだろう。

 そんななか、iOSがRCSに対応することで、どちらのプラットフォームも標準メッセージアプリで画像や動画のやりとりが可能となる。

 これまでプラスメッセージを推進してきたKDDI・高橋社長は「(グーグルも積極的なので)RCSに力を入れていくと思う」と語る。

 すでにKDDIは5月からグーグルが提供するRCSアプリをAndroidスマートフォンに標準採用するとアナウンス済み。KDDIはコンビニ大手のローソンを傘下に収めているが、今後はRCSをベースにクーポンなどの配布を行っていく考えもあるようだ。

 これまで企業とスマートフォンユーザーとの接点という意味ではLINEは最強のプラットフォームであった。しかし、海外にあるサーバーでLINEユーザーの個人情報が扱われ、個人情報が流出すると言ったトラブルによって、総務省が激おこプンプン丸となり、LINEヤフーに対して韓国資本を減らすように忠告したなんてこともあった。

 また、最近でもLINEの公式アカウントの管理などに使われる「LINEビジネスID」の一部が乗っ取りの被害を受けたことが明らかになったばかりだ。

 LINEが国民に広く普及していることで、LINEを通じて行政の情報を告知したり、サービスを提供する自治体も増えている。しかし、国民の個人情報が安全に守れないという懸念が出始めてしまうと、今後、行政サービスをLINEで提供し続けてもいいのか、という指摘が出始めてきてもおかしくない。

 そうした雰囲気が醸成されていくと、今後、「ユーザー接点はLINEからRCSに切り替える」なんて企業や自治体が出てくる可能性もありそうだ。

 LINEヤフーを傘下に持つソフトバンクがRCSをかつぐというのはなかなか難しそうだが、KDDIやNTTドコモはプラスメッセージからRCSに乗り換え、「LINE一強」な状況に切り崩しをかけてくるのは間違いないだろう。

RCS対応iPhoneの行く末は

 これまでスマホデビューをする際、機種選びの段階で「友人とiMessageがしたいからiPhoneが欲しい」と親にねだる子供が本当に多かった。今回、iPhoneがRCSに対応することで、AndroidでもiPhoneの友達から仲間はずれにされることはなくなると思われる。

 ただ、当然のことながら、アップルがそんな状況を指をくわえて見ているつもりはないだろう。

 iOS 18でも導入が進んでいるが、アップルでは「RCSでAndroidとメッセージの送受信ができるが、一方でiPhone同士であればもっと楽しくメッセージのやりとりができる機能」を強化している。

 つまり、基本的なメッセージは送受信できても「iPhone同士なら装飾があって楽しい。この楽しさが伝わらないAndroidってどうなのよ」という空気をアップルは作っていくはずだ。

 RCS対応でiPhoneの売れ行きが落ちるのか伸びるのか。

 そんな視点で、9月9日のスペシャルイベントを見るのも楽しいだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。