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大災害でもスマホが繋がる世界へ、ソフトバンク「空飛ぶ基地局」実験成功

 2026年8月、ソフトバンクはHAPS(成層圏通信プラットフォーム)を用いた日本初となる実験に成功した。

 今回の実証では、米国からの太平洋横断飛行をはじめ、ソーラー電力による稼働、成層圏での定点滞空、スマートフォンやドローン向けの通信機能など、HAPSの運用に必要な要素技術が総合的に検証された。

 同社技術統括プロダクトR&D本部ユビキタスネットワーク企画統括部の上村征幸統括部長と、次世代NTN開発部の藤野矩之部長が語った内容から、今回の実証で得られた具体的なデータと、今後の商用展開に向けた取り組みを紹介する。

米国から高知沖へ約3万kmの飛行と実測データ

 今回の実証では、米Sceye(スカイ)社が開発したLTA(飛行船)型のHAPS機体を採用している。日本国内に巨大なハンガー(格納庫)がないため、米国ニューメキシコ州から直接成層圏へ機体を打ち上げ、ジェット気流を利用して日本まで飛行させた。

 往路だけで13日間を費やし、太平洋を横断して高知県室戸市沖の試験エリアへと到達している。帰路を含めた総飛行距離は約3万kmに及び、合計30日間のフライトを達成した。太平洋横断中も、完全な自律飛行ではなく飛行船は衛星通信で監視され、リモートで操作されていたという。

試験エリア、地上から見たHAPS機体

 上村氏によると、室戸市沖では半径5km未満という極めて狭い範囲に留まり続ける「定点滞空性能」を7日間にわたって実証した。これは、常に強い風が吹く成層圏において、安定した通信エリアを地上へ提供し続けるための最重要課題だった。

 実際の通信性能についても、詳細な実測値が公開されている。スマートフォン向けのサービスリンクに2.1GHz帯(バンド1)のLTEを使用し、下り最大36Mbps、上り約5Mbpsのスループットを記録した。

 この通信環境下で、複数スマートフォン間の音声通話や118番(海上保安庁)への緊急通報、Webブラウジング、Zoom会議、YouTube動画再生が問題なく動作することを確認している。さらには緊急速報メールシステム(ETWS)の一斉配信試験もクリアし、地上の基地局と同等の基本機能を成層圏から提供できることを証明した。

通信コアの喪失に備えるエッジコンピューティング

 単に上空から電波を吹くだけでなく、大規模災害時における通信インフラの脆弱性をどのように克服するのか。今回の試験では、その根本的な解決策としてHAPS機体上にエッジコンピューティング(サーバー機能)を搭載する実験を実施した。

 通常のモバイルネットワーク構成では、HAPSは地上のコアネットワーク設備と通信して初めてユーザーへサービスを提供できる。しかし、大地震や津波などで地上のコア設備そのものが壊滅した場合、HAPSも連鎖的に機能不全に陥るリスクを抱えている。

 上村氏は「HAPS内にコアの機能を載せて、HAPS単独で通信を完結させる実験を実施した」と説明する。これは、いわば災害などで地上網が完全にダウンした孤立環境であっても、HAPSの電波が届く範囲内であれば、スタンドアローンで限定的な通信や情報共有を維持できるというシステムの有効性を実証したと言える。

 加えて、このエッジコンピューティングを活用することで、遠く離れた地上のクラウドを経由する従来の通信構造と比較して、通信遅延を約40%削減することにも成功している。

 自社開発のクラウド型GCS(地上統制局)を経由し、ドローンを遠隔制御して位置情報や映像をリアルタイムに伝送する実験もクリアした。遅延の少なさを活かし、将来的な自動運転車やロボット(フィジカルAI)のリアルタイム制御基盤としての活用も見据えている。

世界初のレーザー測距と3次元ネットワーク構想

 通信インフラとしてのポテンシャルをさらに引き上げるため、ソフトバンクは電波に代わる光無線通信(レーザー通信)の導入にも踏み込んでいる。地上局とHAPS、さらに低軌道衛星(LEO)を大容量の光回線でメッシュ状に結びつける「3次元通信ネットワーク」という構想だ。

 藤野氏は、光無線通信の導入に向けた初期段階の取り組みとして、地上から成層圏のHAPSをレーザーで追尾・測距する世界初の実験に成功したと明かした。一橋大学や国立極地研究所と共同で実施したこの実験では、HAPS機体に数センチ大の「コーナーキューブ反射鏡」を搭載している。

 地上から照射したレーザー光をこの反射鏡で光源の方向へ正確に跳ね返し、再び地上の望遠鏡で受信することで、大気中の減衰量や揺らぎのデータを緻密に収集した。

機体に取り付けられたコーナーキューブ反射鏡

 藤野氏によれば、宇宙空間と異なり地上付近では空気の揺らぎや水蒸気による光の減衰が激しいという。今回はあくまでレーザーによる測距のみの実験にとどまるが、収集した実測データをもとに回線設計を進め、将来的にはバックホール回線(フィーダーリンク)として最低でも10Gbps以上のデータ通信速度の実現を目指す。

 この光無線通信の取り組みは、2026年内に次のフェーズへと移行する。ソフトバンクは情報通信研究機構(NICT)、アークエッジ・スペース、清原光学と共同で、光無線通信装置を搭載した6Uサイズの小型実証衛星を開発している。

 この衛星をSpaceX社のファルコン9ロケットで宇宙空間へ打ち上げる予定だ。翌2027年にはHAPS機体側にも専用の光通信装置を実装し、衛星とHAPSを直接結ぶネットワークの実証へとステップアップしていく。

2027年商用化へ向けた周波数戦略と運用拠点

 実用化に向けた具体的なロードマップと運用体制も示されている。2027年の国内商用化を目標としているが、初期段階から日本国内に巨大なハンガーを建設するわけではない。

 上村氏によれば、商用化の当初は今回と同様に米国拠点から直接機体を飛ばし、台風による悪天候リスクが少ない秋から冬にかけての数カ月間、日本上空に滞空させてサービスを提供する運用形態をとる。国内への本格的なハンガー設置は、商用化からおよそ2年後を計画しているという。

藤野氏(左)と上村氏(右)

 サービス提供エリアについても、段階的な拡大を予定している。2027年の段階では本州の北端である青森県周辺までをカバーし、翌2028年以降に北海道を含む日本全域へと広げる方針だ。

 太陽光パネルで稼働するHAPSにとって、高緯度地域の冬場は日照時間が短く、成層圏のジェット気流も強くなるため極めて過酷な環境となる。そのため、2030年頃を目処に、冬場を含めた365日の連続通年運用を実現する構え。

 通信に利用する周波数帯については、国際電気通信連合(ITU)のWRC-23会議でHAPS用として新たに割り当てられた帯域をフル活用する。端末向けのサービスリンクには、800MHz帯のローバンドから1.7GHz、2GHz、2.1GHz、2.5GHz帯まで既存の幅広い帯域を利用できる。上村氏は「既存の衛星との干渉もあって、なかなか難しいとは思う」としつつ、将来的には「ひとつのアイデアとして良いと思っている」とミリ波の活用への期待を示す。

 地上局と結ぶフィーダーリンクには、今回、Eバンドと呼ばれる帯域(80GHz帯)が用いられたが、商用では、38GHz帯や39GHz帯の活用が見込まれる。