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ソフトバンクはHAPS固有の問題をどのように解決するか? 安定、大容量を目指す3つの基幹技術

 ソフトバンクが開発を進めているHAPSは、成層圏通信プラットフォーム(High-Altitude Platform Station)の略で、地上20kmの成層圏を飛行する無人飛行機を使って「空から通信を提供する」プラットフォームだ。携帯電話のサービスエリアは、日本では人が住む多くの場所がカバーされている一方、人が立ち入ることが難しい場所では、エリア化が進んでいない。特に、国立公園や離島などでは、基地局を建設する大がかりな工事が難しい。そこで、NTTドコモやソフトバンクはHAPS、KDDIや楽天モバイルは低軌道衛星と、アプローチは異なるがそれぞれ空から通信エリア化する取り組みを進めている。

 一部は実用化されているものもあるが、ソフトバンクは飛行船型のLTA型HAPSによるプレ商用サービスを2026年に開始すると発表。一方で、これまでの静止衛星などと異なり地球から見て“動く”基地局となるHAPSのプラットフォームでは、考慮しないといけないことや、解決しなければいけない問題が多いという。

 ソフトバンクは、さまざまなHAPS固有の課題をどのように解決してきたのだろうか?

HAPSで携帯が使えるしくみ

 HAPSは、地上からの電波をHAPS経由で送受信するようなイメージでサービスを提供する。インターネットに接続されているコアネットワークは、通常地上の基地局と繋がり、基地局からユーザーのデバイスと電波で接続しサービスを提供する。HAPSでは、コアネットワークで接続された「ゲートウェイ」とHAPSがまず電波で接続され、今度はHAPSとデバイスが電波で接続される。

 HAPSとゲートウェイの接続を「フィーダリンク」と呼び、HAPSとデバイスの接続を「サービスリンク」と呼んでいる。HAPSでの通信は、このどちらの接続も必要で、一方が欠けるとサービスが提供できなくなる。

サービスリンクの要素技術

 HAPSは、上空を飛行する飛行機を使ってサービスを提供するが、提供する上で重要なのが、「動く基地局から安定したサービスを提供できるか」や「適切なエリアで多くの通信を捌けるか」、「地上の基地局と電波干渉しないか」などのポイントだ。

フットプリント固定技術

 まずは、動く基地局から地上の通信エリアを固定する「フットプリント固定技術」。通常、飛行機は旋回しながら上空を飛行するため、上空の装置からカバーしているエリアが旋回に合わせて移動してしまう。通常、通信エリアはいくつかのセルと呼ばれる単位で分けてカバーしているため、旋回している状態では、地上の1地点でセルがコロコロ変わってしまい、安定した通信ができない。

 フットプリント固定とは、旋回に伴うこれらの移動を、デジタルビームフォーミングで固定するもの。同社は、フットプリント固定技術を開発し、基幹特許を取得。実証実験でも安定した通信を維持できることを確認している。

エリア最適化技術

 人が多い場所を通信エリア化する際、通常そのエリアをカバーできる場所に多くの基地局を設置して、通信できる容量を増やしている。基地局の増設がうまくいかない場合は、アンテナの角度や周囲の基地局を調整したりすることで、全体の通信を最適化させている。

 HAPSでも、同様の取り組みを進めている。たとえば、地上のどのあたりにユーザーが多くいるか? といったビッグデータを活用し、エリアにあわせた通信を実施。データが少ないエリアでは、デバイスの位置にあわせてエリアを最適化することで、全体の通信容量を最大化する「エリア最適化技術」を開発した。

 具体的には、HAPSに設置されるシリンダーアンテナから発射される電波について、デバイスの場所に応じて自動ビーム最適化制御を実施。電波の境目にあるデバイスに対しても通信速度の最大化を図る。

ヌルフォーミング

 地上の基地局とHAPSの電波について、異なる周波数を使えれば干渉のリスクは低いが、限りある電波資源のなかで同じ周波数帯を利用せざるを得ないことが考えられる。その際問題になるのが、地上の基地局とHAPSの電波が干渉してしまうことだ。地上の基地局同士でも、電波干渉が起きないように、さまざまな調整が施されている。

 同社では、HAPSからの電波について、地上の基地局との干渉が予想される場所への電波を打ち消し、干渉リスクの低減を図る「ヌルフォーミング」の技術を開発。同一周波数帯を使用していても、HAPSなしと同等の通信品質で通信できることが確認できている。

新たに八丈島で実証

 18日、同社はHAPSに関連する新たな技術の実証実験成功を発表した。

 内容は、フィーダリンクとサービスリンクを結合させた構成でのエンド・ツー・エンド通信の確認と、6セルのフットプリント固定の確認で、これまでの技術の発展系といえる技術。実証は、1.7GHz帯の周波数を使うことから、影響が少ない八丈島で実施された。

 具体的には、6セル構成のサービスリンク装置と、フィーダリンク装置を組み合わせた「通信ペイロード」を開発し、高度3000mを飛行する軽飛行機に搭載した。

 フィーダリンク側では、旋回する軽飛行機と安定して通信するため、移動による変異を補正する「ドップラーシフト補正受信レベル補償」を上空側に、アンテナを回転させて機体を動的追尾する「ビームトラッキング技術」を搭載。地上と海上にまたがる、半径15kmという円内の測定エリアで実証した。

 結果、エリアの端でのスループットが下りで約33Mbpsを達成したほか、広域でのフットプリント固定を実証できた。これにより、サービスリンクとフィーダリンクの結合構成による大容量通信ペイロードの開発が完了した。

 商用サービスに向けて、着々と基幹技術の開発が進んでいる。圏外でも「通信ができる」ではなく、「快適な通信ができる」ことを目指し、今後もさらなる大容量化と商用サービスでの実証を進めるとしている。