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NTTはどう変わっていくべきか、課題や懸念などを携帯電話各社が主張

 12日、総務省で「情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会(第2回)」が開かれ、NTT法の見直しに向けた議論が行われた。

 NTT法は、NTT(持株)とNTT東西を規制対象として、安定的なサービス提供や研究開発の推進に向けた責務などが定められている。自民党内では防衛費の財源として政府が保有するNTT株売却の議論が巻き起こっているが、NTT法ではNTT株の政府保有義務を定めており、実際に売却する場合は法改正が必要になるとみられる。

現状に合わせた規制が必要

 NTTでは、かつてと現在との市場環境の変化を訴え、NTT法の見直しの必要性を主張する。

 NTTが誕生した1985年当時は電話を中心とした市場が展開されていた。しかしそこから40年弱が経過した現在、そのポジションはインターネットやモバイルが占めており、支える技術も様変わりした。今後もオープンRANの拡大や非地上系ネットワークの登場などさらなる技術革新が進むと見られる。

 そうしたなか、固定電話を中心としていた当時に制定された法律で規制を受けることの問題を指摘。NTT 島田明社長は「IOWNなどの国際競争力強化には、自由かつ機動的に事業展開できることが必要」としたうえで市場や技術の進歩にそぐわなくなった規制やルールは見直しが必要とした。

 かつて人と連絡を取りあうために誰もが使っていた固定電話サービスは、携帯電話などの普及で大幅に利用が低下。今後も契約数は減少していく見込みで、NTTでは公衆電話とあわせて基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)に含むべきかは議論が必要と主張。「何が国民に不可欠なサービスか」をあらためて検討すべきではないかとした。

 島田氏は、固定電話の今後について不要ということではなく、技術的な限界などもあり旧来の固定電話のあり方については議論を始めるべきと補足する。

 具体的には、電話サービスをユニバーサルサービスに含み続けるのであれば、携帯電話も取り入れながら、MNO間でのローミングや設備シェアリングなどの協力体制の構築の可能性にも言及した。

 また、IOWNなど国際展開を見据えた課題も島田氏は指摘する。NTTでは、研究開発の成果に開示義務が課されており、特定の企業にのみ開示するということができず、ある情報を求められれば、公平に開示しなけれがならない。そのため他企業との差別化を求める企業の要望を満たせないという。加えて、海外の政府機関や企業などからの開示要請にも応える必要性があるため経済安保上の問題も懸念される。

NTT法は存続し時代にあわせた改正を

 KDDIの髙橋誠社長は、ボトルネック設備の公益性の確保を訴える。光ファイバーや局舎、電柱などNTTのみが持ちうる設備をボトルネック設備といい、他事業者が事業をすすめる上でもその設備が重要になることを説明。

 NTTと他事業者とは、NTT法と電気通信事業法の2つで公平性が保たれており、競争の活性化がもたらされてきたと説明。ボトルネック設備を有したまま、NTT法を廃止した場合、公平性が損なわれる恐れがあることから、反対の立場を表明。外国資本からの保護の必要性も訴えた。

 あわせて、NTTに課せられる研究開発結果の開示義務はその判断基準が不明瞭であるとも指摘。開示するかどうかはNTTの判断に委ねられているとして、法改正の必要はなく解釈の変更で対応できるのではとした。これに対してNTT島田氏は、開示要請には原則的に応じる必要があるとの考えを示している。

 このほか、ユニバーサルサービスにおける電話の立ち位置については、災害時などの通信確保に影響が及ぶとして義務の撤廃はすべきでないとした。髙橋氏は時代に合わせた運用見直し・改正議論は必要との認識を示しつつもNTT法自体は維持していくべきと見解を述べた。

ボトルネック設備はNTTから分離すべき

 ソフトバンク 宮川潤一社長は、KDDIと同様に時代にあわせたNTT法の見直しには賛同する立場を示す。その一方で、公正な競争環境の維持を訴える。

 ボトルネック設備を有するNTTに対する規律を廃止することは、国民の利便性・公正競争確保に反すると指摘。ボトルネック設備をNTTから分離し、新たな会社に移管したうえでNTT法を廃止すべきと主張した。

 宮川氏は、NTT法でNTT東西の業務範囲についての規制があるものの、アクセス設備の設備計画などはNTTが自らの裁量で判断しているため、現在でも「NTTと競争事業者間での真の公平性が担保されているとは思っていない」と語り、制度のいびつさを指摘。NTTとボトルネック設備の分離の必要性を強調する。

 光ファイバー網がデジタル実装を進めるためのインフラ基盤であるとして、国の政策によって役割を定められた会社がその維持整備の責務を負う必要性があると説いた。

 加えて、NTTがプラットフォーマーに対抗することへの違和感を露わにする。「GAFAMと通信事業者はコスト事業構造が違う」と指摘。グーグルやアマゾンなどとのR&Dへの投資額への違いにも言及し「そもそもの事業構造に差異のある通信事業者とプラットフォーマーを比較するのは適切ではない」と説明。国際競争力の強化には積極的な設備投資・研究開発を推進する政策こそが重要とした。

NTT法の廃止は時流に逆らう

 楽天モバイル 三木谷浩史会長は、携帯電話料金を低廉化させた同社の実績を紹介。競争の促進が進んだ現状から「NTT法の廃止はこれに真っ向から逆行する」と主張する。

 今、必要なものは「国内での競争促進」と「グローバルでの競争力強化」という三木谷氏。かつて日本で生まれたサービスなどは世界でエコシステムを構築できなかったとも語り、日本の通信技術の世界シェアが低いことを説明。「真の国際競争力は企業統合ではなく競争とイノベーションから生まれる」として、NTTの統合で技術競争力が生まれるという一部の政治家の意見を「ちゃんちゃらおかしい。むしろガラパゴスに戻る」と批判した。

 NTTによるNTTドコモの完全子会社化など、グループ再編など会社統合の流れが加速するNTTグループに対して独占回帰の先祖返りを果たしていると指摘する三木谷氏。強力な力をもつ事業者がさらに支配力を強めることは「他社にとっては競争が難しくなるのが現実的な話」と語る。そうしたことに伴う携帯電話料金の再値上がりにつながりかねないとした。

 諸外国の例を示しつつ、NTT東西が持つ固定・アクセス部門は国有化することを提案した。電電公社の設備投資累計額は当時で25兆円。多額の資金が投じられた独占的な資産を持つNTTを「完全民営化し独占的な競争状態に持ち込むのはあまりに危険」とその立場を明確にした。