石野純也の「スマホとお金」
「スマホ新法」施行でApple・Googleの手数料はどう変わった? 今後の注目ポイントを解説
2025年12月25日 00:00
12月19日に全面施行された「スマホ新法(正式名称:スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)」によって、アップルやグーグルはストアの手数料体系を変更しました。
特に影響や変更点が多いのがアップル。外部決済や代替アプリストアを導入したほか、App Storeを利用した際にかかるアップル自身の手数料も合わせて改定しています。
一方で、手数料はあくまでアップルが開発者に対して課している料金のため、この日を境にユーザーに何か大きな変化が起こったというわけでありません。デフォルトブラウザを決めるチョイススクリーンなど、目に見える新機能はあるものの、手数料に関しては即効性が薄くなりそうです。
では、この手数料改定はユーザーにどのような影響があるのでしょうか。新体系に基づいて、この先起こりそうなことを予想していきます。
手数料値下げに踏み切ったアップル、最大30%が26%に
iPhone用のアプリを配信するApp Storeでは、これまで、基本的には30%の手数料がかかっていました。単純化すると、500円のアプリを配信し、それが売れた場合、350円が開発者、150円がアップルに入っていた格好です。
また、小規模事業者やサブスクリプションの2年目には、この手数料が15%までカットされています。
一方で、App Storeを通じて配信されたアプリは、原則として、アプリ内での課金しかできませんでした。アプリ内で、アップル以外の決済サービスを提供するのはNG。Webサイトへ誘導し、アプリの外で決済することもできませんでした。
ただし、例外的に、アプリ内から誘導していない時には、ブラウザで決済することができ、手数料に応じて料金を値下げするといったケースもありました。
例えば、X(旧Twitter)の「Xプレミアム」は、Web経由だと月額918円だったのに対し、アプリからApp Storeの課金を使うと1380円という料金が設定されています。1380円からApp Storeの手数料である30%を引いた金額は966円。手数料がかからないぶんをユーザーに料金という形で還元していたと言えるでしょう。
同様に、金額ではなく、ゲーム内でもらえるアイテムが増えるといった形でユーザーに還元するアプリもありました。
スマホ新法の施行に伴い、アップルはこの手数料を4つのケースに分けることになりました。以下の図がその4つを端的にまとめたもの。まず、アップル自身の手数料が合計最大26%に引き下げられました。
また、手数料を決済にかかる5%と、配信やその他ツールを利用するための21%もしくは10%に分けたのもポイント。細分化することで、それ以外の場合の手数料を明確化した格好です。
アップルは、この措置ですべての開発者は値下げの恩恵を受けられるもしくは以前と同等の手数料になるとしています。このスタンスをより細かく分解していくと、元々、フルで30%の手数料がかかっていた開発者は値下げに、手数料を減額するプログラムの対象だった開発者は据え置きになるということが分かります。
また、決済とストアそのものの手数料を分けた結果、外部決済を使った際にかかる手数料も明確になりました。
節約効果は限定的な代替決済、本命は外部サイトか
スマホ新法下で新たに導入されたのが、これまで禁止されていた代替決済サービスを利用するという選択肢です。アプリ内で、アップルの決済と他社の決済を並列に表示し、ユーザーがどちらかを選択できるになりました。
ただし、実際にこれを導入するかどうかは開発者次第。すぐにすべてのアプリで利用できるというわけではありません。
また、代替決済を利用する場合でも、App Storeそのものを利用した対価である21%もしくは10%の手数料はかかります。なくなるのは、決済の手数料として設定された5%のみ。仮に、代替決済サービスが5%の手数料を設定していた場合、開発者の取り分はアップルの決済を使う時と変わらなくなってしまいます。
この場合、決済方法によって価格が変わるかどうかは微妙と言えるでしょう。オンライン決済でも3%の手数料は一般的。もし3%だとしても、すべてをアップル内で完結させた時と2%の差しか出ません。
売上げが大きければ2%でも、残る収益は大きくなる一方で、ユーザー1人1人に還元していくには微妙な差分です。500円のアプリで厳密に手数料を反映しても、490円にしかならないからです。
わずか10円差を反映するために、アプリ内に代替決済を導入する開発者がどれだけ出てくるかは未知数。開発コストやサポートコストも増加するため、1、2%の差でユーザーに還元するのは難しいはずです。
その意味では、より採用が増えそうなのは手数料の低い外部リンクによるWeb決済になるかもしれません。こちらは、先の図のとおり、アップルに対する手数料は15%もしくは10%に抑えられます。外部決済が5%だとすると合計は最大18%。App Storeだけを使うときよりも、8%手数料を抑えられます。
ただし、先に述べたとおり、元々Webサイトなどの外部決済自体は以前から認められていました。新たに可能になったのは、アプリ内にリンクを貼り、そこから決済ページに誘導するという導線。
具体的には、アップルの規約で「実行可能なリンクをタップまたはスキャンしてから7暦日以内に開始された」決済であることとされています。つまり、この導線がなければ、アップルに支払う手数料は0%になります。
もっとも手数料を抑えられるため、ユーザー還元が多いのもこの方法になることは間違いないでしょう。実際、代替決済サービスの「アプリペイ」では、手数料5%をうたっており、利用するアプリのアイテムを増量するなどの形でユーザーに還元を図っています。
アプリからリンクを張った方が誘導はしやすくなる一方で、手数料が増える形になるため、リンクを張らない手法は今後も継続することになりそうです。
なお、代替アプリストアを利用する際にも、アップルへの手数料が5%発生します。これは、iOSなどの機能や知財を利用し、かつ「公証」と呼ばれる基本的な審査があるためです。5%なら激安……と思うかもしれませんが、実際にはここに各ストアの手数料が上乗せされます。
欧州では、Epic Gamesが開設したストアが手数料を12%に設定していますが(100万ドルを超える場合)、これが平均だとすると、日本では17%ほどの手数料になる格好。外部サイトへのリンクを張るのとほぼ同じになるため、利用が進むかどうかは未知数です。
グーグルは手数料据え置き、外部サイトの決済は導入
もう1つのプラットフォームであるグーグルのAndroidは、元々、ゲーム以外で外部決済サービスの利用を認めていただけでなく、代替アプリストアや、さらにはアプリ単体でのサイドローディングも可能だったため、スマホ新法による変更点は少なくなっています。
実際、サムスン電子は「Galaxy Store」をGalaxyシリーズ各機種にプリインストールしており、そちらからもアプリをダウンロードできます。
ただし、Google Playの手数料については30%が据え置かれた形になり、26%まで値下げしたアップルとは差がついてしまった格好です。
また、アプリ内で代替の決済サービスを選択することはこれまでもできましたが、こちらは手数料が通常より4%安いと明記されており、26%になります。外部決済サービスで4%以上のものはGoogle Playより割高になってしまうというわけで、アップルよりもこれを選択するモチベーションは低くなりそうです。
また、新たに「外部決済プログラム」というメニューも用意される形になりました。基本的に、これは、アップルにおける外部サイトへの誘導と同じ仕組みになります。こちらの手数料は20%に設定されており、アプリ内に設置したリンクから24時間以内に決済が完了した場合に計上されるというルールになっています。
こちらも、グーグルへの手数料とは別に、外部で決済を行った場合、その決済事業者への手数料が発生します。仮に手数料が3%だとすれば、計23%がかかる計算。Google Playの機能を使って直接アプリ内課金をするよりも安価にはなりますが、節約効果は限定的と言えるでしょう。
アップルと同様、やはりユーザー還元がもっとも手厚くなりそうなのは、リンクを張らない外部決済になるかもしれません。
Androidの場合、代替アプリストアにアップルのような公証のプロセスはなく、それぞれが手数料を設定しています。先に挙げたGalaxy Storeは、5月に手数料を20%に引き下げたばかり。それでも、ストアを通すぶん、手数料は外部リンクとほとんど変わらない形になります。
アップル、グーグルの双方ともスマホ新法への対応で決済方法を多様化させたのは事実ですが、ユーザーメリットが目に見えやすい形で出る手段は限られている印象も受けました。あくまで対応はしているものの、実際に使われるかどうかが不透明なサービスもあります。
一方で、アップルが手数料を値下げしたのは競争の分かりやすい効果と言えるかもしれません。手数料を据え置いたグーグルが、ここにどう対抗するかも注目しておきたいポイントと言えそうです。









