石川温の「スマホ業界 Watch」

まもなく施行の「スマホ新法」はグーグル有利の法律なのか

 12月18日、ついに「スマホソフトウェア競争促進法(通称:スマホ新法)」が施行される。公正取引委員会では特設サイトを新設。スマートフォンで「チョイススクリーン」として、ブラウザや検索エンジンで選べる画面が出てくる事を告知している。

 今後、スマートフォンを初めて起動する際やOSアップデート後に「チョイススクリーン」が出てくるようだ。公正取引委員会としては、ユーザーに選択肢を与えることで、ブラウザや検索エンジンの競争を促したい考えだ。

 しかし、いまさら、ブラウザや検索エンジンを選ぶ意味がどこまであるというのか。これが15年ぐらい前、スマートフォンが普及し始めたタイミングで法律が施行されたのであれば、ブラウザや検索エンジンでの競争が過熱したかもしれない。もしかすると、OperaやFirefoxなどにチャンスがあっただろう。

 しかし、すでにブラウザや検索エンジンの世界において「優勝劣敗」が決まっているのではないか。ブラウザはiPhoneであればSafariだし、AndroidであればChromeだ。検索エンジンは誰もがGoogleを選んでいるはずだ。

 もちろん、他のブラウザや検索エンジンを好んで使っている人はいるだろう。自分の使い方にあったものを探して選んでいる人はいる。すでに使い慣れた人は、今まで通りで何の不自由もないだろう。

 しかし、スマホ新法による「チョイススクリーン」はどんなユーザーに対しても表示される。これがスマホ初心者や、ブラウザや検索エンジンに選択肢があるということを知らない人にも強制的に選ばせるというのはどうなのか。

 ショップでは「どれを選んだらいいのか」という問い合わせも増えるだろう。そうした、お金にならない対応で疲弊するショップ店員さんが増えるとなると不憫でならない。

 ブラウザにおいては、アップルとグーグルがユーザーを守るために、常日頃からアップデートを行っている。とりあえず、SafariかChromeを使っていれば、他のブラウザに比べても比較的安心といえるのではないだろうか。

 KDDIはチョイススクリーンの開始を控え「重要なお知らせ:ご利用中のスマートフォンへの『ブラウザ』と『検索エンジン』の選択必須化のご案内」という告知を始めた。

 そこではAndroidでの選択画面が出ており、ChromeとGoogle検索以外はぼかした表示となっている。注意書きには推奨ブラウザはChrome、推奨検索はGoogleだとハッキリと記載しているのだ。

 KDDIとしてはグーグルからの圧力があるのかもしれないが「グーグル以外は選ばなくて良い」とでも言ってる感がある。

スマホ新法で得をするのは”グーグル”か?

 そもそもスマホ新法は、アップルやグーグルというスマートフォン向けOSやアプリストアを提供する2社による影響力が強すぎるため、競争環境を促すために導入されるのが目的だ。

 ただ、結局のところ、スマホ新法によって大きな利益を得るのは規制されるはずのグーグルなのではないか。

 iPhoneに「チョイススクリーン」の画面が出るようになると、当然、いままで通りのSafariだけでなく、Chromeという選択肢も出てくる。

 グーグルとしては、このタイミングでiPhoneユーザーにSafariからChromeへの乗り換えてもらいたいはずだ。

 ここ最近、テレビやTVerでやたらとグーグルのCMを見かけるようになった。Pixelだけでなく、ChromeやGeminiのCMが大量に流れているのだ。

 ChromeやGeminiのCMでは最後に「App Storeからダウンロード」というアイコンが表示されている。ChromeやGeminiアプリはAndroidには標準搭載されている。ChromeやGeminiのテレビCMは、iPhoneユーザーをターゲットにしており、iPhoneのApp Storeからダウンロードを促しているのだ。

 グーグルからアップルに対して、毎年、2~3兆円が支払われていると言われている。Safariの検索エンジンにおいて、グーグルが使われることで、グーグルにとっては多額の広告収入がもたらされる。

 その見返りとして、グーグルはアップルに対して、広告収入のおよそ3分の1、2~3兆円を支払っているというのだ。グーグルにとってみれば、iPhoneユーザーがSafariを使うことで、アップルに対して、広告収入の一部を支払わないといけなくなる。

 もし、iPhoneユーザーがChromeを使い、グーグルで検索してくれれば、そうしたアップルに対して支払いは減っていくことになる。グーグルとしてはiPhoneユーザーへの接点をアップルから奪うという意味において「チョイススクリーン」は絶好のタイミングというわけだ。

 Chromeの認知度を上げるという点においても、テレビCMは絶大な効果がある。今後、ひょっとすると、グーグルはキャリアショップに対して「チョイススクリーンでChromeやグーグル検索を選択したら奨励金」といった販促をしてくることもあり得るだろう。

 公平競争の観点から導入されるスマホ新法だが、結局は、既存の大手が美味しいところを持っていく可能性がありそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。