インタビュー
au「G’zOne TYPE-XX」元祖タフネスケータイ、9年ぶり復活への長く険しい道のりを聞いた
2021年12月10日 00:00
KDDIと沖縄セルラーは、カシオの「G’zOne」シリーズの20周年を記念し、auブランドの新製品としてカシオの「G’zOne」チームが商品デザインを担当した4G LTEケータイ「G’zOne TYPE-XX」を12月10日に発売した。価格は5万2800円。
「G’zOne」シリーズを展開していたカシオは、2013年に携帯電話市場から撤退しており、今回の「G’zOne TYPE-XX」は京セラが製造を受け持つことになった。
一方、京セラはKDDIから発売されているタフネススマホ「TORQUE」シリーズを製造しており、同じタフネスを打ち出す「G’zOne」シリーズはいわばライバル関係となる立ち位置だ。
今回は、KDDIパーソナル企画統括本部プロダクト企画部マネージャーの近藤 隆行氏から、企画の発端から発表までの裏話を聞いた。
復活までの長い道のり
近藤氏は、「G’zOne」シリーズに長年携わっており、弊誌でも2006年の取材記事(E03CAインタビュー)で話を聞いている。
近藤氏は、「G’zOne」シリーズが20周年を迎えるにあたり、何かしたいという思いで企画立案に至ったとのこと。
――今回の「G’zOne」復活の経緯を教えてください
近藤氏
20周年を迎えるにあたり、そこに向けて準備したいという部分はありましたが、定期的にお客様からのアンケートやグループインタビューを継続的に実施するなど「商品企画としてベーシックな仕事」をしていく中で、「フィーチャーフォンを支持するお客様」の声が多く聞かれました。
もちろん、スマートフォンシフトという世の中の流れ、時代の流れはありますが、別にフィーチャーフォンが悪いわけではなく、むしろフィーチャーフォンにも良い部分がある、フィーチャーフォンが良いとおっしゃるお客様もいらっしゃいました。
そこで、フィーチャーフォンユーザーの方の声を拾っていくと、「リテラシーが低いためにスマートフォンをお使いにならない」のではなく、ライフスタイル、ワークスタイルで意図的にお持ちいただいている方が多いということがわかりました。たとえば、お仕事で、フィーチャーフォンとノートパソコンを併用されている方などがそうですね。
そういった方々から聞いた衝撃的な言葉が「キャリアさんは、フィーチャーフォンをないがしろにしてるんじゃないか」というものでした。
フィーチャーフォン全盛期の端末は、縦に開くだけでなく、横に開いたりスライドしたり、画面が回転するといったさまざまなギミックを提供してきたのに、最近はシンプルな折りたたみの端末しか提供できていません。
我々としても、最大公約数を狙うとベーシックな構造のものを目指すところがあったので、お客様からの指摘について「効率化に走りすぎていたところがあったのかな……」と思い、あらためてフィーチャーフォンユーザーの声もしっかり聞こうとなり、このプロジェクト、「G’zOne TYPE-XX」が誕生した経緯ですね。
――数あるフィーチャーフォンのなかで、今回「G’zOne」のコンセプトとなったのはなぜでしょうか?
近藤氏
フィーチャーフォンユーザーの方にあらためて現在のラインアップについて伺うと、よくある折りたたみ式のモデルをお持ちの方にはそこまで不満の声が聞かれませんでした。カメラ性能などはスマートフォンに行き先があることが影響しているのかもしれません。
ほかにも、デザインモデルなどさまざまな切り口でグルーピングして調査しましたが、そこまで傾向に大きな変化はありませんでした。
ところが、「G’zOne」シリーズユーザーのグループだけは不満が突出していました。そこで、次に購入したい端末の特徴をヒアリングしていくと、「耐久性が高いもの」ももちろん高かったんですが、その中でスコアを伸ばしたのが「同一メーカー同一ブランドの後継機種がほしい」という回答が突出していました。
2017年~18年あたりの調査で、(カシオが携帯電話事業を)撤退して5年ほど経っているにもかかわらず後継機種がほしいと強く要望されていることがわかりました。
――タフネス端末といえば、京セラのTORQUEシリーズがありますが、受け皿にならなかったのでしょうか?
近藤氏
私自身もTORQUEシリーズに関わっており、「タフネス」カテゴリーを継続できるよう社内にも働きかけました。その中で、かなりの「G’zOne」ユーザーの方がTORQUEシリーズに来ていただいており、そういう意味では後継機種として位置づけられているのではないかと思います。
ただ、すべてのお客様に移っていただけなかったというのも事実で、最後の「G’zOne」端末の登場から年数が経過しているにもかかわらず、移っていただけないのには何か理由があるのではないかと、ジレンマもありました。
海水対応などスペックもどんどん上がってきたけども、移っていただけない理由は何だろう? と、お客様にさらに調査を行うと、本当にカシオが好きな方がいらっしゃることがわかりました。やっぱり(3Gが停波する)最後まで使いたいという方が多くいらっしゃる。中には同じ機種をもう一台ストックされている方もいらっしゃいました。
法林氏
私の知ってる方にも、「G’zOne」端末を愛用していらっしゃる方がいますね。サービス業の方ですが、室内と屋外を行ったり来たりすることが多いそうで、仕事柄、外に立つときもたとえ雨や風、雪の日でもコートなどの上着を着られないので、雨に濡れたり、動き回ることが多いと。
なので、土砂降りの時でも使える「G’zOne」でないとだめなんですとお話されていました。特に雨の中だと、タッチパネルの動作がよくないので、物理キーがほしいという声を聞きました。
近藤氏
弊社社員の兄弟の方にも、同様に物理キーがほしいと感じられている方がいらっしゃいました。
農家の方でしたが、土仕事をするからタッチパネルのレスポンスに難があるということでした。道具として使いこなすからこそ、物理キーがほしいという声や、確実なレスポンスを求めていることがわかりました。
今回の「G’zOne TYPE-XX」開発について、社内からもさまざまな声がありましたが、このように話を伺っていくうちにユーザーに受け入れられていると実感できる部分があり、ユーザーの声なども参考にし「ビジネスになる」と話を進めてきました。
最初は限られたメンバーで
「G’zOne TYPE-XX」開発の前段階で近藤氏は、社内で正式に企画が立ち上がる前にカシオの担当者と接触していたという。
――カシオや京セラに企画を持って行くことになると思いますが、反対などはなかったのでしょうか。
近藤氏
社内よりも先に、カシオさんの門を叩きにいきました。
――え、先にですか。
近藤氏
はい、そうなんです。
というのも、カシオさんとは別の企画でいっしょに取り組んでいただいていて、その話のなかで「G’zOne TYPE-XX」の企画の話を雑談程度にお話しました。ぼんやりと考えていた企画で「たとえばデザインだけやってもらうことはできるんでしょうか」と相談してみたところが企画の第一歩でした。
カシオの井戸さん(井戸 透記氏、『G’zOne』シリーズのデザインを手がけた)には、私自身、井戸さんのデザインに惚れ込んでいたところがあったり、個人的にお付き合いがあったりしたので、「携帯電話を今デザインしてみるってどうですか?」とお話ししました。
――井戸氏の反応はどうでしたか?
近藤氏
最初はやはり冗談だと思われてた印象でした。
「G’zOne」シリーズが(2020年で)20周年を迎えることは決まっていたので、コンセプトデザインを作成して「今『G’zOne』が出たらこんな感じなのかもね」という感じで、モックアップだけ作ろうかというぼんやりとした構想でお話しして。
それから、コンセプトまでやってみましょうという話になりました。デザインの過程は気になっていましたが、カシオのデザインチームの方々は「自分たちが納得するまで絶対に見せられません。中途半端なものは見せられません」という感じでした。ただ、これはいつものパターンでしたが、やっぱりプロ集団だなぁと思いながら完成を待ちました。
実際に最終のデザインを見せてもらうと、やっぱり「かっこいい、カシオにしかできないデザインだ」と惚れ込んでしまいまして、「ちゃんと動くようにしたい、コンセプトだけで終わらせたくない」と思ってしまいました。
法林氏
私個人としては、コンセプトデザインのまま出してもよかったんじゃないかと思うくらいの出来でした。メタルっぽいデザインが良いですね。
近藤氏
コンセプトデザインの金属感のある質感もかっこいいですよね。
カシオさんは形状だけではなく、色の組み合わせや質感も常に新しい提案をしてくれる会社さんだなと思います。
法林氏
機能もそうですが、タフだけどかっこいいデザインというのが支持されている要素の一つだと思います。
近藤氏
あるユーザーさんが「背中(背面)がセクシー」とおっしゃっていて、いい表現をされるなと。当時の携帯電話は表面が注目されがちでした。
「G’zOne TYPE-XX」では、コンセプトデザインの金属感のある質感もかっこいいですよね。カシオさんは形状だけではなく、色の組み合わせや質感も常に新しい提案をしてくれる会社さんだなと思います。
――モックアップができてから、交渉のしやすさは変わりましたか?
近藤氏
モックアップがあることで、社内のさまざまな方からアドバイスをいただいたり、共感いただける人が増えていきました。
――モックアップができて、社内での理解者が増えてきたということですが、今回製造を担当する京セラとの交渉はどうでしたか?
近藤氏
そこもまた、大切な部分なんです。
京セラさんも「うちもタフネス端末作ってるから良いですよ」と二つ返事にはなりませんでした。
それはそうですよね。京セラさんはTORQUEというブランドを展開されています。当然、TORQUEシリーズを手掛けてきたデザイナーさんがいらっしゃいます。今回の企画にあたり、すんなり受け入れられないことは最初からわかっていました。
本当のことをお話すると、京セラさんの中でも、最初から今回の企画に賛成してくれた方や、開発製造部門のメンバーの中には「ぜひうちで作りたい」と好感触の方もいらっしゃいました。
なので、開発に関しては割と早いタイミングで取り組めましたが、ビジネスのお話やブランド、デザインの話では交渉が難航しました。京セラさんには「TORQUE」というタフネス端末のブランドがあるわけですから、当然の流れですよね。
ブランディングひとつとっても議論を重ねました。
京セラさんの担当者も「TORQUE」ブランドを誇りに思っていらっしゃる、愛着を持たれています。最終的には「G'zOne TYPE-XX」となりましたが、議論のなかでは、「TORQUE」の名前を添えるかなど、さまざまな案が出ました。
ただ、やはり「G’zOne」という1つのブランドのほうがしっくりくると思い、時間をかけてお話させていただきました。
新製品ではなく「シリーズの復活」をメインに
――新製品というよりは「『G’zOne』シリーズ復活」ということを意識されたのでしょうか。
近藤氏
「TORQUE」シリーズは、「G'zOne」が大好きな私自身が導入し企画も担当している端末です。ですので、「G'zOne」シリーズを愛用いただいている皆様にも、いつかは「TORQUE」シリーズを使ってもらいたいというのが正直な思いです。
今回の「G’zOne TYPE-XX」は、カシオさんのデザインで、中身(製造)は京セラさん、言ってしまえば「中身はTORQUE」という言い方もできると思います。これをきっかけに、「京セラさんすごいね」や「TORQUEシリーズもすごいね」と思っていただけるとうれしいです。
まだ、TORQUEシリーズを触ったことのない方にこそ、手に取っていただいて「タフネス=カシオ」からTORQUEシリーズを加えていただきたいと思います。
長くサポートできる端末に
端末に欠かせないのがOS(オペレーティングシステム)とチップセットだ。スマートフォンの場合、スペックと価格に応じた多彩なラインアップが用意されているが、フィーチャーフォンの場合はチップセットが限られてくる。また、OSがサポートするチップセットも限られてくることから、OSとチップセットの組み合わせが今後のサポート継続に重要になってくると近藤氏は話す。
――今回の「G’zOne TYPE-XX」では、チップセットの選定にも苦労されたと伺いました。
近藤氏
フィーチャーフォン向けで弊社が採用しているOSには、当然ながらサポート期間が定められています。継続的に新機種を投入していくためには、OSの世代交代が必要になるため、それにあわせてチップセットの選定を行うのですが、フィーチャーフォンに適したチップセットが今なかなか見つからないという問題がありました。
フィーチャーフォンの特長である低消費電力と、一定期間安定的に供給されるものなど、最適なチップセットを選定する必要がありました。
法林氏
実はチップセット側にも「どのOSのどこまでのバージョンまでサポートします」というのがありますよね。なので、最新OSはこれだから、最新のチップセットを載せましょう、という簡単な話ではないと。
近藤氏
そうです。
どちらかが製造途中や製造後すぐにその組み合わせでのサポートを終了してしまうと、このパッケージが成り立たなくなってしまいます。
長期のプラットフォームとして成立させるには、OSとチップセットの組み合わせの選定がすごく悩ましいです。
――「G’zOne TYPE-XX」のようなフィーチャーフォンの場合、ユーザーが安心して長く使える要素はどのようなものがありますか?
近藤氏
OSとチップセットが古い組み合わせのままだと、セキュリティパッチの提供もなくなります。今回の「G’zOne TYPE-XX」に採用した組み合わせは、考え得る限り一番長くサポートが受けられる組み合わせを選定したので、長い期間安心して利用いただけます。
法林氏
メッセージアプリ「+メッセージ」が対応しているのも大きなポイントです。フィーチャーフォンではSNSサービスが使いづらいものが多いと思いますが、「+メッセージ」はスマートフォンのユーザーともやりとりがしやすい。
近藤氏
「+メッセージ」にも対応していますので、ご安心ください。
――ユーザーインターフェイス(UI)やアクセサリーにもこだわりが感じられますね。
近藤氏
画面のデザインなどもカシオのデザイナーさんに手がけていただいています。実は、画面デザインに私も一部関わらせていただいた部分があり、特に思い入れが強い端末になりました。
アクセサリーに関しても、フィーチャーフォンの形状やタフネス性能であることなどを踏まえ、卓上ホルダーやカラビナなど多彩なラインアップを取りそろえました。
細かい部分にもこだわっていて、すべてのパーツに「G’zOne」のロゴがしっかり入るようにデザインしました。
――本日は、どうもありがとうございました。