石野純也の「スマホとお金」

「Galaxy S25」が月額3円で実質2万2036円――ソフトバンクが破格の割引を実現できたワケ

 サムスン電子が1月23日に発表した「Galaxy S25」シリーズは、Galaxy AIを強化したのが特徴。国内では、ソフトバンクが約10年ぶりに取り扱いを“再開”する形になったことも、大きな話題を集めました。単に販売を始めるだけでなく、その価格設定もインパクトがあるものだったと言えるでしょう。同シリーズの標準モデルであるGalaxy S25は、Snapdragon 8 Eliteを搭載するハイエンドモデルにも関わらず、月額3円で販売されるからです。

手のひらサイズで持ちやすいが、処理能力はまさにハイエンド。この端末が1年実質2万2036円になるのは、破格と言っていいだろう

 もちろん、ここには「新トクするサポート(プレミアム)」利用時というカラクリもあり、月額3円はあくまで1年目の話。ただ、それでも「早トクオプション」を払って1年で下取りに出せば、実質価格はわずか2万2036円で済んでしまいます。一方で、24年12月のガイドライン改正で残価を盛りすぎるのは難しくなっています。ソフトバンクはなぜこのような価格設定が可能だったのでしょうか。その謎をひも解いていきます。

ガイドライン改正でリセールバリューが鍵に

 24年12月のガイドライン改正によって、キャリア各社が用意している端末購入プログラムの残価設定に厳しい規制がかかったことは、以前、本連載でも紹介しました。中古携帯買取店の業界団体であるリユースモバイル・ジャパンが出す、平均値を参照しなければならなくなったからです。結果として、ガイドライン改正以降、残価の額が減少する端末が多くなり、各社とも一部機種の値上げを余儀なくされています。

Xiaomi 14T Proの価格。ガイドライン改正前は、月額3円だった

 特に、Androidスマホは値上がり幅が大きな端末が目立っていました。これは、リセールバリューがキャリアの想定ほど、高くなかったことが主な要因です。では、ソフトバンクは“行政指導上等”でガイドラインをぶっちぎってGalaxy S25の残価を盛りまくっているのかというと、そうではないようです。サムスン電子のイベントで取材した同社の寺尾洋幸専務執行役員も、「コンプライアンスは遵守しています」と語っていました。当たり前の話ではありますが(笑)。

コンプライアンスは守っていると語った寺尾氏

 では、なぜGalaxy S25の価格がここまで安いのでしょうか。その答えは、同シリーズのリセールバリューの高さにありそうです。Galaxyシリーズは、グローバルに展開しているスマホ。FeliCa対応や周波数対応など、日本向けのカスタマイズが加わっている点があるとは言え、流通台数が多く需要も高いため、いざとなれば海外に売ることができます。この点は、リセールバリューを底上げしていると言えるでしょう。

 実際、RMJの公開している2年前の「Galaxy S23」を見ても、それがうかがえます。RMJの公開している買い取り価格リストによると、同モデルの12カ月目の平均買取価格は6万3430円。同モデルにオープンマーケット版(SIMフリー版)はなく、ドコモ版が13万6620円、au版が13万6330円で販売されていました。1年で、およそ46%程度の残価率になることが分かります。

 同年に発売されたiPhoneは、「iPhone 14(128GB版)」の128GBが1年後に6万9060円の買い取り価格をつけています。同機の発売時におけるアップルストアの価格は11万9800円。残価率は57%となります。一方で、ソニーの「Xperia 1 IV(256GB版)」は、1年後の買い取り価格が6万3997円。同機は3キャリアとも、19万円強の価格で販売されており、ザックリまとめると残価率は33%近くまで下がっています。iPhoneほどではないにせよ、国内市場が中心のXperiaより、残価率が高く設定できることが分かります。

残価率はiPhoneに次ぐ高さ。リセールバリューが高く、端末購入プログラムで残債を免除しやすいことが分かる

残価に加え、4万4000円を値引き

 とは言え、残価率46%では、さすがに10万円以上を免除することは不可能。ソフトバンクのGalaxy S25は、本体価格が12万9888円となり、この残価率をそのまま当てはめると、5万9748円までが残価として認められる計算になります。分かりやすくするため数字を丸めると、ザックリ6万円が残価として計上していい数値。これを本体価格から引くと6万9888円、こちらも概算で約7万円になります。

Galaxy S25の実質価格は2万2036円。免除される支払額は10万円を上回る

 これでは、実質価格を2万2036円にすることはできません。ただし、残価は超えたら即アウトというわけではなく、キャリアには4万4000円までの割引も認められています。買い取り時の価格が残価を超えている場合、ガイドラインではそのぶんが割引と見なされる形。単純化すると、残価+4万4000円までが端末購入プログラムで免除できる上限金額になります。

 この割引ぶんを足すと、最大で設定できる残価は約10万4000円。本体価格である約13万円からこれを引くと、実質価格は2万6000円程度まで下げられることが分かります。先に挙げたように、ソフトバンクの提示している実質価格は2万2036円のため、これでも4000円程度オーバーしているように見えますが、実際の残価率は48カ月目までを算出し、その線形近似で求めるため、単独で計算するのとは数%の誤差が出ることはあります。

残価を超えたぶんは割引になるが、これが4万4000円まで許容されている。実質価格を下げるため、新トクするサポート(プレミアム)に割引も含めているようだ

 現時点では、Galaxy S25の買取等予想価格が公表されていないため、何とも言えないところはありますが、おそらくソフトバンクは50%弱の残価率を設定しているはず。これであれば、割引上限の4万4000円をフル適用することで、実質価格2万2036円を実現できます。とは言え、ソフトバンクは新規契約、MNP、機種変更問わずにこの価格でGalaxy S25を提供する予定。これは言い換えるなら、既存のユーザーにも4万4000円近い割引を提供することになります。

 端末によっては、新規契約やMNPの時のみ、実質価格が下がるよう設定されているケースもあるため、これはなかなかの大盤振る舞い。約10年ぶりの販売となるGalaxyに、力を入れていることがうかがえます。先の寺尾氏は販売やプロモーションに全力を出すと語っていましたが、価格設定にもその意気込みが見え隠れします。

機種変更でも実質価格は同じ

Galaxy S25 Ultraにはミリ波割引も活用か、抑えた実質価格

 月3円というインパクトの大きな価格設定が注目を集めがちなGalaxy S25ですが、最上位モデルのGalaxy S25 Ultraも、このクラスの端末としてはかなり割安に設定されています。こちら(256GB版)は、1年目の支払額が1980円。早トクオプションが2万5300円のため、1年で下取りに出した際の実質価格は4万9060円まで下がります。フィーチャーフォン時代に、最新モデルを1年程度で買い替えたときのような価格設定と言えるでしょう。

実質価格は、最上位モデルのGalaxy S25 Ultraも安い

 端末価格は21万5568円に設定されているため、端末を下取りに出すことで16万6508円もの残価が免除されることになります。2年前に発売された「Galaxy S23 Ultra」は、256GBの買い取り価格が1年後に8万7359円まで下がっています。発売時の価格は、ドコモ版が19万7670円、au版が19万7650円。ザックリ丸めると、19万8000円程度と言えます。そのため、残価率は44%です。

 同モデルは13カ月目に買い取り価格が9万4215円に上がっており、こちらの数値を採用するとすれば、残価率は四捨五入で48%まで上がります。こちらの残価率を当てはめると、10万3472円まで残価として免除することが可能になります。一方で、上記のようにソフトバンクが免除している残債は16万6508円。割引上限である4万4000円を含めても、14万7472円までしか免除できない計算になります。概算でも、約1万9000円近く割引できる金額をオーバーしています。

下取りで免除される支払額は16万円以上。割引を加味しても、免除される金額が大きい

 ただし、Galaxy S25 Ultraはミリ波に対応しており、この点がGalaxy S25との差分にもなっています。端末割引の観点では、昨年のガイドライン改正によって、ミリ波割引を積み増せることになりました。その最大額は、1万6500円。残価率が概算のため、これでも2500円程度、足が出ていることは確かですが、買い取り価格の予想値によってはクリアできる可能性が高そうです。

同モデルはミリ波対応で、側面にはそのアンテナを備える。これによって、特例で割引を積み増せるようになった

 このように見ていくと、ソフトバンクは始まったばかりのミリ波割引まで使い、Galaxy S25 Ultraをリーズナブルな価格設定にしていることが分かります。月額3円というインパクトを打ち出したGalaxy S25よりは少々分かりづらいものの、こちらも精いっぱい頑張った価格設定をしていると言っていいでしょう。とは言え、約10年ぶりのGalaxy。再び後継機が途絶えてしまえば、機種変更もしづらくなります。ソフトバンクには継続的な提供を期待したいところです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya