法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
熟成のiPhone 13シリーズはどれを選ぶか? 待ちか? それとも?
2021年10月20日 06:00
昨年はコロナ禍の影響もあり、発売が10月と11月に分かれたiPhoneだが、今年のiPhone 13シリーズは例年通り、9月に発表され、販売も開始された。画面サイズやカメラなどの仕様の違いにより、4機種がラインアップされている。
毎年のことながら、ユーザーとしてはどの機種を買えばいいのか、いつ買い換えるのがいいのかなど、悩ましいところだ。本誌ではすでに速報記事や白根雅彦氏の連載「iPhone駆込み寺」などでも詳細な情報が伝えられているが、今回は筆者から見たインプレッションをお送りしよう。
iPhone 13シリーズは例年通りのスケジュールで登場
国内ではひとまず緊急事態宣言が解除され、海外でも国と地域によっては徐々にロックダウンから平常に移行しつつあることが伝えられているが、この1年半ほどで、グローバルにビジネスを展開する企業の製品発表のイベントはほとんどオンラインに移行した。
オンラインでの発表イベントは、発表会を開催する現地まで出向かなくても済むという時間的なメリットがある半面、現地ですぐに実機を試せなかったり、詳しい情報が得られないなどの制約がある。ユーザーとしてはあまり影響がないという見方もあるが、伝えられる情報量が不十分だったり、偏っていたりして、以前に比べ、「買いかどうかが判断しにくくなった」という声も聞かれる。もちろん、そこには電気通信事業法改正によって、端末購入補助が抑制され、ユーザーが最新機種を買いにくくなったこと、あるいはユーザーが同一端末を継続利用する期間が延びていることなど、他の要因も関係しているようだが、市場全体の空気感としては新機種が発表されたものの、「さて、どうするかな」といったひと呼吸おくというか、迷いや躊躇をうかがわせる反応が多いように見受けられる。
そんな中、アップルは9月14日(日本時間9月15日)にiPhone 13シリーズ4機種を発表し、国内市場では9月24日から販売を開始した。
昨年はコロナ禍の影響で、iPhone 12シリーズの発表が10月にずれ込み、発売も10月と11月に分かれる形となったが、今年は例年通りのスケジュールで発表され、販売が開始されている。
ちなみに、iPhone 13シリーズを取り扱う携帯電話会社としては、既存のNTTドコモ、au、ソフトバンクに加え、今年4月からiPhoneの取り扱いを開始している楽天モバイルも販売する。詳しくは後述するが、楽天モバイルは取り扱い4社の中で、唯一、アップルと同額で端末を販売しており、iPhone商戦に並々ならぬ意気込みを感じさせる。
再び4機種をラインアップ
今回発表されたiPhone 13シリーズは昨年のiPhone 12シリーズに引き続き、「iPhone 13」「iPhone 13 mini」「iPhone 13 Pro」と「iPhone 13 Pro Max」の4機種展開になる。今年はじめには昨年のiPhone 12iPhone 12 miniが期待されたほど売れていないため、「次期iPhoneではminiがなくなる」といった報道もあったが、しっかりと4機種がラインアップされた。
4機種を仕様で区分すると、「iPhone 13」「iPhone 13 mini」がスタンダードモデル、「iPhone 13 Pro」と「iPhone 13 Pro Max」がProモデルに位置付けられる。この区分はiPhone 12シリーズに続くものだが、それ以前にiPad及びiPad Proシリーズでも採用されていた。ただし、iPhoneの場合、iPadほど、明確に区分されているという印象はなく、チップセットや対応周波数など、基本仕様は4機種とも共通となっている。今回のiPhone 13シリーズでは本体の仕上げやカメラなどでスタンダードモデルとProモデルの差が付けられており、ユーザーとしては価格面を含め、それぞれの違いを見極めたうえで、選びたいところだ。
スタンダードモデルの2機種は、幅広いユーザーが利用することを意識したモデルで、インターネットからSNS、メール、エンターテインメント、ゲームなど、さまざまな用途に使うことができる。
アルミフレームを採用し、重量は従来モデルよりも10g前後、増えたものの、173gと140gという標準的なサイズにまとめられている。
ストレージは従来モデルから倍増され、128/256/512GBの3種類がラインアップされる。カメラはiPhone 12シリーズと同じように、広角と超広角の2眼構成だが、センサーサイズが大型化したため、レイアウトが変更され、2つのレンズが対角にレイアウトされている。
一方、「Pro」の名を冠した2機種は、スタンダードモデルをベースにしながら、撮影した写真や動画を端末内で編集したり、AppleProRAWによる写真、ProResによるビデオなど、よりプロフェッショナルかつクリエイティブなユーザーが活用できることを意識したモデルだ。
本体はiPhone 12シリーズに引き続き、ステンレスフレームを採用し、重量は両機種共に10g以上増で、200g超えのヘビー級となっている。
ストレージは128/256/512GB/1TBの4種類となったが、1TBはAppleProRAWやProResによる撮影で、写真や動画データがかなり増えることを考慮しての判断だろう。カメラは広角、超広角、望遠の3眼構成で、カメラ部の外観はiPhone 12シリーズと同じように見えるが、イメージセンサーが大型化されたため、レンズ部分のリングが大きくなり、一段と目立つ構造となっている。
ちなみに、昨年のiPhone 12 ProとiPhone 12 Pro Maxはカメラの仕様が違い、より高性能を求めるにはiPhone 12 Pro Maxを選ぶ必要があったが、今回はiPhone 13 ProとiPhone 13 Pro Maxのカメラは共通のため、基本的にどちらを選んでもカメラ性能は変わらない。
昨年のiPhone 12シリーズのレビューでも触れたが、こうしたプロユースを目指したスマートフォンのカメラの進化はソニーの「Xperia 1 III」などでも見られ、本格的なプロ向けモデルとして、「Xperia Pro」もリリースされている。
その一方で、昨今、スポーツ中継などで、スマートフォンで撮影されたと思われる映像が流されるなど、プロユースの世界も機材が変わりつつあるとされる。アップルとしてはクリエイティブなプロフェッショナルユーザーにも使ってもらいたいという考えから、Proシリーズのカメラを進化させているようだが、カメラだけでプロユースが成立するわけではなく、当然、映像を編集する環境なども必要とされる。iPhoneはチップセットの高い処理能力とソフトウェアの力で、端末内での編集もしやすいが、より優れた編集環境にはiPad ProやMacなども充実させていく必要がある。
その意味から考えると、一般的な用途のユーザーに、どこまでProモデルの性能が必要なのかは、やや疑問が残るが、昨年のiPhone 12シリーズ同様、iPhone 13シリーズ4機種のチップセットなどが共通仕様であることを鑑みると、かつてのように「絶対にiPhoneの最上位機種を買う!」とまで意気込む必要はなさそうだ。自分の予算、利用する期間、求める機能などを考慮して、じっくりと選ぶ方が賢明だろう。
iPhone 13シリーズの共通仕様をチェック
iPhone 13シリーズの各機種を説明する前に、4機種共通の基本仕様について、チェックしてみよう。
iPhone 13シリーズの4機種は、ディスプレイサイズが違うため、ボディサイズはそれぞれに異なるが、基本的なデザインは共通化されている。昨年のiPhone 12シリーズを受け継いだボディデザインは、側面をフラットに仕上げ、かつてのiPhone 4sなどを彷彿させるような形状となっている。
ただし、スタンダードモデルとProモデルでは側面の金属部と背面のガラスの仕上げが違い、「iPhone 13」と「iPhone 13 mini」は側面の金属をマット仕上げ、背面ガラスを光沢仕上げにしているのに対し、「iPhone 13 Pro」と「iPhone 13 Pro Max」は側面の金属部分を光沢仕上げ、背面ガラスをマット仕上げとしている。こうした対称的なデザインはiPhone 12シリーズから継続しているものだが、「iPhone 13 Pro」と「iPhone 13 Pro Max」の側面の光沢感のある仕上げは高級感がある一方、カバーなしで持ち歩いたときの指や手の跡が目立つことに加え、落下時などのキズにも不安が残るため、やや好みが分かれるところかもしれない。
ちなみに、今回のiPhone 13シリーズは昨年のiPhone 12シリーズのデザインをほぼそのまま継承しており、仕様では本体の厚みがわずか0.25mm増えただけのように見えるが、本体側面に備えられた電源ボタンや音量キーなどのレイアウトは微妙に変更されており、ケース類は従来のiPhone 12シリーズのものを流用できない。
本体の厚みについて、少し補足しておくと、仕様では4機種とも7.65mmと表記されている。しかし、この値はカメラ部の突起が考慮されておらず、カメラ部の突起を含めた実寸は「iPhone 13」と「iPhone 13 mini」が約9.8mm、「iPhone 13 Pro」と「iPhone 13 Pro Max」が約10.9mmとなっており、各機種とも従来機種に比べ、厚みが増している。
iPhone 13シリーズをどのように持ち歩くのかは人それぞれだが、ケースなどを購入するときはこうしたカメラ部の突起も十分に考慮した製品を選ぶことをおすすめしたい。
IP68規格準拠の防水防塵、FeliCa搭載のApple Payなどの仕様は従来モデルと共通で、同じように使うことができる。
A15 Bionicチップを搭載
チップセットは4機種共通で、5nmプロセスルールで製造されたA15 Bionicチップを搭載する。プロセスルールはA14 Bionicと共通で、台湾のTSMCによって、製造されていると推察される。
昨年のA14 Bionicでも謳われていたが、今回のA15 Bionicも「世界最速のスマートフォンチップ」を謳い、「ほかのスマートフォンよりも最大50%速いCPU」と、Androidスマートフォンで採用される米Qualcomm製Snapdragon 888などよりも優れた性能を持つことを暗にアピールしている。
ちなみに、4機種とも同じA15 Bionicチップを搭載すると書いたが、実際にはスタンダードモデルとProモデルに搭載されるチップセットには違いがある。CPUは2つの高性能コアと4つの高効率コアによる6コア構成で共通だが、GPUについてはスタンダードモデルが4コア構成であるのに対し、Proモデルは5コア構成とされている。ただ、このGPUの差が実用上、どこまで違いを生むのかは今ひとつ見えてこない。たとえば、iPhone 13シリーズの特長のひとつであるカメラの「シネマティックモード」はいずれの機種でも同じように撮影できる。
さて、今回のiPhone 13シリーズの発表時、おそらく多くのユーザーが不満を持ち、落胆したのは、生体認証だろう。
アップルはiPhone 5sでホームボタンに指紋センサーを内蔵した「Touch ID」を搭載し、現在もiPhone SE(第2世代)やiPadなどに継承しているが、2017年に発売された「iPhone X」以降は、ディスプレイ上部のノッチ部分に内蔵されたカメラやセンサーを利用した「Face ID」を採用している。基本的には画面を見るだけでロックが解除でき、一般的な顔認証と違い、立体的に顔を捉えているため、セキュリティも高く、生体認証として、ユーザーからも広く支持されていた。
しかし、昨今のコロナ禍の環境においては、マスクの装着が前提となるため、Face IDでは画面ロックを解除できない。こうした状況に対し、アップルは昨年の段階で、マスク着用を認識したときはパスワードやパスコードの入力画面をすぐに表示するようにしたり、今年4月に公開されたiOS 14.5ではApple Watch着用時にマスク着用のまま、画面ロックを解除できるようにするなどの対策を提案してきた。実際に、筆者の周りにもマスク着用時の画面ロック解除に不満を感じ、Apple Watchを使いはじめた人が居たが、当人は「画面ロック解除のために、何万円もの時計を買うのはちょっと納得がいかない」とぼやいていた。
こうしたマスク着用時のFace IDの使いにくさは、昨年のiPhone 12シリーズの記事でも指摘し、この1年間、多くのユーザーが同様の声が挙げていたが、残念ながら、iPhone 13シリーズにおいても解決策は提示されなかった。
iPhone 12シリーズはコロナ禍から間もない時期だったため、生産工程などを考えてもしかたない部分があったが、コロナ禍から少なくとも1年半以上、経過して出荷される製品で、ユーザーの期待に応えられなかったのは、かなり残念と言わざるを得ない。
iPhone X以降、ホームボタンを配した現在のiPhoneでTouch IDを実現するには、iPad Air(第四世代)や同時発表されたiPad mini(第六世代)のような電源ボタンに指紋センサーを内蔵するか、新たに画面内指紋認証を採用するしかない。ところが、アップルは電源ボタン周りの構造を変更したり、ディスプレイ内の構造を変更して画面内指紋センサーを搭載したりするといった構造面の設計変更に消極的な印象だ。
指紋センサーを利用した生体認証は、すでに2万円台の端末でも当たり前になりつつあり、上位モデルでは電源ボタン内蔵の指紋センサーのレスポンスを向上させたり、画面内指紋センサーを大型化して、二本指を使って、よりセキュアに認証できるようにするなど、大きく進化を遂げている。こうした状況を鑑みると、iPhone 13シリーズで生体認証の改良が見送られたことは、かなり出遅れてしまった感は否めない。あまりこういう言い方はしたくないが、カメラに新機能を搭載することより、昨今の社会状況を鑑みて、ユーザビリティを向上させることの方が優先順位が高いのではないだろうか。来年こそは生体認証の部分について、ユーザーの利用環境に寄り添った進化を期待したい。
5Gに対応したiPhone 13シリーズ
次に、ネットワークへの対応についてだが、iPhone 13シリーズはiPhone 12シリーズに続き、国内各社の5Gネットワークに対応している。アップルの5G対応の経緯については、昨年のiPhone 12シリーズの解説でも触れたので、詳しくは割愛するが、インテルのモデム事業を買収し、自らハードウェアやソフトウェア、アンテナなどを設計し、もっとも多くのバンドに対応したスマートフォンとして、国内外にiPhone 12シリーズを展開してきた。今回のiPhone 13シリーズもこれを継承した形となっているが、いくつか対応が異なる点もある。
まず、対応が同じ点については、ミリ波対応が見送られ、米国向けモデルのみが対応する。ミリ波対応については当面、スタジアムなど、限られた場所で使われるのみと考えていたが、今年7月にauが発表した「鉄道路線5G化」の方針などを見ると、Sub-6の周波数帯域に加え、駅のホームなどではミリ波によるエリア化をすることで、Wi-Fiスポットの代わりのような使い方を狙っているようで、今後、都市部を中心に利用できるシーンが拡がるかもしれない。その点を考えると、iPhone 13シリーズでも国内向けのミリ波対応が見送られたのは、やや残念な印象が残る。
一方、iPhone 12シリーズと異なるのは、昨年からauとソフトバンクが開始した4G向け周波数帯域の5G転用への対応だ。
iPhone 12シリーズ発売時はまだ5G転用がはじまっておらず、後日、アップデートで対応したが、今回のiPhone 13シリーズは出荷時から対応する。5Gのエリア展開については、まだ限定的だが、4G向け周波数帯域の5G転用が進むことで、アンテナピクトに5Gの表示を見ることが増えてきそうだ。
NTTドコモは今のところ、転用にはあまり積極的ではないが、その分、5G向け周波数帯域でのエリア拡充を進めており、こちらも同様に、アンテナピクトで5G表示を見かけることが増えている。
その一方で、「5Gに移行するメリットがあまりなくて……」という否定的な意見も見かける。ただ、iPhoneは元々、製品のライフサイクルが長い傾向があり、4年以上、同じ機種を使い続ける人を見かけることも少なくない。そのことを考慮すると、やや先行投資になるが、5G対応のiPhone 13シリーズに移行するのも手だ。もちろん、iPhone 12シリーズという選択肢もあり、そちらの方がリーズナブルなのだが……(笑)。
セラミックシールドで画面割れは減る?
iPhone 12シリーズの流れを継承したiPhone 13シリーズだが、デザイン以外の外装周りも継承している。
たとえば、ディスプレイにはiPhone 12シリーズで採用された「セラミックシールド」と呼ばれる素材が採用されている。セラミックシールドはナノセラミックの結晶を高温結晶化ステップという製造プロセスを減ることで、従来の強化ガラスよりも高い強度を実現している。これまで街中でiPhoneを使っている人を見かけると、驚くほど、画面が割れている確率が高い印象があったが、iPhone 12シリーズで採用されたセラミックシールドによって、画面割れを減らそうとしているようだ。
今年に入ってから、アップルはキッチンでiPhoneを使いながら料理をするCMを流しており、かなり派手にiPhoneを落としたり、転がしたりしているが、こうした演出はセラミックシールドを含めた端末の堅牢性に自信を深めているのかもしれない。
ただ、多くのユーザーはiPhoneを購入すると、市販の保護ガラスを貼り付けているため、万が一、落下させても保護ガラスが割れて、本体のガラスは割れないということになるのかもしれない。筆者も一度、こうした経験があり、つい最近も知人がiPhone 12 Proを落下させて、貼り付けた保護ガラスのみが割れたケースがあった。いずれにせよ、大事に使うことに越したことはないが、少し堅牢性に期待が持てそうな印象だ。
ところで、市販の保護ガラスの話題が出たところで、もうひとつディスプレイ周りで触れておきたい。それはディスプレイ上部のノッチのデザインだ。今回のiPhone 13シリーズは、従来のiPhone 12シリーズよりもノッチ部分の幅が20%狭くなっている。内部のパーツ類を小型化したり、配置を最適化したようだが、実はこの変更の影響で、iPhone 12シリーズ用の保護ガラスが商品によって、流用できないことがあるそうだ。
これは両機種のノッチ部分を見るとわかるが、iPhone 12シリーズはノッチ中央にレシーバー(受話口)が備えられているのに対し、iPhone 13シリーズはレシーバーがディスプレイの縁の部分にレイアウトされている。そのため、レシーバー部が穴あきのiPhone 12シリーズ用保護ガラスをiPhone 13シリーズに貼ると、レシーバーを塞いでしまう。逆に、ノッチ部分を凹型の切り欠きで仕上げている保護ガラスは、こうした影響を受けない。量販店の店頭ではすでにiPhone 13シリーズ用とiPhone 12シリーズ用を区別して陳列しているが、オンラインショップなどでは混在していることもあるようなので、購入を検討している人は少し注意した方がいいだろう。
iPhone 13シリーズでは小型化したノッチだが、そもそもの話として、このノッチをどう見るのかは意見が分かれるところだろう。
ほかのスマートフォンを見ると、iPhoneのように、大きめの切り欠きを備える機種はほとんどなく、半円型や水滴型の小さなノッチを備えているか、ディスプレイに穴を開けたパンチホール型が主流だ。iPhoneの場合、Face IDのためのデバイスなどが組み込まれているため、そう簡単には小型化ができないが、ボディ周りの美しい仕上がりに比べると、やはり、デザイン的にやや歪な印象もあり、そろそろ見せ方を工夫して欲しいところだ。
フォトグラフスタイルとシネマティックモード
今回のiPhone 13シリーズはスタンダードモデルとProモデルでカメラ構成が異なるが、いずれの機種にも「フォトグラフスタイル」と「シネマティックモード」という2つの新機能が搭載されている。
フォトグラフスタイルは簡単に言ってしまえば、自分好みの色などが設定できるもので、「標準」「リッチなコントラスト」「鮮やか」「暖かい」「冷たい」という5つのスタイルが用意されている。これをベースに、自分でトーンや暖かみを調整して、撮影することができる。こうした撮影のカスタマイズとしてはフィルターなどが用意されているが、フィルターに比べ、あまり全体的に効果が加えられないため、極端なイメージの写真に仕上がる心配がないところだろう。あまりカメラになじみのないユーザーでもスタイルを切り替えて撮影すれば、今までと少し違った雰囲気の撮影が楽しめる。
一方、動画を撮影するときの新しい機能として搭載されたのが「シネマティックモード」だ。発表イベントでも時間を割いて、説明されていたが、簡単に言ってしまえば、動画撮影時にピント送りやフォーカスの切り替えができる機能だ。
よく映画やドラマなどで、シーン全体が大きく動いていないのに、手前に居る人物やモノから、奥に位置する対象物にピントが切り替わるシーンが描かれるが、あれと同じようなシーンが撮影できる。2人の人物を撮影すると、非常にわかりやすいが、1人を撮影するときもポートレートの動画として撮影されるため、メインの人物を強調した印象的な動画を誰でも簡単に撮ることができる。こうしたポートレート動画は他機種でも実現されていた機能だが、被写体がカメラに顔を向けたり、背けたりすることで、フォーカスを切り替えるなど、非常にうまい見せ方によって、効果的に動画を撮影できるようにしている。
「フォトグラフスタイル」と「シネマティックモード」はいずれもAppleらしい取り組みと言えそうだが、課題はユーザーが使う気になってくれるかどうかだろう。「シネマティックモード」は発表イベントの映像が公開され、テレビCMなどでも使われるが、実際に撮ってみると、「こうすれば、効果的かな?」と試行錯誤しながら撮る印象だ。一度、撮ってみると、「次はこうやって……」「こう撮ったら、どうだろう」と興味が沸いてくるのだが、普段、何気なく、撮っているようなライトユーザーがそこに踏み込んでくれるかどうかは未知数だ。
「フォトグラフスタイル」はさらに厳しい印象で、カメラ起動時にはガイドが表示され、「そういうモードがあるのか」と思わせるのだが、実際に使うには[カメラ]アプリを起動し、[写真]モードで上方向にスワイプし、フォトグラフスタイルのアイコンをタップして、はじめてスタイルを選べるようになる。しかもどれがフォトグラフスタイルのアイコンなのかは起動しないとわからないため、ユーザーによっては気が付かないままになってしまうかもしれない。
これらの点はiOSのユーザーインターフェイスそのものの考え方にも関連するため、一概に善し悪しを言えない部分もあるが、せっかくの新機能を搭載し、注目されながらもユーザーが十分に使われないままになりそうな点は、iPhoneに限らず、もう少し各社とも工夫を凝らして欲しいところだ。
iPhone 13シリーズの充電環境
iPhoneは元々、本体下部に備えられた端子と充電器をUSBケーブルで接続し、本体を充電するしくみを採用してきた。2017年発売のiPhone 8/X以降は、これに加え、Qi対応のワイヤレス充電器による充電にも対応している。これらに加え、昨年のiPhone 12シリーズからは新たに「MagSafe」と呼ばれる磁力で本体背面に充電部を吸着させるワイヤレス充電にも対応し、今回のiPhone 13シリーズもこれを継承している。
MagSafeはケーブルを背面に近づけるだけで充電部が吸着する仕様のため、充電中にケーブルが抜けるといったミスも少ないが、ひとつ気になるのは磁力の影響だろう。昨年のiPhone 12シリーズの記事でも磁気を使ったカードやチケットなどへの影響が懸念される旨を書いたが、幸い、この一年間、筆者自身はMagSafeが原因と推察されるような磁気トラブルに遭うことはなかった。一般的に、クレジットカードの磁気テープは比較的、磁力が強く、MagSafeのような弱い磁力であれば、影響されないとされるが、駐車券やチケットなどは磁力が弱いものもあり、影響を受けるリスクは残されている。一応、注意しながら使うことをおすすめしたい。
また、電源に関連する話題では、iPhone 13シリーズもiPhone 12シリーズ同様、パッケージにACアダプターが同梱されていない。すでに充電器を持っているのであればあ、そのまま流用できるが、従来機種を付属品込みで手放すような場合は、新たにACアダプターやワイヤレス充電器などを用意する必要がある。少し古いiPhoneから移行するユーザーは注意が必要だ。
各機種の特徴をチェック
スタンダードモデルとProモデルの2つに区別されるiPhone 13シリーズだが、それぞれの機種の項目別の特徴について、チェックしてみよう。
バランスの良さが魅力「iPhone 13」
もっとも標準的なモデルに位置付けられるのが「iPhone 13」だ。
従来のiPhone 12の後継機種になり、デザインも従来モデルを踏襲しているが、前述のように、背面のカメラやボタン類のレイアウトが微妙に違っており、内部的には新しくなっている。ボディカラーはピンク、ブルー、ミッドナイト、スターライト、PRODUCT REDの5色展開。
ボディのフレームは軽量なアルミニウムを採用し、iPhone 12に比べ、重量は11g増で173gとなっている。厚さはカタログスペック上、0.25mm増だが、カメラ部は従来モデルよりも0.8mm増で9.8mmとなっている。重量やサイズ感はiPhone 12とほとんど変わらないが、カメラのレンズ部がひと回り大きいため、従来モデルよりも目立つ印象だ。
ディスプレイは6.1インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。解像度は2532×1170ドット表示で、True Toneディスプレイや広色域表示、200万対1のコントラスト比などの仕様はiPhone 12と共通だが、標準設定時の最大輝度は625nitから800nitに向上している。ディスプレイ前面には前述のセラミックシールドを採用するほか、ノッチの幅が従来よりも狭くなっている。
ほぼ同じ仕様のディスプレイは後述するiPhone 13 Proにも搭載されているが、実は細かい仕様に違いがあり、実用面でも少し違いを生んでいる。詳細はiPhone 13 Proのところで説明するが、最近のスマートフォンのディスプレイで採用例が多い可変リフレッシュレートに対応していないため、連続使用時間などに違いがある。
具体的には、iPhone 13がビデオ再生で最大19時間、ビデオ再生(ストリーミング)で最大15時間に対し、iPhone 13 Proがビデオ再生で最大22時間、ビデオ再生(ストリーミング)で最大20時間となっている。逆に、ディスプレイ表示がほとんど影響しないオーディオ再生では最大75時間の再生を可能としている。
ちなみに、バッテリー容量は非公開とされているが、海外の分解サイトなどの情報によれば、iPhone 13が3227mAhに対し、iPhone 13 Proは3095mAhとされており、iPhone 13の方が大容量のバッテリーを搭載しているという。つまり、可変リフレッシュレート非対応による省電力性能のマイナス面をバッテリー容量でカバーしているわけだ。
モデルの差別化を図るという点では理解できるが、市場のトレンドを考えれば、iPhone 13にも可変リフレッシュレート対応のディスプレイを搭載しても良かったのではないだろうか。もっともその分、価格は違ってきてしまうが……。
カメラは前述の通り、背面に広角と超広角カメラを搭載する。スペックとしては1200万画素のイメージセンサーに、広角はF1.6で7枚構成、超広角がF2.4で5枚構成のレンズをそれぞれ組み合わせる。画素数やレンズの明るさなどは従来のiPhone 12と同じだが、カメラのレイアウトが変わったことからもわかるように、イメージセンサーのサイズが変更され、広角にはピクセルピッチ(画素ピッチ)が1.7μmのイメージセンサーが採用される。この1.7μmのイメージセンサーは、昨年のiPhone 12 Pro Maxのみに搭載されていたものと同じで、同じくセンサーシフト式光学手ぶれ補正にも対応する。従来に比べ、光を取り込む量が47%も向上し、暗いところでの撮影も強化されている。明暗差のあるシーンに効果的なHDRはスマートHDR4に進化し、複数の人物を撮るグループショットではそれぞれの人物を認識し、補正することができる。撮影機能については、前述の通り、最新のフォトグラフスタイルやシネマティックモードなどが利用できる。
フロントカメラはiPhone 12などと共通の仕様で、1200万画素のイメージセンサーに、F2.2のレンズを組み合わせる。フォトグラフスタイルはフロントカメラにも有効なため、自撮りで自分に合った設定(スタイル)を見つけ、利用するのにも適している。
コンパクトで持ちやすい「iPhone 13 mini」
iPhone 13シリーズで、もっともコンパクトなモデルが「iPhone 13 mini」になる。昨年のiPhone 12 miniは期待されながら、今ひとつ十分な人気を得ることができなかったが、今年も「mini」が継続することになった。
ボディはiPhone 13よりもコンパクトで、幅64.2mmの持ちやすいサイズにまとめられている。従来のiPhone 12 miniとの比較ではカタログスペック上、厚みが0.25mm増だが、カメラ部は1.1mm増で9.8mmとなっている。コンパクトなiPhoneというと、iPhone SE(第二世代)が思い浮かべられるが、ボディサイズはiPhone 13 miniの方がひと回り小さい。ホームボタンの有無や価格差はあるが、iPhone 13 miniはディスプレイがiPhone SE(第2世代)の4.7インチよりも大きい5.4インチであり、5Gにも対応していることを考慮すると、iPhone 13 miniの方が実用性が高いという見方もできる。
ボディ周りの仕様は「iPhone 13」と同様で、アルミフレームを採用し、前面にセラミックシールド、背面にガラスを組み合わせる。カラーバリエーションはiPhone 13同様、ピンク、ブルー、ミッドナイト、スターライト、PRODUCT REDの5色展開。重量はiPhone 12 miniに比べ、7g増の140gにまとめられている。
iPhone 13シリーズはiPhone 12シリーズと同じデザインを採用しながら、内部の構造が変更され、電源ボタンの位置などが異なることは冒頭でも説明したが、iPhone 13 miniの場合、従来モデルとのボタン位置の差がごくわずかのため、一見、同じケースでも使えそうに見える。しかし、実際にはカメラ部のレイアウトが変更され、サイズも大きくなったため、背面側の開口部の大きさが違い、流用できない。
ディスプレイは5.4インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載し、解像度は2340×1080ドット表示に対応する。True Toneディスプレイ、広色域表示、200万対1のコントラスト比などの仕様はiPhone 12と共通で、標準設定時の最大輝度は625nitから800nitに向上している。ディスプレイ上部のノッチは、従来よりも幅が狭く仕上げられている。iPhone 13同様、アダプティブリフレッシュレート(可変リフレッシュレート)には対応していない。
ほかのiPhone 13シリーズなどに比べ、ディスプレイサイズが小さいこともあり、表示する文字の小ささを気にする向きもあるようだが、iOSの[設定]アプリで[画面表示と明るさ]-[テキストサイズを変更]を選べば、7段階で文字サイズが変更できるうえ、[文字を太くする]を有効にすれば、視認性は良くなる。
バッテリー容量は非公開だが、海外の分解サイトの情報によれば、2406mAhのバッテリーを搭載する。従来モデルと比較すると、iPhone 12 miniがビデオ再生で最大15時間、ビデオ再生(ストリーミング)で最大10時間だったのに対し、iPhone 13 miniではビデオ再生で最大17時間、ビデオ再生(ストリーミング)で13時間となっており、約10~30%のロングライフ化を実現している。コンパクトなモデルはどうしてもバッテリーが不安だが、iPhone SE(第二世代)は言うに及ばず、iPhone 11を超えるところまで進化を遂げてきたのは評価できるポイントだろう。
カメラについては基本的にiPhone 13と共通仕様のため、ここでは説明を割愛するが、iPhone 13同様、フォトグラフスタイルやシネマティックモードの撮影もできるため、最新のiPhoneらしい撮影を楽しむことができる。
熟成を重ねた主力モデル「iPhone 13 Pro」
iPhone 13シリーズのProモデルの標準サイズのモデルが「iPhone 13 Pro」だ。スタンダードモデルの2機種に比べ、ディスプレイやカメラなどが強化されたモデルになる。
ボディはステンレスフレームを採用し、ボディ幅はiPhone 13や従来のiPhone 12 Proなどと同じ71.5mmに仕上げられ、厚みは他のiPhone 13シリーズ同様、0.25mm増の7.65mmとなっている。ただし、iPhone 13 ProはiPhone 13 Pro Maxと同じカメラシステムを搭載したため、カメラ部の厚みは1.6mm増の10.9mmとなり、かなり突起が目立つ印象だ。重量もiPhone 12 Proから16g増となり、ついに200g超えの203gとなってしまった。
ディスプレイはiPhone 13と同じ対角サイズの6.1インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。2532×1170ドット表示が可能な解像度、True Toneディスプレイや広色域表示、200万対1のコントラスト比などの仕様はiPhone 13及びiPhone 12と共通だが、標準設定時の最大輝度はiPhone 13の800nitよりも明るい1000nitとなっている。ディスプレイ前面には前述のセラミックシールドを採用するほか、ノッチの幅が従来よりも狭くなっている。
iPhone 13 ProのディスプレイがiPhone 13と大きく違うのは、10~120Hzのアダプティブリフレッシュレートに対応しており、なめらかな表示と省電力性能のバランスを実現している。アダプティブリフレッシュレートはここ数年、スマートフォンで対応例がかなり増えてきた可変リフレッシュレートを指すもので、動画やゲームなど、動きのあるコンテンツでは高いリフレッシュレートで書き換え、なめらかな動きを表示するのに対し、ブラウザやSNSなど、動きの少ないコンテンツではリフレッシュレートを抑え、電力消費を抑制する。こうしたしくみはシャープのIGZO液晶やPro IGZO OLEDなどで知られ、ほかのスマートフォンでも上位機種を中心に標準的な機能になりつつある。Pro IGZO OLEDの1Hz~240Hzには遠く及ばないものの、同様のしくみを取り入れたディスプレイを採用したことで、iPhone 13 Pro/iPhone 13 Pro Maxもようやく他のスマートフォンに追いついた形なる。
バッテリーは非公開ながら、海外の分解サイトの情報によれば、3095mAhのバッテリーを搭載する。これはiPhone 13よりも容量が少ないが、ビデオ再生で比較すると、iPhone 12 Proが最大17時間、iPhone 13が最大19時間であるのに対し、iPhone 13 Proは最大22時間まで、再生時間を延ばしている。こうした値が算出されたのは、やはり、アダプティブリフレッシュレートの効果によるところが大きいだろう。
カメラについては、一見、従来のiPhone 12 Proと同じように見えるが、内容はイメージセンサーも含め、まったく新しくなっている。背面には広角、超広角、望遠の3つのカメラを搭載し、イメージセンサーはいずれも1200万画素を採用する。
広角カメラは1.9μmの大型イメージセンサーを採用し、絞り値がF1.5(26mm相当)のレンズを組み合わせる。
超広角カメラは1μmのイメージセンサーで、絞り値がF1.8(13mm相当)のレンズを組み合わせ、従来よりも集光性能を92%向上させ、マクロ撮影にも対応する。
望遠カメラは従来よりも歪みを減らしたF2.8(77mm相当)のレンズを採用し、広角カメラの光学3倍相当の望遠撮影を可能とする。
ちなみに、デジタルズームもiPhone 12 Proの最大10倍から最大15倍まで伸びている。これらに加え、ToFセンサー(LiDAR)も搭載しており、暗いところや少し離れたところ被写体にすばやくフォーカスを合わせることができる。
撮影機能についてはiPhone 13と同じように、フォトグラフスタイルやシネマティックモードでの撮影が可能だ。iPhone 13 Proならではの撮影機能としては、マクロ撮影とナイトモードでのポートレートが挙げられる。
マクロ撮影は被写体に数cmまで近づいて撮影する接写で、一般的には植物などを撮るときに適しているとされている。ただ、本コラムで過去にも他機種のマクロ撮影で説明してきたように、女性であれば、自分のネイルなどを撮影するときに便利で、ピアスやイヤリング、ネックレスなどのなどのアクセサリー、腕時計などの撮影にも適している。趣味の世界では釣りのルアー、フィギュアなどを撮って楽しむ人もいるようなので、自分の工夫次第で世界が拡がりそうだ。
ナイトモードでのポートレートについては、現在の社会状況を鑑みると、利用できそうなシチュエーションが限られるが、ディナーやパーティなどが楽しめるようになれば、人物を撮るときに有効活用できそうだ。
また、前述のように、クリエイティブなユーザーの利用を意識しているため、Apple ProRAWでの撮影、ProResでのビデオ撮影にも対応する。編集などの手間を考えると、あまり一般ユーザーが利用するシチュエーションは少ないかもしれないが、これらのモードを多用することを考えているのであれば、いずれもデータ量がかなり大きいため、ストレージが大容量のモデルを選ぶことをおすすめしたい。
もっとも大画面で活用できる「iPhone 13 Pro Max」
iPhone 13シリーズで、もっとも大画面のディスプレイを搭載したモデルが「iPhone 13 Pro Max」になる。大画面ディスプレイを搭載したシリーズとしては、iPhone 6シリーズ以降、「Plus」の名を冠したモデルをラインアップしてきたが、iPhone 12シリーズ以降は「Max」の名を与えたモデルを展開してきた。ちなみに、iPhone 12シリーズまで、「Max」のモデルにはカメラなどの仕様に違いがあったが、iPhone 13シリーズではiPhone 13 ProとiPhone 13 Pro Maxのカメラも共通化され、ボディサイズやディスプレイ、バッテリー容量などを除けば、内容もまったく同じとなっている。
ボディはiPhone 13 Pro同様、ステンレス素材によるフレームを採用し、デザインもiPhone 13 Proをひと回り大きくしたものとなっている。前述のように、本体の側面は光沢仕上げ、背面ガラスはマット仕上げとなっており、前面には割れにくいセラミックシールドが採用されている。本体の厚みは他機種同様、従来モデルより0.25mm増の7.65mmだが、カメラ部は0.7mm増の11mmとなっている。ボディ幅は78.1mmとワイドで、手の大きくない人によってはやや扱いづらいかもしれない。重量は従来のiPhone 12 Pro Maxに比べ、12g増の238gとなった。200g超のスマートフォンは他社からも販売されているが、一般的なスレートデザイン(板状デザイン)で、ここまでヘビー級のモデルはiPhone 13 Pro Maxくらいしかなく、こうした重量増が本当にいいことなのかは疑問が残る。
ディスプレイはiPhone 12 Pro Maxと同じ対角サイズの6.7インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。2778×1284ドット表示が可能な解像度、True Toneディスプレイや広色域表示、200万対1のコントラスト比などの仕様は、従来のiPhone 12 Pro Maxと共通だが、標準設定時の最大輝度はiPhone 12 Pro Maxの800nitよりも明るい1000nitとなっている。ディスプレイ上部のノッチは、iPhone 13 Proなどと同じように、20%近く幅が狭くなっている。
また、iPhone 13 Pro同様、アダプティブリフレッシュレートに対応しており、表示するコンテンツに合わせ、10~120Hzでリフレッシュレートが自動的に変化する。動画コンテンツなどのなめらかな表示と静止画表示時の省電力性能を両立させる機能であり、連続使用時間の延長に寄与している。
バッテリーは非公開だが、海外の分解サイトの情報によれば、4352mAhの大容量バッテリーを搭載する。iPhoneとしては初の4000mAh超の大容量バッテリーであり、iPhone 12 Pro Maxで最大20時間だったビデオ再生時間は、iPhone 13 Pro Maxで最大28時間まで延びている。これだけ容量が大きいと、充電時間が気になるが、別売の20W以上のACアダプターを利用することで、35分で最大50%の充電ができるとしている。充電速度はやや遅くなるが、Qi規格対応のワイヤレス充電やMagSafe充電器による充電も利用できる。
カメラについてはiPhone 13とまったく同じ仕様で、1200万画素のイメージセンサーを広角、超広角、望遠のカメラに採用している。絞り値(レンズの明るさ)は広角カメラがF1.5(26mm相当)、超広角カメラがF1.8(13mm相当)、望遠カメラがF2.8(77mm相当)となっている。実際の撮影についてもiPhone 13 Proと共通で、マクロ撮影に対応するほか、フォトグラフスタイルやシネマティックモードも同じように撮影できる。
iPhone 13シリーズは高いのか、安いのか
さて、iPhone 13シリーズ各機種の内容を説明したところで、実際のところ、iPhone 13シリーズが買いなのかどうかを検討したいが、その前に購入時の重要な要素である価格について、考えてみたい。
ここまで説明してきたように、iPhone 13シリーズは4機種がラインアップされ、ストレージ容量はiPhone 13/iPhone 13 miniが3種類、iPhone 13 Pro/iPhone 13 Pro Maxが4種類あるため、価格としては合計14種類がある。もっとも安いのはiPhone 13 miniの128GBモデルの8万6800円、もっとも高いのはiPhone 13 Pro Maxの1TBモデルの19万4800円となっている。読者のみなさんは、今回のiPhone 13シリーズの内容を見て、この価格設定をどういう印象を持っただろうか。
容量 | 128GB | 256GB | 512GB | 1TB |
---|---|---|---|---|
iPhone 13 mini | 8万6800円 | 9万8800円 | 12万2800円 | ー |
iPhone 13 | 9万8800円 | 11万800円 | 13万4800円 | ー |
iPhone 13 Pro | 12万2800円 | 13万4800円 | 15万8800円 | 18万2800円 |
iPhone 13 Pro Max | 13万4800円 | 14万6800円 | 17万800円 | 19万4800円 |
これまでのiPhoneのレビュー記事でも触れてきたことだが、筆者が見た印象としては、ここ数年、iPhoneは高付加価値&高価格路線を突き進んでおり、今年のiPhone 13シリーズもその流れを受け継いだという印象だ。もちろん、iPhoneは「輸入品」であり、為替レートの影響なども受けるため、一概に比較できないが、基本的な方向性は変わっていないという印象だ。おそらく、「高くなったなぁ」という印象を持つ読者の方も少なくないだろう。
「iPhoneが高くなった」と感じる要因のひとつとして、2019年10月に施行された改正電気通信事業法によって、端末購入補助が制限されたことが挙げられる。ただ、端末購入補助の制限は各社とも同じ条件で、その流れを受け、各社はミッドレンジ以下のラインアップを強化したり、モデル構成を変更するなどの工夫を凝らしている。ところが、iPhoneにはそういった展開がほとんどなく、価格の幅は高い方に伸びるばかりという印象だ。改正電気通信事業法の施行以降、各社の端末販売が落ち込んだものの、アップルはほぼ横ばい程度のシェアを確保しているとされるが、店頭で好調なのは低価格のiPhone SE(第2世代)で、上位モデルは売れ行きが芳しくないという指摘もある。
こうした価格の話題になると、今度は「日本は給料が上がってないから、iPhoneが高く見えるだけ」という指摘をするメディアもあるが、それは経済の話であって、消費者が購入する商品として、高いか、安いかという話は別だろう。
同じスマートフォンで言えば、こんな話もある。
今年8月、サムスンはディスプレイを折りたたむ「Galaxy Fold」シリーズの三世代目となる「Galaxy Fold3 5G」を発表した。従来モデルの価格は北米市場向けで1999ドルに設定されていたが、今回のモデルは新たに防水防塵に対応し、Sペンにまで対応しながら、1799ドルに値下げして見せた。国内市場向けのモデルはFeliCa搭載によって、販売価格は24万円にまで高くなってしまったが、それでも1年前の製品より、防水防塵という明確な進化をさせながら、10%も低廉化を実現したわけだ。しかも製品にはあの複雑なメカニズムのヒンジをはじめ、さまざまなイノベーションが詰まっている。
一方、iPhone 13シリーズはどうだろうか。確かに、シネマティックモードやバッテリーの省電力化など、注目すべき点は挙げられるが、昨年来、各方面で指摘されているマスク着用時のFace IDの使いにくさに対し、Apple Watch着用しか新しい提案ができていない。本体も重量や厚みが増える一方で、スリム型や軽量型などのバリエーションも登場しない。アップルの製品ラインアップのポリシーもあるだろうが、それでも今年のiPhone 13シリーズを見て、物足りなさを感じた読者も少なくないはずだ。
もちろん、iPhone 13シリーズの完成度の高さや洗練された仕上がりは、業界でもトップクラスと言って差し支えない。ただ、製品としてのイノベーションは世代を追うごとに、かなり限定的になっており、「新しいiPhoneに買い換えよう」というワクワク感が足りなくなってきているのは、筆者だけではないだろう。iPhoneそのものを否定するつもりはなく、今後も愛用していきたいと考えているが、iPhoneユーザーはもっとアップルに対して、いろんな進化や改良を求めていくことを大切なように感じられる。
iPhone 13シリーズは買いか? どれを狙うか? それとも?
さて、最後にiPhone 13シリーズが買いかどうか、どの機種を狙うか、はたまたほかの道を選ぶのかを考えてみよう。
まず、今回のiPhone 13シリーズを「買い」と考える判断のポイントは、シネマティックモードやフォトグラフスタイルなどのカメラ周りが挙げられる。
この2つはいずれもiPhone 13シリーズだけの機能であり、従来モデルでは体験できないため、この機能が気に入ったのであれば、素直に「買い」だ。逆に、「カメラは普通に撮れれば十分」というのであれば、値下げされたiPhone 12シリーズなどを検討に加えてみるのも手だ。
次に、iPhone 13シリーズはどの機種が狙い目なのかだが、本体の重さや価格面などを考慮すると、iPhone 13の256GBモデルあたりがバランスが良さそうだ。もし、望遠カメラが欲しいというのであれば、iPhone 13 Proに進むしかないが、そうなると、同容量でも2万4000円も高くなるため、分割払いで考えると、月額1000円の負担が増える。それなら、1000円でコンテンツサービスを楽しんだ方がいいという考え方もありそうだ。
また、買い替えの対象となるユーザーについてだが、これはアップルが少し古い機種についてもiOSのバージョンアップ(アップグレードではない)を継続することを明らかにしているため、iOSのサポートを理由に買い換える必要性は少し薄れている。ただ、年数を鑑みると、2017年のiPhone 8以前のユーザーはそろそろ買い替えの検討に入りたいところだろう。iPhone 13シリーズに興味がわかないのであれば、ほぼ同じデザインのiPhone SE(第2世代)を選ぶという手もあるが、コンパクトなiPhoneが欲しいというのであれば、従来モデルよりもバッテリーが強化されたiPhone 13 miniを選ぶ手も考えられる。
iPhone 8 Plusなどを使っていて、大画面を求めるのであれば、iPhone 13 Pro Maxを選ぶしかないが、この点についてはアップルの製品ラインアップの不満が残る。
ほかのメーカーのラインアップを見ていると、スタンダードなモデルに大画面のディスプレイを搭載したバリエーションを加えるなど、幅広いユーザーのニーズに応える工夫をしているが、iPhoneではクリエイティブなユーザーを意識したProモデルを選ぶしかない。
たとえば、エンターテインメント大好きというユーザーは「大画面でコンテンツを楽しみたい」と考えるだろうし、少し年齢層が上のユーザーから「見やすいから大画面が欲しい」というニーズもありそうだ。しかし、現状のラインアップでは、13万円以上の価格が設定されたProモデルしかないわけだ。もし、本当にユーザーのニーズに応えるのなら、今年の段階で「iPhone 13 Max」(仮)を提案するくらいのチャレンジがあっても良かったのではないだろうか。
そして、人によっては「今年のiPhone 13シリーズは見送り」と考えるかもしれない。確かに、それも選択肢のひとつだ。
現在、どのiPhoneを使っているのかにもよるが、ここ数年のモデルを使っているのであれば、次期モデルまではそれを使い続け、他に興味の持てる他のプラットフォームの製品があれば、それと併用してみるのも手だ。製品にもよるが、iPhone 13シリーズに比べれば、リーズナブルな製品も多く、選択肢も豊富だ。これまでiPhoneが強いとされたeSIMについても徐々にほかのプラットフォームで対応製品が増えている。ただ、eSIMは端末故障時や破損時に、すぐに復旧できない可能性もあるため、契約する携帯電話会社やMVNO各社のメニューはしっかりと確認しておきたい。
例年にも増して、長い内容になってしまったが、iPhone 13シリーズはマスク着用時の対応や重量増などの課題が残されているものの、これまでのiPhoneの流れを受け継ぎ、非常に完成度の高いモデルに仕上げられている。
昨今の社会情勢ではまだ外出も控えめかもしれないが、ぜひ一度、端末を手に取り、シネマティックモードなどを試し撮りして、楽しいんでいただきたい。