法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

Pixel 6とPixel 6 Proはどんな「新しい世界」を開くのか

 今年8月に外観が公表され、10月19日(日本時間10月20日)に発表されたGoogleのAndroidスマートフォン「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」。

 すでに予約が開始され、10月28日からGoogleストアから発売されるほか、KDDIとソフトバンクからも販売される。ひと足早く、実機を試すことができたので、インプレッションをお届けしよう。

「New world coming♪」に乗せて

 スマートフォンに期待するものは、時代とともに少しずつ変化してきた。スマートフォンが普及しはじめたばかりのころは、安定した動作や十分なスペックが強く期待されていたが、国内市場では既存のケータイからの乗り換えを重視し、おサイフケータイや防水などの機能も求められた。

 インターネットの利用が拡大し、コンテンツサービスが展開されると、ディスプレイの大画面化が進む一方、より高画質なディスプレイへの期待も増えた。

 通信技術の進化に伴い、データ通信が高速化し、アプリなども充実してくると、より長い実使用時間を求め、バッテリーの大容量化や省電力性能の追求なども進んだ。

 ここ数年はビジュアルなSNSなどの普及とも相まって、カメラ機能の進化が著しく、デジタルカメラにはない数多くの機能を実現してきた。

 そして、次なるテーマは何か。これからのスマートフォンは、どんな楽しみを見せてくれるか。

 10月19日にGoogleが開催した「Pixel Fall Launch」のオンラインイベントでは、そんな期待を示すかのように、オープニングのムービーにはキャス・エリオット(ママ・キャス)が歌う1970年の名曲「New World Coming」が流れていた。この曲はそのタイトル通り、新しい世界をやってくることへの期待を歌ったものだが、スマートフォンの進化の方向性として、性能ばかりを追求するのではなく、ユーザーが体験できる楽しみを提案する『新しい世界』を指し示しているような曲選びだった。

 今回発表されたGoogleのPixelシリーズは、「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」の2機種から構成される。

 あらためて説明するまでもないが、Googleはかつて「Nexus」というネーミングのスマートフォンをHTCやサムスン、LGエレクトロニクスなどと共同で開発し、市場に投入していたが、2016年からは「Pixel」シリーズを展開している。

 「Nexus」シリーズがAndroidプラットフォームのリファレンスモデル的な位置付けだったのに対し、PixelシリーズはAndroidプラットフォームをはじめ、Googleが提供するさまざまなサービスをいち早く体験できるモデルという位置付けとなっている。今回のPixel 6シリーズも他製品に先駆けて、最新の「Android 12」が搭載され、出荷されている。

 国内市場については、2018年10月に発売された「Pixel 3」「Pixel 3 XL」で初投入され、日本向けモデルにはFeliCaが搭載されていた。2019年5月には普及価格帯の「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」、2019年10月には「Pixel 4」「Pixel 4 XL」という2機種ずつが投入されてきた。

「Pixel 6 Pro」(左)の隣に、近年でもっとも大きいPixelと言われた「Pixel 4 XL」を並べてみたが、高さも幅も「Pixel 6 Pro」の方が大きい。バッテリー容量などを考えれば、しかたのないところか

 これらの世代は標準サイズのディスプレイを搭載したモデルに加え、「XL」の名を冠した大画面ディスプレイ搭載モデルをラインアップしていた。また、「Pixel 3a」のように、「a」が付けられた「Aライン」はミッドレンジの普及モデルで、「Pixel 3」や「Pixel 4」のように、数字のみの型番のハイエンドモデルよりもリーズナブルな価格で販売されている。

 昨年はコロナ禍の影響もあり、若干、リリースのスケジュールがずれ込み、2020年8月に普及価格帯の「Pixel 4a」、同年9月に初の5G対応の「Pixel 4a(5G)」が発表され、同年10月から上位モデルの「Pixel 5」の販売が開始された。2020年発売のモデルについては、従来の「XL」の名を冠した大画面ディスプレイ搭載モデルの採用が見送られた。その代わりというわけでもないが、5G対応のモデルが早くも2機種、投入された。

「Pixel 6」(左)を昨年発売の「Pixel 5」と並べてみた。ひと回りくらいサイズが違う

 今年8月には2021年モデルとして、新たに「Pixel 5a(5G)」が発売された。昨年の「Pixel 5」の流れを継承したモデルだが、半導体不足の影響を受け、米国と日本市場のみで販売されるかたちとなった。

「Pixel 6」(左)を今年8月に発売された「Pixel 5a(5G)」と並べてみると、「Pixel 6」の方がスクエアなデザインであることがわかる

 今回発売される「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」は、「Pixel 5a(5G)」発表前から予告されていたモデルで、Google独自開発のチップセット「Tensor」を搭載するなど、注目度の高いモデルだ。

 国内では両機種がGoogleストアで販売されるほか、「Pixel 6」はauとソフトバンク、「Pixel 6 Pro」はソフトバンクで販売される。

 Googleストアでの価格は「Pixel 6」が7万4800円から、「Pixel 6 Pro」が11万6000円からとなっている。auとソフトバンクで購入するモデルは、Googleストアと価格が異なるが、いずれも残価設定ローンと同じような独自の販売プログラムで購入できる。

大画面ディスプレイによる大きめのボディ

 さて、外観からチェックしてみよう。Pixelシリーズは国内向けにはじめてリリースされたPixel 3以降、背面に指紋センサーを搭載したシンプルなデザインを採用していたのに対し、今回の「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」はデザインを一新し、背面のカメラモジュールを内蔵した「カメラバー」を配したデザインを採用する。

「Pixel 6 Pro」(左)と「Pixel 6」(右)の背面。カメラバーが強調されたデザインを採用

 ボディカラーは「Pixel 6」がSorta Seafoam、Kinda Coral、Stormy Black、「Pixel 6 Pro」がCloudy White、Sorta Sunny、Stormy Blackと、3色ずつの展開となっている。いずれのカラーもカメラ部を境に、上下のツートーンカラーでデザインされる。

Google「Pixel 6」、約158.6mm(高さ)×74.8mm(幅)×8.9mm(厚さ)、約207g(重さ)、Sorta Seafoam(写真)、Kinda Coral、Stormy Blackをラインアップ
Google「Pixel 6 Pro」、約163.9mm(高さ)×75.9mm(幅)×8.9mm(厚さ)、約210(重さ)、Stormy Black(写真)、Cloudy White、Sorta Sunnyをラインアップ

 ボディの厚みは両機種ともに8.9mmだが、突起したカメラ部の厚みは約11mmほどとなっている。このカメラ部の突起を守るため、Googleから販売されている純正のカバーは、カメラ部の周囲に突起した縁を追加することで、カメラ部を保護するしくみとなっている。

「Pixel 6 ケース」(左)と「Pixel 6」。リサイクル素材を30%使ったスマートフォンケースで、カメラ部の縁は高くして、本体を保護するデザイン。価格は3630円。Light Rain(写真)、Cotton Candy、Stormy Skyの3色展開
「Pixel 6」に「Pixel 6 ケース」を装着したところ。カメラバーはむき出しだが、上下の部分の縁が高いため、保護される設計
「Pixel 6 Proケース」(左)と「Pixel 6 Pro」。リサイクル素材を30%使ったスマートフォンケースで、カメラ部の縁は高くして、本体を保護するデザイン。価格は3630円。Stormy Sky(写真)、Soft Sage、Light Forest、Golden Glowの4色展開
「Pixel 6 Pro」に「Pixel 6 Proケース」を装着したところ。カメラバーはむき出しだが、上下の部分の縁が高いため、保護される設計

 ボディ周りでやや意外なのは、後述するディスプレイサイズの差が0.3インチしかないこともあってか、ボディ幅は「Pixel 6」が74.8mm、「Pixel 6 Pro」が75.9mmと、わずか1mm程度しか違わないことだ。

「Pixel 6 Pro」(左)と「Pixel 6」(右)の前面。高さ(長さ)が約5mm違うので、手にするとわかるが、並べたときは差がわからない

 同様に、重量も「Pixel 6」が207g、「Pixel 6 Pro」が210gと、非常に差が少なく、本体を手にしたときのボディのサイズ感にそれほど大きな差はない。ちなみに、ボディは両機種ともに、IP68準拠の防水防塵対応となっており、従来モデルに引き続き、FeliCa搭載によるおサイフケータイに対応する。

「Pixel 6」の背面は光沢仕上げ。Sorta Seafoamは明るいため、背面の指紋はあまり目立たない
「Pixel 6」の左側面にはボタン類がないが、下部側に近いところにピンを挿すタイプのSIMカードスロットを備える
「Pixel 6」の右側面には、上側(カメラバー側)に電源キー、その下(写真では右側)に分割式の音量キーを備える。他機種から移行したユーザーは少し慣れが必要
「Pixel 6」は下部にUSB Type-C外部接続端子を備える。3.5mmオーディオ端子は廃止された

 ディスプレイは両機種で、少し仕様が異なる。「Pixel 6」はフルHD+対応(1080×2400ドット)の6.4インチOLED(有機EL)を搭載し、60~90Hzのスムーズディスプレイに対応する。「Pixel 6 Pro」はQHD+対応(1440×3120ドット)の6.7インチLTPO OLED(有機EL)を搭載し、10~120Hzのスムーズディスプレイに対応する。

 Corning Gorilla Glass Victusによるカバーガラス、100万対1のコントラスト比、HDRサポート、24ビットフルカラー表示などの仕様は共通となっている。OLEDの特性を活かした「常に表示状態のディスプレイ」もサポートしており、日時や通知などを画面に表示しておくことができる。

 ちなみに、「Pixel 6 Pro」に採用されている「LTPO OLED」は、「Low Temperature Polycrystalline Oxide(低温多結晶酸化物)」を利用した有機ELディスプレイで、表示するコンテンツに合わせ、リフレッシュレートを下げたり、常時点灯でも消費電力を抑えられるという特性を持つ。本誌のケータイ用語の基礎知識の「第955回:LTPOとは」で解説されているので、詳しく知りたい方はそちらをご覧いただきたい。

「Pixel 6 Pro」の背面は光沢仕上げ。Stormy Blackは少し緑が入った色合い。暗めのカラーのため、背面の指紋は少し目立つ
「Pixel 6 Pro」の左側面。写真が暗いため、やや見えにくいが、「Pixel 6」同様に、ボタンがなく、下部側に近いところにピンを挿すタイプのSIMカードスロットを備える
「Pixel 6 Pro」の右側面には、上側(カメラバー側)に電源キー、その下(写真では右側)に分割式の音量キーを備える。他機種から移行したユーザーは少し慣れが必要
「Pixel 6 Pro」は下部にUSB Type-C外部接続端子を備える。3.5mmオーディオ端子は廃止された。3.5mmオーディオ端子のヘッドホンなどを使いたいときは、「Google USB-C - 3.5 mm アダプター」(1320円)を購入する

生体認証は画面内指紋認証を採用

 バッテリーも両機種で仕様が異なる。「Pixel 6」は4614mAh、「Pixel 6 Pro」は5003mAhのバッテリーを内蔵し、いずれも標準的な利用で24時間以上の利用を可能にする。

 今回の短い試用期間でもバッテリー消費はかなり緩やかな印象だった。ちなみに、スーパーバッテリーセーバー利用時は最大48時間まで、バッテリー駆動時間を延ばせるとしている。

 充電は本体下部のUSB Type-C外部接続端子を利用し、別売のUSB-PD 3.0対応30W USB-C充電器を接続したときは、約30分で最大50%まで充電が可能な急速充電に対応する。

 Qi準拠のワイヤレス充電にも対応するが、今後、発売が予定されている「Google Pixel Stand(第2世代)」を利用すれば、「Pixel 6」は最大21W、「Pixel 6 Pro」は最大23Wで充電することができる。

 また、本体バッテリーを使い、Google Pixel Budsなど、ワイヤレス充電対応デバイスに給電できる「バッテリーシェア」の機能も搭載する。

「Pixel 6」のパッケージには端末本体のほかに、USBケーブルと変換アダプタが同梱される。変換アダプタとUSBケーブルを使い、これまで使ってきたスマートフォンと接続すれば、簡単にデータや一部のアカウントも移行できる

 生体認証はディスプレイに内蔵された画面内指紋認証を採用する。Pixelシリーズとしては背面に指紋センサーを搭載したり、顔認証に対応したりしてきたが、今回はOLEDの特性を活かし、画面内指紋センサーを採用している。

 これまでも記事や番組などで触れてきたが、昨今の社会状況を鑑みると、顔認証しか使えない環境は画面ロック解除のたびにマスクを外したり、PINやパスワードを入力したりしなければならないため、いろいろな意味でセキュリティ上のリスクがある。

 Pixelシリーズはもともと指紋認証を採用してきたが、今回のPixel 6シリーズでは本体のデザイン変更に合わせ、仕様を変更し、画面内指紋認証を採用したようだ。ちなみに、Pixel 6シリーズは顔認証に対応していない。

Google独自開発のチップセット「Tensor」を搭載

 今回のPixel 6シリーズがこれまでのPixelシリーズと大きく異なるのは、チップセットだろう。これまでPixelシリーズはチップセットとして、米Qualcomm製Snapdragonを採用してきたが、「Pixel 6」「Pixel 6 Pro」にはGoogleが独自開発した「Tensor(テンサー)」と呼ばれるチップセットを採用する。

 Tensorチップについては、一部で「サムスン製Exynosではないか」といった報道があったが、Googleによれば、Pixel用に初めて開発したチップで、Googleがこれまで最先端の機械学習モデルで使ってきた研究をベースに設計され、機械学習に最適化されているという。

 後述するカメラで利用する独自の画像信号処理機能をはじめ、セキュリティ機能、音声のテキスト化、視聴中の動画認識など、多彩な機能を実現するために活かされている。セキュリティについてはTensorチップ内にTitan M2セキュリティコアプロセッサが組み込まれている。

 ちなみに、チップセットが変わったことで、Androidプラットフォームへの対応が気になるかもしれないが、もともと、コアのアーキテクチャは同じARMベースであるうえ、Androidプラットフォームは構造上、仮想マシンなどの環境が整っていれば、異なるプロセッサー(チップセット)でも動作するため、気にする必要はないだろう。

 Googleの担当者も「Tensorチップは既存にAndroidプラットフォーム向けのアプリやゲームなどと互換性を保っている」とコメントしている。

 とは言うものの、ユーザーとしては実際のパフォーマンスがどの程度なのかが気になるところだ。

 スマートフォンの場合、パソコンなどと違い、実使用では通信環境などの影響を大きく受けるため、ベンチマークテストの値に一喜一憂する必要はまったくないが、今のところ、インターネット上で公開されている情報によれば、Snapdragon 888を搭載した最新モデルと比較して、ほぼ同等の結果が得られており、十分なパフォーマンスを確保できていると言えそうだ。

 ところで、なぜ、このタイミングでGoogleが独自チップを開発したのかという点については、やはり、Googleが特長に挙げているように、機械学習の情報を端末内で処理したいという方向性が挙げられる。

 ただ、業界の裏事情的に考えると、チップセットは米Qualcommが圧倒的に強く、設計や供給なども結果的にQualcomm任せになってしまうことを避けたかったのではないかと見る向きもある。いずれにせよ、Googleが今回のPixel 6シリーズ以降、どのようにTensorチップを活かしていくのかは、非常に注目される。

 メモリーは「Pixel 6」が8GB、「Pixel 6 Pro」が12GBで、ストレージは両機種ともに128GBと256GBのモデルがラインアップされる。外部メモリーカードに対応していないため、ローカルにより多くのデータを保存したいユーザーは、256GBモデルを選ぶことになりそうだ。

Pixel 6はSub-6、Pixel 6 ProはSub-6とミリ波に対応

 ネットワークについては5G/4G LTE/3G(UMTS/HSPA+/HSDPA)/GSM(クアッドバンド)に対応し、5GについてはPixel 6が6GHz帯以下のSub-6、Pixel 6 ProはSub-6とミリ波の両方に対応する。

 各携帯電話会社の5Gネットワーク対応については、auとソフトバンクに対応した状態で出荷され、他の5Gネットワークについてはアップデートにて対応する予定だという。

 auとソフトバンクが4G向け周波数帯域で5Gの電波を利用する転用バンドについても対応している。

 5Gのミリ波については、iPhone 13シリーズの記事でも触れたように、当初はスタジアムなどの限られた場所でしか利用できないと考えられていたものの、auの「鉄道路線5G化」の方針などでも示されているように、移動中というより、駅構内でWi-Fiスポットの置き換え的に活用されるケースが増えてきそうなため、都市部を中心に活動するユーザーは将来性を考慮して、ミリ波対応の「Pixel 6 Pro」を選ぶのも手だ。

 逆に、一般的な利用であれば、Sub-6対応でもまったく不満に感じることはないため、予算に合わせて、両機種を選んでもいいだろう。

 SIMカードについてはnanoSIMカードとeSIMのデュアルSIMに対応する。eSIMについてはこれまでのPixelシリーズでも対応し、昨年の「Pixel 5」なども各携帯電話事業者及びMVNO各社の対応機種に挙げられているため、ネットワークが対応していれば、いずれの機種でもeSIMを利用することができそうだ。

「Pixel 6」のSIMカードトレイはピンを挿して、取り出すタイプ。microSDメモリーカードなど、外部メモリーは装着できない
「Pixel 6 Pro」のSIMカードトレイはピンを挿して、取り出すタイプ。microSDメモリーカードなど、外部メモリーは装着できない

プラットフォームはAndroid 12搭載

 プラットフォームについては最新のAndroid 12が搭載されている。Android 12についてはGoogleの開発者イベント「Google I/O 2021」で公開され、すでに従来のPixelシリーズに配信が開始されているが、これまでのAndroidプラットフォームと違い、「Material You」と呼ばれる新しいユーザーインターフェイスのデザインを採用し、全体的に画面デザインが一新されている。

 「Material You」は簡単に言ってしまえば、ユーザーが設定した壁紙などに合わせ、ユーザーインターフェイスを構成するアイコンやカラーなどをカスタマイズするものになる。

 実際の使い勝手については、全体的にアイコンやメニューなどの表示が丸みを帯びたデザインに仕上げられているなど、IT機器のユーザーインターフェイスにありがちだった角々しさがなくなり、柔らかいイメージのユーザーインターフェイスに仕上がっている。

ホーム画面に設定した壁紙の色合いに合わせ、カスタマイズされる
ロック画面に表示される時計のフォントカラーも壁紙の色合いをベースに設定される
通知パネルのボタン類も同様のカラー。ボタン類のデザインをはじめ、全体的に柔らかいデザインのユーザーインターフェイス

 少し興味深いのは、今年10月に公開されたマイクロソフトの「Windows 11」でも同じような取り組みがスタートしていることが挙げられる。スマートフォンやパソコンというと、長時間の利用でストレスがたまりがちと言われることが多いが、人々が便利であるデジタルツールを使っていくうえで、こうしたユーザーインターフェイスのデザインの見直しは、非常に重要な取り組みと言えそうだ。

 ちなみに、アップデートについては、数カ月ごとにソフトウェアアップデートを提供し、Pixel 6シリーズを常に最新の状態に保つとしている。その期間も最大5年間と長いため、あまり機種変更をしないユーザーでも安心して使い続けることができそうだ。

「消しゴムマジック」で楽しむカメラ

 カメラについては「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」ともに、背面のカメラバーにアウトカメラを格納しているが、両機種で少し構成が異なる。

「Pixel 6」のカメラバーの部分。2mm強の突起だが、カバーを装着していないと少し気になる
「Pixel 6 Pro」のカメラバーの部分。突起の厚みは変わらないが、カメラバーから上端までの長さが異なる

 まず、共通仕様となっているのは、50Mピクセル/F1.85の広角カメラ、12Mピクセル/F2.2のウルトラワイドカメラ(超広角カメラ)になる。

 広角カメラの50Mピクセルイメージセンサーは、サイズが1/1.31インチ、ピクセルピッチ(画素ピッチ)が1.2μmのもので、Quad Bayer配列のセンサーにDual PD方式の技術を組み合わせたOcta PD方式を採用することで、暗い場所や明暗差があるシーンでも高速なAFを可能にする。画角は82度で、光学手ぶれ補正とレーザーAFにも対応する。

「Pixel 6 Pro」を使い、全身をポートレートで撮影。背景もうまくボケている。モデル:るびぃ(ボンボンファミンプロダクション)
「Pixel 6」を使い、上半身をポートレートで撮影。全身を撮ったときに比べ、背景のボケ具合いが強い

 もうひとつのウルトラワイドカメラはピクセルピッチが1.25μmのもので、112度の画角でワイドなシーンの撮影に適している。

 これらに加え、「Pixel 6 Pro」に搭載されているのが48MピクセルF/3.5の望遠カメラで、イメージセンサーのピクセルピッチは0.8μm、画角は23.5度となっており、光学4倍の望遠撮影が可能だ。

「Pixel 6 Pro」はペリスコープ構造の光学4倍望遠カメラを搭載する。LEDフラッシュの左隣の四角い窓が望遠カメラ
「Pixel 6 Pro」の超広角カメラ(0.7倍)で撮影
「Pixel 6 Pro」の広角カメラ(1倍)で撮影
「Pixel 6 Pro」の広角カメラ(2倍)で撮影
「Pixel 6 Pro」の望遠カメラ(光学4倍)で撮影。被写体と離れていてもこれくらい寄れるのであれば、かなり使えそうだ

 前面カメラは「Pixel 6」が8Mピクセル/F2.0で、ディスプレイの上部のパンチホール内に格納される。イメージセンサーのピクセルピッチは1.12μmで、フォーカスは固定焦点、画角84度の広角撮影に対応する。

 「Pixel 6 Pro」の前面カメラは11.1Mピクセル/F2.2で、同じくディスプレイの上部のパンチホールに格納される。イメージセンサーのピクセルピッチは1.22μmで、フォーカスは固定焦点、画角は94度の広角撮影が利用できる。

 撮影モードについては一般的な「写真」だけでなく、従来モデルからもサポートされていた「夜景」や「ポートレート」、「超解像ズーム」、「モーションオートフォーカス」などに対応するが、撮ってみて面白いのは新たにサポートされた「消しゴムマジック」や「モーションモード」で、肌の色合いを忠実に再現する「リアルトーン」も興味深い取り組みだ。

 「消しゴムマジック」はPhotoShopなどの画像編集ソフトでもおなじみの機能で、撮影時の背景に写り込んだ余計なものを簡単に消去してしまう機能だ。

 パソコンでの写真の編集などに慣れている人なら、それほど驚くこともないだろうが、「消しゴムマジック」はネーミングもさることながら、視覚的にわかりやすい効果もあり、はじめてのユーザーには新鮮に楽しめる。

背景に人が写り込んだ写真を表示し、[編集]を起動し、[ツール]-[消しゴムマジック]を選ぶと、自動的に消せそうな人物が検出される。ユーザーが指先で選んで、消すことも可能
すべて消去してみると、見事に背景の人物は消えた。自転車やベビーカーのような機械はうまく消せないことがあるが、かなりの確率で消せる

 ショッピングモールや商店街など、人出が多い場所ではうまく消えないこともあるが、適度に人がいる環境では簡単に消すことができるため、「撮って」「消す」という流れがだんだん面白くなってくるようだ。

 また、「消しゴムマジック」はPixel 6シリーズで撮った写真だけでなく、過去の写真についても背景に表示されているものを消すことができた。

 「モーションモード」は動く被写体を撮り、流し撮りのような効果を加える撮影モードだが、待ち行く人を撮るだけでも効果を加えることができ、意外に楽しめる印象を持った。

 「リアルトーン」についてはここ数年、話題になる多様性を反映したもので、これまでのカメラが明るい肌の色に合わせてきたトーンをさまざまな肌の色に合わせて調整できるようにしたものだ。筆者と周りの人物は日本人をはじめとした黄色人種が多いが、白人やアフリカ系の人など、さまざまな人と撮影するシチュエーションが増えてくれば、こうした機能の有用性は一段と際立ってくるだろう。

翻訳や音声認識などの可能性を広げる

 さて、Googleが提供するサービスや機能の中で、このコロナ禍こそ、あまり活躍の場が少なかったかもしれないが、これからの時代、一段と可能性を拡げることになりそうなものがある。それがTensorチップによって実現される音声認識や翻訳の世界だ。

 Google翻訳については筆者も普段から愛用しているが、今回の「Pixel Fall Launch」ではリアルタイム翻訳をはじめ、写真に映った外国語を翻訳する機能が紹介された。

リアルタイム翻訳を使い、サンプルで提供されたメニューを翻訳。オフラインでも翻訳できる。英語、ロシア語、スペイン語のメニューが書いてあり、Google Lensから簡単に翻訳ができる

 リアルタイム翻訳については、現在、米国で活躍中の「こんまり」こと、片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんを登場させ、Pixel 6シリーズのリアルタイム翻訳を使いながら、英語と日本語でインタビューするというコーナーがあった。

 あまりにも自然な翻訳に近藤さんもかなり驚いていた様子だったが、今後、筆者のような仕事でもリアルタイム翻訳で外国語圏の人にインタビューができるようになるのかもしれない(笑)。

 また、Pixel 6シリーズではチャットのリアルタイム翻訳にも対応するほか、音声認識を使い、チャットの音声入力にも対応する。海外との往来が制限されている現状では、まだ活用できるシチュエーションが限られていそうだが、今後、自由に往来ができるようになり、便利に使えることを期待したい。

スマートフォンでできる新しいこと

 この約1年半、コロナ禍の影響を受け、新製品や新サービスの発表は大きく様変わりした。

 当然のことながら、海外に取材で出かけることはなくなり、国内外のメーカーや通信事業者、ソフトウェアベンダーなどの発表イベントもほぼ100%、オンラインで展開されている。ただ、オンラインだからこそ、発表する内容の見せ方は、それぞれの企業の姿勢が明確に見えてくる。

 なぜ、こんなことを書いているかというと、実は冒頭に触れた「Pixel Fall Launch」のオープニングで流されたショートムービーがなかなかうまい見せ方だったからだ。

 現在もYouTubeで動画が公開されているので、機会があれば、オープニングから1分40秒くらいまでのショートムービーの部分だけでも見ていただきたいが、このアイキャッチとなるムービーは、アジア系の女性が外出するために、鼻歌を歌いながらシャワーを浴びているところからはじまる。

 シャワーカーテンの向こうから手を伸ばし、Pixel 6の画面を濡れた手でタップして(防水だからね)、音楽を前述の「New world coming♪」に切り替える。

 電話がかかってきたら、音声コマンドで「Stop!」と叫び、着信を停止。準備ができて、いそいそと玄関から出ようとしたところで、愛犬を忘れたことに気づき、「Hey Google, turn the lights off, please」(OK、グーグル、電気を消して)と音声コマンドを発し、部屋の電気を消す(Google Homeって、便利)。

 街に出たら、Pixel Budsを耳に装着し、慌ただしく駅に向かう。

 ニューヨークの地下鉄の改札機にPixel 6をかざして通過。ちなみに、ニューヨークの地下鉄はGoogle PayやApple Pay、Samsung Payなどの非接触決済への対応が進んでいる。

 車内では背負ったバッグから顔を出している愛犬といっしょに自撮りをして、そのまま壁紙に設定(「Material You」でデザインも変更)。

 駅を降りて、愛犬にリードを付け、街を歩き出すと、突然、日本人の男性が「この犬の名前は何ですか?」と日本語で話しかけてくる。すかさず、Pixel 6のリアルタイム翻訳で英語に訳して、「Oh, Tink」(あ、ティンクです)と質問に答える(ピーター・パン?)。

 最後は歩道に愛犬を座らせ、Pixel 6で記念写真を撮影。背景に写り込んだ街行く人々を「消しゴムマジック」で消し(笑)、待ち合わせる友だちにメッセージで送信。そして、会場へ。

 長々と文章で説明したが、この流れは言うまでもなく、今回発表された「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」で体験できることを表している。このスマートフォンを使うことで、何が便利になるか、どんなことが楽しめるか、どんな『新しい世界』がやってくるのかを指し示しているわけだ。

 そこには、自分たちの製品を『どこ』で作っているとか、その土地に『どんな思いがあるのか』など、ユーザー自身の体験に無関係の話はまったく出てこない。

 もちろん、さまざまな演算をくり返すことで、多彩な機能やサービスを可能にするスマートフォンである以上、CPUやGPUが何%、速くなったとか、他社より、どれくらい速いといった話も必要かもしれない。

 しかし、それ以前に、ユーザーとしては端的にその製品でどんな体験ができるのかが知りたいわけで、それをわずか約1分40秒のショートムービーで表現したことは、非常にいい印象だった。いつも長々と文章で説明している筆者が言えた話でもないが……(笑)。

 少し話が脱線してしまった。スマートフォンは多くの人にとって、欠かせない持ちもののひとつだ。機種によって、その特長はさまざまだが、もっとも大切なことはユーザーがその製品の機能やサービスを便利に使えることだ。

 GoogleのPixelは同社が提供するさまざまなサービスをいち早く使うためのシリーズとして進化してきたが、デザインを一新した今回の「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」もその方向性に沿い、AIを軸にしながら、しっかりと進化を続けている。

 そして、その進化に必要なものとして、新たに「Tensor」という独自のチップセットまで開発する力の入れっぷりだ。今後、バージョンアップで新しい機能が追加されることも楽しみだが、ぜひ一度、実機を手に取り、「消しゴムマジック」で背景を消すなど、使いやすさを考えた新しいユーザーインターフェイスを体験してみてほしい。