ケータイ用語の基礎知識

第938回:Wi-Fi 6Eとは

Wi-Fi 6のExtended(拡張版)「Wi-Fi 6E」

 「Wi-Fi 6E」は、2020年1月にWi-Fi Allianceが発表した新たなWi-Fiの規格です。6EのEは「拡張された」を意味する英語"Extended"から来ています。

 Wi-Fi 6までのWi-Fi規格は2.4GHz帯と5GHz帯を使用していました。Wi-Fi 6Eは、今後世界各国で新たにアンライセンスドバンド(免許不要で電波を使うことができる周波数帯)となることが見込まれている6GHz帯での利用も可能な「Wi-Fi 6」の拡張版規格となります。

 本連載の881回 Wi-Fi 4/5/6 とはで解説しているように、Wi-Fi Allianceでは、2019年から世代の異なるWi-Fiテクノロジーがひと目でわかるように、Wi-Fi製品に世代名を導入しています。これまで最新の「Wi-Fi 6」は「IEEE 802.11ax」に準拠した製品に付けられていました。

 この「Wi-Fi 6E」も使われている技術的には「IEEE 802.11ax」なのですが、対応周波数として新たに6GHz帯が加わったことから、対応する製品は「Wi-Fi 6E」を名乗ることとなりました。つまり「IEEE 802.11ax」対応で、2.4GHzと5GHzのみ対応の製品は「Wi-Fi 6」、2.4GHzと5GHzと6GHzに対応する製品は「Wi-Fi 6E」対応を名乗ることができるわけです。

 なおこの6GHz帯、正確にはWi-Fi 6Eが使用可能な5935MHz~7125MHzでは、トータル約1.2GHzもの周波数帯域を利用できる計算になります。フルスペックが利用できることになると、80MHz幅の場合14本の、160MHz幅の場合7本の通信チャネルが追加されることになります。その分データ伝送速度が高速化され、ほかの混雑した周波数帯に比べると安定するでしょう。

 Wi-Fi Allianceでは、この通信高速化・安定化によって、HD(高精細度)動画ストリーミングやVR(仮想現実)といった高速データ伝送が求められるアプリケーションへの活用が期待されるとしています。

 また、たとえば狭い会場に非常に多くの端末が存在など、非常に密度が高い輻輳環境であっても、Wi-Fi 6Eデバイスであれば従来を上回るチャネルと大きな容量をフル活用することで、優れたネットワークパフォーマンスを提供しながら数多くのユーザーを同時にサポートすることができる、としています。

 ただし、技術自体はIEEE 802.11axそのもので変わっていませんので、遅延などはWi-Fi 6と変わりません。5Gのような低遅延などに関しては「IEEE 802.11be」としてタスクグループが技術提供フェーズにあるEHT(Extreme High Throughput)などの新規格を待たねばなりません。

米国では今年から発売・運用か、欧州は来年以降

 Wi-Fi 6までのWi-Fi規格は2.4GHz帯と5GHz帯を使用していましたが、2017年頃から、米国連邦通信委員会(FCC)・欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT)では新たな周波数をアンライセンスドバンドとして割り当てる検討が行われてきました。これは、2.4GHz帯と5GHz帯(特にW52)の輻輳状況に加え、将来的にはさらに免許不要無線システムでも広帯域高速通信が必要となるだろうとの観測があったからです。

 2018年に米国では、FCCが5G向けのミリ波帯のオークション制など周波数帯割り当てのルールを発表すると共に、アンライセンスドバンドとして5935MHz~7125MHzの周波数帯を割り当てることを発表しました。

 発表では、AFC(自動周波数調整・Automated Frequency Coordination)システムを導入することなどのルール案も公開されており、問題がなければ2020年の早い時期に帯域の開放、運用が始まる予定です。

 Wi-Fi 6Eの対応周波数が5935MHz~7125MHzなのは、まさしくこの割り当てに対応したためで、製品の販売・普及も世界で最も早くなるだろうと考えられています。欧州では、5925MHz~6425MHzの周波数帯を共用で利用することが検討されており、2021年以降に免許不要帯域として開放されるのではないかとされています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)