ケータイ用語の基礎知識

第939回:船舶・航空機ローミングとは

船や飛行機内でケータイが使える

 船舶・航空機ローミングとは、その名前の通り、船の中や飛行機の中で携帯電話の通話や通信ができるというローミングサービスです。

 どちらも、対応している会社の対応機材かつ対応している便でのみ利用できるというサービスですが、陸地を離れている間も携帯電話の発着信やパケット通信ができるという便利なものです。

 2020年1月現在、船舶では、AT&T Maritime 、TelenorM、MLTMA、On-Wavesなどの事業者が提供しています。豪華クルーズ船では日本でよく知られるプリンセススクルーズなどがAT&T Maritimeのサービスエリアになっています。

 航空機では、本連載の第368回:エアロモバイル とはで紹介した"Aero Mobile"や"on air"といったところが提供しています。

 日本航空や全日空など日系の航空会社はまだサービスされていませんが、日本に乗り入れている航空会社・便で使える航空会社・便がいくつかあります。

 例を挙げると、エアロモバイルではアシアナ航空(韓国)、エールフランス航空(フランス)、エバー航空(台湾)、エティハド航空(UAE)、エミレーツ航空(UAE)、キャセイパシフィック航空(香港)、シンガポール航空(シンガポール)、ルフトハンザドイツ航空(ドイツ)などが、on airではアエロフロート(ロシア)、イベリア航空(スペイン)、エティハド航空(UAE)、エミレーツ航空(UAE)、シンガポール航空(シンガポール)、ブリティッシュ・エアウェイズ(イギリス)などがそうです。

 なお、船舶ローミングでは、公海内を通るときのみ船舶ローミングが稼働し、どこかの国の領海を航海しているときには沿岸国のネットワークを利用することになります。

 また、航空機の場合、詳しい条件は航空会社により異なりますが、航空機が地上にいるとき、航空機の離陸・着陸時など、電子機器の使用を禁止されているとき、航空機が、日本国領空内を飛行しているとき、飛行機内での携帯電話使用を禁止している国の領空を飛行しているときは使用不可となっており、あくまでも利用可能なのは「航空機内での携帯電話の使用が許されている国、もしくは公海上空の安定飛行中」となっています。

 なお、iPhoneやAndroidスマートフォンなど、海外ローミングに対応している機種を利用し、ドコモ、au、ソフトバンクの3大事業者と海外ローミング使用可能な契約をしていれば、申し込み不要で利用することができます。

パケット定額制の対象外、高額請求には注意

 海外ローミング使用可能な契約をしていればそのまま使えるといっても、この船舶・航空機ローミングは、三事業者とも海外定額制パケット通信の対象外としています。

 また、エアロモバイルの回で紹介したように、この船舶・航空機ローミングの基本的な原理は、通信衛星+携帯電話のピコセル(超小型基地局)での構成になっています。そのため、通信費用も非常に高価です。

 たとえば、日本国内の3キャリアと契約している場合、航空機内から音声通話をすると発信1分当たり650円、着信では800円の料金がかかります。

 また、データ通信ではドコモとauは1KBあたり1.6円、ソフトバンクでは最初の100KBまで超過分10Kバイトあたり50円です。これはたとえば、約3MBのJPEG写真1枚をメールやメッセージに添付して送ると5000円近くかかることになります。

 この点に関しては、各事業者とも利用者に注意を呼びかけています。たとえば、ドコモでは図のように、航空機ローミングを検知した場合、SMSで注意喚起を促しています。利用者も、飛行機や船で国から国へ渡る際には、通話や通信のローミング設定には気をつけておくべきでしょう。

図はドコモの場合の、「航空機ローミングが開始されたことを通知するSMS」メッセージの例。

 たとえば、通信も通話も必要ないならスマートフォンは機内モードに、機内Wi-Fiが使えて通信が使えるならそこからWi-Fiだけオンにするといった、必要最小限の機能だけ使うようにこころがけましょう。

 しかし、もし航空機ローミングのある便で機内Wi-Fiを利用する際、スマートフォンのWi-Fiだけ設定してほかの機能をオフにせずにいるとどうなるでしょう。Wi-Fiの電波が不安定で通信できないときに、航空機ローミングでスマートフォンがパケット通信をしてしまい、帰国後にこの通信料金を請求されることになります。

 Wi-Fiのつもりで1Kバイトあたり1.6円の通信費を使ってしまったら、目も当てられない高額な通信費になってしまう可能性もあります。国際線の機内での携帯電話の使用時には頭の隅に留めておくとよいでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)