石川温の「スマホ業界 Watch」

雲行きが怪しい「スマホ新法」、恩恵を受けるのは”アメリカ企業”か

 今年12月に施行される予定の「スマホソフトウェア競争促進法(通称:スマホ新法)」。当初は「アップル以外のアプリストアができ、競争が起きて決済手数料が下がるのでユーザーにメリットがある」、「スタートアップなどが参入しやすい環境が整う」なんて言われてきたが、ここに来て雲行きが怪しくなってきた。

 スマホ新法では、アップルに対して、アップル以外のアプリストアができることを妨げてはならない、さらにはiOSへの機能開放を求めている。

 アップル以外のアプリストアが複数できれば、競争が起き、手数料が下がって、アプリが買いやすくなる、という環境を公正取引委員会では狙っているとされている。

 かつて、日本のキャリアはiモードなど、ケータイ向けにコンテンツやアプリの配信を行うビジネスモデルで成功を収めてきた。

 ひょっとして、日本のキャリアが公正取引委員会を焚きつけて、アップル以外のアプリストアを作り、一儲けしようとしているのではないか。

 「スマホ新法の黒幕は国内キャリア」なのかと疑念を抱いてきたが、先日、国内キャリアの幹部に「スマホ新法ができたら、アプリストアを作るつもりはあったりするのか」と単刀直入に聞いてみた。

 すると「すでにアプリの市場は完全に成熟してしまっている。いまさらアプリストアを作るメリットが何一つない。これが15年前であれば参入を検討しただろうが、いまさらアプリストアをやって儲かるわけがない」と断言していた。

 つまり、キャリアという巨大な資本を持ち、国内にコンテンツプロバイダなど数多くのパートナーを持つキャリアであっても、アプリストア事業には何一つメリットを感じないというわけだ。

 スマホ新法が施行された場合、アプリストアで成功できる日本企業はいるのだろうか。

iOSの機能開放でも真っ先にメリットを受けるのは外資企業?

 iOSの機能開放については、Apple WatchやAirPodsなど、アップルが手がける周辺機器がiPhoneでしか使えない状況を打破しようという動きとなっている。

 他のメーカーの製品がiPhoneやアップルが手がける周辺機器とつながりやすくすることで、購入の選択肢に入れてほしいというわけだ。

 公正取引委員会としては、日本のメーカーやスタートアップにチャンスを与えようと、iOSの機能開放を盛り込んだのだろう。

 しかし、iOSの機能開放をチャンスだと捉え、生まれたのが「オープンデジタルビジネスコンソーシアム」という団体だった。実はこの創立メンバーはグーグル、クアルコム、メタ、ガーミンという外資企業が名を連ねている。

 下手をすると、スマホ新法によってiOSの機能開放が実現したとしても、真っ先にメリットを感じるのは日本企業ではなく、グーグルやクアルコム、メタやガーミンといったことになりそうだ。

 確かにグーグルやクアルコムにとってみれば、iPhoneの「AirDrop」が開放されれば、AndroidとiPhoneでのファイル共有がやりやすくなる。メタにとってみれば、iOSの機能開放によって、ユーザーのデータを取得しやすくなり広告ビジネスを大きくできる。

 ガーミンはウェアラブル機器とiPhoneとの接続性が向上し、様々なデータと連携できるようになるだろう。

 iOSの機能開放によって、iPhoneがアップル製品以外のデバイスとつながり、利便性が上がるのは大歓迎だ。しかし、その代償として、我々の個人情報が他のメーカーに流れていくというのは看過できない。

 iOSの機能開放について、アップルとしては「iPhone内部にある個人情報が盗まれるリスクがある」と警告している。写真やメッセージ、メールなどの個人情報が他社に流出することが十分に考えられるのだ。

 アップルは「セキュリティやプライバシーを大切にしたのであればiPhone、そうでなければグーグルのAndroidを使うという選択肢がある。スマホ新法によって両社が似たような製品になると、結果としてユーザーの選択肢を奪うことになる」という。

 スマホ新法は「グーグル・クアルコム・メタ・ガーミン」VS「アップル」という構図になってきた。

 いま、公正取引委員会が施行に向けて動いているスマホ新法は、日本のユーザーのためではなく、アメリカ企業が儲かるための法律になろうとしている。

 なぜ、公正取引委員会は、日本国民の個人情報を犠牲にしてまでも、アメリカ企業のためにスマホ新法を施行しようとしているのだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。