石川温の「スマホ業界 Watch」
iPhoneの機能開放迫る「スマホソフト競争促進法」にどんなリスクがあるのか
2025年3月25日 00:01
確定申告を終えてホッとしている人も多いだろう。
この春には、iPhoneにマイナンバーカードが搭載されようとしている。おそらく、来年の確定申告はiPhoneを使うともっと簡単、便利に書類を提出でき、すぐに還付金が振り込まれるようになるかも知れない。
iOSが18.4になることで、マイナンバーカードをiPhoneに搭載できそうだ。これまで、プラスティックのマインバーカードをiPhoneでタッチし、暗証番号の入力などが求められていたが、iPhoneに内蔵することで、様々な手続きが最も簡便に進むことになるだろう。
世間的にはマイナンバーカードに対する冷ややかな目が注がれている向きもあるが、実際に役所の手続きをマイナンバーカードで行うと実に便利さを実感できる。
3月24日には運転免許証とマイナンバーカードが紐付く「マイナ免許証」もスタート。将来的には免許証もiPhoneに内蔵できる可能性も高く、本当に財布を持ち歩かなくても、iPhoneやAndroidだけで、買い物ができ、クルマにも乗れそうだ。
iPhoneにマイナンバーカードが搭載され、マイナンバーカードの利活用が高まろうとするなか、その普及に待ったをかけそうなのが、2025年12月19日までに全面施行される予定の「スマホソフトウェア競争促進法」だ。
この「スマホ新法」、モバイルOSやアプリストアなど市場を寡占する企業を規制し、公平な競争を促進することを目的としている。
これまで話題となっていたのが「サイドローディング」だ。iPhone上にはアプリをダウンロードできる場所としてアップルの「AppStore」しかないが、AppStore以外の場所からダウンロードできるようにすべし、というものだ。
問題視されているのが、アップルが設定する手数料が高すぎるというものだ。
ただ、実際は流通しているアプリの85%はアップルに対して手数料が発生していないアプリとされている。
また、小規模なデベロッパーに対しては15%の手数料に留まっているなど、べらぼうに高いというわけではないのだ。ゲームなど大規模に売り上げているデベロッパーが「手数料が高すぎる」と指摘し、「自分たちでアプリを配信したい」と騒いでいるのだ。
すでにヨーロッパではデジタル市場法(DMA)として、アプリストアの開放が義務づけられている。結果として、ポルノアプリが流通するなど、青少年に悪影響が出る状況に陥ってしまった。
これまで、AppStoreによって、24時間、500名以上のレビュワーによってアプリは審査され、合格したものがiPhoneやiPadに配信されていた。その結果、2020年~2023年にかけて、70億ドル以上の不正取引を未然に防げたとされている。しかし、AppStore以外の流通ルートができてしまうと、ポルノアプリや著作権を侵害するようなアプリが流通してしまうのだった。
未成年に対して有害なアプリや、過剰に課金してしまうアプリなども流通するため、子供をアプリから守れないという状況も起きつつあるのだ。
欧州委員会は3月19日、アップルに対して、特定の相互運用義務を遵守するための措置を定め、2つの決定を採択したと発表。iOSに対して、通知や高速データ通信、ペアリングなどの機能開放を求めた。
実は日本のスマホ新法でも、アプリストアだけでなく「OS機能へのアクセス」も求めている。
AirPlayや通知センター、CarPlay、ユーザーが所有するすべてのアップル製デバイスへの接続、連係カメラ、Bluetoothで接続されたデバイス、iPhoneミラーリング、メッセージ、Wi-Fiとプロパティなどの機能に対して、アプリデベロッパーがアクセスできるように開放を求めているのだ。
実はこのOS機能へのアクセス開放についても、すでにヨーロッパでは問題になりつつある。実際にアクセス開放を求めるには、具体的にどのように使うのか、事前に申請する場が設けられている。
ヨーロッパでは、そのリクエストを最も多くしてきたのはアメリカの大手SNS事業者だったという。
そのSNS事業者のビジネスモデルは、さまざまなユーザーの情報を収集し、効率的にターゲット広告を打つというものだ。
彼らが求めるアクセス開放が仮に認められれば、iPhoneのなかにあるメッセージの内容や写真などが見られるだけでなく、画面上で何が起きているか、パスワードのログなどを見ることが可能になるという。
アップルではそうした悪用を防ぐため、ヨーロッパにおいては、ミラーリングや個人情報の宝庫となるApple Intelligenceのサービスを提供していないとされている。つまり、OSとしての機能を提供しないことで、アクセス開放させないという防衛手段を取っているのだ。
日本のスマホ新法では、そのあたりが懸念され、サイバーセキュリティやプライバシーに関連する部分は、新法では除外するようになった。仮にどこかのアプリデベロッパーが機能開放を迫っても、アップルがサイバーセキュリティを理由に拒否することも可能になるようだ。ただ、一方で、公取が判断して、再度、アップルに開放を迫ることもあり得るようだ。
スマホ新法が施行されると、iPhoneでマイナンバーカード機能を使う際に画面に表示された情報をどこかのデベロッパーに盗み見されるという危険性も出てきそうだ。
アップルとして、そうした危険を回避するために、ヨーロッパで行っているように、iPhoneに機能として搭載されているものをあえて日本では使えなくする、という措置も取られるかもしれない。
いずれにしても、スマホ新法によって、ユーザーのデータは危険にさらされる可能性が出てくるだけでなく、iPhoneの利便性がかなり落ちることが予想される。
果たして、スマホ新法は国民のためになるものなのか。施行に向けて、ヨーロッパで起きた事象を改めて検証する必要があるのではないだろうか。
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