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「スマホ新法」ガイドライン発表、アップルの意見に公取委の見解は

 公正取引委員会は29日、2025年12月18日に施行予定の「スマホソフトウェア競争促進法(いわゆるスマホ新法)」の最終ガイドラインを公開した。これを受けてアップルは、自社の立場を示すとともに、日本市場におけるデベロッパーやユーザーへの影響についての見解を表明した。

 アップルによると、最近の調査では、2024年にApp Storeを通じて日本のデベロッパーが得た売上は約467億ドルにのぼり、その90%以上はアップルに手数料が発生しない取引だったという。アップルは、規模を問わず日本のデベロッパーが製品の構築・テスト・マーケティング・グローバル配信を行えるよう支援しており、日本の消費者と開発者に向けたイノベーションへの投資を強調している。

アップルからの意見と公取委による考え方

スマホ新法と競争環境に対する見解

 モバイルエコシステムにおける競争環境について、アップルはサムスンやグーグルといったAndroidメーカーと日常的に競合しており、ユーザーは自由にデバイスを選択していると説明。より良い体験を求めてアップル製品を購入する傾向が見られるとして、こうした競争がイノベーションを促進していると述べた。一方で、規制がユーザー体験を損なってはならないと強調している。

 「スマホ新法」については、公取委が欧州のような規制の失敗を避ける機会となるとの立場を示す。その上で、ユーザーのプライバシーやセキュリティ、青少年の安全を守るための特定の例外規定があるものの、その範囲が狭すぎる可能性や、公取委による解釈が不確実である点について懸念を示している。こうした例外が限定的に解釈された場合、アップルはプラットフォームの健全性維持や信頼確保の面で制約を受けるおそれがあるという。

知的財産と外部誘導への懸念

 アップルはさらに、自社の知的財産やプラットフォーム運営能力への影響も指摘。「スマホ新法」のもとでは、デベロッパーがApp Storeのテクノロジーを利用しながらも、ユーザーを外部チャネルへ誘導して収益化できるようになり、アップルが一切の対価を受け取れない可能性がある。また、競合企業が自社の技術やiOS機能への広範なアクセスを求めることも想定され、技術共有に対して対価や適切な条件がないまま強制される懸念を表明した。

欧州DMAでの経験が背景に

 こうした主張の背景には、アップルが欧州の「デジタル市場法(DMA)」への対応を通じて得た経験がある。同社はDMAに準拠するため、欧州委員会と170回以上の会合を重ね、数十万時間のエンジニアリング作業を経て数百の新APIや機能を開発したとし、大きな投資を行ってきた。

 しかし、2024年3月以降の変更は、プライバシーやセキュリティ、安全性において欧州のユーザーやデベロッパーに深刻なリスクをもたらしたと訴える。たとえば「ステアリング(外部誘導)」に関する要件について、欧州委員会が法文以上の要件を課し、App Storeのビジネス条件にまで干渉してきた結果、ユーザーやデベロッパーにとって複雑でわかりにくい選択肢が増えていると指摘した。

 さらに、「相互運用性」要件により、アップル独自の技術が競合他社に無償で利用される可能性についても警戒を示している。たとえばAirPodsのスムーズなペアリング機能は同社の高度な技術によるものだったが、DMAのもとではより汎用的な技術が求められたため、機能の簡略化や提供の遅延が生じたほか、実際にmacOSでのiPhoneミラーリングを使ったライブアクティビティや、地図機能の一部は欧州では提供されていないとした。

日本での適用に警鐘

 加えてアップルは、DMAの要件により、同社自身も把握していないユーザーの機密データが第三者に開示される可能性があることを深刻に受け止めている。実際に欧州では、Wi-Fiの接続履歴や通話履歴、カレンダー情報などへのアクセスを求めるリクエストを、デベロッパーから約150件受け取っており、その多くが大手企業からのものであった。これにより、市民の行動や位置情報が追跡されるリスクが生じることをアップルは懸念している。

 こうした前例を踏まえ、アップルは同様の要件が日本でも導入された場合、ユーザーのプライバシーやセキュリティが損なわれる可能性があると警鐘を鳴らしている。

イノベーションとユーザー体験を守るために

 アップルは、DMA対応による過去2年間の経験をもとに、日本でも同様の問題が生じることを懸念している。とくに公正取引委員会が欧州委員会と連携する姿勢を見せていることを受け、新たな規制アプローチが、日本のイノベーションを損ない、ユーザーが期待する安全性やシームレスな体験を脅かすおそれがあると訴えている。

公取委は「正当化は個別判断」「優位な利用は不要」と説明

 提出されたアップルの意見に対し公取委は、「犯罪行為の防止」の正当化事由については、刑事罰のある法令に基づく行為の未然防止を指すと説明。不当表示防止法や特定商取引法の違反防止も含まれるとした。

 また、「同等の性能で利用可能」との規定に関しては、指定事業者と比べて有意に劣らない性能であれば要件を満たすとし、他社が優位に利用できる必要はないとした。サイバーセキュリティの確保などを目的とした制限についても、他の手段がない場合には正当化され得ると述べた。

 さらに、スマートウォッチなどのハードウェアは原則として対象外としつつ、アプリとの一体性が認められる場合は例外的に対象となる可能性があると示した。

 公取委は、個別の状況を踏まえて柔軟に判断する方針を示し、利用者保護と公正な競争環境の両立を目指す姿勢を強調した。