石川温の「スマホ業界 Watch」
フジテレビの「F1」奪還が招く、通信キャリアの「上客離れ」 スポーツ配信巡る戦いは続く
2025年12月5日 14:07
料金プランとも密接になる配信サービス
F1と言えば、1987年にフジテレビがシリーズ全戦を放送。90年代にはホンダエンジンを操る中嶋悟、セナとマンセルのタイトル争いといった要素も加わり、F1ブームが巻き起こった。
その後、一気に下火になるのだが、再びブームを起こしたのがNetflixだった。
2019年にF1ドライバーたちに密着したドキュメント番組が配信されると、世界的な人気となり、スポンサーも増加。いまではIT関連として、グーグル、マイクロソフト、メタ、レノボ、AWSといった名だたる企業がチームなどにスポンサーを行い、アップルも映画「F1」を制作し、大ヒットさせた。
アメリカでは2026年からApple TVがF1を配信する予定だ。日本では2017年2月から「DAZN for docomo」がF1を配信し始めたことで、ファンが視聴しやすくなった。それまでWOWOWやフジテレビのCSなどで放送が中心であったが、DAZNによって「アプリであとから視聴する」というのがやりやすくなった。CS放送の場合、自分で予選や決勝を予約する手間があり、面倒だったのだ。
DAZNは、アプリでプロ野球やJリーグなどが視聴しやすいということで多くのスポーツファンを獲得していた。サービス開始当初、ドコモユーザーは月額980円、ドコモユーザー以外は月額1750円と、いまの4200円に比べて安価だったのも人気を押し上げた理由と言えるだろう。
しかし、そんな人気コンテンツを他キャリアが黙って指をくわえて見ているわけもなく、2020年にはKDDIが特定の料金プランとセットにすることで、DAZNの視聴料を割り引く施策を展開しはじめた。
いまではNTTドコモは、DAZNとのセットを売りにする「ドコモMAX」を主力料金プランとして展開。KDDIも料金プランのなかに「DAZNパック」だけでなく、DAZNに加えて、Netflix、YouTubeプレミアムやApple Musicなどをセットにした「ALL STARパック」を提供。多くのサブスクを契約するユーザーにとって、かなりお得な設計になっている。
上客を逃すドコモとKDDI
ただ、今回、フジテレビがF1を国内独占で配信するということは、2026年シーズンからはDAZNではF1は配信されないということだ。事実、DAZNからは「今シーズンでの契約満了を持って配信を一旦終了する」というアナウンスがあった。
F1ファンがF1を見続けるにはFODを契約する必要がある。ただ、フジテレビとしては単なる中継だけでなく、コアなファンに向けたコンテンツやチャンネル用意するようで、いままで以上にF1を楽しめるようになるだろう。
一方で、ハシゴを外された形になったのがNTTドコモとKDDIだ。
両社ともDAZNをパックにした料金プランを提供していたことで、少なからず、F1ファンの加入があったはずだ。日本のF1ファンは平均で48歳と言われており、世界に比べて10歳近く高いとされている。1990年代のセナプロF1ブームのころに中高生ぐらいだった少年たちが、そのまま見続けている人が圧倒的に多いのだ。
F1ファンは、F1を見るためにCSやサブスクの視聴料を30年近く、毎月払い続けてきた。F1を見るためなら、毎月、数千円の支払いに迷いはない。さまざまなスポーツファンのなかでも、F1ファンはサブスクを提供する側からすれば「大お得意様」であることは間違いない。
NTTドコモやKDDIにとってみれば、プロ野球やJリーグのファンに比べて数は少ないが、金払いのいい優良顧客であるF1ファンを逃すというのは相当、手痛いのではないか。
スポーツはコンテンツ事業者にとってもカギ
一方で、DAZNにおいては2026年の「FIFAワールドカップ26」において、日本国内における全104試合の配信権を獲得。日本代表戦においては全試合を無料で配信するという。また、同じく2026年に開始される「ワールドベースボールクラシック」は、Netflixが独占配信権を獲得している。
映画やドラマなど「どこのサブスクでも見られるコンテンツ」では、ユーザーを獲得するのは難しい。やはり「独占的にリアルタイム」で見られるスポーツは、配信事業者にとって最強の武器と言えるのだろう。
今回、フジテレビは数年越しで独占配信権を獲得した模様だ。他社でも配信されているとなると、フジテレビの地上波でF1を放送しても、結局、美味しいところはDAZNに持って行かれてしまう。そうした機会損失を回避するにはF1を「独占」で扱い、「地上波からFOD」という流れを作るのが絶対条件だったようだ。
今後も人気スポーツを奪い合う、コンテンツ事業者たちの戦いは続いていきそうだ。


