石川温の「スマホ業界 Watch」

「MWC Barcelona 2025」、日本企業も通信設備や次世代CPUなどで存在感を発揮

 3月3日から4日間、バルセロナで開催された世界最大級の通信関連見本市「MWC Barcelona 2025」。こうした世界規模の展示会ではここ数年、「日本企業の存在感が希薄になった」なんて嘆く声が聞かれるが、通信業界においては日本企業が健闘していたように思える。

O-RANとミリ波リピーターを出展した京セラ

 まず、9年ぶりにMWCに出展したのが「京セラ」だ。

 京セラは台湾や韓国、インドなどの通信ベンダー6社と「O-RU Alliance」を設立。京セラのCU/DUをオープンに開放し、通信ベンダーとの互換性をきちんと確保することで、Open RAN(O-RAN)環境の普及を目指すという。

 また、KDDIと共同開発したミリ波帯のリピーターも展示。飛びにくいとされるミリ波でも、効率よくエリア化できる技術として期待されている。実際、新宿副都心でのテストでは、リピーターを約20台設置することで、カバレッジを33%から99%まで向上させる事に成功している。

KDDIと共同開発したミリ波帯のリピーターの展示

 京セラと言えば、一般的には「TORQUE」といった端末メーカーというイメージが強いかもしれないが、実際は古くはPHSからXGP、さらにiBurstを手がけるなど、通信設備を手がけてきた実績がある。かつて社内でインフラ事業を手がけてきた人材を再結集することで、Open RANやミリ波などの設備で、世界展開を狙っていく。

富士通は次世代CPU「MONAKA」を出展

 そんななか、MWCで勢いがあるように感じられるのが富士通だ。

 今年も基地局関連の展示を数多く行っていた。最近では、楽天モバイルやAT&Tなど採用実績も増えつつある。富士通の基地局設備は小型でかつ低消費電力といったあたりが評価され、シェアを拡大しつつあるようだ。実際、ライバルであるはずのエリクソンブースにも富士通の無線機が展示されていた。

 AT&Tでは、エリクソンのベースバンドに富士通の無線機を接続。O-RAN対応となっており、AT&Tでは、スモールセルタイプは富士通、マクロセルタイプはエリクソンを採用しているとのことだ。

 富士通ブースで特に目立っていたのが、2027年の商品化を目指して開発している次世代CPUである「MONAKA」だ。

 MONAKAは、2027年時点の一般的なコンピューターと比べて約50%のエネルギー消費削減を目指しているという。AI処理に特化した命令セットをハードウェアレベルで実装し、AI推論処理の高速化に貢献する。将来的には通信キャリアへの導入を目指すようだ。

 「今時、日本企業である富士通がCPUを作っているのか」ということに驚いたが、業界関係者によれば「キャリアのなかにはインテル依存から脱却したいと考えている人が少なからずいる。インテル自体、進化が緩やかになっており、ほかの半導体を求める声もあるようだ」という。

 「脱インテル」の急先鋒として、MONAKAに期待が寄せられているようだ。

2027年の商品化を目指して開発している次世代CPU「MONAKA」

メディアテックブースにシャープの展示

 台湾の半導体メーカーであるメディアテックのブースを歩いていると、シャープの人に声をかけられた。シャープの人もメディアテックブースを視察しているのかと思いきや、なんとシャープが展示を行っているという。

 聞けば、低軌道衛星から5G通信できるアンテナを開発。実証実験が成功し、MWCで展示しているのだという。

 実はシャープとメディアテック、フランスのEutelsat S.A.、エアバス、台湾の国際研究機関であるITRI(Industrial Technology Research Institute)と共同で、低軌道衛星を経由した5G NTN通信の接続に関する実証実験を行ってきたという。ちなみにEutelsat S.Aは、ソフトバンクが出資して話題になったOneWebを手がけている。

 なぜ、シャープが関わっているのか? 元々はシャープとメディアテックの関係者が旧知の知り合いであったというのが発端だというが、実際にシャープが衛星のアンテナ開発を手がけたところ、思った以上にスマホ「AQUOS」の技術が生かされたのだという。

 電波を受信するアンテナを中心とした回路、基板の設計、さらに衛星のアンテナは、稼働時に熱を大量に発生させるが、AQUOSで培った熱処理技術によって、衛星アンテナの高性能化と小型化に成功したとのことだ。

アンテナ開発で「AQUOS」の技術が生かされた

 低軌道衛星からの5G直接通信といえば、スターリンク(Starlink)だ。

 KDDIもスターリンクとタッグを組んで、この春から衛星とスマホの直接通信を実現させる予定だ。ただ、トランプ政権になってからというもの、創業者であるイーロン・マスク氏が暴れまくっており、電気自動車「テスラ」においては全米で不買運動が起きている。まさに、スターリンクもイーロン・マスク氏がリスクになる可能性が出てきた。

 ヨーロッパを中心に「スターリンク以外の低軌道衛星」を求める動きも出始めており、俄然、Eutelsat OneWebに追い風が吹いてきたとも言えるのだ。

 そんなEutelsat OneWebに小型の衛星アンテナを開発してきたシャープにとっても千載一遇のチャンスがやってくる可能性も出てきた。

 インテルやスターリンクなど、巨人の足下が揺らぐなか、日本企業にもチャンスが到来してきたとも言えそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。

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