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5Gの通信デモからIoT機器まで、最新の無線機器が集結

 5月24日~26日の3日間、東京ビッグサイトで無線通信技術関連の展示会、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2017」と「ワイヤレスジャパン 2017」「ワイヤレスIoT EXPO 2017」が併設で開催された。

NTTドコモは3.5HGz帯対応スマホを展示

今夏の788Mbpsに対応するモデル

 NTTドコモは会期初日に発表されたばかりの夏モデルのうち、ドコモとして初めて3.5GHz帯に対応するスマートフォン3モデル「Galaxy S8」「Xperia XZ Premium」「AQUOS R」を展示している。

 ドコモの3.5GHz帯はTD-LTE方式で提供されている帯域で、現状はWi-Fiルーターのみが利用している。現在の最大速度は3月発売の「Wi-Fi Station N-01J」が実現する下り682Mbpsで、これは4×4 MIMOと256QAMを使い、3.5HGz帯の20Hz幅×2と1.7GHz帯の3波のキャリアアグリゲーションで実現している。

3.5Ghz帯の基地局アンテナ

 3月時点で導入された4×4 MIMOは「TM9」というバージョンで、仕様上は8×8 MIMOにまで対応している。一方、8月からは4×4 MIMOまでにしか対応しない「TM4」に切り替えることで無駄を省き、最大速度を788Mbpsにまで増速させる予定となっている。TM4への切り替えのタイミングまでに基地局がアップデートされ、各端末にもソフトウェアアップデートが提供される。

 ブースでは3.5GHz帯の基地局側の無線設備も展示されていた。スモールセルでは1台の無線装置に4つのアンテナを接続できMIMOを構成できるが、マクロセルでは1台の無線装置に2つのアンテナしか接続できないため、2台の無線装置でMIMOを構成しているのだという。

5Gまでの高速化
3.5GHz帯用アンテナ

KDDIは8K映像などで5Gをデモ

実証実験で伝送された8K映像

 KDDIは、先日行なわれた5G通信の実証実験の展示を行なっている。実証実験は新宿でバスに5Gの移動機を搭載し、ルート上に設置された5G基地局アンテナとデータ通信を行なうというもの。バスには8Kカメラとエンコーダーが搭載され、バスから撮影された8Kの動画がリアルタイムで転送される。展示では転送後に保存された動画が8Kテレビで再生されていた。動画のビットレートは100Mbps以上だという。

 この実験で使われている28GHz帯は、直進性が強く、アンテナ間に電柱や樹などの遮蔽物があると転送速度が落ちるというレベルだが、とくに動画のコマ落ちなどは起きていなかった。伝送波はビームフォーミングする必要があるが、街中を走る車の速度でも追従できていた。

胸に装着するセコムのウェアラブルカメラ。おそらくTORQUE G02と思われる。

 セコムと共同で行なわれている研究についても展示されていた。こちらはセコムの警備員が身につけるウェアラブルカメラからの映像をリアルタイムで配信する経路として5Gを活用するというもの。ただしウェアラブルカメラ自体はauの現行スマートフォンを流用したもので、5G通信には対応しないため、いったんWi-Fiで現場中継局に転送し、そこから5Gでセンターに転送する、といった活用方法が提案されている。5Gを使うことで、固定回線が引けない環境でも、複数の警備員が撮影する4Kクラスの映像を複数同時に転送できることが提案されている。

 5Gは主に大容量データ通信と低遅延、多端末接続の3つの特徴があるとされている。KDDIではこのうち、大容量データ通信の部分にフォーカスを当て、先行して研究開発をしており、それを活用するアプリケーションとして、動画転送をデモしているというわけだ。今回のイベントではKDDIに限らず、動画伝送で5Gのデモを行なう企業が多かった。

8K伝送に使われているエンコーダー。映像だとエンコード時に遅延が発生するので、5Gの低遅延というメリットについては活かしづらい

 5Gの低遅延については、デモをしづらいということもあるが、低遅延を活かせる用途がコンシューマー向けではなく、遠隔医療やドローン制御など専門業務が多いこともあり、そうした用途とニーズ、マーケット性を含めて研究開発中で、今回の展示でも低遅延をアピールするデモはほとんど見られなかった。

 5Gの多数端末接続については、IoT機器での活用が期待されているが、こちらもデモとしてはほとんど見られなかった。同様の考え方はLTEのカテゴリー0で規格化されており、技術的には普及しエリアも広いLTEを使う方が実用的なこともあり、5Gでの特徴としては各社アピールしづらい面もあるようだ。

スマートブイの構成。一次電池で約1カ月稼働する

 KDDIのブースでは、漁業を支援するIoT機器「スマートブイ」も展示されていた。これはLTE通信機能を持ったブイで、漁場などの海中の状態をサーバーに伝送する。実際にその場に行かなくても海の状況がわかるため、出航前にその日の良好な漁場を推測したりといった用途が想定されている。

 こうしたIoT機器は、習熟した従業者が高齢化する漁業や農業分野での活用が期待されているが、人口が少ない(あるいは人の住んでいない)エリアで運用されるので、5Gのような人口密集地を優先してエリア化される新技術はあまり向いていないという面もある。

グルグル視点が動く様子はテレビゲームにしか見えない

 少し変わった試みとしては、KDDIは「8Kフリーナビゲーションシステム」をデモ展示していた。これはサッカーの試合を四方の固定8Kカメラから撮影し、それらの映像を合成して、視聴者が自由に観戦する視点を動かせるというもの。テレビゲームのように視点を自由に動かしたり、VRゴーグルでゴールの中から見る、というデモが展示されていた。

 8Kカメラを使っているものの、その一部を切り出して処理しているため、4Kテレビで見ても選手の映像はやや荒く、またカメラが撮影できない直上に近いアングルからの映像は不自然になる。しかし選手やボールの動きはなめらかかつ自然で、試合観戦には十分なクオリティだと感じられた。

 このシステムの実用化は2020年ごろを目指しているという。専用のセットトップボックスを各家庭のテレビに接続して使うようなイメージで、5Gの伝送速度を活用するアプリケーションとしても紹介されているが、どちらかというと「auひかり」のオプションサービスといった提供形態が想定される。

さまざまな「5Gデモ」が集結するパビリオンも

パビリオン一角に並んで設置されているアンテナ群

 ワイヤレス・テクノロジー・パーク2017の一角には、「5G Tokyo Bay Summit」というパビリオンが設けられ、そこで各社が5G関連の技術展示を行なっている。NTTドコモも5G関連はそちらでの展示がメインで、5Gを使ったさまざまなアプリケーションが展示されていた。

8K伝送に使われている端末。冷蔵庫っぽい外観(背は低い)

 NTTドコモは8K映像や複数の4K映像を5G経由で転送するというデモを行なっており、実際に来場者が往来するところに冷蔵庫ほどの大きさのある試験端末が置かれていた。このあたりのデモは、東武鉄道と共同で東京スカイツリーの「5Gトライアルサイト」で一般にも公開されている。

画面に映っている人物は、遠隔地でスキャンされた3Dモデル。たまにポリゴンが荒れる

 NTTドコモは高解像度映像伝送以外のデモも行なっている。たとえば映像処理技術を開発するCRESCENTと共同で開発している「Free Point View Live」は、専用システムで人物などのスキャンして3Dモデルをリアルタイムで生成し、それをVRゴーグルなどで視聴できるというもの。会場ではHTC Viveを使い、遠隔地にいる人物に音声で指令を与えてVR空間内のスイカ割りをしてもらう、というデモが行なわれていた。

3Dスキャンシステム。かなり大規模。ドコモの発表会では吉澤社長が3Dモデル化されていた

 こちらは伝送されているのは映像ではなく、3Dモデル、つまりポリゴンによる3D形状とそこに貼り付けられるテクスチャからなる3Dデータで、合計で数百Mbpsと、8K映像並みの容量となっており、モバイル回線では5Gが推奨されるアプリケーションとなっている。

 VRゴーグル向けの全球映像の伝送を展示する企業も多い。現在のVRゴーグルの解像度は両目を合わせて4Kに満たないが、映し出されるのは映像データの一部を切り出しているため、十分な解像感を得るために全球映像は4K以上の解像度となることが多く、伝送には5Gのデータ転送速度が必要となる。

中央下、ノキアとNECのロゴパネルの間にあるのがOZOのカメラ。映像は右上のアンテナから中央のアンテナまで5Gで転送されていた

 ノキアは同社の全球カメラ「OZO」の映像を5G経由で伝送し、VRゴーグルで視聴するというデモを実施していた。カメラは会場の隅に設置されており、ほぼリアルタイムの映像を視聴できるが、全球カメラからの映像は、内部の複数台のカメラの映像をつなぎ合わせるスティッチ処理が必要なため、その処理のせいもあって10秒程度の遅延が生じていた。

黒背景で見えにくいが、円筒状になっているパナソニックの全周カメラ。これとは別にセットトップボックス形状のベースユニットを組み合わせる

 全周カメラとしては、パナソニックも「360度ライブカメラ」を展示している。こちらは水平方向360度に4つのカメラを搭載するシステムで、それぞれからの4K動画をスティッチ処理して配信するベースユニットとセットになった業務向け製品。映像は最終的に4K解像度となるので、モバイル回線経由で運用するには5Gが必要になると想定されている。

 変わったところでは、NTTドコモとフジテレビが共同で開発しているARシステムも展示されていた。こちらはマイクロソフトのHoloLensとLenovoのPhab 2 Proを使っており、ブース内のジオラマ上にARモデルを表示させ、ゴルフを観戦するという内容のデモが行なわれていた。

HoloLens。こちらのデモは大人気で、デモ参加の行列が絶えなかった
Phab 2 Proのデモ。こちらは目立たない形だったが、使いやすく、表示のズレもない

ちょっと変わったLTE端末やIoT機器

 5Gのような最新通信技術以外にも、併設開催のワイヤレスIoT EXPOなどでは、IoT機器の展示も見られたので、その中から目に付いたものをいくつかピックアップしてご紹介する。

MediaTekのリファレンス端末。各所に穴が開いていて、アンテナやI/Fケーブルがつなげられる

 5G Tokyo Bay Summitパビリオン内では、チップセットメーカーのMediaTekが5Gに向けた取り組みを紹介していた。同社はどちらかというと安価なスマホ向けの安価なチップセットを中心に展開しているが、次世代の通信技術対応も積極的に推進している。

 MediaTekは自社のチップセットについて、スマホ開発のベースにできるリファレンスデザインを公開している。スマホメーカーはそのリファレンスデザインを参考に、不要な機能を削るだけで最低限のスマホが作れてしまうという仕組みだ。製品を作る前に実機で検証するためのリファレンス端末が展示されていた。

IP501H。見た目や操作感はトランシーバーそのもの

 業務向けから個人のレジャー向けまで、さまざまなトランシーバー製品を展開するアイコムは、今年2月より販売開始したIPトランシーバー「IP501H」を展示している。これはプッシュトゥートーク型の音声コミュニケーションデバイスで、使い方は特定小電力トランシーバーと変わらないが、3G/LTE通信に対応しており、アイコムのサーバーに接続し、日本のどこにいても音声コミュニケーションできるようになっている。

 業務向けの製品で、アイコム自身がMVNOとなり、アイコムのサーバー使用料込みで月額2000円程度で提供している。前モデルの「IP500H」はLTEのみの対応で、au網のMVNOサービスとして提供されていたが、NTTドコモ網も使いたいという要望に応え、IP501Hでは3Gにも対応し、au網に加えてNTTドコモ網でも利用できるようになった。

グループ内の端末位置をトレースしたりもできる

 au網のMVNOはauと直接取引しているが、NTTドコモ網のMVNOはOCNがMVNEとなっていることもあり、今回もOCNブース内で展示されていた。OCNのデータセンターとアイコムのサーバーを直結することで、コミュニケーション内容はインターネットを経由せず、回線自体が認証に使われるのでアカウント入力などの必要なく利用できる。

 こうしたIPトランシーバー分野ではアイコムは後発だが、トランシーバー事業ではアイコムは半世紀以上の歴史を持つ老舗かつ最大手であり、ハードウェア設計のノウハウや販売網の強み、周辺機器の充実度を活かし、IPトランシーバー分野でもユーザーを増やしているという。

 このほかにもOCNブースではIoT機器もいくつか展示されていた。

日曜大工感覚で3G端末が作れるanyPi。モジュールはUSB接続なのでケーブルが外に伸びている

 「anyPi」は汎用マイコンボードRaspberry Pi向けの3Gモジュールセット。Rapsberry Piと3Gモジュールの「3GPi」、インターフェイスモジュールなどがセットになっている。価格はオープンプライスで、OCNやソフトバンクのIoT機器向け回線契約(年1.5万円)と一緒に購入できる。3GPi単体でも販売されていて、Amazonでの価格は2万9800円となっている。

GPS BoT。とにかくシンプルな製品となっているのが特徴

 BsizeはOCNのネットワークを使った機器として、位置情報共有デバイス「GPS BoT」を展示している。これは3G内蔵の機器で、GPSやWi-Fi、3G基地局からの位置データをサーバーに送り、ほかの機器で共有するという、いわゆる見守り系のデバイス。見守り機能以外は搭載しないシンプルさが特徴で、端末自体が5800円、月額料金480円(通信料込み)という安価な価格設定となっている。

 今後は同じようなシンプルな小型デザインで、人感センサやビーコンなども製品化を予定しているという。なお、GPS BoTはスマホアプリから購入できる。

VOCE-rable egg

 直接インターネットに接続するIoT機器ではないが、コンシューマー向け製品として、OCNブースではフォルテが骨伝導スピーカーのBluetoothヘッドセット「VOCE-rable egg」を展示していた。こちらの製品は大きめのアンプを使うことで、骨伝導ながら十分な音量と解像感のある音を出力できるのが特徴。Yahoo!ショッピング内の公式ストアにて9800円で販売されるが、期間限定で6800円となっている。

耳で個人認証を行うNECのヒアラブルデバイス試験機

 耳に装着するデバイスは、「ヒアラブル」としてウェアラブルデバイスの形式として注目されているが、NECはそうしたヒアラブルデバイス向けの技術を展示している。人間の耳穴は個人ごとに形状が違い、音の反響にも個人差があることが知られている。そのためオーディオメーカーは、耳内の反響を測定し、音質を自動調整する機能を持った製品も展開している。

 NECではこの個人差を使い、個人認証に使う技術を開発した。これにより、耳に装着するデバイスで容易に生体認証が利用できるという。このほかにも各種センサや地磁気を測定し、ショッピングモールなどの大規模施設内での自己位置を測定する技術も開発している。これらの技術はNEC自身のコンシューマ向け製品に採用するのではなく、他メーカーにライセンスすることを想定しているとのことだ。