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5Gで自由視点のサッカー観戦、月面ローバー視点のVR――KDDIが披露

 2020年ごろに商用化するという、いわゆる5G(第5世代)のモバイル通信技術では、どんなサービスが実現するのか――KDDIが考える、5G時代のサービスとは何か、報道関係者に披露された少し先の未来をご紹介しよう。

自由視点でのサッカー観戦

 多くのスポーツ中継では、試合会場内のさまざまな場所にカメラが設置され、それぞれの視点から試合を楽しめることが多い。

 これまでは映像の切り替えという形だったが、それをさらに進化させ、4カ所に設置されたカメラ視点の映像(8Kサイズ)を通信で送り出し、さまざまな視点から観戦できる映像を合成して楽しむというデモが披露された。「自由視点でスポーツ観戦」と紹介されたデモはサッカーの試合映像をもとに生成されたもので、試合中の選手たちを好きな視点から観戦できる。

 実際に目にすると、まるでサッカーゲームのような印象を与えるが、これはカメラの台数を増やし、合成時に補間するデータが減れば、より自然な映像になる可能性があるという。5Gの高速大容量を活かしたサービスイメージで、近未来感あふれる内容だ。

月面ローバーの視点でVR

 KDDIでは、現在、米グーグルが主催する月面探査レースに参加する「HAKUTOプロジェクト」を支援している。今回は、そのHAKUTOプロジェクトで打ち上げられる月面ローバー「SORATO」に搭載するカメラの視点を、VRゴーグルで楽しむ……というデモも用意されていた。

 それも、ただVRゴーグルで映像を楽しむというだけではない。視聴中、バスに乗ることで、バスの位置情報と加速度センサーの情報を、5G経由でサーバーへ送信。その移動情報を元に映像を生成し、再び5GでVRゴーグル(Gear VR)に映像を送るという流れ。バスが進めば、VRゴーグル上の月面ローバーも進み、バスに揺られる動きと絶妙にマッチする。まるで月面にいるかのような感覚でローバーの走行映像を楽しめる仕掛けで、将来的にはMR(Mixed Reality)での活用も視野に入れる。

4Gなら2分、5Gなら1秒

 かつてと比べ、格段に高速な通信が可能になったモバイル通信サービスだが、現在の4Gと比べ10倍~20倍の高速化と、5Gでさらなる高速化が実現される見通しだ。

 では、実際、どの程度スピードが異なるのか、そのわかりやすい例として今回のデモでは、9本の映像を同時にダウンロード。

 全てのファイルであわせて4GB程度という映像を、まずは4Gモードでダウンロードしたところ、少しずつ、プログレスバーの表示が変わっていき、なかなかダウンロードは完了しない。そこで5Gに切り替えると、ほんの一瞬でダウンロードが終わってしまった。もし全てを4Gでダウンロードすると所要時間は約2分かかるとのことだが、5Gでは約1秒で済む。通信速度は、4Gでおよそ30Mbps程度、5Gは3.5Gbps(今回のデモ環境では最高13Gbpsを記録しているとのこと)だった。

28GHz帯、800MHz幅で実験

今回はバスに乗って移動しながら5Gで通信するという内容
高さ10mのアンテナから新宿の街へ5Gの電波を発射

 KDDI社内で5G関連の取り組みをリードするモバイル技術本部シニアディレクターの松永彰氏は「5Gでワクワクしてほしい。安心安全な社会にも貢献ができる。そして教育など社会の基盤整備、産業振興も実現したい」と説明する。これまででは実現できなかったことを実現し、制約があったことを取り払い、自由に楽しんでもらえるようにすることが目標だと語る。

松永氏

 パートナーやユーザーとともに新しいサービスを創ることが重要と語る松永氏は、高速・低遅延といった技術的な特徴から、京急電鉄などと進める「スマートステーション」、大林組と建機にカメラを取り付けて遠隔で操作できるようにする「ICT施工」、セコムと警備員にカメラを身に着けてセキュリティに活かす「高度セキュリティシステム」などが既に実証実験として着手していることを紹介する。また5Gでの上り(アップリンク)の高速化により、8Kサイズの高精細映像の伝送といった使い方にも期待がかかる。

 2月には、KDDI本社がある飯田橋周辺で、28GHz帯を使い、車両に端末を乗せて、2つの基地局間のハンドオーバー実験に成功している。この実験は5Gが実際に使われる環境で、5Gの性能を確認できたことが大きいという。

 今回の実験では、5Gの特徴のうち、高速/大容量、そして低遅延といった点を活用した形。通信事業者としては、28GHz帯というこれまでにない高い周波数で、いかにエリアを設計するかという点で実フィールドでの実験は高い成果を得たと感じてるよう。たとえば雨天時には果たして電波が届くのか、といった疑問もあったようだが、問題がないとの知見も得られたとのこと。

 実験では、基地局のすぐそばにサーバーを置くなど、いわゆるエッジコンピューティング(ユーザーに近い場所でデータを処理する手法)に近い構成となったが、商用化に向けて、用途にあわせてコアネットワークを切り分ける「ネットワークスライシング」という概念も5Gでは採り入れられており、今後KDDIではビジネス面での展開も見据えながら5Gの技術検討をさらに進めていく。