特集:5Gでつながる未来
KDDIが目指す5Gの“循環型ビジネスモデル”、高橋社長が「KDDI 5G SUMMIT」で語った未来
5Gの発展に向け、LG Uplus・NVIDIA・JALと連携
2019年6月27日 19:48
令和元年は5G元年、ラグビーワールドカップでトライアルをスタート
高橋氏は、まず初めに、「5Gは今年からトライアルが始まり、今年は令和元年であり5G元年でもある」と述べた。政府などが進めている「Society 5.0」を実現するためには、5Gがインフラとして大切であり、デジタルトランスフォーメーションを加速させる役割もあると語る。そうした革新のなかで重要なのは「何のためにその技術を使うか」ということも加える。
では5Gの現況はどうなっているのか。KDDIの5G向け周波数は、「Sub-6」と呼ばれる3.7GHzと4.5GHzのなかで100MHz幅、28GHzのなかで400MHzが割り当てられた。これは、総務省に対し、積極的な取り組みを提案したことが評価されたという。グローバルにおける5Gの一般的な周波数を獲得できたことで(自社の周波数に合わせた仕様変更をせずに済むことから)端末やインフラ設備の調達価格を抑えられる。
5Gのサービス開始時期は2020年3月で、2024年度末までの基地局構築数は、楽天モバイルを含めたMNOの中では最大となり、4万局越えを予定している。あわせて、2019年秋開催のラグビーワールドカップにあわせてトライアルを行いたいと意気込んだ。
まずは4Gと5Gのハイブリットなネットワークで展開
今後の展開は、4Gネットワークを利用し、2019年秋から5Gを意識したサービス展開を「プレ5G」として行っていくという。実際に5Gをサービスを開始する2020年春からは、4Gネットワークをベースとし、5Gエリアをスポット的に展開していき、エリアの広い4Gと、速度の出る5Gの“ハイブリット運用”でサービスを提供する。2022年3月には5Gのネットワークが広がっていくという。
そのような5G展開の道しるべとして、データ容量の上限がなく定額制の「auデータMAXプラン」の提供に至った。ハイブリットなネットワークで定額制サービスを提供することで「世の中やビジネスの作り方が変わる」と述べ、一般ユーザーに対しては新しいサービス、法人向けにはあらゆる分野に通信が溶け込んでいくという。
先行して5Gサービスを提供する韓国、すでに100万人契約
高橋氏は、続いて、海外における5Gの状況について説明した。米国と韓国ではどちらがサービスを開始するのか数時間レベルの戦いがあり、韓国が先行した。続いて、中国や欧州で2020年に商用化される。
5Gサービスを先行して提供している事業者として、LG UplusのCorporation Executive Vice President / Business Solution Divisionの崔 周植(チェ ジュシク)氏が登壇し、韓国での取り組みを紹介した。
LG Uplusは、5Gについて全社的な組織を作って取り組んできたという。2018年6月に政府からオークションで電波を購入、2018年10月から商用ネットワークをソウルから構築してきた。2019年4月には5Gスマートフォンの販売を開始している。
5G導入直後は、電波品質について問題を抱えたが、時間が経つにつれ解決し、5Gユーザーは、LTEユーザーの3倍ほどのデータを使うまでになったという。また、販売して2カ月で韓国国内の5G契約者数は100万人を超えた。端末の販売シェアでも、3割程度のユーザーが5G対応端末を選ぶという。
2019年末には5G人口カバー率約93%、韓国国内では400~500万契約を見込む
LG Uplusは、5Gサービスを、一般ユーザー向けにはVRやスポーツ観戦などで提供している。VRとARのコンテンツは1500作品ほど用意され、7割は3Dコンテンツとなる。法人向けには、さまざまなサービスが考えられたというが「コネクテッドカー」「スマートドローン」などの5分野を重点的に取り組んでいくという。
法人向けの5G通信モジュールは年末ごろに開発が完了する予定で、来年から法人向けのサービスがスタートする。2019年末には、5Gの人口カバー率が約93%になると予測し、5G対応スマートフォンのラインナップも拡充されることで、韓国国内の5G契約者数は400~500万人になると見込む。
KDDIとLG Uplusがスマートドローンプラットフォームを共同開発
あわせて、KDDIとLG Uplusがスマートドローンプラットフォームの開発に向けて業務提携をすることが発表された。両社らはこれまでも通信サービスの面で長い付き合いがあり、今後、グローバルでのドローン市場の発展に向け、取り組んでいくという
提携により、インターフェイスの共通化が行われ、アプリケーションの相互利用、ドローン周辺機器の共同開発、通信モジュールなどの共用化検討が行われる。
5G時代は、サブスクリプションモデルから循環型モデルへ
高橋氏は、5Gが普及することでビジネスモデルが変わり、顧客との関係性が再構築されるのではと指摘した。これまでは、売り切りモデルの「フロー」、そして現在の定額制サービスモデルの「サブスクリプションモデル」でサービスなどが提供されてきた。5Gが普及すれば、データと価値提供が循環する「リカーリングモデル」が実現すると説明する。
リカーリングモデルでは、IoTで集まったデータが5Gを経由し、AIによって分析されることで循環し、実現していくという。データの循環が起きれば、顧客と法人の関係が深くなり新しい価値につながる。そのようなモデルを5Gを通して実現していきたいと意気込んだ。
また、日本では100年以上続く企業が他国に比べ多い。持続的成長を志向する日本企業にとってリカーリングモデルは、最適であり、5Gは重要なプラットフォームではと指摘する。
リカーリングモデルは、信頼性の高いネットワークと革新的な技術で実現
同氏は、リカーリングモデルを日本で実現するキーワードとして、「トラステッド(信頼性)&イノベーティブ(革新的)」を掲げる。
トラステッドの面として、KDDIは、これまでIoT領域で20年の提供実績がある。その信頼性を生かし、トヨタ自動車にテレマティクスサービス、グローバルにIoTネットワークを提供する「IoT世界基盤」を展開していることを挙げた。
イノベーティブの面では、KDDIグループのソラコムが実現するIoTサービスや、パブリッククラウド上にコア機能を実現するネットワーク仮想化技術「SORACOMモバイルコア」などを挙げた。
5G時代のパートナーシップ、キャリア間でも“競争と協調”
続いて、高橋氏は、5G時代の新しいパートナーシップについて説明した。オペレーター(通信事業者)間でも“競争と協調”が起きるのではと予測する。具体的には、サービスや料金面では“競争”をしていくが、5Gのインフラでは必要に応じてシェアをする“協調”が起きるということだ。
また、パートナーシップを作るうえでは、IoT世界基盤といった取り組み以外にも特化型のプラットフォームが必要なのではと指摘する。そこで同社は、さまざまな企業とともに「スマートドローン」と、「MaaS」に向けたプラットフォームを用意する。
KDDI DIGITAL GATEにNVIDIAのGPUが導入、2019年秋には大阪・沖縄にオープン
続いて、KDDIのパートナーであるNVIDIAの日本代表兼米国本社副社長 大崎真孝氏が登壇し、同社のAIの可能性について紹介した。
AIの学習から実行といった循環させる流れは、リカーリングモデルであり5Gによりさまざまな分野でのAIの活躍が期待できるという。そこで、同社のGPUがKDDIのビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」に導入されることが発表された。この取り組みにより、5GとAIを利用したスタートアップの支援が行われる。
あわせて、高橋氏からKDDI DIGITAL GATEが東京 虎ノ門にある施設に加え、大阪と沖縄に、2019年秋にオープンされることが明らかにされた。虎ノ門の施設と同じようにスタートアップ企業の支援や、法人向けに新たなビジネスソリューションの創出が行われる。
同施設以外にも、スタートアップを支援する仕組みとして、Googleなどのパートナー連合からの支援も行われる。また、広告事業を手掛けるSuperShipなどのグループ子会社とも連携し、スタートアップ企業への出資の“目利き”などを行う。
また高橋氏自身も、パートナーと挨拶をする際に、相手企業の中期計画を見て、それぞれが持つ経営資源を組み合わせて何が実現できるか話し、KDDI DIGITAL GATEに誘いかけているという。
JALとの連携を強化、空港整備支援などの実用化を目指す
NVIDIAに続き、パートナーと企業との取り組みとして、すでにKDDIと、5Gを利用した実証実験を行っている日本航空の常務執行役員 イノベーション推進本部長 西畑智博氏が登壇した。高橋氏とは、EZwebで航空券を購入できる仕組みを実現したときからの付き合いだという。
同社は、今後のイノベーションについて「かっこよさではなく、本当につかえるものを」というコンセプトの「地に足のついたイノベーション」を実行する。その取り組みのため「JALイノベーションプラットフォーム」を創設し、イノベーション拠点である「JAL INNOVATION Lab」を設立した。
5Gなどのキーテクノロジーを利用し、顧客向けだけでなく、整備などのオペレーション業務にもイノベーションを起こすという。具体的には、KDDIと実証実験が行われたタッチレス搭乗ゲートや、ARグラスを利用した整備作業の遠隔支援などだ。
あわせて、両社らの研究施設であるKDDI DIGITAL GATEと、JAL INNOVATION Labがサービスの研究開発、実用化に向け、提携の強化が行われることが発表された。西畑氏は、今後、KDDIに対して端末や基地局などのインフラの普及の早期化を期待していると述べた。
最後に高橋氏は「5Gや、ビックデータなどをそういったキーワードだけをしゃべる人間は信じちゃいけない。これからは、実現できるユースケースを語れるような時代にしていきたい。リカーリングモデルをみなさんと一緒に実現するためにはパートナーの力が必要で、みなさんとパートナーシップを構築していきたい」と締めくくった。
【お詫びと訂正 2019/06/28 12:25】
記事初出時、LG Uplusの5G契約者数を100万人、今後の見込みを400~500万人と表記していましたが、これらの数字は、正しくは韓国国内の数字です。お詫びして訂正いたします。