インタビュー

KDDI高橋社長が語る新料金プランの狙い、5G時代への挑戦とは

就任から1年、新たな経営プランが指し示す未来

 完全分離プランの義務化、そして5G時代に向け、KDDIが新料金プランと新たな中期経営計画を発表した。

 本誌では、今回、KDDIの高橋誠代表取締役社長にインタビューする機会に恵まれた。限られた時間だったため、直近の話題全てに触れることはできなかったが、新料金プランに込めた狙い、15日に発表された新たな中期経営計画について聞いた。高橋社長は新料金について「NTTドコモも定額制や7GBには踏み込みづらいのでは」とコメント。また今後の課題は、高額化が見込まれる端末価格だとも語った。

KDDI高橋社長

5G時代見据えた料金、「最初に出したかった」

――5月13日の新機種発表会で、新たな料金プランが発表されました。

高橋氏
 どこよりも早く、(使い放題の)「auデータMAXプラン」を発表できてよかったと思っています。業界の中では、一番最初に出したいという想いが強かったですから。

――確かにこのタイミングなのかと驚きました。

高橋氏
 3G時代にも、auが最初に定額サービス(EZフラット)を投入した際にも、「これが出てくるとは思わなかった」という反応でしたが、今回も同じようなリアクションをいただいています。皆さん(5Gのプレサービスが始まる)秋か、正式サービス開始のタイミングだと思っていたのではないでしょうか。

――確かにそうですね。先端感という面で、最初を目指した格好でしょうか。

高橋氏
 (通信と端末代金の)分離プランというものも、既に(2017年導入のauフラットプラン/ピタットプランで)口火を切って、先頭を走っていたのです。

 先駆者でやってきたのですが、先日ドコモさんが発表されて、今、先駆者のように捉えられているところがあると思います。でも彼らは2年も遅れて発表しているわけです。ちょっと悔しいよなあということで、「auデータMAXプラン」を目玉に発表したということです。

Twitterには高橋氏自身が交渉

 それから「auフラットプラン7プラス」は、一番よく利用されているところに、ゼロ・レーティングもあわせたプランです。たとえばゼロ・レーティング対象サービスのTwitterは、自分で交渉したんですよ。

――え、高橋社長自らですか?

高橋氏
 してるしてる。Twitter Japanの笹本裕代表取締役は、昔からのお知り合いなんです。知り合った当時、笹本さんはMTVの社長で、その後、マイクロソフト、そしてTwitter。で、「やりましょうよ」と言って。

――そうだったのですか。しかしゼロ・レーティングそのものは、ソフトバンクが先行していたところがあるものの、大手キャリアが手がける時代になったのか、と思うところもあります。

高橋氏
 逡巡してたんだけど、結局、ソフトバンクさんが導入されましたね。現時点では法制度上の明確な線引きがなく、いわばグレーな状態ですが、オープン性、公平性をしっかり確保していればいいと思っています。

 ちょうど総務省の包括的議論の対象にもなっており、その方向が打ち出されれば従うことになります。まずは「auフラットプラン7プラス」でやってみようと。

7GBプラン「刺さると思う」

――13日の発表では、「auデータMAXプラン」だけではなく、7GBの「auフラットプラン7プラス」もあわせて発表されたという点でも攻めの姿勢を印象づけました。

高橋氏
 「auフラットプラン7プラス」は結構刺さると思うんだなぁ……。「auデータMAXプラン」ももちろん重要で、あれを5Gにどう持っていくのか、というところもありますよね。

――他社も今後対応してくるでしょうか。

高橋氏
 ドコモさんは追随できないと思うんですよね。あそこに手を入れるともっと減収が膨らむのではないでしょうか。MAXも7GBも踏み込みづらいのでは?

 ソフトバンクさんは微修正って仰っているようなので、そうなんでしょうね(笑)。

ドコモ対策は?

――つい先日、完全分離プランが義務化する法律(改正電気通信事業法)が可決されました。携帯電話の料金プランに関しては、ある程度発表されたとは言え、しばらくはまだ揺れ動くのでしょうか。

高橋氏
 ドコモさんが5月16日に発表会を行う予定で、その際に分離プランを前提にした販売施策について案内するというご予定ですよね。そこで何かしらの新たな取り組みが出てくるのでしょう。

 そして今回可決された法律は、5月17日施行だったと思いますので、11月中旬までには、改正法に従うことになりますので、修正すべきものがあれば修正していく。その頃には楽天さんのサービスも始まってくるという。

――ドコモはいったいどんな手を打ってくるでしょうか。

高橋氏
 あんまり無茶はできないよねえ……。結局、「NTTは“国の会社”だった」ことがよくわかった1年間だったんですよね。国が言うことにあわせてドコモはやることを変えていく。そう見ればいいのかなと。

――大きな準備はしなくても済みますか?

高橋氏
 いや、備えはします。一応考えておかないと。

仮想化ネットワークは正しいが

――少し先ですが、楽天の参入が近づいてきています。

高橋氏
 楽天さんはNFV(仮想化ネットワーク)が話題ですよね。僕が調べるかぎり、NFVそのものは、世界中の通信キャリアがみんな検討しています。実際にAT&Tなどで移行をし始めているところもありますが、みんなパフォーマンス(処理能力)で失敗している。

 NFV自体の方向性は間違っていないと思っています。でもパフォーマンスがしっかりキープできるか。よほど慎重にやっていかないとお客さまに迷惑をかけてしまう。時間を掛けていくのが世界のほとんどのキャリアだと思います。

 NFVで最初からスタートと言っているのは楽天さんくらい。その方向性は素晴らしいと僕も思いますが、本当に大丈夫かな? と。

 通信サービスに新技術を導入する際、慎重になるのは過去の経験があるからです。たとえばEZwebを始めたときインターネット技術をフル活用して始めたら、すぐに溢れた。LTEでもトラフィックがスマートフォンで過度に増えてしまった。一度落ちると大変です。

 大事故に繋がることを避けたい、丁寧に進めたいというのがNFVに対する世界各地の通信キャリアの姿勢でしょう。

――5Gについては、今回の中期経営計画でパートナーシップの構築という話が柱のひとつになっています。そうした取り組みの土台として、コアネットワークの面では、ちょっと時間のかかる部分がある、という形でしょうか。

高橋氏
 5Gは、どーんと切り替えるわけじゃない。4Gのネットワークがしっかり作られていて、その上に5Gが重なることになります。

 逆に言えば土台の4Gをしっかり作らないと5Gには行けません。だから僕らは4G時代からアンリミテッド(使い放題)をできるようなネットワークを作っておいて、その上に5Gを重畳する。今のうちに定額制(auデータMAXプラン)を導入して5G時代を予見していく――これがコンシューマー向けの戦略です。

 そこへ楽天さんが登場することになるわけです。当社のネットワークへローミングがあるとしても、(楽天自身がエリアを用意する)東名阪は必要な基地局数も多い。(楽天に割り当てられた周波数帯が)1.7GHz帯で、品質的には厳しいのではと想像しています。

ブランドスローガンを刷新、その想いは

――中期経営計画の発表と同時に、KDDIという企業のスローガンと、auというサービスのスローガンが刷新されました。特に企業としてのスローガンは、KDDIが合併で設立されて以来、初めての変更となります。

高橋氏
 ひとつのポイントは、トップダウンで決めたわけじゃないということです。次の世代を担う40代~50代のスタッフが5G時代にKDDIがどうあるべきか議論して「Tomorrow, Together」というスローガンを決めた。

 5G時代は、パートナー企業と一緒に進んでいきます。パートナーの本業に貢献するビジネスモデルにしていきたい。これまでは一度きりの取引になるワンショットでしたが、継続的なリカーリングタイプのビジネスモデルになるということだと思うのです。だから「Tomorrow, Together」というワードになった。

 そして昨今では、5GやIoTがよく叫ばれていますが、たとえばAIをツールとして何ができるのか、という点を追求したい。auの新たなブランドスローガンである「おもしろいほうの未来へ。」というのも、うちらしいじゃないかと。エンターテイメントに強いauを再興したいと思いますし、ライフデザインにも注力してきたので、auの新たなブランドスローガンを策定したことになります。

新規事業に注力

――中期経営計画は「5Gに向けたイノベーションの創出」「通信とライフデザインの融合」「ビッグデータの活用」「金融事業」「サステナビリティ」という5つの柱が示されました。いずれも大枠は、1年前に高橋さんが社長就任以降、語られてきた内容で、ブレずに具体的な業績目標へ落とし込んだという印象です。

高橋氏
 そうですね。それでも大きく企業として変化するのは、事業セグメントの考え方です。これまでは大きく4つのセグメントに分けていましたが、今回、これがパーソナルとビジネスという2つのセグメントだけになります。

 パーソナルではライフデザイン、ビジネスではIoTを成長領域と定めており、たとえばライフデザインは2022年3月期までに売上高1.5兆円、新たなビジネスセグメントは1兆円にまで伸ばします。あわせて2.5兆円の売上となりますが、これはKDDIがそれだけ新規事業へ注力することがおわかりいただけると思います。

――買収を含めて、積極的に領域を拡げていくことになるのでしょうか。

高橋氏
 そうですね。今、KDDI自体の成長軸を見ると、本体よりもグループ会社の成長が伸びているのです。通信という既存事業の資産を使ってライフデザイン領域を大きく拡げていく。

 携帯各社はみなさん、「通信とライフデザインの融合」になってきましたね。ソフトバンクさんもヤフーさんを傘下に収めましたし。

――確かにそうですよね。

高橋氏
 僕らはそこに向けて3年も4年も準備してきたわけです(笑)。

――なるほど、一日の長があると。

高橋氏
 たとえば金融事業の持株会社も設立しました。au PAYのユーザーは200万人を突破し、順調に進んでいます。

――au でんきの契約も200万件を突破したとのことですね。

高橋氏
 業界としては驚きの数値ではないでしょうか。

――いわゆる新電力としては最大手になるのでしょうか。

高橋氏
 おそらくそうだと思います。

次の課題は?

――高橋さんにとって、今後の宿題は?

高橋氏
 完全分離プランになって、端末価格がすごく上がりますよね。これって本当にどうすべきなのか。料金プラン値下げで、インセンティブも下げろと(総務省が)言ってくるでしょう。

 でもこれから5Gです。5G対応機種となると、当初は高額になるじゃないですか。どうやって出すと、5Gが盛り上がっていくのかが宿題です。総務省はちょっと(市場へ)口を出し過ぎかなという気はしています。

――確かに、総務省は、民間企業の取り得る施策に対して、もう少し余白を残しておくべきではと思います。

高橋氏
 新しい時代を創る際に、大企業がしっかりと先行投資していくのが基本ですよね。それは設備投資のことだけではありません。(5Gという技術をもとにした)市場をどうやって創るのか。今の時代、ユーザー接点はスマートフォンですから、(端末代が)高止まりしたら意味がない。

 確かに通信会社は(キャッシュバックなど)やり過ぎた部分はあったと思いますが、(規制の方向が)逆に振れすぎているところがあるのではないでしょうか。5G時代に向けて、端末面はもっと考えていかないといけないでしょう。

――ありがとうございました。