石川温の「スマホ業界 Watch」
KDDIが社長交代、松田次期社長に期待する“auユーザーの新体験”
2025年2月7日 00:01
KDDIは4月1日付けで松田浩路氏が社長に就任する人事を発表した。
松田氏を後任に指名した理由について、高橋誠社長は「技術経験とともに語学力に長け、グローバルパートナーと臆する事なくビジネス構築できる人材」と語った。
松田氏はアップルやグーグル、クアルコム、スペースXとの交渉に携わった経験を持つ。アップルと交渉し、2011年にiPhoneの販売権を獲得したのも松田氏の実績とされている。
当時、KDDIは世界とは異なる周波数の使い方をしており、iPhoneの実力が発揮できない仕様となっていた。KDDIでは周波数の使い方を変えるという大胆な工事を余儀なくされたが、そうした社内調整の経験も松田氏は積んできたという。
国内ではすべてのキャリアがiPhoneを扱い、さらにNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクではグーグルのPixelシリーズも扱っている。また、この2月からはソフトバンクもGalaxyを扱うようになり、キャリア間の主要端末ラインアップの差がなくなりつつある。
キャリアとしては単にグローバルパートナーの商材を扱うだけでは他社と横並びになってしまう。そんななか、いかにグローバルパートナーと交渉し、他社とは違う「味付け」をするかがキャリアにとっては重要になってきている。
グローバルパートナーをいかに味方にするかという交渉術について松田次期社長は「(他キャリアと)同じ土俵の上に立つ際にはグローバルパートナーに対して、我々の貢献度を見せていくかが重要。また、土俵の外では、我々が日本で持つアセットと彼らが持つテクノロジーを組み合わせて、どんな進化ができるかを示すことで、我々の価値を認めていただく。そこを意識して、パートナーと関係を構築していきたい」と語る。
実際、KDDIでは、昨年、iPhone16シリーズを導入する際、au回線を利用すると「5G スタンドアローン」がデフォルトでオンになるという設定をアップルと交渉することで実現した。
もちろん、他社でも同様の取り組みはしている可能性があるものの、2月5日に行われた決算会見では、昨年11月末よりSub6(5G向けに利用される6GHz帯以下の周波数)で展開している基地局はすべて5Gスタンドアローン(5G SA)で運用されているということが明らかにされた。
国内のエリア展開を自前で頑張っても、端末側が対応していなければ意味がない。KDDIはアップルと交渉し、稼働台数の多いiPhoneで5Gスタンドアローンのポテンシャルを最大限発揮できるように準備を進めたことで、他社との差別化につなげたというわけだ。
また、2月5日の決算会見では、スターリンクによる衛星とスマホの直接通信が今春より対応機種が200万台程度でスタートすることが明らかにされた。
さらに高橋社長は「グーグルの生成AIであるGeminiが使えることがわかった。メッセージサービスだけではつまらないので、Geminiを使った楽しめるサービスをイメージしている」と語った。
KDDIでは生成AIサービスを提供する上で、RCSをベースとしたGeminiによるサービスを模索している。
RCSによって、iPhoneとAndroidにおいて、無料で画像や動画などのメッセージを無料で送り合えるようになる。KDDIでは、RCSとGeminiを推進するグーグルとがっつり交渉を続けており、準備を進めている。
もちろん、Geminiが衛星とスマホの直接通信で使えるか、という検証はスターリンクとの交渉が必要になってくる。
グローバルパートナーと、自らが持つアイデアと技術を掛け合わせることで、世界にはないサービスを作り、日本のユーザーに提供していくというわけだ。
KDDIは、かなり早い段階でグローバルパートナーを見つけ、日本に展開するのをこれまでも得意としてきた。
古くは2007年、グーグルが提供するGmailをベースとした「au Oneメール」を提供した。当時、「100年分のメールを保存できる」(高橋氏)という触れ込みであったが、わずか6年で終了してしまった。
田中プロ時代の2010年には「禁断のアプリ」として、Skypeをスマートフォンに入れてしまった。さらに2011年には当時、まだ珍しかったFacebookと提携し、様々なサービスと連携させていた。
高橋誠氏が社長に就任した2018年には、いまほどメジャーではなかったNetflixと提携し、料金プランに視聴料をバンドルする施策を実施。2021年には他社に先駆けてスターリンクとの提携も行った。
あまりに先駆け過ぎて、世間に定着しなかったものも数多いが、KDDIの「嗅覚」は大したものだと思う。
これまでグローバルパートナーと数々の交渉テーブルについてきた松田次期社長。果たして、次はどんなグローバルパートナーとタッグを組み、auユーザーを楽しませてくれるのだろうか。