ニュース

ソフトバンク、24年3月期第1四半期決算は増収増益――コンシューマー部門も含めて増収

宮川 潤一代表取締役社長

 ソフトバンクは4日、2024年3月期第1四半期決算(1Q)を発表した。売上高は、前年同期比+5%の1兆4297億円、営業利益は+2%の2463億円、純利益は+15%の1467億円となった。通期予想の進捗率は、営業利益と純利益で30%を超えており、宮川 潤一代表取締役社長は「順調に推移」としている。

 なお、今回の決算から、セグメントの名称を変更している。変更前後の名称は、次のとおり。

  • コンシューマ→コンシューマ(変更なし)
  • 法人→エンタープライズ
  • 流通→ディストリビューション
  • ヤフー・LINE→メディア・EC
  • 金融→ファイナンス

コンシューマー含めて全セグメントで増収

 事業別にみた売上高では、これまで苦戦していたコンシューマー事業を含めて、すべてのセグメントで増収を達成した。コンシューマー事業の売上高は、+0.2%増収、営業利益は-4%と増収減益となったが、通期予想の進捗率は31%と順調に推移しているとした。

 宮川氏は、昨今の政策などの影響で落ち込んでいたモバイル売上高について、減少はしているものの減少額は縮小傾向である事を明かした。

 モバイル契約数は、2958万件と+6%増となった。決算説明会では各ブランドの具体的な数字が示されなかったが、ワイモバイルが契約増をけん引している様子が引き続き見られた。

法人事業も順調に推移

 法人事業に位置するエンタープライズ事業は、+4%増収の1841億円、ソリューションなどが+17%と順調に推移しているとしている。

 営業利益も8%増の394億円で、増収増益となった。

 また、ヤフーやLINEなどが分類されるメディア・EC事業の売上高は、+2%の3852億円、営業利益は+31%の562億円となり、増収増益で着地。

 PayPayやPayPayカード、ソフトバンク・ペイメント・サービス(SBペイメントサービス)などが属するファイナンス事業では、PayPayの子会社化などに伴い売上高は前年同期の2.8倍に、一方、営業利益は前年の19億円から-18億円と赤字になった。なお、前年同期にPayPayを子会社化していたと仮定すると、-52億円→-18億円に進捗したとみることもできると宮川氏は補足する。

 PayPayとPayPayカードの売上高は+41%の480億円、利益(EBITDA)は前年同期の-24億円から17億円と単独四半期で初の黒字化を達成できたとしている。

 また、SBペイメントサービスの決済取扱高は+21%の1.9兆円、営業利益は+15%の28億円となった。

資金調達や生成AIの活用について

 宮川氏は、今後の同社の動きについて、資金調達や生成AIの活用などについて説明した。

資金調達面

 宮川氏は、同社が持続可能性に優れた銘柄として、「DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)」の最高位格付け「DJSI World」に選定されたと発表。

 また、普通社債や社債型種類株式の状況を説明し、財務基盤の強化を図るとした。

 これらで調達した資金は、生成AIや次世代社会インフラ、再生可能エネルギーなど、中長期的な企業価値の向上に利用されると説明した。

生成AI

 クラウドの次に重要となる技術として位置づけている「生成AI」にあたっては、主なプレイヤーは海外勢が中心であると宮川氏は指摘。日本語のデータセットで生成AIを開発することで、日本の商習慣や文化にあわせたビジネス展開ができるようになるとし、日本で生成AIを自社開発する意義を説明した。

 宮川氏は、ソフトバンクには「日本最大規模の計算基盤」や「豊富な技術者」、「圧倒的な顧客接点」があり、生成AIの開発に「絶好のポジショニング」をとっているとした。

 「日本最大規模の計算基盤」は、約200億円を投じて国産の生成AIを構築できるAIデータセンターを構築し、今秋の稼働開始を目指している。

 「豊富な技術者」の要素は、グループ内の生成AI開発の経験がある技術者を集結させた新会社「SB Intuitions」(エスビーインテュイッションズ)を設立。

 加えて、ソフトバンクやヤフー、LINE、PayPayの豊富なユーザーを持っている同社として、豊富な顧客接点を持っており、すぐに多くのユーザーに展開できるとした。

 生成AIにあたっては、マイクロソフト(Microsoft)と戦略的提携を行い、法人ユーザー向けに両社で企業のDX化を加速させる取り組みを行う。

 ソフトバンクでは、自社開発の生成AI以外にも複数の生成AIを活用し、業種や用途に応じた生成AIをソリューションとして開発、実装していくと、生成AI活用の方向性を示した。

主な質疑

 ここからは、主な質疑をとりあげる。回答者は、宮川 潤一社長と取締役 専務執行役員 兼 CFOの藤原 和彦氏。

――スターリンク(Starlink)との提携について、これまで自前でやろうとしてきた中で突然出てきた印象を受けた。スターリンクを始めることになった経緯は?

宮川氏
 いいものはなんでも使おうというのが考え方。

 非地上系ネットワーク(NTN、Non-Terrestrial Network)は6Gの世界で重要な構成要素になる。NTNでは、スターリンクもワンウェブ(OneWeb、ソフトバンクが出資する低軌道衛星サービス)もHAPSも使うといった感覚。

 今後もサービスしているメーカーがなければ自分たちで作ることもあれば、サービスされているものがあればそれぞれ利用していきたいと考えている。

 スターリンクは、低価格でベストエフォート型のサービス。ワンウェブはどちらかというと帯域保証のサービスで棲み分けしようと、法人向けを中心に展開を考えている。

宮川潤一社長

――コンシューマー事業好調の理由は?

宮川氏
 ARPU(ユーザー単価)は右肩下がりで、来年くらいに落ち着くと思う。まずはユーザーを増やしてARPUをかけ算することで、トータルで前年比プラスを目指せばいいとして続けてきた。

 ソフトバンクの営業は、ショッピングセンターなどで“元気の良い”営業をやっている。このやり方が、コロナが明けて活動がしやすくなったことも要因であるかもしれない。

――他社の新料金について影響はあるか?

宮川氏
 我々の方は順調で、競争環境が大きく変わるようなものでは無いと思っている。

――通信障害時の対策について、フルローミングについてどのように考えているか。

宮川氏
 フルローミングであったり、ソフトバンクのデュアルSIMのような形で提案するやり方などいろいろなやり方があると思っている。

 日本は災害が多く、現在も沖縄で(台風の影響で)電波が止まっているところもある。これらは自社で周辺の基地局同士でカバーして今は停波しているエリアがほとんどないようにやっている。これらもいずれ、キャリア同士でローミングをしあう姿が正しいのかと思っている。

 費用負担に当たっては、災害時のローミングは、非常事態なので、キャリアが負担する形で良いと思う。

 ただ、エリアが未完成なところでのローミングは、考え方を変えなくては行けないと思っており、今後も総務省と議論を続けていく。

――NTTの政府株売却についての思いは?

宮川氏
 政府に怒られるかもしれないが、正直ベースな話、NTTの再編、完全民営化と矢継ぎ早にいろいろなことが考えがあると思う。

 議論を注視したいとと考えているのが表向きな話。

 公正競争という観点では、「NTTのあり方」がこれまで整備されてきたと思うが、実質的にNTTさんへの規制だけが緩和される、ということにならないよう、高い関心を持って議論を注視したい。

――MNPワンストップ化への受け止めを。
宮川氏
 MNPは、引き続き順調で、影響はない。

――楽天モバイルのワンクリック申し込みサービスについては?

宮川氏
 ちょっと問題があると思っている。

 本人確認の有無についてだが、犯罪防止の観点で、本人確認は非常に重要だと理解している。

 データ回線だったらいいだろう(編集部注:データ回線の契約では、法律で本人確認は義務づけられていない)とは違うと思っており、(データ回線でも)アプリで音声利用はできる。音声回線と同様に、本人確認すべきと思い、ソフトバンクでは継続している。

 今話しながらでも、これは法律を見直した方が良いと感じる。総務省に働きかけ、法整備すべきだろうという風に進めていきたい。

――楽天モバイルの「最強プラン」というネーミングについては?

宮川氏
 静観しているが、ユーザーに誤認をされるような名前はまずかろうと、私どもの現場が総務省と打ち合わせしていると聞いている。

 ただ、名前をつけるのは、企業の自由。外部からコメントする立場では無いと思うが、「ちょっとなかなかしびれるな」という感じ。

――端末出荷数が減少している。数字の変化をどう見ているのか?

宮川氏
 5Gになり、インセンティブ規制など5G端末が普及しづらい環境なのは、残念だという思い。

 円安などで、端末の購入価格は本当に高くなった。これを、割賦などさまざまな工夫をしているが、5G普及が進むように、いろいろな知恵を出し合う時期に入ったと思っている。

藤原氏
 端末出荷数について、コンシューマーの方は数量で少し減った程度でほぼ影響はない。

 法人は、需要との兼ね合いで一時的な影響だと思っている。

CFOの藤原 和彦氏

――市場情勢で端末価格が急変する中、一律に2万円と規制されている現状をどう思うか?

宮川氏
 20万円の端末もあれば、4万円の端末もある。日本ではiPhoneが非常に強いため、このiPhoneだけの観点で考えると、今議論されている「4万円」という数字は、妥当な水準じゃないかと思う。

 一方で、転売抑止という観点も議論しなければいけない問題だが、個人的にはやっぱり5Gの普及をなんとかしたいという気持ちでいっぱい。

――プラチナバンドの獲得について、申請するのか? 審査基準はどう思っている?

宮川氏
 申請するかは検討中。

 審査基準を見ると、やはり我々が獲得できる確率は「非常に低い」と思っている。楽天モバイルは、プラチナバンド獲得を本当に悲願だと思うので、そうなった際は「おめでとう」と言おうと思う。

 プラチナバンドは、ほんとうに電波がよく飛び、地方のエリアカバーに非常に有効であるので、楽天モバイルも頑張れる材料になれば良いと思う。

 一言、キャリアの先輩として申し上げると「電波の有効利用という、通信キャリアとしての責務を全うしていただけるよう期待」している。電波が飛びやすいから、基地局を少なくするというのはなしで、免許を取られたらそれなりにしっかり設備投資をしていただきたいと思う。