石野純也の「スマホとお金」

楽天モバイルの新プラン「Rakuten最強プラン」、その中身をチェック

 楽天モバイルが6月1日に料金を改定し、「Rakuten最強プラン」を導入します。これは、11カ月ぶりの新料金プラン。幻に終わった初代「UN-LIMIT」から、まるで人気のゲームタイトルかのようにナンバリングされてきた同社の料金プランですが、その名称は現行の「UN-LIMIT VII」が最後。名前を大幅に変え、新料金プランとして導入されます。

 その名称とは裏腹に、無料で5Gを導入した「UN-LIMIT V」や、1GB以下0円の段階プランを導入した「UN-LIMIT VI」、さらにそれを廃止し、1078円からの料金プランとなった上記のUN-LIMIT VIIと比べると、料金的な変化は少ないようにも見えます。大きな違いは、 国内のパートナーエリアの扱い 。どちらかと言えば、ユーザーというより、楽天モバイル側の収益構造の変化の方が大きい料金プランと言えるかもしれません。ここでは、その中身をチェックしていきます。

楽天モバイルは、6月1日に料金プランを刷新。現行のUN-LIMIT VIIから、Rakuten最強プランに改定する

楽天モバイルエリアでの料金は据え置き、変わるのはパートナー回線エリア

 6月1日に導入されるRakuten最強プランは、月額1078円からの料金プラン。名前は大きく変わっていますが、中身の大部分は、現行プランのUN-LIMIT VIIと同じです。料金は3GBまで1078円。これを超えると20GBまで2178円に上がり、20GB超過後は無制限で3278円になります。 楽天モバイルの自社回線エリアで使う限り、特に金額の変化はありません

最大で3278円という料金はUN-LIMIT VIIと同じ。3GBまで、20GBまでの金額も変わっていない

 また、UN-LIMIT VIIで強化された楽天ポイント付与の仕組みも、しっかり継承されています。楽天モバイルを契約しているユーザーは、楽天市場でのポイントが2%アップになる「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」の対象になります。ダイヤモンド会員の場合はこの還元率がさらに1%上がり、計3%のポイントがつきます。上限は2%の場合が月6000ポイント、3%の場合が7000ポイントです。

通常時で2%、ダイヤモンド会員で3%アップになるSPUもそのままだ

 そのため、これまでUN-LIMIT VIIを利用していたユーザーの料金が突然安くなったり、もらえるポイントが増えたりといったことはありません。UN-LIMIT VII導入時には、UN-LIMIT VIと比べて料金が高くなるユーザーがいたため、大きな反発を招き、結果として契約者が大量に流出しましたが、Rakuten最強プランで同様のことが起こる心配は少ないでしょう。

変わるのは「パートナーエリア」の通信容量

 一方で、 変化するのが、KDDIから借りるパートナーエリアでの通信容量 です。楽天モバイルは新規参入事業者のため、エリアの補完のためにKDDIから800MHz帯のネットワークを借り、ローミングをしています。ただ、他社から借りているネットワークで、かつ料金も従量でかかることから、データ容量には5GBという制限が設けられています。5GBを超えると、データ通信の速度が1Mbpsに落とされます。この速度制限を解除する場合、1GBあたり660円の料金が発生します。

 Rakuten最強プランでは、このパートナーエリアの容量制限がなくなり、楽天モバイルの自社回線エリアと同様、無制限で利用できるようになります。これに伴い、1Mbpsへの速度制限や、1GBあたり660円のデータチャージも撤廃されます。Rakuten最強プランという名称ではありますが、どちらかと言えばパートナー回線接続時の料金が最強になるような印象もあります。

大きく変わるのがパートナー回線エリアの扱い。これまでは5GBに制限されていたが、これが撤廃され、楽天モバイル回線と同様、無制限になる

回線ごとの容量差がなくなって使い勝手がアップ、他社対抗の意味合いも

 この改定で大きいのは、使い勝手が改善することです。電波は目に見えないため、ユーザーが今、どちらのネットワークを使っているかを判別するのは困難です。楽天モバイルは、「my楽天モバイル」で接続回線を示すようにしていますが、小まめにチェックしている人は少ないでしょう。パートナー回線の場合は節約しながら使いたいと思っても、なかなか難しいのが実情です。

my楽天モバイルアプリでは、現在使用中の端末がどちらの回線に接続しているのかが表示される

 これでデータ容量が大きければさほど問題はないのかもしれませんが、無制限と5GBでは、使い方も変わってきます。たとえば、無制限を前提に、解像度の高い動画をガンガン見まくっていたり、テザリングを使いまくっていたりすると、すぐに容量が尽きてしまいます。かく言う筆者も、旅行先で楽天モバイル回線を使って写真や動画をGoogleフォトにアップロードしていたところ、いつの間にかパートナー回線のエリアに入り、容量を超過していたことがありました。

無制限感覚で使っていると、いつの間にかパートナー回線につながり、容量が尽きてしまうことも。どちらの回線に接続しているかをいちいち確認しなければならず、使い勝手が悪かった

 アップロードをWi-Fiのみに変えれば解決した話ですが、これだと逆に、楽天モバイル回線接続時の利便性が低下してしまいます。無制限と5GBの落差が大きいため、どちらの回線に接続しているかで使い方を変える必要があります。移動が多く、楽天モバイルエリアとパートナーエリアを行ったり来たりすることが多い人の場合、無制限に合わせた使い方をするのが難しくなります。ある程度、データ通信の利用を抑制せざるをえなくなると言えるでしょう。

 行動範囲のほとんどがパートナー回線エリアの場合、さらに魅力は薄くなります。実質的に、5GBプランになってしまうからです。しかも、この容量がUN-LIMIT VIIまでの階段と微妙に合っていません。3GBまでなら1078円で済みますが、それを2GB超えただけで料金が一気に2178円に跳ね上がってしまうため、他社と比べても料金は割高になることがあります。

 たとえば、UQ mobileの「くりこしプラン +5G」は、3GBの「プランS」が1628円。ここに2GBのデータを増量する「データ増量オプションII」をつけても、料金は2178円です。UQ mobileの場合、auでんきやauひかりなどの固定回線をセットにすると、料金は1540円まで下がります。正直なところ、自宅なり会社なり学校なりのよく使う場所がパートナー回線になってしまうようなら、最初からKDDIを契約しておいた方が安くあがってしまうというわけです。

UQ mobileのプランSにデータ増量オプションIIをつけると、ちょうど楽天モバイルの3GB超過時の料金と同じ2178円になる
自宅セット割を適用すると、楽天モバイルの“5GBプラン”よりUQ mobileの方が割安に

 実際、楽天モバイルの契約者を見ると、都市部に偏っていることがうかがえます。筆者の済む東京23区では、ほぼほぼ楽天モバイルの自社回線につながり、普段使っている限り、パートナー回線エリアの容量を消費するケースはまれです。一方で、地方で楽天モバイル契約者が少ないのは、エリアの問題だけでなく、こうした料金設計が影響している可能性があります。

昨年11月に開催された決算説明会でのグラフ。カバレッジが広いエリアの方が、契約率が高いことが分かる

新ローミング契約がRakuten最強プラン導入の鍵か? コスト削減も継続

 パートナー回線エリアの容量制限が撤廃されることで、この問題がなくなります。これまで同社の弱点だった地方などでも無制限でかつ安価な料金プランを訴求できるようになったのが、“最強”と銘打ったゆえんでしょう。どこかスカした印象もあった欧文のUN-LIMITという名称を改めて、ベタ中のベタである最強という単語を使ったのも、広くあまねく普及させていきたい気持ちの表れと言そうです。

 そんなに簡単に無制限にできるなら、最初からやっておいてよ……と思われる向きがありそうですが、ここには楽天モバイルとKDDIのローミング料金が関係しています。先に述べたとおり、ローミング料が従量課金で設定されていたため、無制限で提供してしまうと、楽天モバイルが大幅な赤字に陥ってしまうおそれがありました。 5GB制限でもローミング料の総額は十分高く、楽天モバイルの財務負担になっていました

2月の決算説明会で示されていた楽天モバイルのコスト構造。基地局開設費用よりはかかっていないが、その維持コストよりもローミング費が高くついていることが分かる

 そのため、楽天モバイルは基地局の建設を前倒しにするなどして、自社回線エリアを広げてきました。人口カバー率はみるみるうちに上がっていき、4月末時点でのそれは98.6%に達しています。人口カバー率の上昇に伴い、ローミング終了エリアを増やすことで、ローミング費用も徐々に下がっていました。KDDIの決算からも、ローミング費用の支払いが一気に少なくなっていることが分かります。

4月末時点の人口カバー率は98.4%に達した。ここまで急ピッチに整備していたのは、ローミング料を削減する狙いもあった

 一方で、パートナー回線エリアの容量制限をなくせば、この支払いが再拡大する可能性もあります。実際、楽天グループの決算でも、Rakuten最強プランの導入により、ローミング費用が当初計画より、若干ではありますが増加することが示唆されています。ただし、代わりに楽天モバイル側の基地局への投資を抑制できるため、コスト削減は変わらずに続いていくとしています。簡単に言えば、 基地局投資の一部をローミングに振り替えることで、早期のエリア拡大を実現した と言えるでしょう。

Rakuten最強プランの発表と同じ日に開催された決算説明会では、新ローミング契約によって基地局への投資を抑制でき、コスト削減に寄与することが明らかになった

 ただ、今回の新ローミング契約には、都市部エリアへの拡大も含まれています。いわゆる「東名阪」と言われる、東京23区や名古屋市、大阪市などのエリアがそれです。この地域の屋外は当初からローミングを提供しておらず、楽天モバイルが自社回線でサービスを提供していました。ただ、同社の持つ1.7GHz帯は電波が回り込みにくく、屋内への浸透がしづらい周波数帯。建物内などで弱いという欠点をカバーするため、新たに東名阪でもローミングを始めます。

 容量制限を撤廃しただけでなく、ユーザー数が多い東名阪でローミングを始めるにも関わらず、ローミング費用が若干しか増えないことを踏まえると、新ローミング契約で何らかの料金見直しがあったことがうかがえます。楽天グループの三木谷浩史社長とKDDIの髙橋誠社長の双方ともにコメントを控えているため、詳細は不明ですが、単価の見直しやボリュームディスカウントなど、楽天モバイル側に有利な変更があった可能性はあります。

三木谷氏、髙橋氏の双方ともコメントを控えたが、KDDIの設定した料金体系が変更になった可能性がありそうだ

 三木谷氏も、決算説明会の質問に答える形で「パートナーシップという形で柔軟に対応していただく。共同でのプレスリリースが必要(なほど)だった」と語っており、KDDIとの関係性に変化があったことを示唆しています。その結果として、ユーザーにとっては使い勝手のいい料金プランに生まれ変わりました。パートナー回線の5GB制限がなくなったことで、都市部以外での競争力も高くなりそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya