石野純也の「スマホとお金」

スマホの割引規制、「2万円→4万円」で買い方はどう変わる? 白ロム割はどうなる?

 2019年10月に改正された電気通信事業法で定められた端末購入補助のガイドラインによって、回線契約にひもづいた割引が2万2000円に制限されました。

 その結果として、端末の販売動向には大きな変化が生じ、 ミッドレンジモデルの割合が急増 しています。また、割引を最大まで適用することで0円に近づく、2万円台前半のエントリーモデルもバリエーションが広がっています。

 一方で、端末そのものの値引きには特段制限がかかっていないため、いわゆる 「白ロム割引」も常態化 しています。

 「白ロム割引」は、端末そのものを値引く方式で、回線契約のあり、なしに関わらず適用されます。

総務省の有識者会議では、端末割引の見直しを検討している。20日には、報告書案が出される予定だ

 この白ロム割引と通常の割引を組み合わせて価格を引き下げる動きも出てきました。白ロム割引は転売ヤーの参戦を促してしまうこともあり、規制する方法はないかを模索しています。こうした中、総務省では端末購入補助の制限を見直す機運が高まっています。

4万4000円に増額される割引上限、その算出根拠は?

 本誌ケータイ Watchはもちろん、新聞等でも報道されたため、改正案についてはご存じの方が多いかもしれませんが、現在、総務省の「競争ルールの検証に関するWG」で、端末購入補助の上限を4万4000円まで引き上げる方向性での見直しが検討されています。大手キャリア各社からも、2万2000円については厳しすぎるとの見方が出ていたためで、実際、この規制が生まれた当初とは市場環境も変わっているからです。

KDDIが22年11月のワーキンググループに提出した資料。2万2000円の割引では、ユーザーのニーズにこたえにくいとしていた

 2万2000円という金額に関しては、営業利益率の平均と端末の平均使用年数をパラメーターにした計算式が設定されています。これは、当時、端末購入補助はいくらまでが適正なのかという議論がされていた際に、ドコモが提案した案に基づいています。計算式は非常にシンプルで、4000円のARPUに、20%という営業利益をかけ、さらに36カ月間の平均端末利用期間を掛け算しています。

 なぜこのような方針になったかというと、 割引をそのユーザーから得られるキャリアの利益の範囲内にとどめることで、不公平感を払拭する 狙いがありました。ARPUは、キャリアが1人のユーザーから支払われる収入。かなり大雑把な計算にはなりますが、ここに営業利益率をかければ、1ユーザーあたりの利益が求められます。この数値は、1カ月ごとの話のため、端末を使う期間中を考慮してそれを掛け算したというわけです。

現行の端末購入補助が導入される際の検討会に、ドコモが提出していた資料。考え方としてはドコモ案が採用されたが、金額は一段低い2万2000円に決まった経緯がある

 その際の数値は3万円、税込みにすると3万3000円です。

 ただ、当時はどちらかというと規制強化ありきで議論が進んでいたこともあり、謎のもう一声が求められ、2万2000円まで割引額の上限が抑えられました。一応のロジックとしては、将来的なARPUの減少を考慮したとされています。ARPUの減少だけで、営業利益率や端末利用期間の変動が織り込まれてないところに後付け感がただよう理屈ではありますが、やはり適当に1万円下げるわけにはいかなかったようです。

 4万円案にも、この算定式はそのまま用いられています。

 3年平均のARPUは4137円、営業利益率は18.9%、端末の使用期間は53.2カ月といった具合です。ARPUや営業利益率に関しては大きく変動していない一方で、端末の使用期間が2019年当時の3年から4年5カ月程度まで長期化していることから、税抜きで4万円に上がっていることがうかがえます。また、将来的な変動は特定するのが難しいため、算出の条件として考慮しないとされています。

上限を4万4000円に見直す方向で検討されている。算出の根拠は変えず、各パラメーターの数字を見直した格好だ

白ロム割引を含む上限で規制強化につながる部分も

 2万2000円から4万4000円への増額と聞くと、規制緩和のようにも思えてきます。実際、そのような側面があるのは事実です。この4万4000円に加えて、端末単体への白ロム割引を今と同水準まで適用すれば、比較的価格を抑えたハイエンドモデルの入口にいるような端末まで、安値で販売することが可能だからです。ただ、そうは問屋が卸さないのが現実。アメとムチを使い分けるかのように、規制として強化される部分もあります。

 それが、 白ロム割引の禁止 です。端末購入補助の見直しにあたっては、その金額だけでなく、白ロム割引の扱いも変わってくるからです。

 検討の方向性を示した資料には、「通信サービスと端末のセット販売に係る白ロム割を規制の対象とすることが適当ではないか」(原文ママ)との記載があります。もう少しやさしく言えば、回線とのセット販売では白ロム割引も規制するということ。すべての割引を合算して4万4000円までになる方向性で検討が進んでいると言えるでしょう。

「潜脱行為の防止」として、3点目に白ロム割引きの規制が挙げられている。通信とセットで購入する際には、4万4000円をすべての割引の上限にするということだ

 ただし、これはあくまで通信サービスとのセット販売に関する規制になります。そのため、もしユーザーが本当に“端末だけ”を単体で購入するといった際には、規制の対象外になる可能性は高そうです。それ以前に、 単体販売を規制できる法的根拠がありません 。電気通信事業法はあくまでキャリアなどの事業者が対象。メーカーが単独で販売する端末に関しては、総務省がタッチできません。むしろ、規制をかけるのは価格統制と見なされるおそれがある行為。自由主義経済の原則にも反しているため、割引の上限を設けるのは難しいでしょう。

 ちなみに、端末割引とは別に、SIMカードの契約に伴うキャッシュバックも規制の対象になっています。現在は、端末と同じ2万2000円が上限。販売店によっては、そのキャッシュバックを原資に、キャリアが販売していない、いわゆるSIMフリー端末(オープンマーケットモデル)を割り引くようなこともあります。家電量販店のように、キャリアモデルとSIMフリーモデルの両方を扱う店舗ならではの技と言えるでしょう。

契約促進のため、SIMのみでもキャッシュバックやポイントバックが行われている。画像はドコモで、1万ポイントがもらえる

 この上限が4万円になれば、より選べる端末が広がりそうですが、一方で割引の上限規制見直しに伴い、 SIMのみ契約へのキャッシュバックには別の基準が設けられようとしています 。その基準がキャリアの販売するもっとも安価な端末です。現行の規制でも、端末を割り引く場合には、その価格以上の利益提供が禁止されています。1万円なら1万円、2万円なら2万円までしか割引は出せません。SIMのみの方がこの金額より高くなるのはおかしいという理屈です。

 現状では、ドコモが1万2960円、KDDIが2万円、ソフトバンクが1万6364円なことから、このすべてを超えてしまう2万円が割引の上限として定められる可能性があります。各キャリアが、2万円程度のエントリーモデルを廃止してしまえばこの金額をそろえられるのかもしれませんが、現実的ではありません。規制見直し後は、端末購入補助とSIMのみキャッシュバックで、金額に差が出てくることになります。

SIMカードやeSIMのみの契約にも、上限を設ける。この場合の上限は、最安の端末が基準になる見込みだ

役割を終える2万円台エントリースマホ、ミドルレンジの層が厚くなるか

 ただ、上限が4万4000円まで増額されれば、無理に2万円程度のエントリーモデルを用意する必要性も薄くなってきます。

 最低価格に近いエントリーモデルも、最近では5Gに対応していたり、おサイフケータイなどを搭載していたりと、機能が充実してきている一方で、やはり処理能力やディスプレイ性能には限界もあり、ミッドレンジモデルと比べると不満がたまりやすいのが実情です。

 これに加え、最近では部材費の高騰や円安の影響を受け、以前と同じ価格で性能を維持するのが難しくなってきている事情もあります。特にエントリーモデルに関してはシビアなコスト計算が求められるため、影響が如実に出やすいと言えるでしょう。チップセットやカメラの性能を落としたり、ディスプレイの解像度を落としたりといったことが必要になります。規制に合わせて登場した2万円台のエントリーモデルですが、その価格設定には無理が出てきています。

シャープがAQUOS wishシリーズを投入したように、割引上限に合わせたエントリーモデルが増えている。写真は「AQUOS wish2」

 結果として、割引の上限が緩和されれば、キャリアの導入するエントリーモデルも徐々に価格が上がってくるはずです。

 あえて2万円台の端末を用意しなくても、割引をすればミッドレンジモデルを安価に販売できるからです。5~6万円の端末に関しては、無理に白ロム割引をつける必要もなくなり、より販売がしやすくなると言えるでしょう。現状のミッドレンジモデルが、エントリーモデルの役割を果たせるようになる点で、4万4000円上限という金額自体は悪くない線だと思います。

ミッドレンジモデルがエントリーモデルの役割を果たせるようになる可能性も。写真はソニーの「Xperia 10 V」

 10万円を下回る端末の場合、4万4000円の割引があれば、 下取り前提の実質価格を限りなく0円に近づける ことはできそうです。たとえば筆者は、1月にauの「Pixel 7」を購入しましたが、その際には白ロム割引が2万円強ついていました。MNPで購入すると、ここに2万2000円の割引が上乗せされ、「スマホトクするプログラム」で設定された残価が免除されれば実質1円になります。割引上限が4万円4000円であれば、無理に白ロム割引を設ける必要なく、同価格帯での販売が実現できます。

 一方で、回線契約を伴う場合の白ロム割引が禁止になってしまうと、端末をガツンと値下げするのが難しくなりそうです。

 現状、白ロム割引は在庫処分的に活用されていることも多く、ハイエンドモデルも対象になっています。白ロム割引が禁止になると、これが一律で4万4000円になり、ハイエンドモデルの投げ売りがしづらくなりそうな予感もしています。モノによっては今より高くなるおそれもあります。割引額は市場動向に大きな影響を与えるだけに、今後のなりゆきにも注目しておきたいところです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya