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KDDIのメタバース「αU」スタート――「もう、ひとつの世界」を合い言葉に3年間で1000億円規模の投資で注力

 KDDIは7日、メタバースやライブ配信、デジタルアートなどWeb3サービスを提供する「αU」(アルファユー)を発表した。これまでの取り組みに加えて、メタバースに関する取り組みを本格化させる。

提供サービス

 「αU」では、メタバース空間「αU metaverse」、ライブコンテンツ「αU live」、NFT売買市場「αU market」、NFTや暗号資産を管理できる「αU wallet」、新しいショッピング体験ができる「αU place」の5本柱で展開される。「αU metaverse」と「αU market」、「αU wallet」は7日から提供されており、「αU live」と「αU place」は今夏提供される。

 なお、これらのサービスを体験できるイベントが、東京都渋谷区で3月8日~12日まで開催される。

髙橋社長「もう、“ひとつの世界”」

KDDI代表取締役社長の髙橋 誠氏

 KDDI代表取締役社長の髙橋 誠氏は、リアルとバーチャルのデジタルツインによってDX化し、リアルな世界をよくしていく取り組みを進めており、コンシューマー目線でのサービスとして、今回のメタバースへの取り組み「αU」のサービス展開が考えられたという。

 Z世代は、リアルな世界においても「友人同士で位置情報を常時共有」しており、デジタルツインについても、このような常につながっていることが基本的な考えではないかと思い、リアル/バーチャルの線引きを感じられないようなサービスを開発したとした。

 「αU」について髙橋氏は「もう、“ひとつの世界”」であると位置づけ、Web3.0の世界で大きく5つのサービスを展開していくと説明。「αU」の基幹部分となる「αU wallet」や、髙橋氏が特に期待しているという「αU live」などがラインアップされているが、髙橋氏は「グローバルを舞台にするとき、パートナーが必要」として、グーグル(Google)やWPPといったパートナーと共創していることを明かした。

 パートナー企業との取り組みでは、新しい体験を作るということで「グーグル」、世界を広げるということで「WPP」、クリエイターを育てるということで「アソビシステムホールディングスとActiv8」と提携を進め、αUを展開していく。

 たとえば、グーグルとの取り組みでは、Google Cloudを活用し、アプリ内だけでは実現が難しいライブ体験を、クラウドとエッジのハイブリッドにより実現できたという。また、「WPP」とは、メタバース上のBOTの高性能化により、ユーザーによりよい情報を届けることを期待しているとした。

自治体も期待

左から渋谷区の長谷部区長と大阪府の山口副知事、KDDIの髙橋社長

 KDDIは、これまでもメタバース空間でリアル世界の都市を再現する「バーチャル大阪」や「バーチャル渋谷」を展開している。

 自治体からも、KDDIによる今回の取り組みを期待している声が聞かれた。

 大阪府副知事の山口 信彦氏は、バーチャル大阪の取り組みについて、「2025年の大阪関西万博のPRなどで尽力いただいている」とし、国家事業となる大阪関西万博で空飛ぶ車や、再生医療、カーボンニュートラル技術などを世界に発信したいとコメント。

大阪府副知事の山口 信彦氏

 まだまだ知名度が低いなか「なんとか気運を盛り上げていきたい」とし、KDDIの「αU metaverse」やバーチャル大阪で、大阪の魅力を知ってもらえる機会になるのではと想いを述べた。バーチャル大阪については、今後も取り組みをすすめていきたいとし「都市型のメタバースとして、みんなに親しまれる機能を磨いて都市の魅力発信の成功例としたい」と意気込みを見せた。

 また、渋谷区長の長谷部 健氏は、「新しい分野で前に進んでいくということを、渋谷区長としても応援したい」とコメント。バーチャル渋谷では、実際にショッピングやライブ、ハロウィンなどで活発に利用されており「渋谷区自身が“新しいカルチャーにトライしている”ことを発信できた」と自治体にも成果が生まれたことを明かした。

渋谷区長の長谷部 健氏

サービス内容

 改めて、「αU metaverse」、「αU live」、「αU market」、「αU wallet」、「αU place」各サービスの内容を見ていこう。

αU metaverse

 メタバース空間を提供する「αU metaverse」について、KDDI 事業創造本部 LX戦略部の武田 裕子氏は、テキストがベースのSNSとは違い「声がコミュニケーションの中心」であることを挙げた。これまでのボイスチャットよりも自然な会話が楽しめ、これによりメタバース上で同じ空間を共有できるようになるという。たとえば、バーチャル上の街にいっしょに出かけたり、飲み会をしたり、カラオケをしたりできる。

 また、これまでのバーチャル渋谷などにはなかった“自分だけの居場所”であるマイルームを備えることで、イベントだけでなく日常からメタバース空間に没入できる。

αU live

 「αU live」では、より臨場感のあるリッチなライブ体験を提供する。 LX戦略部の山本 楓氏は、現実では体験できないような特別な演出や、実写のような高精細なライブ映像を組み合わせて、ビルの上にアーティストが座るようなリアルではできないような演出をリアルであるかのような映像を体験できるという。これらは、Google Cloudとの技術連携で実現できたもの。

 映画やテレビ、YouTubeに次ぐ新たなステージ(舞台)であるとし、この舞台に立つ新たなアーティストの発掘も積極的に行っていく。

αU market

 メタバース上でデジタルオブジェクトに価値を持たせ所有売買できる市場「αU market」では、リアル世界で活躍するアーティストのデジタルオブジェクトも取り扱う。もちろん、一般のユーザーも自身の作品を出品できる。

αU wallet

 売買する上で必要不可欠なウォレット機能(財布)。メタバース上でNFTを購入する際に利用する暗号資産の購入管理や、NFTの格納などの役割を「αU wallet」が担う。NFTのバックアップもできるため、ユーザーは安心安全に取引ができるという。

 将来的には「αU」のサービスにとどまらず、複数のメタバース空間で同じウォレットを利用できることも考えられている。

αU place

 バーチャル空間でリアルな接客体験ができる「αU place」では、点数が多いショッピング機能をメタバース上に置くのではなく、メタバースと別のサービスとして提供することで、実用性が高いサービスとして提供できるという。

povoの今後の展望

 なお、「αU」の発表会では、オンライン専用料金プラン「povo」についても紹介された。必要なときに必要なトッピングで、ユーザーオリジナルの通信が利用できるpovoについてLX戦略部の金山 亜衣氏は「海外進出を視野に入れることができる」とし、日本だけにとどまらない展開を示唆。

 また、新しいトッピングとして「SNSデータ使い放題(7日間)」を3月下旬から提供されることも明らかにされた。FacebookやInstagramなど主要SNSを、カウントフリーで楽しめるトッピングとして用意されるという。詳細は、後日発表される。

 金山氏は、povoの今後について「NFTとデータ(容量)がセットで販売されるなど、新しい経済圏に通信も一体化していくサービスに進化していく」旨をコメントし、Web3にあわせて「povo3.0」構想を練り上げていくと意気込みを示した。

オープンなメタバース世界を目指す

 KDDI 事業創造本部 副本部長の中馬 和彦氏は、「バーチャルシティコンソーシアム」などの団体を立ち上げるなど、「バーチャル渋谷」から「αU」までの3年間でさまざまな施策やほかの企業/団体と取り組んできたとし、今回の「αU」についても、GAFAのように誰かが総取りするようなことはせずに、複数のメタバース空間が相互で接続しあって新しいワールドを創造するのがKDDIのやり方だと協調した。

KDDI 事業創造本部 副本部長の中馬 和彦氏

 既存の「バーチャル渋谷」や「バーチャル大阪」とも相互に接続することも明らかにし、今後もハロウィンなどイベントで活用していく見通しが示された。

 一方、事業規模や見通しについて中馬氏は「今後3年間で1000億レベルの投資を行う」とコメント。まだ浸透していないメタバース市場であるが、「バーチャルシティコンソーシアム」などで議論を重ねて日本標準/世界標準を作り上げられればと、まだ道半ばであることも明らかにした。

 これまでのサービスは「基本、イベントベースの仕掛けだった」が、今回は「アプリの中に住み着くような構造」を作ったとコメント。イベントの時だけ人が多いというものではなく、「メタバースの中ですべて完結する」恒久的に提供するサービスを提供するとした。そのために、今回あえてメタバース上で商品をデフォルメするのではなく、デジタルツインでリアルを追求する仕様にしたことを明かした。

 メタバース空間上でのボイスチャット機能にはこだわっているようで「隣にいる人の声が大きく聞こえ、遠くなったら小さくなるというところもかなり再現できている。最低20人レベルで集まっても日常と同じような環境で会話ができることを目指した」とし、今後も臨場感に対して作り込みを深めていく姿勢を示した。

 αU walletに関して中馬氏は、au PAYが今後利用できるようになるとコメント。一方で、「基本オープンにしていきたい」という想いからauブランドは使用していないとした。

発表会には、コラボレーションパートナーのアーティスト「BE:FIRST」(左)と「bala」(右)のメンバーも駆けつけた