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大規模な通信障害に「ローミング」、警察/消防/海保ともに「呼び返し機能は不可欠」

 総務省は25日、「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(第3回)」を開催し、通信障害時などにおける異なるキャリア間でのローミングについて、議論された。

 今回は、緊急通報の対象となる警察庁と消防庁、海上保安庁の担当者から、緊急通報(緊急呼)のしくみと「SIMなし緊急通報」実現の障壁となっている「呼び返し機能」について説明があり議論された。

 「呼び返し(コールバック)機能」とは、緊急通報時、電話がもし切れたら緊急通報を受けた機関から通報してきた人へかけ直せるようにする機能のこと。これまでの会合では、呼び返しが利用できないものの緊急通報だけできるようにするローミング、あるいは一般の音声通話やデータ通信までローミング対象にする「フルローミング」などの検討が進められている。

 警察庁、消防庁、海上保安庁からは「呼び返し機能は頻繁に利用しており、緊急通報には重要な機能となる」旨が、構成員からは「緊急通報アプリなど、電話回線にとらわれない緊急通報の仕組み作りが必要では」と課題が投げかけられた。

警察庁「事業者間ローミングを優先して検討を」

 警察庁では、7月のKDDI大規模障害時における携帯通信事業者からの110番通報件数を公表し、障害があった7月2日~3日のKDDI基地局からの通報件数は前週比-45.1%となったが、ほかの基地局からは同+6.9%となり「期間中KDDI回線からの緊急通報ができなかったことは明らか」である旨が報告された。

 議論されている「非常時の事業者間ローミング」について、「非常時」にあてはまる自体を警察庁は「通信障害により国民が緊急通報をすることができない状態が非常時であり、災害、通信事故等の事態は問わない」と指摘。障害や災害の規模にかかわらず、事業者間ローミング実現の重要性を示した。

 また、海外で運用されている「SIMなし緊急通報」について、警察庁は「呼び返し機能が利用できず、通報者情報の提供がされない懸念」や「DDoS攻撃やいたずら通報によりリソースが削られる懸念」がある旨を説明し、まずは事業者間ローミングによる緊急通報を優先して検討するよう求めた。

 事業者間ローミングの対象とする通信について、警察庁は「警察活動を継続するために必要な通信」や「障がい者が利用する警察への通報」について対象にするように要請。事業者間ローミング実施時は、開始/終了が決まった時点で開始/終了時刻と対象事業者、対象地域などを速やかに連絡すること、また運用時は緊急通報の実施に支障がないよう周知するべきであると指摘した。

消防庁「緊急車両から通報者への連絡に『呼び返し機能』は不可欠」

 消防庁の担当者からも、KDDI大規模障害時の通報件数の変化が公表された。KDDI回線からの通報件数は、平時と比較して約63%減少した一方、KDDI以外の携帯電話や携帯電話以外からはそれぞれ20%以上増加したほか、通報件数全体を見てもKDDIは平時の約1/3に縮小したことから、KDDIからの通報が有意に減っていることが確認されたとした。

 消防への119番通報では、基地局に応じて消防指令センターを特定しNTT東西網の電話回線で接続されるのと並行して、基地局情報や端末のGPS情報をIP-VPN網のデータ通信で送信されるという。

 通報時は、通報者から場所や状況などをヒアリングし、災害種別の特定、出勤隊の編成、出動指令発出を行う。この間に通話が途切れた場合に、指令台から通報者に「呼び返し」を実施する。また、現場に出動している緊急車両の中からも、「呼び返し機能」を利用し、応急手当などの指導や、出動場所の特定に関わる情報共有を行うとしている。

 消防への緊急通報時は、このほかにも病院や医師への連絡、緊急車両の位置情報の共有などに携帯電話網を利用しており、非常時においても、音声通話とデータ通信どちらも利用できる環境が必要と指摘。

 消防庁は、呼び返し機能について「通報中に電話が切れた場合、呼び返しができないと状況がわからず、必要な対応ができない」「出動部隊から、通報者に対し応急手当や初期消火などの指導を呼び返しで実施している」、「病院への早期搬送をすべく救急車から傷病者情報への聞き取りを実施している」、「傷病者が移動していたり、雑踏などで傷病者をすぐに見つけられない場合に通報者に連絡し居場所を確認している」と呼び出し機能が果たす役割を説明した。

 また、位置情報の通知に関して「発生地点で目印となるものがない場合や、通報者が現在地の住所を把握できない場合」などで不可欠とするとともに「個々の災害地点を特定すること」が非常に重要であること、「被災者が混乱しうまく場所を伝えられないケースが多い」ことも明らかにしている。

 「SIMなし緊急通報」については、呼び返し機能以外にも「発信者番号の通知により、虚偽通報やいたずらなどが一定程度抑制されるのではないか」という旨や、一般通話が不通となる一方で緊急通報のみが通じることで「緊急通報と無関係の通話が消防などに寄せられる不安」があると指摘。救助活動などに支障が生じる恐れがあるとの考えを示した。

 消防としては、必要な場面で119番通報ができるよう「事業者間ローミングは必要」とし、「発信者番号の通知や呼び返し機能、位置情報の通知などで活動が円滑となる」ことから、事業者間ローミングでは、緊急通報だけでなく一般の音声通話やデータ通信も対象となることが望ましいと要請した。

 なお、携帯電話事業者の大規模障害時について、消防庁ではTwitterやホームページを使って「緊急通報を障害が発生していない携帯電話や公衆電話を使ってほしい」と広報すると共に、地域の消防本部でも広報車を使って「必要であれば消防署へ駆け込むこと」も案内しているという。

海上保安庁「渡船業者につながらなかったケースも」

 海上保安庁では、固定回線や携帯電話のほか、衛星電話回線からも通報を受けることを説明。一方、KDDIの通信障害時には「通報者の端末がKDDI回線で緊急通報できず、付近のほかの携帯電話から代理/借用通報したケース」や、「通報できたものの、折り返しの電話がつながらなかったケース」があったという。また、渡船で渡った釣り客(KDDI以外)から、天候悪化のために渡船業者に連絡するも業者がKDDI回線だったためにつながらず、海上保安庁に救助要請したケースもあった。

 事業者間ローミング実施における「非常時」の考え方については「自然災害や通信事故などの原因にかかわらず『緊急通報が行うことができない状況』であれば広くローミングの対象とするべき」旨を説明した。

 ローミング実施について、海上保安庁担当者は「海上でおこる事件や事故は、通報時から状況が刻々と変化することが多く、呼び返しを行えない場合、状況確認や助言ができず被害が拡大する恐れ」を指摘。的確な海難救助を行うために「呼び返し機能が必要」とアピールした。あわせて、電話リレーサービスやデータ通信を利用した通報システムにも対応できるよう、フルローミングを含め広く検討することが重要とした。

 SIMなしでの緊急通報について、「位置情報通知がないこと」や「呼び返しができない」「通報にかかる情報照会ができない」ことから、事実関係の把握が困難で、安全/治安確保に支障が生じる可能性があると指摘。

 また、海上保安庁でもいたずら電話の多発が懸念されると考えを示した。これらを鑑み、海上保安庁では、ネットワークの障害時などは、フルローミングと同様の通信サービスを提供することが必要とした。

 携帯電話事業者の大規模障害時について、海上保安庁での広報について「現実問題として携帯だけしか持っていないユーザーもおり、なかなか周知ができていない」旨を説明し、有効な手段がないことを明らかにしている。

呼び返し機能の頻度や必要性

 構成員からは、呼び返し機能がどれほど使用されているか、またその必要性を問う質問があった。

 警察庁では、呼び返し機能の使用件数自体は把握していないものの、呼び返し機能は引き続き求めていく考えを示した。

 消防庁では、「救急搬送中に一般通話を使用することは、ほぼすべての搬送で実施している」とコメント。通報者への呼び返しのほか、病院などへの連絡にも利用しているとした。

 海上保安庁も「ほとんどの118番通報で呼び返しを実施している」と説明。通報者の端末のバッテリーを温存すべく、必要なタイミングで呼び返しを実施しているため、呼び返し機能は不可欠だと説明した。

位置情報の提供だけでは「呼び返し機能の代替」は満たせない

 構成員からは、「位置情報の別途提供があれば、呼び返し機能の代替になるのではないか?」とのコメントがあった。

 これに対し、警察庁は「無言電話などでの状況確認や、状況に応じて対応や機材が変わってくるため、充足できるかは疑問」と、消防庁からは「雑踏の中や通報者の移動などで通報者にたどり着けないケースもあるほか、容体病歴の確認などの聞き取りや応急手当の指導などで音声通話が必要」、海上保安庁からは「時々刻々と変化する状況を折り返し電話で確認している」とし、3庁ともに「位置情報の提供だけでは呼び返し機能の代替には不十分」という懸念を示した。

ローミングとオフローディングの実現

 総務省担当者からは、事業者間ローミング以外の通信手段の確保について、公衆電話や固定電話、自宅や公衆無線LAN(Wi-Fi)を利用したオフローディングを推進し、ユーザーに適切な周知広報をしていく案が示された。

 これは、事業者間ローミング実施時に、救済する事業者側の設備に発生するトラヒック負担軽減を推進するべきという声を受けてのもので、オフローディングのラインアップや手段を緊急に周知広報することや、広報に関するルール作りを実施していくとしている。

 これに関し、構成員からは「Wi-Fiコーリング」の議論について投げかけがあった。

 これについてキャリアからは「詳細な検討が必要であるため、先にローミングの議論を進めるべき」旨の発言があった。

 NTTドコモ担当者は「Wi-Fiコーリングについて、コアネットワークに新たな機能を追加することになるので、十分な検討が必要」と説明。KDDIとソフトバンク担当者からは「緊急呼の実装が難しい」旨や、「位置情報の喪失」といった問題点を指摘するコメントがあった。

 ローミングに関しては、今後必要なサービスレベルや費用負担などの問題の議論や、「障害時に救済してもらうが、他社の救済はしない」といういわゆる事業者間の不公平を是正するためのルール作りを進めていく必要があるとした。

緊急通報の仕組み自体の見直しが必要な時期に来ている

 検討会の最後には、ヨーロッパでは「スマートフォンアプリによる緊急通報ができる仕組み」がある旨を指摘する声があり、日本でもこれらの取り組みが必要ではないかというコメントがあった。

 また、ほかの構成員からは「音声通話に限らない緊急通報の仕組み作りが必要なのでは?」との指摘があった。