ケータイ用語の基礎知識

第992回:通信障害や災害時でもスマホが使えるようになる?――「事業者間ローミング」とは

 ローミング、英語では“Roaming”とつづります。英語の「歩き回る」「放浪する」を意味する“Roam”に由来する単語ですが、携帯電話の世界でも使われる言葉。最近では、KDDIの通信障害を受けて「事業者間ローミング」という言葉も聞かれるようになりましたが、果たしてどんな意味なのでしょうか?

国やキャリアを超えて通信を利用できる

 ローミングと言うと一般的には「(自動)国際ローミング」を指すことが多いです。この仕組みはGSM方式デジタル携帯電話で一般的になりました。1980年代後半から90年代にかけ欧州では、経済圏統合に向けてさまざまな試みが行われており、携帯電話規格の統一もそのひとつでした。

 欧州にはいくつもの国があり、それぞれの国で携帯電話事業者がサービスを展開しています。そこでGSMでは、ユーザーが自分の国で契約している携帯電話を別の国へ持っていっても、その国の提携通信事業者の回線を使って、電話番号・データ通信設定などはそのままに、回線が渡航先の国のものに切り替わり、通話・データ通信の利用を可能にしました。これが「ローミング」です。

 もちろん、外国で使うには、利用者の国の事業者と行き先国の事業者がサービス提携していなければいけませんが、このGSM携帯電話の普及によって国際ローミングは爆発的に普及。外国でもいつも通りに携帯電話を使えるため、利便性は向上しました。

 2022年の現在では、GSMではなく、4D LTE(FDD/TDD)、5Gの方式などに方式は切り替わっていますが、ローミングは変わらず利用できます。もちろん、ヨーロッパ限定の機能ではないため、日本人でも海外旅行などで利用した経験がある方は多いのではないでしょうか。米国内限定ながら無料で利用できるソフトバンクの「アメリカ放題」は話題を呼びました。

 ドコモやKDDI、楽天モバイルでももちろん、海外で通信できるローミングサービスを提供しています。

違う携帯会社間でローミング?

 ローミングは今、海外に行ったときだけのもの、というわけではなくなりました。日本国内でも「ローミング」が提供されている、あるいはできないだろうかと話題になっているケースがあります。

 すでに提供されている例としては、KDDIの楽天モバイルへのLTE通信ローミングサービス提供でしょう。楽天モバイルユーザーが、自社回線の電波が届きにくいところでKDDIのローミングを利用できる地域があるのです。これは、楽天モバイルが通信サービスの立ち上げに際して、サービス競争の促進に寄与することを目的に、暫定的な措置として提供を行っているものです。なお、パートナー回線エリアは徐々に自社回線に切り替わり、順次終了していく予定です。

 一方で「実現できないだろうか」と持ち上がったのが「事業者間ローミング」です。2022年7月2日~3日にかけてKDDIが大規模通信障害を起こした件に関して「ほかの事業者が通信障害等で不通となったときに、他社ローミングできないか」という質問がメディアから挙がりました。

 7月12日閣議後会見の際、金子恭之総務大臣(当時)が「携帯電話が長時間利用できなくなる事態が生じないよう、臨時的にほかの事業者へのネットワークへ乗り換えられるローミングも重要な課題のひとつと認識している」と発言しました。

 具体的な検討はこれから始まるため、どのようなかたちで実現されるのかはまだ不透明です。しかし、事業者間でのローミングを実現できれば、普段使っているキャリアで通信障害が起きても、最低限の緊急通報などが使えるようになるといったことが考えられます。

 前出の障害時には影響期間中、消防庁がKDDIユーザーに対して他社携帯電話や固定電話などから通報、または直接消防署へ行くよう促すといった事態にも発展しており、事業者間ローミングはこうした問題に発展することを防げるかもしれません。

 ただし、実現に向けては「ネットワーク設備の改修やローミングの運用ルールの策定などクリアすべき課題」があります。

 たとえば、技術的にはユーザーが使う端末や。事業社側の装置でもユーザーに近い無線アクセス装置は比較的互換性が高く共有ができても、コアネットワーク側の乗り入れは、KDDIと楽天のローミングのような場合を除いて、ほぼありません。乗り入れた場合、もし不具合があったらどちらの責任になるのか、といった分担も決める必要性があると考えられます。。

 このような障害を一つひとつ潰していけば、実現できる可能性はゼロではないでしょう。総務省では、事業者や有識者を交えた検討会において年内にも具体的な方向性を示す見通しを示しています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)