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非常時の事業者間ローミング検討会、呼び返しなどなしなら前倒しで実現も

 総務省は28日、「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(第5回)」を開催した。

 議論では主にクアルコムからチップベンダーの立場として、事業社間ローミングに対する考えや技術的な説明に加えて、第1次報告書(案)に対する構成員からの意見が示された。

 11月15日の第4回会合で公開された、第1次報告書(案)に構成員からの意見を一部反映したかたちのものがあらためて公開されており、12月に開催の第6回検討会をもって正式版となる見込み。

呼び返し・現在地特定なしなら早期に導入可

 クアルコムは、総務省から寄せられた質問事項に応えるかたちでチップベンダーとして、事業者間ローミング対応の可否について説明。

 同社ではVoLTE環境を前提とした場合、事業者間ローミングは可能という立場を示す。ただし、端末側で非常時かそうではないのかを認識することは難しいため、非常時のフルローミングの開始はキャリア側の対応が必要とした。加えて特定の事業者の周波数にのみ対応する端末やVoLTEのエリア外やVoLTE非対応の端末の場合は対応が難しい。

 通報者の位置情報取得や呼び返し(コールバック)が可能なフルローミングでは、対応するためにソフトウェアに大規模な変更が必要となる場合、数年程度の時間を要するという。

 一方で、非常時にGPSによる位置情報取得や呼び返し機能がない「SIMありアノニマス(匿名)緊急通報発信」の場合、緊急通報を取り扱う機関へのいたずら防止の観点から各SIMカード固有の番号である「IMSI」を取得することも考えられる。

 クアルコムでは、海外の通信事業者において類似の事例があり、対応できる可能性を示した。これと同様の仕様かつアノニマス緊急通報発信を禁止する日本特有の仕組みが廃されるのであれば、早期に導入が期待できるという。

 同社によれば、多くの端末においてアノニマス緊急通報発信に対応する最低限の機能を備えており、比較的軽微なソフトウェア変更で導入できる。クアルコムは当初は迅速に導入できるアノニマス緊急通報から消費者に対して提供し、その後に位置情報取得や呼び返しが可能なフルサービスの非常時ローミングを導入するなど「できることから順次実現していく」ことが、消費者にとっては望ましい対応ではないかと指摘した。

事業者間の公平性確保や周波数対応に意見

 報告書(案)では、3-2「ローミング時の携帯端末の動作確認」において全国消費者生活相談員協会 IT研究会 代表の西村真由美構成員の意見を踏まえて「また、今後発売される携帯端末については事業者間ローミングを想定した周波数帯を実装しておくことが望まれる」との意見が付け加えられた。

 これについて、NTTドコモからは「あらかじめ想定しておく周波数というのは非常に決めにくい」との声があがった。事業者によって認定されている周波数が違い、端末にすべてのパターンで周波数を実装するのが可能なのかを問い「実現性については、作業班・検討会で検討を続けていくというかたちの記載であればぜひ議論させていただきたいが、これを進めるべきというのは運用が難しいのではないか」と指摘した。

 これに対して、西村構成員からは「『競争ルール検討会』でも周波数は話題になっていた」としつつ「端末は長期使用されることもあり、事業者側を乗り換える時に周波数が障壁になるので、ローミングについても使いやすいように検討してほしい」とされた。

 総務省から周波数対応は「ローミング先に周波数に対応していなければ、ローミングを受けられないので、あくまで一般論として『望まれる』という表現とした」と説明。ドコモ側は「記載の意図は分かった。今後、どの周波数を(実装するか)や『こういうルールにしていこう』というのは引き続き検討していきたい」とコメントした。

 2-2「事業社間の公平性の確保」において、日経BP 日経クロステック 先端技術副編集長の堀越功構成員は、実際の障害発生時などに特定の事業者にローミングが集中しないようにバランスを取れる仕組みがあるのか? と指摘。検討会からはローミング先の選択は携帯端末の設定操作時に消費者が選択するため、実現困難との見方が示された。

 企 代表取締役のクロサカタツヤ構成員はこれについて、1次報告書での記載は勇み足かもしれないとしつつも「必要な費用負担について事後的にでも対応が必要」とコメントした。

 このほか、電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター 教授の藤井威生構成員からは「緊急通報の受理機関にも大きく影響する実装方法もあるのではないか」として「報告書にも緊急通報受理機関と密接に情報交換をして、運用が妨げられないような方法を実装するということを明記すべき」との意見があった。

 また、堀越構成員は障害対策としての複数SIMが、利用者の負担の懸念について「強く推奨するのは難しい。報告書ではこのままでいいと思うが複数SIMが悪のように見えるのが懸念」とコメント。一方で選択肢のひとつとして、最低限の料金が発生するのは仕方ないともしつつ「KDDIによるIoT向け複数SIMプランのように使わなければ課金されない仕組みであれば許容範囲ではないかとも発言し「複数SIMが悪のような書き方にできれば良い」とした。

 総務省では「複数SIMが悪ということではなく、ニュートラルに表現している。一方でコストがかかり、料金が上がる懸念は構成員からもあげられた。基本的には消費者の選択に任せられていく」とコメントした。

フルMVNOも事業者間ローミングに

 インターネットイニシアティブ(IIJ)からは「MVNOもパケット交換機を運用する事業者が多く、MVNOも主体的にローミングを検討する必要がある」と指摘。

 これを踏まえて報告書(案)の「4. 今後の継続課題」に新たに「4-3 事業者間ローミングのフルMVNOの参加」を追記。フルMVNOとしての機能を持つ事業者の事業者間ローミングの枠組み参加に向けた動きが進められることとなる。