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通信障害時などの「事業者間ローミング」に向けた第1回検討会が開催、その内容とは

 総務省は28日、通信障害などの際に他社回線で携帯電話を利用できるようにする「事業者間ローミング」の実現に向け、第1回の検討会を実施した。

 本稿では、総務省が公開した資料から論点や、各社の考えを紹介する。

「事業者間ローミング」に関する検討事項とは

 今回で第1回となる検討会は、自然災害や通信障害などの非常時に通信手段を確保すべく、携帯電話の事業者間ローミングなどのさまざまな方策について、検討を行うためのもの。今後、第2回~第4回も開催され、12月下旬の第5回で基本的な方向性が取りまとめられる予定。

 検討事項は主に3つ。「事業者間ローミングの対象とする通信の範囲(緊急通報、一般の通話、データ通信)」「事業者間ローミングを発動する要件(災害、通信事故、その他)と運用ルールのあり方」「Wi-Fiの活用など事業者間ローミング以外の非常時の通信手段のあり方」が検討される。

7月のKDDI通信障害で、緊急通報はどの程度減ったのか

 7月に発生したKDDIの通信障害では、110番通報について、KDDIおよび沖縄セルラー電話からの通報件数が、通常と比較して約45%減少したという。これは、通信障害が発生した7月2日~3日の合算と、前週の6月25日~26日の合算との間で、全国の警察本部に入電のあった110番通報の状況を比較したものとなっている。

 また、119番通報については、KDDIからの通報件数は、通常と比較して約63%減少した。これは、7月2日と、3日間(6月26日、30日、7月1日の平均)との間で、東京消防庁および政令市の消防局に入電のあった119番通報の状況を比べた結果となっている。

通信事故のうちローミングでカバーできる範囲

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯4社について、「携帯電話基地局およびエントランス回線の故障による事故」の件数は、2021年度で約2.6万件。事故の影響範囲は、局所的かつ少人数になる傾向にあるとされている。

 一方、携帯4社において、事故の影響範囲が全国的かつ大人数となる傾向になるとされる「コアネットワークやその他の設備の故障による事故」の件数は、2021年度で約400件だった。

 今回検討されている事業者間ローミングでは、携帯電話基地局などの故障による事故であれば、通信を相互に確保できる可能性があるとされている。

海外の状況

 では、海外における国内事業者間ローミングの導入状況はどうなっているのだろうか。

 たとえば、ロシアが侵攻中のウクライナでは、有事の携帯電話サービスを維持するため、キーウスター(Kyivstar)、ライフセル(Lifecell)、ボーダフォン(Vodafone Ukraine)の携帯事業者3社が団結。2022年3月に、通話やSMS、インターネット接続について、相互の無料ローミングが実現した。

 米国では、2012年10月のハリケーン・サンディによる携帯基地局の被災を受け、AT&TとT-Mobileが、米国の一部の州で緊急の事業者間ローミングを実施した。

 2022年7月には、連邦通信委員会(FCC)が、ハリケーンや山火事などの災害時に携帯電話事業者間でローミングを義務的に実施する「Mandatory Disaster Response Initiative(MDRI)」を制度化している。

電気通信事業者協会(TCA)による検討内容

 電気通信事業者協会(TCA)は、事業者間ローミングの検討に関する現在の状況として、27ページにわたる資料を公開した。

MVNOは未検討

 機能実装の対象は4Gネットワークで、順次終了する3Gサービスは対象外。VoLTEの後継となる5GNR上での音声通信技術「5G VoNR」での実現は、今後の検討課題とされている。

 また、標準技術に準拠した「LBO(LocalBreakOut)方式」などの事業者間ローミングだけでなく、いわゆる「SIM無し端末発信」や「デュアルeSIM」なども検討されているが、検討の対象はMNOを対象としたもの。MVNOについては未検討となっている。

現状での課題など

 現状での課題として、事業者間ローミングについては、「対象エリアの考えに関して、各社のエリア構成が異なるため整合が難しいこと」「災害や故障、有事によって条件(ユーザー数・停止時間・影響エリア)の考え方が異なること」「発動~終了に際しての情報共有方法(行政・事業者間・報道・利用者など)」などが挙げられている。

 また、発動時の網状態によって、高トラフィック時は開始が厳しくなることも課題として挙げられ、高いレベルでの通信規制が必要になる可能性もある、とされている。

 「SIM無し端末発信」も含む技術面での課題としては、動作検証に向けた端末や検証設備の確保などが挙げられている。国内だけでなく、海外も含めた端末メーカーとも連携が必要になるという。

携帯各社の意見

ドコモ

 ドコモは、「災害や通信障害の発生時、自社ネットワークで重要通信を確保することが困難になる可能性もある」として、「緊急呼などを国内事業者とローミングで取り扱うことは有益」という姿勢を示した。

 そのうえで、「一般呼(緊急呼含む)発着信ローミング」は利便性は高いが、条件が多く設備容量などの懸念もあるとして、「緊急呼(発信)ローミング」による早期導入を図るべき、としている。

 また、事業者間ローミングだけでなく、「デュアルeSIM」やWi-Fi、衛星携帯、公衆電話などで通信の確保を行うべき、と意見した。

KDDI

 KDDIは、検討会のテーマである「災害や障害などの非常時においても、利用者が通信継続可能な環境整備」を実現するひとつの手段として、事業者間ローミングの実現を前向きに検討する、としている。

 同社は、緊急呼の発信のみの確保であれば、「LBO方式」のローミングが救済手段として検討可能とした。

 一方、緊急呼に必要とされる「呼び返し(コールバック)」などを確保するための「S8HR方式」のローミングについては、課題があると指摘。救済事業者の設備容量(無線・伝送・コア)の閾値が超えないように運用することなど、明確な運用基準や規定の制定が必要とした。

ソフトバンク

 ソフトバンクは、モバイルサービスについて、「緊急通報などに加え、モバイル決済などにも使われており、社会インフラとしての重要性が増している」とコメント。

 そのうえで、KDDI同様、「災害や障害などの非常時においても、利用者が通信継続可能な環境整備」の検討に対して賛同する姿勢を示した。

 事業者間ローミングについては、「LBO方式による緊急呼発信のみが現実的」とした。また、緊急呼以外の通信(一般呼・データ)については、「デュアルeSIM」を用いたしくみを提案している。

楽天モバイル

 楽天モバイルも、ほかの3社と同様、災害や障害などを見据えた通信環境の整備について、前向きに検討する姿勢を示した。

 「まずは緊急呼発信の実現を最優先」としたうえで、「救済事業者側の設備容量ひっ迫の懸念などを解消し、段階的に対応サービスを充実させていくことが望ましい」とコメントした。

 事業者間ローミングに対する楽天モバイルの懸念としては、「後発事業者であり、救済事業者として他社のトラフィックを受け入れるほどのキャパシティを現時点で保持していないこと」が挙げられた。そこで同社は、電波伝搬特性に優れた「プラチナバンド」の再割り当ての必要性を訴えている。