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通信障害時などの「事業者間ローミング」に向けた第1回検討会が開催、その内容とは
2022年9月28日 16:39
総務省は28日、通信障害などの際に他社回線で携帯電話を利用できるようにする「事業者間ローミング」の実現に向け、第1回の検討会を実施した。
本稿では、総務省が公開した資料から論点や、各社の考えを紹介する。
「事業者間ローミング」に関する検討事項とは
今回で第1回となる検討会は、自然災害や通信障害などの非常時に通信手段を確保すべく、携帯電話の事業者間ローミングなどのさまざまな方策について、検討を行うためのもの。今後、第2回~第4回も開催され、12月下旬の第5回で基本的な方向性が取りまとめられる予定。
検討事項は主に3つ。「事業者間ローミングの対象とする通信の範囲(緊急通報、一般の通話、データ通信)」「事業者間ローミングを発動する要件(災害、通信事故、その他)と運用ルールのあり方」「Wi-Fiの活用など事業者間ローミング以外の非常時の通信手段のあり方」が検討される。
7月のKDDI通信障害で、緊急通報はどの程度減ったのか
7月に発生したKDDIの通信障害では、110番通報について、KDDIおよび沖縄セルラー電話からの通報件数が、通常と比較して約45%減少したという。これは、通信障害が発生した7月2日~3日の合算と、前週の6月25日~26日の合算との間で、全国の警察本部に入電のあった110番通報の状況を比較したものとなっている。
また、119番通報については、KDDIからの通報件数は、通常と比較して約63%減少した。これは、7月2日と、3日間(6月26日、30日、7月1日の平均)との間で、東京消防庁および政令市の消防局に入電のあった119番通報の状況を比べた結果となっている。
通信事故のうちローミングでカバーできる範囲
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯4社について、「携帯電話基地局およびエントランス回線の故障による事故」の件数は、2021年度で約2.6万件。事故の影響範囲は、局所的かつ少人数になる傾向にあるとされている。
一方、携帯4社において、事故の影響範囲が全国的かつ大人数となる傾向になるとされる「コアネットワークやその他の設備の故障による事故」の件数は、2021年度で約400件だった。
今回検討されている事業者間ローミングでは、携帯電話基地局などの故障による事故であれば、通信を相互に確保できる可能性があるとされている。
海外の状況
では、海外における国内事業者間ローミングの導入状況はどうなっているのだろうか。
たとえば、ロシアが侵攻中のウクライナでは、有事の携帯電話サービスを維持するため、キーウスター(Kyivstar)、ライフセル(Lifecell)、ボーダフォン(Vodafone Ukraine)の携帯事業者3社が団結。2022年3月に、通話やSMS、インターネット接続について、相互の無料ローミングが実現した。
米国では、2012年10月のハリケーン・サンディによる携帯基地局の被災を受け、AT&TとT-Mobileが、米国の一部の州で緊急の事業者間ローミングを実施した。
2022年7月には、連邦通信委員会(FCC)が、ハリケーンや山火事などの災害時に携帯電話事業者間でローミングを義務的に実施する「Mandatory Disaster Response Initiative(MDRI)」を制度化している。
電気通信事業者協会(TCA)による検討内容
電気通信事業者協会(TCA)は、事業者間ローミングの検討に関する現在の状況として、27ページにわたる資料を公開した。
MVNOは未検討
機能実装の対象は4Gネットワークで、順次終了する3Gサービスは対象外。VoLTEの後継となる5GNR上での音声通信技術「5G VoNR」での実現は、今後の検討課題とされている。
また、標準技術に準拠した「LBO(LocalBreakOut)方式」などの事業者間ローミングだけでなく、いわゆる「SIM無し端末発信」や「デュアルeSIM」なども検討されているが、検討の対象はMNOを対象としたもの。MVNOについては未検討となっている。
現状での課題など
現状での課題として、事業者間ローミングについては、「対象エリアの考えに関して、各社のエリア構成が異なるため整合が難しいこと」「災害や故障、有事によって条件(ユーザー数・停止時間・影響エリア)の考え方が異なること」「発動~終了に際しての情報共有方法(行政・事業者間・報道・利用者など)」などが挙げられている。
また、発動時の網状態によって、高トラフィック時は開始が厳しくなることも課題として挙げられ、高いレベルでの通信規制が必要になる可能性もある、とされている。
「SIM無し端末発信」も含む技術面での課題としては、動作検証に向けた端末や検証設備の確保などが挙げられている。国内だけでなく、海外も含めた端末メーカーとも連携が必要になるという。
携帯各社の意見
ドコモ
ドコモは、「災害や通信障害の発生時、自社ネットワークで重要通信を確保することが困難になる可能性もある」として、「緊急呼などを国内事業者とローミングで取り扱うことは有益」という姿勢を示した。
そのうえで、「一般呼(緊急呼含む)発着信ローミング」は利便性は高いが、条件が多く設備容量などの懸念もあるとして、「緊急呼(発信)ローミング」による早期導入を図るべき、としている。
また、事業者間ローミングだけでなく、「デュアルeSIM」やWi-Fi、衛星携帯、公衆電話などで通信の確保を行うべき、と意見した。
KDDI
KDDIは、検討会のテーマである「災害や障害などの非常時においても、利用者が通信継続可能な環境整備」を実現するひとつの手段として、事業者間ローミングの実現を前向きに検討する、としている。
同社は、緊急呼の発信のみの確保であれば、「LBO方式」のローミングが救済手段として検討可能とした。
一方、緊急呼に必要とされる「呼び返し(コールバック)」などを確保するための「S8HR方式」のローミングについては、課題があると指摘。救済事業者の設備容量(無線・伝送・コア)の閾値が超えないように運用することなど、明確な運用基準や規定の制定が必要とした。
ソフトバンク
ソフトバンクは、モバイルサービスについて、「緊急通報などに加え、モバイル決済などにも使われており、社会インフラとしての重要性が増している」とコメント。
そのうえで、KDDI同様、「災害や障害などの非常時においても、利用者が通信継続可能な環境整備」の検討に対して賛同する姿勢を示した。
事業者間ローミングについては、「LBO方式による緊急呼発信のみが現実的」とした。また、緊急呼以外の通信(一般呼・データ)については、「デュアルeSIM」を用いたしくみを提案している。