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クアルコム、基調講演で「Snapdragon 855」の魅力を解説

Qualcomm TechnologiesでSenior Vice President, Product Managementを務めるKeith Kressin氏

 クアルコムは12月5日(現地時間)、ハワイ州マウイ島で開催している「Snapdragon Technology Summit 2018」の基調講演において、Snapdragon 855の詳細を解説した。

 Qualcomm TechnologiesでSenior Vice President, Product Managementを務めるKeith Kressin氏は、1Gから5Gに向けて進化してきた移動体通信の歴史を振り返り、5G時代の先駆けとなるのがSnapdragon 855であると語る。まだ見ぬ新たなサービスがポケットの中で実現できるとする同氏は、Snapdragon 855で大きく強化したコネクティビティ、パフォーマンス、AI、カメラ、エンターテインメントの5つのポイントがあるとして、それらを担当する責任者にバトンを渡した。

SVP & GM, 4G/5Gを務めるDurga Malladi氏

 同社でSVP & GM, 4G/5Gを務めるDurga Malladi氏は、Snapdragon 855が世界で初めてSub-6とミリ波の両方に対応すると同時に、世界で初めてWi-Fi 6や、60GHz帯を使用することで10Gbpsでの通信を可能にする11ayをサポートすることをアピール。LTEについてもカテゴリー20をサポートしたX24モデムを内蔵することで、最大2Gbpsでの通信に対応している。

 実際に5G対応端末を作るには、Snapdragon 855とは別に5G対応モデムの「X50」を実装したり、ミリ波に対応させるためのアンテナモジュール「QTM052」を組み合わせる必要があるが、これまでバラバラだったアンテナやRFまわりの設計をシンプルに再構成することで、複雑化する周波数対応にかかる端末メーカーの負担の軽減が図られている。

Senior Director, Product Managementを務めるTravis Lanier氏

 同社でSenior Director, Product Managementを務めるTravis Lanier氏は、新たなCPUやGPUによるパフォーマンスの強化について語った。同氏によれば、前モデルに比べ、CPU(Kryo 485)は45%、GPU(Adreno 640)は20%性能が向上したという。同氏は、同様に7nmプロセスで製造される他社製のチップセットと比較しながら、Snapdragon 855は長時間ゲームをプレイしてもパフォーマンスを維持できるとともに、多くのユーザーが使用する代表的なアプリを高速に起動できるとアピールした。

 AI関連の処理を行うHexagon 690においては、Tensor Acceleratorを新たに実装することで、パフォーマンスを大幅に向上させている。

Senior Director, Product ManagementのGary Brotman氏

 同じくSenior Director, Product ManagementのGary Brotman氏は、そのAIまわりの工夫を説明した。Hexagon 690だけでなく、Adreno 640やKryo 485を組み合わせることで第4世代のAIエンジンを構成したことで、7TOPS(Trillion Operations Per Second)以上の処理能力を実現。前モデルに比べAIの処理能力は3倍に強化され、競合他社の7nmプロセスのチップセットの2倍のパフォーマンスを発揮できるとする。

 さらにAI関連のソフトウェアを開発する企業との連携を強化することで、これまでに無かったアプリやサービスが生み出されるエコシステムの構築も目指すという。

Senior Director, Product ManagementのJudd Heape氏

 続いて登壇したSenior Director, Product ManagementのJudd Heape氏は、カメラ関連での取り組みについて語った。スマートフォンに搭載されるカメラモジュールの数が2つ、3つと増えていくことに対応する形で、それらを最大限に活用する工夫を行い、さらに世界で初めてCV-ISP(Computer Vision-ISP)を使用することで、背景ぼかしをリアルタイムに行い、4K HDRでポートレート風の動画撮影を行えるようにした。

 CV-ISPは、AIエンジンと組み合わせることで多彩なエフェクトを実現できるほか、省電力化にも大きく貢献。4K動画の撮影については、HDR10+に対応しつつ、前モデル比で30%の省電力化を果たしている。

 Senior Director, Product ManagementのHiren Bhinde氏は、拡大するモバイルゲーミングの市場規模をトレンドとして紹介。これに対応する形でゲームにフォーカスしたスマートフォンが徐々に増えてきていると述べた。

 Director, Mobile Gaming & XR Product MarketingのLeilani DeLeon氏は、Adreno 640の処理能力に加え、Vulkan 1.1に対応し、さらにaptX Adaptiveや4K出力、5Gによる低遅延で高速な通信などにより、ゲームを楽しむための環境を整えたことをアピール。

Senior Director, Product ManagementのHiren Bhinde氏
Director, Mobile Gaming & XR Product MarketingのLeilani DeLeon氏

 再び登壇したBhinde氏は、ゲームのみならず、動画の視聴においてもスマートフォンの利用率が上がっているという実態を紹介。こうしたニーズに応えるために、HDR10+や360度の8K映像の処理に対応するとともに、ハードウェアデコードで再生時の消費電力を抑えていることを説明した。

 同氏はまた、XR技術と組み合わせることで、エンターテインメントの新時代が到来すると語る。スポーツや音楽ライブの中継などをVRゴーグルで楽しむことはもちろん、アウトドアスポーツでARゴーグルを使うことで、新たな体験を提供できるという。

 実際にSnapdragon 855を搭載したスマートフォンが登場するのは2019年前半とされているが、日本においては5Gの免許割当が済んでいないため、搭載端末が販売されたとしても、チップセットの性能をフルに活用することは難しいかもしれない。

 また、ハイエンドスマートフォンの高額化が著しい昨今において、これだけリッチなチップセットを搭載した端末の価格が一体いくらになるのか、考えただけでも恐ろしい。

 それでも、これまで不可能だったことを可能にする技術的なチャレンジには魅了される部分も多く、サイフと相談する日々が訪れそうだ。