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「Windows on Snapdragon」のPC、2018年春に登場。ASUSとHPから

スマホの常識をモバイルPCへ。常時接続、30日スタンバイ、稼働20時間以上を実現

ASUSとHPから「Windows on Snapdragon」のPCが発表された

 米クアルコムは、現地時間5日~7日までの3日間、ハワイ州マウイ島で「Qualcomm Snapdragon Technology Summit 2017」を開催している。初日の5日は、主にSnapdragonチップセット上で動作するWindows PC「Windows on Snapdragon」をテーマにした基調講演や製品デモンストレーションが行なわれた。

 Snapdragon 835を搭載したWindows 10対応のモバイルPCとして発表があったのは、ASUS「NovaGo」とHP「ENVY x2」の2モデル。会場では触れて試せる実機も展示された。この他、LENOVOも2018年1月7日から開催される展示会「CES 2018」のメーカーイベントでSnapdragon搭載PCを発表する見込み。

イベント会場となったハワイ州マウイ島のリゾートホテルGrand Wailea

599ドルからの2in1モバイルPC「ASUS NovaGO」

 ASUSが発表したWindows on Snapdragonの「NovaGo」は、現時点で最新世代となるSnapdragon 835を採用した2in1タイプのモバイルPC。標準OSはWindows 10 Sで、Windows 10 Proへのアップグレードも可能。

スマートフォンとPCの両方の分野で存在感を示してきたASUS。それらを踏まえたうえで「新たなチャプターが始まる」と語り、NovaGOを披露したASUS CEOのジェリー・シェン氏
最大1GbpsのLTE通信をサポート。eSIMとnanoSIMの両方を利用できる
ストレージ64GB・メモリー4GBのモデルは599ドル、ストレージ256GB・メモリー8GBのハイエンド仕様は799ドル

 モデムチップセットとして「Snapdragon X16 LTEモデム」を搭載し、4CA(4波キャリアアグリゲーション)と4×4 MIMOによる最大1GbpsのLTE通信を実現。デバイスに組み込まれたeSIMと、nanoSIMの両方を利用可能。22時間の連続動画再生と30日間以上のスタンバイが可能というロングバッテリーライフを達成しながら、キーボード部を含む本体の厚みは14.9mm、重量1.3kgというコンパクトなサイズに収めた。

 キーボードを備えるクラムシェル型ではあるが、ディスプレイは閉じた状態から本体背面まで開いて折り返すことができ、キーボードを取り外すことなくタブレットスタイルで使用可能な構造となっている。もちろんタッチパネル搭載で、指やスタイラスで画面に手書きできる。生体認証機能のWindows Helloも利用可能。

 ストレージ64GB・メモリー4GB構成のモデルが599ドル、ストレージ256GB・メモリー8GB構成が799ドルで、米国のほか、中国、台湾、イタリア、イギリス、フランス、ドイツで発売予定。発売時期は明言されていないが、「世界初のギガビットLTEラップトップ」と表現していたことから、2018年初頭〜春の登場が期待される。

ASUS NovaGO
ディスプレイは折り返せる
ディスプレイを表側にして折りたたむと、タブレットスタイルで使える
本体右側面にはフルサイズのHDMI端子とSIMスロットなどが見える
左側面にはUSB Type-Aポートと充電用のACアダプターの端子

脱着式キーボード付きの「HP ENVY x2」

HPのConsumer Personal Systemsでバイス・プレジデント兼ジェネラルマネージャーを務めるケビン・フロスト氏が登壇

 HPからは「ENVY x2」が発表された。こちらもASUSと同じくSnapdragon 835とSnapdragon X16 LTEモデムを搭載した2in1タイプのモバイルPC。標準OSはWindows 10 Sで、Windows 10 Proへのスイッチも可能。稼働時間は20時間、スタンバイは700時間(29日間余り)をうたう。

 カバーとスタンドを兼ねたキーボードは、タッチパネルディスプレイのある本体から分離でき、マグネット式のため容易に脱着可能。スタンド部はディスプレイの角度を110〜150度まで自在に調整できるようになっている。

 アルミ削り出しによる本体の厚みは6.9mmと、従来のタブレットやスマートフォンと遜色のないサイズで、重量が約700gと軽量なのも特徴。ストレージは最大256GB、メモリーは最大8GB。Windows Ink認証済みのスタイラスペンが付属する。発売は2018年春とアナウンスされた。

「HP ENVY x2」
2018年春に発売予定
カバーを兼ねるキーボードは、背面側がスタンドになっている
完全に寝かせたり、110〜150度の角度でディスプレイを保持できる
マグネット式のため、簡単に脱着が可能
本体右側面にSIMスロット、左側面にSDカードスロットと充電を兼ねるUSB Type-Cポートがある

SnapdragonはPCという「次なるフロンティア」へ

 デモ機に触れた限りでは、どちらのPCも、Web閲覧、動画再生、Officeアプリケーションの使用、タッチやペンによるイラスト描画などが実にスムーズで、UI操作においてももたつきや引っかかるような部分は一切なかった。CPUの命令セットの互換性の関係から、ごく一部の特殊なアプリケーションは利用できない可能性があるものの、プライベート用途はもちろん多くのビジネスユーザーも「普通のWindows PC」として活用できるだろう。とはいえ、今後はその「普通のWindows PC」という基準が大きく変わることになるかもしれない。

Qualcomm Technologies エグゼクティブ・バイス・プレジデントのクリスティアーノ・アモン氏

 キーノートスピーチに立ったQualcomm Technologies エグゼクティブ・バイス・プレジデントのクリスティアーノ・アモン氏が語った「Windows on Snapdragon」の最大の特徴は、「Always on, Always connected」(常時電源オン、常時ネット接続)、そして「Weekly battery life」(待機状態で1週間もつバッテリー)という3つ。これらは従来のPCにはほとんどなかった考え方だが、電源をオフにしないで使うことが前提のスマートフォンではすでに常識となっている。

 クアルコムが過去10年間に渡ってSnapdragonというモバイルチップセットを開発し、携帯電話やスマートフォンという環境で積み重ねてきたノウハウやテクノロジーによって形作られた“常識”を、アモン氏いわく「Snapdragonにとっての次なるフロンティア」であるPCの世界にも広げる、というのが今回のポイントと言える。これによりスマートフォンとモバイルPCの関係は変わり、今後ますます両者が近づいていくことになるだろう。

 それを象徴するもう1つの出来事が、Windows on Snapdragon関連の基調講演の最後に登壇したAMDコーポレート・バイスプレジデント ケビン・レンシン氏による発表の一幕だ。AMDはハイエンドグラフィックス産業や、ゲーミングユーザー向けのPCチップセット「RYZEN」を提供している。しかし、同イベントで発表したのは、クアルコムと協業し、ハイエンドノートブックPC向けのRYZENプロセッサと、Snapdragonの4G LTEモデムを組み合わせて提供するというコラボレーションに関するものだった。

 アモン氏がレンシン氏を壇上に呼び込む前に、「PCのエコシステムにいる誰もが、モバイルPCや常時接続PCへの変革に取り組む(ことになる)」と述べたことからもわかるとおり、デバイスそのものだけでなく、それを取り巻くPCのエコシステム自体にも変化が訪れようとしている。

AMDコーポレート・バイスプレジデントのケビン・レンシン氏
モバイルPC版のRYZENとSnapdragonのモデムを組み合わせて提供する