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「Snapdragon 845」はAIと“没入感”にフォーカス

AI性能は835比で3倍に。CPU、GPUパフォーマンスは30%アップ

Snapdragon 845

 米クアルコムは現地時間6日、ハワイ州マウイ島で開催している「Qualcomm Snapdragon Technology Summit 2017」で、新世代チップセット「Snapdragon 845」の詳細を明らかにした。

 現行のフラッグシップ「Snapdragon 835」に比べてCPUとGPUの性能をそれぞれ30%向上させると同時に、GPUを省電力化。行列計算の高速化などによってAI(人工知能)の処理性能を3倍にしたほか、VRなどのパフォーマンスも大幅に高めた。すでにサンプル出荷が始まっており、2018年初頭に搭載端末が登場するとみられる。

キャッシュ増量も高速化に寄与。AI用のベクトル計算DSPは第3世代へ

 Snapdragon 845は、CPUのKryo 385、GPUのAdreno 630、カメラなどの画像処理に用いるSpectra 280 ISP、ベクトル計算などに用いるHexagon 685 DSP、さらに通信用のSnapdragon X20 LTE modemやWi-Fiといった計9つのシステムからなる。

Snapdragon 845の模式図
CPUはKryo 380。4+4のオクタコアで、最大2.8GHz駆動。L3キャッシュは835の1MBから2MBに増えた

 このうちKryo 385は、高性能コアに4コアの「Cortex-A75」をベースとしたものを採用し、最大2.8GHzで動作。低電力コアは同じく4コアの「Cortex-A55」をベースとし、最大1.8GHzで動作する。L3キャッシュは2MBに増量され、Snapdragon 835のKryo 280と比較して高性能コアは25〜30%、低電力コアは15%パフォーマンスアップした。

 GPUであるAdreno 630のグラフィックス性能は、Snapdragon 835のAdreno 540と比べ30%向上させながら、電力消費は30%抑えた。画像表示のスループットも従来比2.5倍とし、描画性能の底上げに貢献している。これ以外にも3MBのシステムキャッシュを追加することでメインメモリにアクセスする頻度を減らし、総合的なシステムパフォーマンスの向上や電力消費の削減に貢献する。

Adreno 630。電力消費を抑えながら30%性能向上
3MBのシステムキャッシュを用意し、メインメモリへのアクセス頻度を下げることで、パフォーマンスと低消費電力に貢献
行列計算などを行なうHexagon 685以外にも、CPU・GPU処理も組み合わせることが可能。AI性能は3倍となった

 ベクトル計算用のDSPであるHexagon 685は第3世代となる。Kryo 385やAdreno 630による計算処理と合わせ、最適化も進めたことで、Snapdragon 835比で3倍のAI性能を得たという。TensorFlow、Caffe、Caffe2、ONNXなど主要なニューラルネットワークのフレームワークをサポートし、カメラやマイクなどのハードウェアと連携することで、高度な物体識別、三次元顔認識、自然言語処理、音声認識といったAI処理を可能にする。

部屋を“仮想空間”にして歩き回れるVRを実現可能に

 VR/AR/MRのような映像処理は「XR」と呼称され、処理性能はさらに高まった。2400×2400ドットの映像2つを120fpsで描画することが可能になったほか、「Room-scale」(部屋規模)の6DoF(Six degrees of freedom:6自由度)も実現。さらにはSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)もサポートする。

 これにより、例えば部屋の中の壁やオブジェをリアルタイムに他の物体へ置き換えてディスプレイに描画。その部屋の中を自由に動き回りながら、あらゆる視点から観察する、といったコンテンツを提供でき、一段とリアリティと没入感のあるVR/AR/MRが体感可能になる。

VR/AR/MRは「XR」と呼称された
VR映像は2400×2400ドット/120fpsで描画。部屋の中を歩き回るような動作も認識する
部屋の中を別のCGに置き換えた例。テーブルやソファを岩に変えて、その中を動くことができる

 このようなXRコンテンツのレンダリングを効率化する仕組みも取り入れた。1つは眼球の動きを検知してユーザーがどこに注目しているかを判断し、それ以外のぼんやりとしか見えていないエリアの描画品質を下げることで実質的な描画速度と描画品質を上げるもの。もう1つは、2画面分を同時にレンダリングする「マルチビューレンダリング」という手法で、描画の高速化を図っている。

注目している箇所のみを詳細にレンダリング。ぼやけている周辺視界は粗くするといった工夫で処理を高速化する
「マルチビューレンダリング」(右)では、従来よりも圧倒的に高速に2画面分のレンダリングが完了する
音声認識と組み合わせ、目の前にいる人の顔を認識して、名前や肩書きを合成表示するようなARシステムも実現できる

 カメラまわりでは、HDR10対応により、よりきめ細かなグラデーション表現が可能になる。4K/60fps/HDR10(10ビットカラー、最大輝度1万nit)での動画撮影や、720p/480fps/HDR10でのスローモーション撮影が行なえる。静止画では1600万画素で秒間60コマの連写ができ、静止画と別撮りした動画を合成して、静止画の一部だけ動いているような印象的な映像の作成も可能にしている。

4K 60fps HDR10の動画撮影では、Rec. 2020で規定される広大な色空間をサポート
写真品質を測るDxOMarkでは、Snapdragon 835を超える100以上のスコアを記録
静止画と動画の合成も容易に。左の女の子と背景は静止画とし、右側の水槽の中にいる金魚だけは泳いでいる、といった不思議な映像を作成できる

ギガビット超のLTEモデムに、接続の確立が16倍に早まったWi-Fi

 通信処理も進化した。モデムには5CA(5波キャリアアグリゲーション)と4x4 MIMOをサポートするSnapdragon X20 LTE modemを統合し、最大1.2GbpsのギガビットLTE通信を可能にする。Dual SIM Dual VoLTE(DSDV)に対応しており、デュアルSIM対応端末では2枚装着したSIMのどちらでもVoLTEによる高音質通話が行なえる。

モデムはSnapdragon X20 LTE modemで、1.2GbpsのLTE通信が可能
Dual SIM Dual VoLTE(DSDV)をサポート
IEEE 802.11acは、アクセスポイントへの接続確立が16倍高速化される

 Wi-Fiは、近距離超高速通信規格である60GHz帯のIEEE 802.11ad対応と、MU-MUMOをカバーする。IEEE 802.11ac対応は従来通りだが、アクセスポイントへの接続の確立にかかる時間を従来比16倍にまで高速化。Bluetoothは「Qualcomm TrueWireless」技術により、複数のBluetoothスピーカーと直接接続することが可能になった。

 完全ワイヤレスの左右独立型イヤホンでは、従来だと片方のイヤホンとBluetooth接続し、そのイヤホンともう一方のイヤホンが通信するという数珠つなぎの形になっていたが、Snapdragon 845では左右のイヤホンそれぞれとパラレルに接続できる。これにより、イヤホン側の消費電力の削減につながるとしている。

Bluetoothスピーカーや左右独立型ワイヤレスイヤホンとは、1対多でダイレクトに接続できるように
バッテリーライフはより長時間もつようになった一方、Quick Charge 4+対応で充電時間は短く

 バッテリーは20時間以上の連続動画再生、4時間以上の4K 60fps動画撮影、3時間以上のVRゲームプレー、2日間以上の連続通話が可能になるレベルの省電力性能をもつとする。0〜50%までの充電を15分で終えられるというQuick Charge 4+を利用できる。

 なお、Snapdragon 845世代からは、従来の「MSM」+「数字4桁」のような品番表記が廃止された。今回のモデム付きチップセットの場合、「SDM845」といったシンプルな表記になっている。