DATAで見るケータイ業界
ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの5Gエリア戦略をあらためて整理する
2021年8月6日 00:00
2020年3月よりスタートした5Gサービスだが、2021年からいよいよSAと呼ばれる5Gの本命サービスも登場する。
SAとはスタンドアローン(Stand Alone)の略で、それまでのNSA(Non-StandAlone)では、4G LTEのコアネットワークと5Gの基地局とを組み合わせていたことから5Gの持つポテンシャルの一部しか発揮できなかった。しかし、これがSAではコアネットワークも含めて5G仕様(フル5G)となる。
従来より5Gで指摘されてきた「eMBB」(高速大容量)、「URLLC」(超高信頼低遅延)、「mMTC」(超大量端末)という特徴をフルに発揮できるのがSAであり、これによって仮想的に独立したネットワークを生成する「ネットワークスライシング」などが実現できるようになるとされている。
今回は、SA本番前ということで、改めて携帯各社の5Gサービスのインフラ面に焦点を充て、現状と今後について整理してみたい。
5G向け周波数によるエリア展開を重視するNTTドコモ
5Gを「瞬速5G」と命名し、5G向け周波数でのエリア展開を重視しているのがNTTドコモだ。4G用向け周波数の5G転用では帯域が狭く通信速度に限りがあるというスタンスだ。
5G契約者数は、サービス開始1年後の2021年3月には250万件を突破、同じく5月には400万件、6月末には500万件を突破している。
これまでのところ5G用の周波数(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯)のみで5Gのサービスエリアを構築しているが、既に5G基地局数は1万局を突破したという。2021年度末には2万局、人口カバー率55%を達成し、SAサービスに関しても2021年度中の開始を予定している。2021年度後半からは4G周波数の転用も本格化していくとしており、それを含め2022年度末には3万2千局(人口カバー率約70%)まで拡大する計画だ。
5G基地局の設備投資では、2019年度から 2023年度までの5年間で1兆円を投資するが、2024年度以降も年間数千億の投資を継続的に行っていく。
インフラシェリングで4G周波数の転用でエリア展開を加速させるKDDIとソフトバンク
2020年度末に5G基地局を約1万局へ拡大させたKDDIとソフトバンクは、2021年度には、5万局と一気に数を5倍に増やす計画だ。
両社が基地局数を大幅に増やせる背景には、地方でのインフラシェアリングや既存周波数帯の転用を活用するため。両社は共同で、「5G JAPAN」を設立しており、地方での基地局設備を相互利用する。これに4G周波数の5Gへの転用も加速させていくことで一気に5G基地局を増やしていく戦略だ。
両社は、2021年度末までにそれぞれ約5万の5G基地局数を計画しているが、その大半は4Gから5Gへの転用とみられる。そして、SAに関しては2021年度中のサービス開始を予定していると推察される。
今後の設備投資では、両社は2030年まで5Gと次世代の6Gに向けてそれぞれ2兆円を投資する計画だ。
4G人口カバー率を2021年度夏から年内へ変更した楽天モバイル
新規参入の楽天は、2020年度末までに4Gの人口カバー率を70%、2021年度年夏までに96%(2万7397局→4万4000局へ上方修正)に高めると公表していたが、半導体不足の影響を受けたとして、達成を年内へと変更した。顧客にとってエリアカバーの計画遅延は重要な情報だが、プレスリリースでの開示ではなく、Webサイト上の表記修正で済ませている点は問題だろう。
設備投資では、当初の96%という数字に変化はないものの、基地局数を4万4000局にして、密度を高める計画へと変更したことで、当初の6000億円よりも3~4割程度増加する見込みだとしている。
SAに関しては、2021年Q2よりサービスインを予定している。
同社では携帯キャリア事業を2023年度までに黒字化する計画で、2020年10月から順次、KDDIから借りているローミングサービスを終了させている。
5Gエリア戦略の違いと今後
5G専用の周波数を活用することで高いレベルの通信サービス提供を目指すNTTドコモと、4G周波数の転用によってスピーディな5Gエリア展開を進めるKDDIとソフトバクではエリア戦略で違いがみられる。
その背景には、5G周波数の割当において、唯一4.5Ghz帯を獲得できたNTTドコモが新周波数帯向けの5Gを積極化できたのに対し、KDDIとソフトバンクの持つ5G向け新周波数帯(3.7GHz帯、28GHz帯)は衛星干渉や高周波数帯といった問題があり、簡単にはエリア展開しにくいという事情がある。
携帯4社は今年度中のSA化を計画しており、ネットワークスライシングなど、5Gならではのソリューションビジネスが本格化していくこととなりそうだ。
一方、楽天に関しては、仮想化など技術面では業界に一定のインパクトを与えた。しかし、通信キャリアとして地道な取り組みが求められる「エリア展開」や「ネットワーク品質」、そして「顧客への向き合い方」などでは、まだまだ課題が多いと言わざるを得ない。