石野純也の「スマホとお金」

「Pixel 7/7 Pro」実機を手にして感じた”コスパの良さ”とその理由

 グーグル自身が手がけたハードウェアとして、日本でも徐々に存在感を高めているPixelですが、その最新モデルとなる「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」が10月13日に発売されます。同社が得意とするAIを最大限生かせるよう、チップセットには独自設計の「Google Tensor G2」を搭載。これによって、Googleフォトの「ボケ補正」や、カメラの「超解像ズーム」といった各種機能を実現しているのが「Pixel 7」「7 Pro」の特徴です。

 こうした性能の高さやグーグルらしい新機能に加え、同モデルはその価格の安さでも話題を呼びました。安さと言ってもあくまで相対的な話ですが、その方向性は大きく2つに分かれます。1つは、ハイエンドモデルとして他のモデルよりリーズナブルなこと。もう1つは、円安ドル高の為替相場において、他国より割安な価格に設定されているということです。ここでは、実機をベースに、同モデルの価値を検証していきます。

13日に発売される「Pixel 7」(左)と「Pixel 7 Pro」(右)

まずは「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」の実機をチェック

 「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」は、グーグルのフラッグシップモデルに位置づけられるスマホです。同社は、Pixelの後ろにナンバリングがついたフラッグシップモデルと、ナンバリングの後ろに「a」のついた廉価モデルを展開していますが、2モデルは前者に当たります。フラッグシップモデルらしく、チップセットには最新のTensor G2を搭載。Proに関しては、ディスプレイが6.7インチと大きいことに加え、カメラもトリプルカメラで望遠側は光学5倍ズーム対応しています。

Proはディスプレイが大きく、リフレッシュレートが最大120Hzと高いことに加え、カメラもトリプル。望遠のハードウェアスペックは、光学5倍だ

 ハードウェアとしては、比較的ベーシックなスマホと言えますが、その真価はAIにあります。例えば、新機能のボケ補正を使うと、手ブレや被写体ブレが修正され、クッキリとした写真に仕上がります。実際に同機能を試してみましたが、確かに効果は歴然。ボケっとした顔も、クッキリな仕上がりになります。背後などに写り込んだ人や物を消す「消しゴムマジック」も健在。過去モデルよりも細かく写り込みを消してくれるなど、既存の機能も進化しているようです。

ボケ補正を使ってみたところ、過去に撮った失敗気味の写真がクッキリに。これも、Tensor G2を使って端末上で処理をしているという
消しゴムマジックも健在

 カメラで特にインパクトが強いのは、「Pixel 7 Pro」の超解像ズームです。ハードウェアのスペック的には、光学5倍のカメラを搭載している「Pixel 7 Pro」ですが、高解像度センサーの切り出しとAIを組み合わせることで、最大30倍の高倍率を実現しています。30倍という数字だけなら、他のスマホでもうたわれている数値ですが、仕上がりのよさは歴然。“ギリギリ使える”レベルまで、クッキリ写し出されるため、かなり実用度の高いズームと言えます。

メインの広角カメラで撮った写真と、30倍ズームで撮った写真。豆粒のように小さかった基地局が、はっきり見えている

 レンズで5倍にした画像を4800万画素から1250万画素相当に切り出すことで10倍になるため、実質的にはAIで補正しているのは残り3倍ぶん。先代のPixel 6 Proは光学ズーム4倍、超解像ズーム20倍だったため、計算してみると、少しだけAIによる補正も強化していることがうかがえます。ズームしても、手持ちでこれだけ撮れるのはかなり優秀。実際には30倍フルフルで撮ることはないかもしれませんが、10倍程度であれば画質の劣化も最小限に抑えられるため、出番は多そうです。

 チップセットとそれに伴うAIの進化で、新たに顔認証にも対応しました。感心したのは、そのユーザーインターフェイス。顔認証は、画面ロック解除のときにだけ利用できる仕組みで、画面を点灯させると、先回りして認証を行い、指紋センサーの位置にロック解除マークが現われます。仮に顔認証を失敗していた場合も、ここに指を置くだけ。画面下指紋認証と顔認証をうまい具合に一体化させたと言えるでしょう。Pixel 6シリーズの指紋認証は速度の遅さに不満がありましたが、顔認証を組み合わせることでそれが解消されました。

AIによる顔認証に対応した。3Dではないが、機械学習で安全性を高めているという
顔認証が終わると、画面上の指紋マークがロック解除マークに変わる。UIとして分かりやすい

フラッグシップとしては割安だが、ベンチマークには表しにくいTensor G2の実力

 着実に進化しているグーグルの「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」ですが、フラッグシップモデルでありながら、その価格にも驚かされました。Google Storeでの直販価格は「Pixel 7」が8万2500円から。「Pixel 7 Pro」はさすがにディスプレイやカメラが強化されているぶん、少々値段は上がって12万4300円からとなりますが、20万円に迫りつつある昨今のハイエンドモデルと比べると、かなり割安に見えます。これなら即買いと言いたいところですが、チップセットが独自のTensor G2で、他社のモデルと横並びで比較できない点には注意が必要です。

2機種とも、Tensorとしては第2世代となるTensor G2を搭載している

 フラッグシップモデルと聞くと、クアルコムの「Snapdragon 8 Gen 1」を搭載された他社のスマホ並みと想像してしまうかもしれませんが、必ずしもそうではありません。むしろ、総合的な処理能力に関しては、Snapdragonの方が上です。それを端的に示しているのが、以下のベンチマークテスト。AnTuTu Benchmark Ver.8を使い、Snapdragon 8 Gen 1を搭載した「Galaxy Z Fold4」と、「Pixel 7 Pro」を比較してみました。

 結果はご覧のとおりで、総合点に関しては「Snapdragon 8 Gen 1」を積んだ「Galaxy Z Fold4」に軍配が上がります。「Pixel 7 Pro」の76万8289点も数値としては十分な高さではありますが、トップクラスの端末には一歩及びません。ざっくり言えば、Snapdragon 7シリーズ以上、8シリーズ未満といったところです。世代的に言うと昨年発売された他社のフラッグシップモデルに近い数値で、最新モデルとしては少々物足りなさがあります。

左が「Snapdragon 8 Gen 1」の「Galaxy Z Fold4」、右が「Pixel 7 Pro」。数値としては、「Pixel 7 Pro」の方が低くなった
AI Benchmarkでは、その差がさらに大きくなった

 ただ、同程度の性能だからと「Snapdragon 888」を採用していたら、昨年の端末と横並びで比較され、何となく古さを感じさせてしまいます。また、Snapdragon 7シリーズに下げると、今度はミッドレンジにカテゴライズされてしまうリスクがあります。Tensorと銘打つことで、何となくすごそうなフラッグシップ感が出てくるのは不思議なものですが、ブランディングの妙と言えるかもしれません。

 もっとも、単に名前が違うだけでなく、グーグルのAIに最適化されているのは周知のとおり。先に挙げたような機能はすべてTensor G2の上で実現しているため、単純な数値での比較はあまり大きな意味はありません。カメラ機能やAIを駆使したボイスレコーダー、翻訳などは、他のスマホをリードしているのも事実。その意味で、8万2500円や12万4300円という価格は妥当もしくはやや安いと言えそうです。

円安ドル高の為替相場に配慮した価格設定は日本市場重視の表れか

 もう1つの側面として、日本市場での安さにも特筆すべきところがあります。円安ドル高の為替相場を受け、iPhoneが値上げされたのは大きなニュースになりましたが、グーグルもアップルと同じアメリカ企業なだけに、この影響は受けます。実際、「Pixel 7」や「Pixel 7 Pro」は、Pixel 6やPixel 6 Proの発売時点よりも、やや価格は上昇しています。米国では価格を据え置いているため、これは為替の影響だと考えられます。

 ただし、円の急落ぶりに比べると、その値上げ幅は小さな範囲に収まっています。ここから言えるのは、日本での価格をあえて割安にしているということです。「Pixel 7」(128GB版)の米国での価格は599ドル。1ドルが約145.7円(10月11日時点)での為替レートを純粋に適用すると、8万7274円になります。米国での価格は税抜き表記のため、州にもよりますが、実際の支払額は9万円以上に。税込みで8万2500円というのは、非常に安価な価格設定と言えることが分かると思います。

米国版は「Pixel 7」が599ドルから。ただし、税抜きのため、実際には10%前後価格は上がる。ネバダ州の場合は合計で649.16ドル。日本円すると、約9万4498円だ

 同様に、「Pixel 7 Pro」は税抜き899ドルで、現在の為替レートをそのまま当てはめると13万984円になります。こちらも日本では12万4300円。米国版と条件を合わせて税抜きにすると11万3000円で、2万円近く安い価格で販売されています。ユーロ圏では「Pixel 7」が649ユーロ、「Pixel 7 Pro」が899ユーロで、価格は据え置き。ドルが強くなっているのを反映していないため、こちらも割安ではありますが、日本の安さが際立っています。

「Pixel 7 Pro」は899ドル。こちらも、日本で購入した方が安い

 本稿ではここまで触れていませんでしたが、同時に発売されるPixel初のスマートウォッチ「Pixel Watch」は、さらに日本版が割安です。同モデルの米国版は、349ドル。上記の現行レートを適用すると、5万849円になります。これに対し、日本での販売価格は3万9800円から。“グーグルレート”は、1ドルわずか103.6円程度に設定されています。これは、円安ドル高になる前の価格と言っても過言ではありません。

Pixel Watchはさらに割安な“グーグルレート”を適用。普及にかける意気込みが伝わってくる

 さらに、予約キャンペーンとして2万1000円や3万5000円のGoogleのストアクレジットがついたり、端末の下取り価格が増額されていたりと、大盤振る舞いぶりが目立ちます。他国でも同様のキャンペーンは展開されていますが、下取りについては、日本だと「Pixel 4」世代がかなり高くなっています。発売早々、メーカー自身が「実質0円」キャンペーンを展開してきたのには、かなり驚かされました。

 こうした価格設定から、グーグルが日本市場に賭ける意気込みが伝わってきます。実際、Pixelは他国と比べ、日本での販売実績がいいと言われています。グーグルも「Pixel 3」を導入した際にいきなりFeliCaを搭載するなど、ローカライズにも力を入れています。パートナーであるキャリア、特にソフトバンクがPixelを大プッシュしていることがその大きな要因です。

 実際、「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」の発表に合わせて来日したグーグルとアルファベットのCEO、スンダー・ピチャイ氏も、「(先代の)Tensorを搭載したPixel 6は、日本の多くのパートナーの店舗でトップセラーの端末になっている」と語り、その実績を評価していました。その勢いを維持するためにも、割安な価格の維持は必須だったというわけです。そんな販売戦略のおかげもあり、「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」はお得感の高い端末になりました。手が届きやすいフラッグシップモデルとして、幅広い人に受け入れられそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya